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No.18/2004 |
■ITFキャンペーン |
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便宜置籍船や海上の不法行為との闘い
ITF特別船員部(SSD)および世界各地に展開する一段と力をつけたITFインスペクター組織は、昨年度中に便宜置籍船(FOC)船隊の半数以上との交渉を持った。
船舶の査察活動、未払い賃金の取り立て、劣悪な労働条件への苦情処理、団体交渉協約の締結交渉、船員の個人的問題への解決支援など、世界のFOC船隊のうちの13,000隻以上がITFの活動対象となった。
ITFのインスペクター137人は、2002年度中に約9000隻の訪船・査察を実施したが、この隻数は前年度に比較して1000隻の増加である。新たに任命されたインスペクターは、ムルマンスク(ロシア)、オデッサ(ウクライナ)、モスイェン(ノルウェー)、マニラおよびセブシティー(フィリピン)で活動を開始した。
船舶査察の対象となるのは大多数(83%)がFOC船であるが、ITFは船籍国に関係なく全ての基準以下船を活動の対象にしている。インスペクター全員が十分な研修を経ており、労働組合役員としての経験を積んでいるほか、船舶の動静に関する最新情報を入手するためのIT機器を駆使する能力も身に付けている。
船舶に適用されている労働協約に基づく賃金が、船員に実際に支給されるよう担保するため、インスペクター、特別船員部(SSD)およびITF法律部門の連携活動によって回収された未払い賃金は2002年度に3,240万米ドルであった。
SSDはこのほかにも船内における多数の負傷や死亡に関する船員への補償給付事例を取り扱っている。船員の職場は、残念ながら現在でも最も危険な職場の一つであるが、中でもFOC船は劣悪な安全基準のもとにある場合が多い。ITFが解決した100件の事例から獲得された補償給付金の合計金額は、487万米ドルであった。
合計20,000隻にのぼるとされるFOC船のうち6500隻について団体労働協約が締結されており、関連する乗組員165,000人がこれによって保護されている。これらの協約は、インスペクターの活動の結果として、31カ国において調印されたものである。FOC船に適用するため、ITFが承認している労働協約には、賃金表、労働時間、乗組定員、医療、傷病手当、有給休暇、傷病および死亡に関する条項などが規定されている。その他の契約条件には、本国送還、ハラスメント、労働組合権、船内食料や居住設備に関する条項が含まれている。 |
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ITFは活動中
遺棄された乗組員と船員賃金債権のための支援
パナマ船のビルマ人乗組員2人がITFに持ち込んだ、偽造船員免状と詐欺行為に関連する苦情についてITFが介入して支援した結果、これらのビルマ人船員の生命と生活を守ることができた。
二つの大陸の港湾に放置された三隻の船舶の乗組員は同じような困難=食料と生活資金の欠乏=に直面していた。けれどもITFが支援に乗り出したので、パナマに取り残されていたセムK号乗組員とアイルランドのダブリンで島流し状態となっていたアルダK号乗組員は船内で数ヶ月過ごした後、帰国することができた。これらの事件の解決とほぼ同じ時期にパナマに遺棄されたスカルピン号の乗組員は8万米ドルを超す未払い賃金債権を持っていた。
「多数の便宜置籍船(FOC)所有者が船員を遺棄するという行為が多くなっているが、何らかの対策が必要となっている」とパナマ運河パイロットのロンドール・ランキンITFインスペクターは主張している。
ノルウェーの船主トルデンショルド社の財政破綻によって、三か月にわたってパナマに放置されていたバハマ船籍の鉱石輸送船セム・K号(12,274重量トン)の事例も、ITFの懸命の努力と援助によって解決に至った。メキシコ国籍の乗組員4人とポーランド人乗組員11人に対する未払い賃金13万米ドルの支払いについては、ITFと倒産した船主およびノルウェーの取引銀行との間の最終的交渉によって解決した。
解決に至るまでの間、乗組員らはITFの提供した食料と錨泊地で釣り上げた魚などによって命をつないでいた。メキシコ人のクレセンシオ・ラミレス電機士は船内で次のように話した。「船主は賃金を支払ってくれませんでした。私たちは家族に送金するために働いていたのですが、何ヶ月もの間送金することができませんでした。人間以下の状態で生活していました。水も食料も尽きかけていました。発電機の燃料も使い尽くして調理も不可能になっていました」。
キュラソーの船舶修理ドックに約10ヶ月間放置されていたセム・K号の姉妹船フィンネス号(バハマ船籍)の乗組員も同様の状況のもとに置かれていた。ノルウェーのITF事務所による交渉の結果、ポーランド人乗組員は未払い賃金12万8千米ドルと帰国旅費を受け取ることができた。
大西洋を隔てたアイルランドのダブリン港では、トンガ船籍のアルダ・K号のシリア人乗組員が数ヶ月間船内で過ごした後、ITFが支援に乗り出したため、帰国することができた。アイルランド海事当局は、本船はスクラップ(くず鉄)にしかならないと語っていた。
アイルランドのトニー・アイトンITFインスペクターは言う。「34,600米ドルの賃金・諸手当が未払いとなっていた。船内は非人間的な状態だった。まさに不潔で悪臭を放つラストバケット(錆びたバケツ)だった。しかし、好運にもアイルランド海運省海事安全局が本船は耐航性が欠如しているとの理由で抑留してくれたので、本船の出港を阻止することができた。一時は船内の食料も殆どなくなり、ITF福利基金によって乗組員を支援し、医薬品の経費負担が必要になったこともある」。
英国生まれの本船の所有者はフランス南部に居住しているが、ITF法律部は乗組員を代表してフランスの裁判所に訴訟を提起するための予備調査を行っている。パナマでは、ボリビア船籍の冷凍船スカルピン号乗組員のためにロンドール・ランキン(パナマ運河地区インスペクター)が、新たな闘いに直面していた。彼らは香港を拠点とする船主から未払い賃金83,000米ドルを取り立てるために、この冷凍船の差し押さえ手続きをとるよう弁護士に依頼していたのである。
ビルマ出身の乗組員6人の食料や燃料も底をつきかけていた。海事専門紙「ロイズリスト」の記者に乗組員のイノック・エモシが船内の状況について語ったところによれば、乗組員たちは無一文で、パナマのジャングルを見ているしかなかったという。家族を養うための本国送金も不可能であった。
エモンはまたこう述べている。「船主の目的が、乗組員の気力を阻害することにあるのは明白だ。船主は私たちを簡単に遺棄してしまった。全く屈辱的だ。損害を受け、傷ついたのは乗組員だけではない。国の家族たちは何も食べることができずにいるかもしれない。住居は空家になっているかもしれない。家族が生きているのかさえ判らない」
ダブリンのアイトンITFインスペクターは、1966年に建造されたモンゴル船籍の一般貨物船ユニーク号乗組員のために、本船の差し押さえ手続きを裁判所に申請していた。パキスタン人4人およびロシア人3人からなる乗組員は、2万米ドルを超える未払い賃金債権を抱えていた。本船は、密航事件に関与したとの容疑をかけられ、アイルランドおよびドイツの関係当局の捜索を受けていた。この他、本船は、スウェーデンのポートステート・コントロール(PSC)当局によって、多数の欠陥を指摘され219日間抑留されていた。
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賃金未払い、防寒・防水衣料なし、上陸休暇なし、飲料水は制限あり。パナジア・オィジトリア号に乗り組むルーマニア人、ウクライナ人およびロシア人1人からなる22人の乗組員の船内生活は惨めで苦難に満ちていた。
米国西岸のポートランドに入港した時、これ以上我慢できなくなった乗組員たちは帰国を希望した。ポートランド港のドン・リドルITFインスペクターは、ギリシャ船主との交渉にとりかかった。「賃金未払い、劣悪な船内の条件に加えて、米国の保安措置のために上陸が許可されなかったので、彼らは憤慨していた。だから皆、下船して帰国することを望んだのだ」とインスペクターは語っている。
本船の船籍をFOCのマーシャル諸島から別のFOCであるパナマに転籍するために、一週間の待機が必要となったが、リドルITFインスペクターはこの間に未払い賃金6万米ドルの確保に成功した。乗組員は、次の寄港地、カナダのバンクーバーから帰国することに同意した。
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キプロス船籍のアクア・シエラ号乗組員が遭遇した困難は極めて深刻な問題となり、リベリア沖に遺棄された乗組員を救済するために、キプロス海事当局が介入することとなった。
リマソル海運局(DMS)のキャプテン・A・コンスタンティノウ上級海事サーベヤーによれば、キプロス当局は色々な手段で乗組員を支援するための送金に努力したが、すべて不成功に終わった。しかし、最後に地区の教会を通じての送金が乗組員に届いたのであった。リベリアの内戦に巻き込まれたこれらのビルマ人船員は、飲料水も食料もなくなっていた。リベリア駐在のEU代表からのメッセージは「乗組員の健康状態は危機的状況にある。多数の乗組員がマラリア、体重の大幅な減少、皮膚病、精神的疲労などに苦しんでいる」と伝えていた。
キプロスには遭難した船員を救済するための特別の基金があると、キャプテン・コンスタンティノウは海運専門誌「フェアプレー」に次のように語っている。「私は長い間船員として過ごしました。DMSに勤務している私の同僚も殆どが船長や機関長として勤務した経験を持っています。だから、船舶所有者が船舶を遺棄するとはどういうことかを理解しています」。
未払い賃金を確実に支払わせるとともに、乗組員をできるだけ速やかに帰国させるために、ITFは全ての関係当局への働きかけを行った。モンロビア沖に6ヶ月以上もの間錨泊したのち、乗組員たちは2003年7月16日、やっとのことで帰国の途についた。残念なことは、乗組員の一人がマラリアと肝炎を併発して亡くなり、元気で帰国できなかったことである。
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ドミニカ共和国で差し押さえられたパナマ船籍のRO-RO船マヤ・エキスプレス号に乗り組むウクライナ人船員22人のために、ITFは未払い賃金3万米ドルと帰国経費を確保した。
マヤ・エキスプレス号は、22台の車両を積載してハイチに向かっていたが、港湾当局、船舶所有者、用船者および現地代理店の間に紛争が発生したため、ドミニカ共和国に立ち往生していた。
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パナマ船籍のケミカル・ルビー号(船齢30年のタンカー)の乗組員(主としてウクライナ人)は、モナコを拠点とする所有者が倒産したため、7ヶ月にわたってセネガルのダカール港に放置されていた。
ITFの努力によって帰国経費と未払い賃金の約50%を確保することができた乗組員は、2003年9月、下船して帰国した。
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フォレスト・リンク号のボレスラウ・ダンプス船長(ポーランド人)は、「米国アラバマ州のキカソー港で本船のエンジンが故障してしまった際、ITFの援助がなければ15人の乗組員の命はなかったかもしれない」と語っていた。
ノルウェーの船舶所有者は、エンジンを修理することができないまま、賃金も支給しないで乗組員を3ヶ月も放置したのである。乗組員の家族の大半は彼らからの送金に依存しており、生活はたちまち窮乏した。
ガルフ地区ITFコーディネーターのドワイン・ブードローは、乗組員の未払い賃金7万米ドルおよび帰国旅費を確保するために尽力した。
「ITF、移民帰化局、コーストガードの援助がなかったならば、私たちはどうなっていたか分からない」とダンプス船長は述べた。
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ニュージーランドの港湾労働者は、ITFの支援をうけて香港船籍のマリタイム・フレンドシップ号のクレーンのアーム(重量12トン)が折損し、船内で作業中のブルドーザーを直撃した事故に伴い、同船のニュージーランド港湾への入港を禁止するよう要求した。
ブルドーザーの運転士コリン・スコールズは、チャルマーズ港でクレーンのアームが運転室を直撃してきた時、死ぬかと思ったと次のように話している。「あの時はカーテンのようなものかと思ったので避けもしなかったよ。まさかと思ったね」。
この事故は、2003年11月の4日間に本船で発生した二度目の事故であった。本船の甲板上に積み込まれた材木を固縛するためのスタンション(鉄製の支柱)二本が損傷していたため、海事安全当局はこれまでに本船に対して航海差し止め命令を出していた。これによって、錆のために腐蝕していた40本のスタンションが更新された。
ニュージーランド海員組合のフィル・アダムス組合長によれば、「今回のクレーンの崩壊事故は、いかにして便宜置籍船(FOC)がニュージーランドの港湾に劣悪な安全基準を導入しているかを示す衝撃的な事例」である。「労働組合は本船を二度と入港させてはならない。このような船のためにニュージーランド労働者の生命を危険に晒す理由はない」とアダムス組合長は主張する。
ニュージーランドのキャシー・ウェーランITFコーディネーターも中国人乗組員が所定の半額以下の賃金しか受け取っていないとの苦情に関する調査にもとづいて、本船のシンガポール船主に対し、未払い賃金17万米ドルの支払いを請求した。
船主側は、乗組員には一ヶ月につき300米ドルしか支給していなかったことを認めたが、差額は中国における各種給付によって支給されていると主張した。ITFは直ちにこの主張を確認するための調査を開始した。
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インド海員組合(NUSI)はITFの援助のもとに、ナイジェリアのラゴス港外の錨泊地に2003年1月から放置されていたインド船籍のラディアント・スター号のインド人船員20人を本国に送還するために支援した。
本船は倒産したムンバイ(ボンベイ)の船舶所有者によって遺棄された。しかし、ITFとNUSIは協力して乗組員のために合計22万5千米ドルを確保し、2004年1月、乗組員はムンバイへと空路帰国した。
「度重なる我々の要請にもかかわらず、船主も政府もナイジェリアで厳しい状況に置かれている乗組員を救助しようとする努力を全く行わなかった」とNUSIの担当者は当時を振り返って語っている。
「遺棄された船内で一年を過ごした乗組員たちは、賃金の請求権を放棄してでも、インドに帰りたいと思い始めていた。これは完全な契約違反であり、乗組員らはフラストレーションのために神経衰弱の危機に陥っていた。船内では喧嘩が頻発し、一部の船員は自殺願望を持ち始めていた」と組合の担当者は語った。 |
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「乗組員の健康状態は危機的状況にある。多数の乗組員がマラリア、体重の大幅な減少、皮膚病、精神的疲労などに苦しんでいる」 |
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成果を挙げた行動週間
基準以下船舶に反対する2003年9月のヨーロッパITF行動週間において、船員組織は港湾労働者を支援するため、港湾サービスの自由化を提案している欧州連合(EU)に抗議する集会を開催した。
二つの目的を持つITFキャンペーンは、2003年11月、EUが最終的に検討中であった港湾指令の放棄を決定させ、大きな成功を収めた。この指令が実施されたならば、港湾労働者の職域への未熟練労働者の導入が可能になっていただろう。また、キャンペーンによって、船舶所有企業16社が所有船舶に適用するため、ITF労働協約に調印した。
今回の行動週間中に船員のために回収された未払い賃金は、総計約39万米ドルに達した。その一例は、イタリアの港湾労働者が、コスタ・メディテラニア号およびオモウ・スター号乗組員に対する未払い賃金8,057米ドルが支払われるまでの間、荷役作業を拒否したケースである。
2003年10月および11月には、ラテンアメリカとアジア地域において行動週間が実施され、ITFインスペクターの組織する現地港湾労組および船員労組の連携の中で、未払い賃金の取り立て活動が行われた。
ラテンアメリカ地域では、30万米ドル以上の未払い賃金等が回収された。(詳細については別項の記事を参照のこと)
その約一ヶ月のちに、アジア地域の港湾で活動する運輸労働者組織は、250隻を超える船舶の訪船査察を実施した。ITF東京事務所の報告によれば行動週間中に回収された金額は781,972米ドルに上った他、さらに約65万米ドルについて、支払いの確約が得られているとのことである。 |
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ラテンアメリカにおけるITFの役割拡大のために
2003年10月13日から17日までラテンアメリカで実施されたITF行動週間中に、11カ国の22港湾において201隻の船舶の査察が行われた。この活動によって、未払い賃金247,883米ドルの取り立てに成功し、さらに78,870米ドルの支払いが確約された。
ラテンアメリカ地域のITF行動週間は年ごとに強化されつつあるが、とりわけ港湾労組と船員労組の連携による2001年の第1回行動週間以降は、一段と強化されている。当地域の加盟組合は、労働条件の改善と安全を勝ち取るためには自ら闘う必要があるとの自覚を深めており、ITF活動を通じて世界的連帯に参加してゆくことが何よりも重要であることを認識している。
我々にとっての第一回目の行動週間には、ラテンアメリカ地域の30港湾を含む14ヶ国からITFインスペクターや労働組合が動員された。
かつてはITFが承認した団体労働協約どころかいかなる労働協約も持たなかった当地域だが、労働者が産業別に組織化され動員された現在では、行動週間が実施されてきた過去3年間に、25件のITF承認協約が調印されている。
年を追って、我々は訪船査察の記録を更新している。2001年度には139隻、2002年度には170隻、2003年度には200隻以上の船舶の査察を実施した。合計357,000米ドルの未払い賃金およびITF船員福利基金への拠出金の取り立てに成功したが、2001年度における金額は15万米ドルであった。
ラテンアメリカの海事関係労組もセミナーやキャンペーンからの知識と経験を蓄積し、前進を遂げている。
便宜置籍船制度の不当性と労働条件に対する悪影響を一般国民に知らしめるため、彼らはマスコミを活用している。さらに、不正行為や搾取行為に反対し、雇用を守る闘いに向けて、港湾労働者と船員を団結させることに成功した。
言うまでもなく我々の道は遠い。とりわけ船員あるいは港湾労働者の組合または組織が存在しない国においては然りである。しかし、これらの諸国の労働者組織は活動と運営について物心両面の支援を必要としており、我々は彼らの求める援助を継続しなければならない。 |
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●ストライキをしようと思っていますか?
●まずこの文章を読んでください!
便宜置籍船(FOC)に乗り組む船員が正当な賃金と適正な団体協約の適用を受けるために支援することをITFは約束しています。
場合によっては、船員は当該国内の法廷における法的手続きを取る必要があります。場合によっては、船舶に対するボイコット行動が必要です。どのような手段が適切かは、国または場所によって異なります。ある国では適切な行動が、他の国においては全く不適切なこともあります。
最初にとるべき行動は、まずあなたの住む地域のITF代表に連絡することです。このITFシーフェアラーズ・ブルテンの裏表紙に記載されている住所と電話番号等を参照してください。何らかの行動に出る前に、ITF地域代表の助言を必ず得てください。
一部の国においては、船舶の乗組員によるストライキが違法行為となる場合があります。そのような場合には、ITF地域代表がその情報について説明します。
多くの国において、労使紛争に際しての勝利の鍵を握るのは、ストライキ行動です。この場合にも、ITF地域代表の助言に基づいて行動する必要があることは言うまでもありません。多くの国で、あなたがた船員には、航行中を除き、入港中のストライキ権が法律上認められています。
あらゆるストライキ行動において重要なことは、規律と安全を守り、団結を維持することです。多くの国で、ストライキ権は基本的人権の一部として、法律あるいは憲法により保障されています。
どのような行動を選択するにせよ、事前に地域のITF代表に連絡することを決して忘れないでください。お互いに協力することによって、我々は正義と基本的権利のための闘いに勝利することができるのです。 |
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利益を求めた威嚇行為
2003年6月、リベリア船籍タガンローガ号の船主、ラトヴイジャス・クニエクバ(LK)は、同船の管理をラトビアのアクアシップ社に任せることにした。アクアシップは、組合が承認した賃金を明記した現行協約を破棄し、15パーセントから45パーセントの賃金切り下げと社会給付の大幅削減を規定した新たな協約を締結することを提案した。この賃金提案は非常に奇妙なものだった。例えば、ウクライナ人の2等航海士の月給が1,200ドルであるのに対し、ラトビア人の3等航海士の月給は2,000ドルで、部員の月給は僅か700ドルだった。
2003年6月30日、ラトビア商船船員組合(LSUMF)は、LKの経営者に書面による説明を要求したが、返答はなかった。7月2日、LSUMFは、今度は船主、管理者、事業者のそれぞれに書簡を送り、紛争解決のための話し合いを行うよう要求したが、何の回答も得ることはできなかった。7月3日、組合は、経営側がこれ以上、交渉を拒否するのであれば、思い切った行動とはいえ、完全に合法的であるストライキという手段に訴えざるを得ないと通告した。7月8日の午前8時、同船の乗組員はストライキを実施した。20人の乗組員のうち、ストライキに参加しなかったのは僅か3人だった。
依然として平和的な交渉には至らなかった。それどころか、アクアシップと用船主による激しい反撃が間もなく始まろうとしていた。7月8日の夜、ギャングウェイにスーツケースを手にした別の船員が現れた。ラトビア人船員の代わりに仕事をするためだった。その数時間後、アクアシップが呼んだ警察も到着した。しかし、警察は、何の違法行為も公益妨害も認められないため、平和的にストライキを行っている船員を船から追い出すことはできないと説明した。その後、国境警察もタガンローガ号を訪れ、船員の行動に何らかの違法性を見つけようと必死になったが、徒労に終わった。
午前3時、長期間に及ぶ心理戦も限界に達していたため、船員らは眠りについた。しかし、船員の間に恐怖心が高まり、ストライキに参加する船員の数が13人に減ってしまった。
翌朝、タグボート2隻がタガンローガ号脇に現れ、船の保安と船員の安全に関する規則に全く違反する行為だが、ストライキ中の船員ともども船を引いて行こうとした。しかし、係船中の船を引っ張っていこうというこの企ては失敗に終わった。
次に民間の警備会社から派遣されたがっしりとしたガードマン2人が現れ、ギャングウェイに陣取った。組合の代表者を乗船させないように指示されてきたからだ。さらに、2人のアクアシップの代表者が乗船し、疲れ果てるまで何時間もかけて乗組員を洗脳しにかかった。船員らはこの「秘密の」交渉に組合の代表者を同席させて欲しいと要求したが、完全に無視された。これは、従業員の代表者が職場を訪れる権限を有していると規定するILO条約第135号への重大な違反である。
心理的プレッシャーの大きな長期戦の末、ラトビア人船員の大半がおじけづいてしまい、アクアシップが提示してきた僅かな賃金で働くことに同意してしまった。しかし、4人の船員は、企業の提示した条件に納得ができなかったため、ストライキを続行するつもりだったが、最終的に、ストライキは中止された。企業代表の4人は、得意げに堂々と下船していった。
タガンローガ号の船内でこうした一部始終が起こっている間も、荷役作業は近くに停泊していたラザナ号により行なわれていた。同船もまたアクアシップの管理に任されていた。すでにラザナ号では、ラトビア人船員の大半がウクライナ人船員に置き換えられていた。ラザナ号のストライキを警戒したアクアシップ社が、ここでもあの全身黒ずくめのガードマンらをギャングウェイに仁王立ちさせ、乗組員が組合の代表者と接触するのを阻んだからだった。いずれにしても、ウクライナ人船員は、生活水準の低さゆえ、比較的低賃金でも仕事を引き受けるのだから、会社はガードマンに大金を払う必要もなかっただろう。
ラザナ号とタガンローガ号は、こうして再び航海を開始し、船員らはアクアシップ社が提示した労働条件のもとに就労している。しかし、労組は引き続き、ラトビア人船員の利益を守るために努力する。LSUMFは、あらゆる船の労働条件が、LKと結んだ元来の協約に従ったものになり、企業側にそれを堅持させるように努力しようと決意を新たにした。 |
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船員による平和的ストライキを破るために繰り返されるお馴染みの威嚇行為と違法戦術に関するこの記事は、各国でいかに多くの組合が勇気を振り絞り、FOC船運営者の不当行為と闘っているかを物語ってくれる。筆者は、ラトビア商船船員組合(LSUMF)のアルディス・ブローカンズ。本記事は、LSUMFの機関誌「Jurneiku Vestnesis」に掲載されたもの。 |
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ITF新賃金協定により船員5万人の労働条件が改善
ITFによる賃金・労働条件承認の象徴たる「ブルー・サーティフィケート」とは別個に、新たな構想に基づき、約5万人の船員に適用される「グリーン・サーティフィケート」が新たに発行されることとなった。
グリーン・サーティフィケートは、FOC船に勤務する船員の新たな賃金・労働条件を意味しており、ITFと国際船主組織による交渉によって形成されたものである。
この意味するところは、ITFとIMEC(国際海事雇用者委員会)が調印している現行のTCC(トータル・クルーコスト)協約の最低基準(1船あたり一ヶ月2,173米ドル)の引き上げである。
引き上げ額は、有給休暇2日および食料金に相当するが、支給方法は各国内における交渉によって決定される。交渉においては、いかなる場合にも現行賃金を削減してはならないことも、強調された。このほか傷病手当、死亡、身体障害などの補償に関する1,247米ドルの増額も合意された。
新たに導入された船員による荷役を禁止する条項は、港湾において通常は資格を有する港湾労働者が行っている業務を、船員に代行させようとする圧力を緩和するための措置である。
新賃金協約の最終交渉は、ITFおよび使用者側代表のIMECならびに日本の国船協(IMMAJ)によって構成される国際交渉協議会(IBF)において、2003年11月、サンフランシスコで行われた。IMECは船主グループで、その大半が過去数年間において船員の賃金労働条件をITFと交渉してきている。IMMAJは、日本所有の外国籍船舶のオペレーターを代表している。
Vシップス、ハンゼアティックおよびコロンビアなどの船舶管理会社が運航するエクソン、シェルやシェブロンなどの石油企業の船舶にも、新協約が適用される。また、海外移籍された旧日本国籍船の大多数は、国船協(IMMAJ)加盟会社によって管理されている。
「これは、世界最初のグローバル産業となった海運産業において、労働条件の最低基準を設定するためのユニークな取り組みである」とコックロフトITF書記長は述べ、「この新協約の適用を受ける船員は、改善された社会保障、医療保障ならびに引き上げられた賃金を受け取ることとなる。関係国のITF加盟組合は、国内の諸条件にマッチした労働条件を交渉するための弾力性を手に入れた」と説明する。
新協約の発効とともに、IBFに参加しないFOC船に勤務するAB船員の賃金のITFベンチマークも、1ヶ月あたり1,400米ドルに引き上げられる。IBFにおける話し合いを継続させるために、I T F は、事前に計画されていた月額1,300米ドルから1,400米ドルへの引き上げを2003年末まで延期することに同意していた。
IBF協約が適用されていないが、ITF承認協約を適用しているが、IBFには参加しないFOC船については、これまでと同様にITFブルー・サーティフィケートが発給される。
ITF船員部会のブライアン・オレル議長は、次のように指摘している。「我々は、(今回の合意によって)海運産業の経営方式を大幅に変化させることができた。IBFに参加している企業の間に信頼と確信の気風が生まれているが、これによってITFインスペクターの活動を、不心得な船主に集中することが可能となる。悪徳船主は、基準以下の条件で船員を雇用し、場合によっては船員を遺棄したりして、利益を得ているのである」。
IMECのロベルト・アグリエタ議長は、「あらゆる産業界を見ても、この種の協約が調印されたのはこれが最初である。良識ある経営者と責任ある労働組合が、問題を解決するために協議する用意があるということは、いかに海運業界が進歩的な産業であるかを示すものである。今回の成果は、海運業界の労使関係に新世紀を開くものであり、より多くの各海運企業や船主団体がIMECに参加するよう呼びかけたい」とコメントしている。 |
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