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No.20/2006
■上陸拒否
上陸拒否されて
新保安コードが事態を悪化させている理由
新たなITF調査から新海事保安法の導入以来、労働環境が悪化したと言う船員が多いことが分かった。
ITFが実施した調査から、国際船舶および港湾施設保安(ISPS)コードが2004年7月に発効して以来、船員の業務量や任務が増加したことが分かった。追加業務について、手当などは支払われていない。ISPSコードによって、上陸関連の問題が生じていることも分かった。特に米国の港においてや、乗組員が米国ビザを申請する場合に、多くの問題が発生している。一部の港では、港湾当局のISPSコードの実施の仕方によって、船員組合や福祉施設の代表者の上船すら困難になっている。
ITF調査の対象となった船員の大部分(59パーセント)が、ISPSコードの導入により、船や港の保安は強化されたと回答している。しかし、それにも関わらず、ISPSコードの発効以来、船舶に対する武装襲撃は減少していない点にITFは留意している。ITFが本調査を依頼したのは、ISPSコードの草案作成段階から、コードが船員に悪影響を及ぼし得るのではないかと各国の船員組合が懸念していたからだ。ISPSコードには、船舶と港湾の保安計画の実施、船舶、船社、港湾による保安職員の任命、船舶への保安装置の装備とその使用など、保安強化のための広範な要件が規定されている。さらに、船舶への双方向のアクセス、船上および港湾内の人と物の動きを監視し、制御する方策も明記されている。
ITFの調査は、アンケート用紙を世界中の港にいる120人強のインスペクターと、230のITF加盟船員組合へ配布するという形で実施された。インスペクターと各船員組合の幹部は、乗組員や組合員と相談の上、アンケートを記入した。トルコ、ギリシア、ウクライナ、インドネシア、中国、フィリピン、南米、ポーランド、クロアチアの船員と各国のインスペクターから回答があった。回答したのは、合わせて58の船員組合で、これらの組合は約16万5千人の船員を代表している。調査の結果、最も驚いたのは、回答者の圧倒的多数(86パーセント)がISPSコードの導入により業務量が増え、船員の仕事の質に悪影響が出ていると述べたことだった。
しかし、96パーセントが、増えた業務量に対応するための増員はなかったと述べており、89パーセントが追加手当も受け取っていないと述べている。この調査結果から、ISPSコードの発効以降、乗組員レベルの再検討が実施されていないことは明白だ。旗国は、船員の訓練および資格証明ならびに当直に関する国際条約(STCW条約)に規定される、安全な乗組員レベルを保証する責任を果たしていない。
このアンケートに回答したITFインスペクターの一人、ヴァレッタ(マルタの首都)のチャールズ・ブリッファは、船員の気持ちを代弁して次のように述べた。「現在の乗組員レベルでは船員が搾取されてしまう。健康被害も生じており、特に近海航行船の場合は、通常の業務に加えて求められる事務作業を効率よく内容のある形で行うことなど、どんなに努力しても不可能だ」ISPSコードにより業務量が増えた結果、健康面での影響や疲労やストレスを懸念する船員もいる。デンマーク船員労組(SL)は、ISPSコードにより、毎月平均7〜8時間労働時間が伸びたと報告しているが、同時に、船員が疲労から部屋にこもりがちになったことで、船上の社会生活にも影響が出てきていると述べている。
船員が脅威と見なされるようになり、「まるでテロの容疑者のような」扱いを受けるようになったという声もある。船員に対する規制が人権侵害の域まで行ってしまった国も一部ある。特にインスペクターからは、上船し、乗組員に話しかけることが困難になったという指摘が多かった。一般に、保安強化により、船舶や海運に関わる種々雑多な人々がお互いに接触する度合いは低下し、船主の情報統制力が強まった。通常、一等航海士が船舶の保安責任者になっていることも調査から分かった。しかし、商業的な圧力ゆえに、保安関係の仕事はもっと経験の浅い乗組員が代理で行うことが多い。さらに、船が港に停泊している間、船員がギャングウェイの見張りを任されることも増えているが、これは船員には不適切な仕事であり、本来の船員の仕事に割くべき時間を長時間にわたって取られてしまうことになる。ISPSコードの導入について船員は十分に指示を受けてはいるが、船上保安対策について実地訓練を受けたと報告した船員は非常に少なく、全く訓練を受けていない船員も多かった。特に、上船許可をもたない人物が上船しようとした場合などにどう対処すべきかについての訓練が実施されていない。
アンケートの回答者のうち、約58パーセントがISPSコードの導入以降、上陸を拒否されたことがある、あるいは、上陸するための時間の確保が難しいといった問題に直面したことがあると答えた。米国の港の事態は最も深刻である。
ある回答者はこう述べた。「米国の港で病気になり、病院で手当を受ける必要があるが、上陸を許可されないといった事態が発生することを恐れている船員が多い」フィリピン船舶職員部員連合組合(AMOSUP)は、ITFのアンケートを利用して、独自のインフォーマルな組合員調査を実施した。調査の対象となったAMOSUP組合員のうち7割が、上陸を拒否されたことがあると答えた。また、その大部分は米国が最大の問題だと答えた。問題があると報告された米国の港は、ボストン、ニューヨーク、ポートランド、タンパ、ヒューストン、ボルティモアだった。あるウクライナ人船員は、ボルティモア港で、乗組員全員が30日間上陸を許可されなかったことがあったと報告した。
特定の国出身の船員が米国で上陸するためには、ビザを取得しなければならないという問題も絡む。通常、ビザは船員の自己負担で取得しなければならず、手間もかかる。アンケート回答者の54パーセントが、通常、職を得る際にビザが必要になると述べており、42パーセントがビザの取得が困難だったと答えている。特に報告が多かったのは、ビザ取得までにかかる時間が長すぎるという苦情だ。一部には、ビザを取得する前に、船が出発してしまったという事態すら発生している。AMOSUPの調査によると、ビザ取得までの平均時間は2〜3ヵ月だった。その他、上陸できない、ビザ取得を自己負担でしなければならないなどの苦情もあった。
中華海員組合(NCSU)によると、「米国の規制が厳しく、組合員が個人的にビザを申請しなければならない。面接を受ければ、厳しい質問を浴びせられ、もちろん指紋も採取される」
あるクロアチア人船員はこう述べた。「ザグレブ(クロアチアの首都)の米国大使館まで行き、ビザ取得のために一日中待っていなければならなかった。船社がザグレブまでバスを出すこともあるが、料金を払わなければ乗車できないため、余計な金がかかる」
ベトナム、中国、中東出身の船員は、特に米国ビザの取得が難しいことも調査から分かった。現在の地政学的な環境下で、また、国際海運産業が保安上の脅威にさらされる中、ISPSコードが導入されたことは、基幹交通モードである海運産業とそこで働く人々に対する攻撃というリスクを軽減する良いチャンスである。しかし、乗組定員レベルと、業務量と任務の増加に伴う追加手当については真剣に検討がなされるべきだ。ITFが懸念しているのは、ISPSコードにも明記されている、船員の上陸権と陸上の福祉施設を利用する権利が実際には否定されているという事実である。船員は保安管理を支える仲間であり、テロリスト予備軍と見なされるべきではない。
旗国や船社が、船舶や港湾施設に対する攻撃のリスクを軽減させるという自らの責任を真剣に果たすつもりがあるのなら、人的資源の補強は不可欠だろう。保安に関して真に意味のある方策を取るのであれば、訓練への投資を増やす必要があり、また、ISPSコードによって増加した業務を実際に認識すべきである。
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ISPSコードに関する調査結果
はい
%
いいえ
%
その他
%
ISPSコードの導入は組合員に悪影響を及ぼしましたか?
56
39
5
組合員は、新たな海事保安体制の最前線を担う任務を与えられ、能力を買われていると感じていますか?
40
56
4
組合員は、船舶保安職員や保安関係の任務を与えられた船員が適切な訓練を受けていると考えていますか?
33
62
5
コードの導入により、乗組員は増えましたか?
0
96
4
コードが発効してから、旗国が安全な乗組員数について再検討したと組合員は言っていますか?
11
85
4
コードにより、組合員の業務量が増えた、あるいは乗組員の業務面、福利面で悪影響がありましたか?
58
37
5
組合員が上陸を拒否されたことがありますか?
40
56
4
一般的に、組合員はコードを肯定的に捉えていますか?
32
63
5
米国ビザの取得は、組合員が乗船する際の要件になっていますか?
54
28
18
組合員が米国ビザを申請する上で、問題がありましたか?
42
46
12
出典:ITF
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