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2005年10〜12月 第21号 |
■コメント |
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ファシズム分析の大著に学ぶ
ケース・マーギス
自由主義秩序の乱れは何を生む?
労働組合活動家は、これまでもそうしてきたが、ファシズムのような大衆的極右主義には常に反対していくべきだ。極右主義は、民主主義の最も重要な柱である労働組合主義やその他の民主主義的自由を揺るがすダーク・フォース(闇の力)である。
ファシズムは自由な労働組合運動にとっては恐ろしい脅威だが、それにも関わらず人を惹きつけるのは、ファシズムがまさに労働組合運動と同様、大衆に訴えかけるという手法を取るからだ。実際、アメリカの歴史家、ロバート・パクストン教授は、大著「ファシズム解剖学」の中で、労働組合がファシズムの形成に関係していたと書いている。
パクストンは著書の中で、ファシズムがまだ認識されておらず、今日と同じような評価をまだされていなかった20世紀初頭のファシズム発展段階における詳細な分析を行っている。ファシズムが共鳴者を探し、同盟を形成し、権力を掴み、それを行使していったアプローチを分析しながら、パクストンは、ファシズムは下の5つの段階を通じて発展したと説明する。
1. |
運動の形成 |
2. |
政治システム進出への基盤づくり |
3. |
権力の掌握 |
4. |
権力の行使 |
5. |
権力持続期間(ファシズム体制が急進化し、方向性を失った時期) |
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際立つ特徴
パクストンは、ファシズムの抽象的な特徴を羅列するのではなく、ファシズムの素顔と、ファシズム指導者や追随者の行動を順序立てて記述しているため、非常に分かりやすい。そうすることで、ファシズムと他の独裁主義の違いを決定づけている特徴がいくつか浮かび上がってくる。すなわち、過去の歴史に対する不満、指導者崇拝、集団的軍事運動、民主主義的自由の抑圧、政治的手段としての暴力などだ。
特に、ナチスドイツはファシズムの究極の具現体として分析されている。ナチスドイツでは、何百万人もの市民を殺害するための国家システムがつくり上げられていた。犠牲者には、ユダヤ人だけでなく、同性愛者や知的または身体障害者など、アーリア人に属していないか、それより劣っていると見なされたあらゆる人々が含まれていた。しかし、ナチスドイツが最初の攻撃の対象としたのは、左翼の反対派だった。「1933年にユダヤ人に先駆けて最初に強制収容所に送られたのは、ドイツ社会党や共産党の幹部だった」とパクストンは書いている。
「ファシズム解剖学」は、ファシズム運動の最初の形成を検証することから始めている。1919年5月23日、はぐれ者の社会主義者、ベニート・ムッソリーニは退役軍人や戦争支持の労働組合員らとともに、新たなグループ「戦闘ファッシ」を組織し、「国粋主義に反対する社会主義との戦争」を宣言した。戦闘ファッシの起源は左翼グループであったが、一夜にして極右グループへと変貌した。労働組合員としては納得できないことだが、一部の組合員がファシズムの創設に参加したことは事実である。
ファシズムという言葉を最初に使用したのは、ムッソリーニと彼に師事したファシスト党員だったが、ファシズム的考え方を編み出したのは彼らではない。パクストンは19世紀半ばの英国人、トーマス・カーライルの名をファシズム思想の創始者として挙げている。カーライルは、「現在の支配階級ではなく、産業界の指導者や天性の英雄など、無欲の指導者からなる、軍事的福祉独裁政権の樹立」を訴えた人物だ。
ナチは後に、カーライルをナチの先駆者と呼んでいる。パクストンは「ファシズム解剖学」で、19世紀半ばにフランスで活発化したアクション・フランセーズや南北戦争直後の1867年に米国で設立されたクークラックスクランもファシズムの先駆的運動であると指摘している。
パクストンは、欧州各国で19世紀の終わりから20世紀初頭にかけて何百万人もの市民に投票権が与えられたことの影響についても言及する。グローバル化がもたらした最初の危機は、このすぐ後、労働者に打撃を与えることになる。 |
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忌まわしいエリート主義
保守主義者や自由主義者は、投票権を獲得した大衆を自らのイデオロギーや政策に惹きつける心構えができていなかった。したがって、新たに投票権を得た有権者の支持を最初に受けたのは、新社会主義左派であった。しかし、彼らは新しい有権者の期待に沿うことができず、逆に、彼らからエリート主義システムの一部とみなされ、嫌われた。
社会主義左派に幻滅した労働者階級の一部が、最終的にファシズムやそれに似たイデオロギーに傾倒していった。パクストンは結論の中で、「ファシズムの到来を招いた最も大きな前提条件の一つは、自由主義的秩序の混乱である。ファシズムは、機能低下した、あるいは全く機能していない当時の政府をよそ目に、いとも簡単に舞台裏から表舞台へと躍り出た」と書いている。
現在、自由主義政策が失敗し、労働党や社会党なども、自由主義政党の政策づくりに参画していることを考えると、これはかなり、どきりとさせられる結論かもしれない。
パクストンは、何もファシズムが再び台頭してくると言ってのではない。一部の自由主義、資本主義国家がテロの脅威に対抗するため、独裁主義的政策を採用していることに対して警鐘を鳴らしている。また、既に、独裁主義的な社会が資本主義へと変貌し、元植民地が、民主主義的な制度を確立しないまま、押し付けられた市場原理と闘わざるを得ない状況を観察してきた。
ファシズムや我々の目の前に今ある現実から、民主主義と自由市場は必ずしもともに育っていくものではないことを思い知らされる。 |
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ロバート・O・パクストンの「ファシズム解剖学」は2004年にアルフレッドAクノフにより出版された。 |
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