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グローバルユニオン

2005年10〜12月 第21号
■難題に立ち向かう
 
逆転は可能か?

航空経済会議を経て、ITF民間航空部会のインゴ・マロウスキ部長がグローバル化する民間航空産業で働く労働者が抱える問題を熟考する。

航空労組は産業の生き残りのために出来る限りのことをしてきた。世界中で労働組合が譲歩をしてこなければ、航空会社の多くはもはや存在していなかっただろう。国際民間航空機関(ICAO)では、労働者を利害関係者として認めさせることに成功してきた。しかし、やっと確立したその地位をまた失うかもしれない脅威は常に存在しているし、例えば航空管制官や客室乗務員のライセンス化などの、労働者に関する規則を実現するには程遠い状況だ。一方で、グランドハンドリング業務のさらなる自由化の波も押し寄せている。ITFがICAOで果たしている役割は重要であり、これは維持しなくてはならない。しかし、同時に、より重点分野に集中し、ITFの役割のあり方についても再考する必要がある。
組合間の協力体制は、現在、3つの航空アライアンス全てでうまく機能しているが、最近欧米諸国以外からのITFアライアンス会議への参加率が低下してきている。したがって、アライアンス会議が、アライアンスに関わる全ての加盟組合を代表するものとなるよう、努力しなければならない。
格安航空会社については、まず、誤解のないように明確にするが、ITFは原則的に格安航空会社に反対しているわけではない。格安航空の分野は雇用を創出しているし、このセクターを出発点として航空産業に入ってくる若い世代は多い。しかし、そうした若者の多くが未組織である。
ITFが反対するのは、ライアンエア、エアベルリン、ジェットブルー、デカン航空、エアアジアなどの反組合的な企業だ。ウェブサイトを利用したITFのライアンエア・キャンペーンは、同社の労働者に声を上げる場を提供したという点では大成功をおさめたが、これはITF加盟組合が行っている一連のキャンペーンの一部に過ぎない。現場での活動が不可欠であり、この点では、加盟組合が格安航空会社組織化を成功させてきたという十分な経験がITFにはある。
しかし、民間航空業界はすさまじい勢いで変化しているため、常に警戒を怠るべきではない。長い間、現行の航空所有規制のため、航空会社同士の国境をまたいだ買収は不可能であると考えられてきた。そして、この所有ルールこそが、アライアンスを支えている原則である。つまり、アライアンスは所有ルールを迂回するために形成されたのだと我々は思ってきた。
ところが、不可能が現実に起きてしまった。エールフランスはKLMを、ルフトハンザはスイスエアを買収し、バージンアトランティック航空は、ナイジェリア航空の買収に乗り出した。
このような急速な変化は企業レベルでのみ見られるものではない。ITF加盟組合の組合員の仕事に直接的な影響を及ぼしている。航空産業の中でも比較的新しい職種であるコールセンター労働者も、インターネットを介したチケット販売やEチケットの利用が増えたことで、既に脅威にさらされている。また、自動チェックイン機の発達は、チェックインカウンターの人員削減につながると予測される。
航空産業は、消費者社会の要求にいち早く対応しているため、労働者側も旅客輸送サービスのみならず、貨物輸送サービスにも目を向けなければならない。最近、既存大手の幹線サービスで、史上初めて貨物輸送が旅客輸送を上回った。この傾向は今後も続くだろう。航空貨物業務については、旅客輸送のためのICAO規則とは別に、もっと自由な規則をつくろうという大きな圧力が存在する。
航空産業はグローバル産業であり、多くの国が共通の問題に直面しているが、その影響のあり方は各地域で異なる。
北米は、地域として見ると世界最大の航空市場だが、米国の航空労組は非常に多くの課題を抱えており、雇用を守るため、絶えず厳しい選択を迫られている。しばしば、労組は守りに回りがちだが、先見の明のある産業界の主導者となれるよう、ITFは米国労組を支えていく必要がある。
欧州もまた、世界有数の航空市場だ。欧州の政治的な枠組みは今、変化しつつある。EU拡大により、政治的にも社会的にも非常に異なる国家が一つにまとまることになった。航空産業でも、どこからも保護されない非正規雇用、派遣労働が増え、熟練労働者がより安価に獲得できるという理由から、EU内の先進国から、途上国へ雇用が移ってきている。こうした問題に立ち向かわなければならない。
アジア太平洋地域は、最も成長が著しい地域だ。ここでも雇用の流動化が見られる。また、国営企業に対する投資が引き揚げられ、細分化されている。航空産業でも、コールセンター、民間企業、格安航空会社などで未組織労働者が急増している。このような分断化に対応する上で、企業別組合は正しい選択なのだろうか?企業別組合も必要だとは思うが、それだけでは問題を解決できないだろう。したがって、組合の形態を今一度検討してほしいと思う。
アフリカでは、航空会社が消滅しかけている。エアアフリクは数年前に破綻した。そして今、ナイジェリア航空が同じ状況にある。ITFは、アフリカにおける問題解決のため、国際労働機関(ILO)と協力し、政労使による三者構成アプローチを開始した。しかし、これに対して使用者と政府の双方から妨害されることになった。ITFは多大な努力をしてきたが、この三者構成アプローチは現在のところ、成功していない。しかし、ITFは今後も努力を継続し、アフリカがどれだけ忘れられてきたかについて、世界に知らしめていく。最近の最も大きな問題は、アフリカの諸政府がついに域内のオープンスカイを決定したことだ。まずは「域内で」ということだが、域内のオープンスカイが実現すれば次のステップはどうなるのだろうか?これはアフリカの加盟組合のみならず、ITFに加盟する全ての組合の問題である。
南米では、ピノチェット大統領などの支配の暗い時代を経て、今、社会改革が進行しつつある。一部では、ブラジルのルーラ・ダ・シルヴァ大統領のように、労組出身者が政界に進出する例なども見られるようになった。こうした動きに乗じて、全てを「市場」に任せるのではなく、国がもう少し責任を負うように事態をもっていければと希望する。メルコスル自由市場内にいるITF加盟組合は、この機会を利用して活動を強化している。ITFもこれがより大きな機会の発展に拡大していくよう、加盟組合を支援しなければならない。
最終的には、誰も一人ではないということを思い起す必要がある。助けが必要な時は必ず味方になってくれる仲間が世界中にいる。金銭が欲しくてやっていることではない。我々には大義があり、闘う価値のある目的がある。これこそが我々の力である。ITFは、洗練された企業とは違う。我々は、大きな国際労働運動の一部を形成している。だからこそ、直面する難題に立ち向かうことができると私は確信している。
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2005年7月、民間航空部会は、ITF史上初めてとなる民間航空産業全体の経済問題に関する大きな国際会議を開催した。
同会議には、業界の専門家、学識者、マスコミ関係者なども参加し、加盟組合は、中心課題について様々な視点から議論を展開した。会議の中では、世界全体に関わる問題に加え、各地域特有の問題なども浮き彫りになった。
加盟組合は、ブレーンストーミングを通じ、例えば、グローバル航空アライアンスなど、これまで取り組んできた分野でも、引き続き努力が必要であることを再認識した。同時に、ローコストキャリア(格安航空会社)などの、より新しい分野でも、グローバルレベルで活動を行う必要があることも分かった。この点では例えば、インターネットを利用したライアンエアに対するキャンペーンが今後の方向性を示すものとして注目される。
新たな問題として、上昇を続ける燃料費や広く議論されている燃料税や排出権取引なども議論された。3日間にわたる画期的な議論の後、ITF本部の書記局は、21世紀の航空産業が抱える課題に対応するために必要な新しい考えや活動計画の長いリストを作成した。
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航空管制サービス:安全と技術の確保

航空管制業務の統合の議論とともに、配置された管制官の数のバランスの問題を解決するために、管制官の移管を可能にしようという議論も出てきている。このような柔軟性により、管制官の実力行使で航空交通の流れがストップすることがなくなると使用者の一部が考えていることは明白だ。一つの空域の従業員がストを起こしても、その空域を別の部署に任せればいいからだ。
こうした手法により、業務の外部委託も容易になるだろう。技術革新により、遠く離れた地点から航空管制サービスを行うことが可能になったという報告もなされている。政治的な意思が結集されれば、すぐにも航空管制サービスを労働コストのより安い国へ移管することも可能になろう。
しかし、ここでは、管制官の訓練や能力、技術力の問題は度外視されている。
管制に携わる技術労働者の数は大幅に削減されてきた。航空会社は、財政難を理由に、ちょうど自らの従業員を攻撃してきたのと同様に、管制サービス労働者をも攻撃している。
第一に、管制官は、管制官としての日々の業務を改善することを考えなければならないが、同時に、管制官の専門知識が将来の空域システム計画づくりに必ず取り入れられるように、管制官の仕事の価値への周囲の認識を高めるよう努力する必要もある。管制官が安全チェーンの中で果たしている重要な役割と、安全チェーンを維持するためには、安全文化を育成すれば十分なのだという大原則について、より深い理解を得られるよう努力しなければならない。(航空管制官委員会が航空経済会議の全体会議で行った報告より抜粋)

変化を内包する

客室乗務員

航空経済会議に参加した世界の客室乗務員の代表たちは、ITFに客室乗務員の最低労働条件と地域ベンチマークを設立するように要請した。また、加盟組合も今一度、航空会社に行動規範に調印させるよう努力をすべきだという合意がなされた。より長期的には、ITFが指揮を取って以下の項目を含むモデル国際枠組み協約を作成することが求められた:
雇用保障
訓練水準の統一
雇用と安全衛生に関する水準

グランドスタッフ委員会

チェックイン、ケータリング、整備、機内清掃、手荷物ハンドラー、事務員、営業スタッフなどを代表する労働者が集まったグランドスタッフ委員会では、今後、活動が可能な分野を下記のとおり特定した:
安全衛生
航空機あたりの最低グランドスタッフ数の決定
「疲労」などのテーマで、他の航空労働者グループと合同キャンペーン実施
格安航空会社
情報交換ネットワーク
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どんな意見が出たのか?

7月のITF航空経済会議の発言からの抜粋

「アフリカには生活水準が低いという基本的な問題がある。航空産業を立て直す前に、経済自体を安定化、成長させる必要がある。しかし、経済成長には、航空会社が必要だ」

ジョン・T・ドネリー
ECCLATコンサルティング、航空コンサルタント

「仕事が欲しいのか?それとも要らないのか?時給12ドル、年金はなしという条件でなら仕事を提供できる。それが嫌なら、他の企業を探して欲しい」
「数年前の破綻寸前のUSエアの状況はまさにこうだった。組合は最後の雇用契約に合意をしなかったが、実際、文字通りにその仕事が生き残れるかどうかの問題だった」

ジョン・T・ドネリー

「米国がくしゃみをすれば、欧州は風邪をひくと言われている」

パット・プレスリン
英国運輸一般労組(TGWU)

「航空産業は10年ごとに市場規模が2倍になる」

デビッド・ベントレー
アジア太平洋地域航空センター、ジャーナリスト

「我々には、労働組合が存在しない国で、組合の設立を支援する責任がある」

ブレンダン・ゴールド
英国運輸一般労組(TGWU)

「航空産業はばかげている。仮に大手航空会社の株を100ポンドで購入していたとする。しかし、現在の株価は71ポンドだ。こんな企業に投資するくらいなら、金をベッドの下に隠して、その上で眠るほうがましだ。経営のまずい企業が消滅することはなく、上手くいっている企業の成長を許している。政府はきちんとしたビジネスプランも提示しない企業に資金をつぎ込んでいる。業績の悪い企業が市場から退出し、業績の良い企業だけ残るようにならなければ、航空産業の健全化は難しい」

アンドリュー・ローベンバーグ
ABN-AMRO銀行、投資研究アナリスト

「これまで約53の格安航空会社が破綻した。成功する企業と失敗する企業を分けているのは何か?成長するためには効率化が不可欠だ。最善のビジネスモデルは各地域で異なるが、コスト効率を上げるためには、一定の要件を満たす必要がある。
格安ルートは急増している。利用客も年率45パーセントで増加している。9.11テロの後、格安航空会社の存在が乗客を再び空の旅に引き戻した。乗客100万人あたり、1,000の新規雇用も生み出してきた。
社会的対話に参加するかどうかは、年次会議で決定する」
ジャン・スキール
欧州格安航空協会、会長

「『雇用か環境か?』ではない、『雇用と環境』である。今後も加盟組合と協議しながら、ITFの政策を決定していく」

インゴ・マロウスキ
ITF民間航空部長

「航空券の値段だけを考えることは乗客にやめてもらわなければならない。航空券がなぜ安いのかを考えてもらわなければならない」

オリビエ・セカイ
フランス、CGT

「航空券の売り上げは、9.11以前の水準に戻ったが、利益水準は戻っていない」
マーク・ピリング
「エアライン・ビジネス」編集者
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アラブ地域の航空会社の概観

サウジアラビア、アラブ首長国連邦、カタール、オマーン以外の全アラブ国家に民間航空労組が存在する。
ペルシア湾岸諸国の航空会社が規模を拡大しつつある。
ペルシア湾岸諸国の航空会社以外では、政府の燃料費助成は存在しない。
ほとんどのナショナル・キャリアが程度の差はあれ、民営化と再編の影響を受けた。例えば、ケータリングや整備などの非中核業務が外部委託された。
地域の二国間協定は2006年までに廃止され、オープンスカイへ向けての障壁がなくなる。
力のある企業が弱小企業を飲み込み、グローバル・アライアンスに参加することが予測される。
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アンマン事務所(ヨルダン)のビラール・マラカウィ所長の報告より抜粋。
 
 
INDEX
ロンドン同時テロ
使命感に燃える地下鉄・バス労働者
難題に立ち向かう
ITF初の試みである航空経済会議について
今こそ立ち上がろう!
破綻したナイジェリア航空の元従業員は未払いの手当てを受け取れるのか?
自由化で公正な土俵が築けるのか?
欧州の鉄道労組が市場開放の影響を考察する
尼崎脱線事故の教訓
事故から学べること
サプライチェーンにおける連帯
国境やサプライチェーンのリンク(繋ぎ目)を越えた連帯の方法を探る
バス民営化の後
ザンビアのバス民営化の影響
成長著しいインテグレーター
インテグレーター企業の考察
チームスターズは我が人生
一般
 
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緊急性を増す公共交通機関のテロ対策
 
ファシズム分析の大著に学ぶ
 
欧州の前進をめざして
読者の声
ロンドン同時テロ
勤労生活
アルゼンチン初の女性船長
 
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