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グローバルユニオン

No.17/2003
■華麗な装いの裏側
 
異なる生活

虚 飾

1980年からこのかた、クルーズ船の隻数は153%増加し、乗客の数は700%に達している。2001年のクルーズ船利用者数は、12,000,000人に上っている。
ヨーロッパの人々は、1990年代中期からクルーズ船による休暇旅行に目を向け始め、今では年率15%の増加を示している。全乗客の20%は、先進国出身の中流階級に属する白人である。欧州人は一般的に長期の休暇を取る傾向があり、これから開拓すべき巨大なクルーズ船のマーケットが潜在していると考えられている。
クルーズ船業界は、4社の巨大企業が支配している。即ち、カーニバル社(本社:米国、マイアミ)、ロイヤル・カリビアン社(本社:ノルウェー、オスロ)、P&O・プリンセス社(本社:英国、ロンドン)、スター・クルーズ社(本社:マレーシア、プラウインダー)の4社である。
世界のクルーズ船の発注状況も、かつてない盛況を呈している。2001年末の時点において、41隻が発注済みで、建造費総額は140億7000万米ドルに上る。クルーズ船は大型化する風潮にあるが、大型の新造船ほど、乗客一人当りのコストが低くなるためである。乗客と乗組員の比率は、旧型船ではコスト2:1であるが、新造船では、3:1となっている。
また、大手のクルーズ船企業は、港湾、リゾートおよび「観光ビレッジ」へと事業を拡大している。数社は、すでにカリブ海の島々を所有している。
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現 実

クルーズ船に勤務する114,500人の乗組員の7割は、ホテルおよびケータリング(飲食)部門の従業員である。これらの裏方の地味な職種は、発展途上国の人々に与えられる。先進諸国出身の乗組員はクルーズ船の仕事は、世界を見る機会が持てる一種の幕間と考えている。アジア、中南米、カリブ海地方、および東部ヨーロッパなどの、より貧しい諸国からきた乗組員は、自国の惨めな経済的状況のためにやむなく海外に職場を求めた人々である。
まるで植民地時代の客船のように、クルーズ船の労働者は、能力や教育水準ではなく、肌の色、国籍、性別に基づく差別を受けている。高い職位の従業員は、ウェイトレスのサービスのある専用食堂で食事をとり、一般的に喫水線より上の2人用船室を与えられている。低い職位の乗組員は、狭苦しい船室で眠り、船客の前に出ることを禁じられている。甲板下の区画で、監督や運航部門の船員を除いて、先進国出身のスタッフを見かけることは滅多にない。
船客用甲板より下の区画の労働者にとって、船内は立ち入り禁止区域である。入港中には、高い賃金を得ている乗組員は、会社の提供するバスを利用して市街地の船員用インターネットカフェに向かう。低賃金の船員たちは、地域の教会が運営する船員ミッションを訪問し、ボランティアの用意した無料の食事と無料のインターネット・コンピュータを利用するのである。
多くの場合乗組員は、自由時間中でも自国語での会話を禁じられている。これは彼等が個人的意見を交換し、徒党を組むことを防止するためである。高い職位の船員は、船客の前では英語を使うという規則があるにもかかわらず、自国語で自由に話し合っている。
女性船員は、乗客に「やさしく」接する役割を与えられている。彼女らの大部分は35歳またはそれ以下である。これに対して男性は、50歳代まで働く人が多い。女性の船長や甲板部、機関部の女性船員も極めて少ない。
管理者側の権威を振りかざした攻撃的な行為やえこひいきが横行していると多数の報告が寄せられている。一部の企業は、乗組員を管理する道具として、その場での罰金徴収、過重労働、即時解雇などを活用している。
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甲板の下には、搾取される船員が狭苦しく、不潔な条件に耐えている
クルーズ船

ディズニーの魔術は、その名声の上に築かれた錯覚である。2隻の超豪華クルーズ客船を所有して巨大な収益をあげているアメリカ企業の最高経営責任者は、年間数百万米ドルを魔法のように稼いでいる。一隻の船名は、ディズニー・マジック号、もう一隻は、ディズニー・ワンダー号と名付けられ、ディズニーの幻想を強調している。
新たに採用された者は、乗組員として乗船する前に、フロリダのディズニー・ワールドで訓練を受けることとなっている。そこで彼等は「出演者の一員」であると教えられるとのことである。しかし、現実に直面するまでは、ハリウッドの幻想は続くのである。幻想から覚めてしまったトリニダード出身のある厨房アシスタントは「ディズニーというのは、本のようなもので、素晴らしい写真で飾られた美しい表紙をめくれば、中身はごみばかりなのです」と語っている。
ディズニー社のクルーズ船には、労働組合協約は適用されていない。これは、決してディズニー社だけの問題ではない。世界のクルーズ船においては、このような乗客の条件と乗組員の条件の驚くべき格差は例外ではなく、当然の常識なのである。
より多くの人々が余裕を持つようになったため、クルーズ船で休暇を過ごす人々の数は、過去20年間に急激に増加している。クルーズ船を利用したツアーは、世界的な成長産業のひとつで、海運産業のその他の部門を尻目に、1990年代初期から年率約10%の成長を続けている。
しかし、この高度成長は、乗組員の労働条件には逆の影響をもたらしており、乗組員の労働密度やプレッシャーは一段と高まっている。クルーズ船観光ツアーは、典型的な世界経済の縮図である。船客用の上部甲板には裕福な乗客が、息を呑むような純白の船で航海を楽しみ、浮かぶホテルの暮らしの合間には、エキゾチックな港を訪問する。ツアーの期間中は、あらゆる贅沢と要求がみたされる。その下の甲板では、ひと目にふれない船員たちが、厨房や洗濯工場(ランドリー)で一日中休む間もなく働き続けている。職場から職場へと指示されるままに移動し、僅かな賃金を受け取っている。彼等は、船客の前に顔を出すことは禁じられており、これに違反すれば罰金の対象となるのである。
ITFおよびキャンペーン組織の「貧困との戦い(WAR ON WANT)」のために制作されたクルーズ船産業に関する詳細な報告書は、クルーズ船上に隣り合わせに存在する対照的な状況の荒涼とした光景を明らかにしている。「搾取の船(クルーズ船での労働の実情)」の著者セリア・マザーは、クルーズ船の乗客の豪華絢爛たる生活と、多くの乗組員の惨めな生活条件と待遇との間に横たわる深い断層に照明を当てている。
この状況が改善されるという兆候は殆んどない。キプロス企業の所有するクルーズ船「ジョイウエーブ号」の乗組員居住設備を視察したITFクルーズ船キャンペーンのジム・ギブン事務局長は、「私はあらゆる船員の実情を見聞してきたつもりだった。けれども、これほどひどい生活条件を見たのは、これが初めてだ。まったく哀れというほかない。400人の船員の目は、死人の目のようだった」100人の男女乗組員が2つのシャワーと1つのトイレを使用し、300人が一つの食事室を使用していた。小さな寝室には6人の乗組員が眠っていた。ギブン事務局長は語る。「彼らは、犯罪者のような待遇を受けていた」
英国のカーディフ大学を本拠とする船員国際調査センター(SIRC)の所長、トニー・レーン教授は、クルーズ船のホテル部門の従業員、とりわけ厨房およびランドリーの従業員は、海運産業全体のなかでも最も厳しい搾取を受けていると述べている。貧しい諸国から来た船員は、逃避することを望んでいた虐待的な労働慣行を採用する経営者や搾取工場と何ら変らない環境に置かれているのである。
しかも、発展途上国出身の一部の船員にとっては、海上の職場は自国にいるよりもひどい立場に置かれる場合がある。彼等は、雇用を斡旋する船員配乗業者に支払う非合法な手数料のために、事実上の奴隷の境遇に陥れられている。職場を得るために高い利率の借金をすることによって、どんなに非道な処遇をうけても、彼等には契約の終了まで働くほかに道はない。万一、職場を放棄すれば、彼等を待っているのは借金が増え続ける地獄である。
数千人のクルーズ船乗組員の生活には、次のような特徴がある。
● 不安定な、短期雇用契約。
● 長時間の激しい労働による極度の疲労の蓄積。
● 経営者側による人種、性別に基づく差別、いじめ、えこひいき。
● 低い労働者の定着率、疲労感、貧弱な訓練のために、安全基準への影響は避けられない。
● 労働組合や団体交渉への敵意と抵抗感を持つ経営者。

国籍、性別、皮膚の色による差別を含む、時代遅れの言語道断な慣行が行なわれている。これによって、西欧人種には、船客に姿を「見せ」たり、「接触」する機会のある職務が与えられ、発展途上国(とりわけ、アジア、カリブ海地方、ラテンアメリカ、および中央・東部ヨーロッパ)から来た労働者は、レストラン、バー、船室、機関室、厨房など雑用の多い職場への就労に限定されている。これらの職場階層の下にゆくほど、搾取も厳しく行なわれている。彼らの雇用契約は、職務内容に触れていないため、あらゆる職場で使い回されるのである。
彼らの経験には、初めから終りまで差別がつきまとっている。あるアジア出身の女性は、「フレッシュな香りがしなければならない」と告げられた。このような指示が西欧出身の船員に与えられることは恐らくあり得ないであろう。反労組的企業の代表であるディズニー社およびカーニバル社のクルーズ船が発着するポート・カナベラル港では、乗組員が埠頭周辺をうろつかないようにするため、港湾当局に圧力がかけられた。これらの乗組員の姿は、船客の持っている華麗なクルーズのイメージに相応しくないと考えられたのであろう。
低賃金、長時間労働の船内では、クルーズ船乗組員の1/3以上が、10時間から12時間働いている。約1/3弱の乗組員は、12時間から14時間働いている。約400人のクルーズ船乗組員について、ITFが行なった調査によれば、95%以上が週に7日間働いていた。組合の労働協約が適用されていない船では、長時間労働や休日なしの一週間は「通常の労働時間」と考えられている。
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船員出身国

カーニバル社のクルーズ船の乗組員リスト(2000年)によれば、乗組員総数は936人で、その出身国は64カ国に及んでいる。主要な国名は、チリ、中国、コロンビア、コスタリカ、クロアチア、エルサルバドル、インド、イタリア、ニカラグア、ペルー、フィリピン、ルーマニア、英国、米国およびウルグアイである。この船の職員およびクルーズ、食事、飲物、娯楽などの責任者、監督などは、すべて米国人および英国人である。
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もしも心のままに物を言ったら、それで終り、解雇されるだけ。イエスだけを繰返さねばならない。あとは口を閉じていることだ。経験を積んで腕を磨こうなどと考えるのは無駄なこと。運が良くても働けるのは、2〜3年だけだ。今しがた父に電話で話したところですが、父は言いました「貧乏なんて気にするな。すぐに帰ってこい」でも、私には雇用斡旋業者に支払った800米ドルの借金があります。借金を返済するだけの資金はまだ貯まっていません。それに私のパスポートは、彼らが保管しています。
―インド出身の「ポテトマン」の談話。彼は、カーニバル・フェスティバル号の厨房で毎日11時間も各種野菜の皮むき作業に従事している。

私達は、制服、ペンや船客のタバコに火をつけるためのライター、ワインの栓抜きまで自己負担で用意しなければなりません。体調を崩して仕事を休めば、賃金はもらえません。安全用手袋も自分で買はなければなりません。
家族に電話することは認められていません。緊急の場合でも、電話料金の前払いが必要です。

全乗組員のために洗濯機4台、乾燥機2台、アイロン2台しかないので、私達はいつも順番待ちの行列をつくっています。洗濯石鹸は、各自で用意しなければなりません。規則に違反した場合には、余分の仕事をしなければなりません。私達は、違反したと言われてはじめて、その規則があることを知るのです。
―カーニバル・ファンタジー号のバーのウエイトレス談。
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