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No.18/2004 |
■ITF国際船員開発プログラム |
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組合の現状
船員組合は、どうすれば組合員に最善のサービスをすることができるのか。これがITFの国際船員組合開発プロジェクト(ISUDP)に課せられた課題だった。同プログラムが目指す、主要船員供給国における組合のサービス向上について、ISUDPコーディネーターのマーク・デービスが語る。
ISUDPは、主に船員供給国の船員組合が組合員に最低基準のサービスを提供するのを支援するために設立された。組合のサービスとは、船員が組合費を納める代わりに受けられるサービスのことだ。組合カードや機関紙の発行、新海事法案の陳情、労災をめぐる裁判提訴など、さまざまなサービスが可能となる。
それぞれのケースで、当該組合の発展段階、当該国の法制度、組合員の船員が自国籍かどうか等を考慮に入れながら、できるだけ高いレベルのサービスを提供することを目指している。これに関しては、3つの原則がある。(下の記事を参照)
一部の労働供給国の船員にとっては、三原則を満たす組合など幻想に過ぎない。船員があまりにも低い労働条件を受け入れざるを得ず、組合に幻滅し、基本原則を見失うことは珍しいことではない。
ISUDPを通じて、ITFは、船員組合の新設に関わるさまざまなプロジェクトを実施してきた。新たに設立された船員組合はまず、組合という数の力に関心を抱くメンバーを集めることから始めなければならない。
マレーシア船員組合(MSU)が今、正にこれを行っている。MSUは「若干の組合費を払って組合に入れば、組合カードと連絡先一覧がもらえる」とマレーシア人船員に組合加入を呼びかけている。その際、十分な組合員数と組合費が集まり、組合員へのサービスに力が入れられるようになるまでは、高いレベルの活動を期待しないでほしいということも説明している。MSUは独立性、民主性、透明性の三原則を確保している。よって、マレーシア人船員のMSUへの支持は、将来に向けての堅実な投資と言えるだろう。
船員供給国の組合の多くは、比較的最近、グローバル市場における船員需要が高まる中で設立された。つまり、西ヨーロッパのような伝統的海運国の組合と比較して、船員供給国の組合はまだまだ発展途上にあることを意味している。
よって、船員供給国の組合に三原則の適用に関して欠陥が認められたとしても、ある程度の期間は大目に見る必要があるのかもしれない。しかし、これらの欠陥が長期にわたり、組合員に満足のいくサービスが提供されない状態が続けば、それを受け入れるべきではない。
しばしば、手厚い福利サービスの提供によって、民主的サービスの欠陥が見えにくくなることがある。もちろん、福利サービスは船員やその家族にとって非常に価値の高いものだ。しかし、組合のサービスの中心は、いかにして使用者側に雇用契約を遵守させるか等の活動であるべきで、福利サービスは本来二次的なものである。ISUDPとしては、組合に組合員を代表する機能がしっかりと備わり、効率的に活動できるようになってから、福利活動に力を入れるように呼びかけている。
同様に、組合員が非居住船員の場合、組合の民主的プロセスから除外され、サービスのレベルの面でも不利な扱いを受けることが多い。非居住船員を全面的に組合の中に取り込もうとする動きがみられる国もあるが、そうでない場合には、非居住船員は組合に対して、居住地や国籍に関係なく全ての組合員に同等の資格を与える仕組みを作るように、一丸となって訴えていくべきだ。
また、2つ以上の組合に組合費を納めている場合は、どの組合からどのサービスを受けられるのか、組合の民主的なプロセスにどの程度関与できるのかを組合に明確に示してもらう必要がある。
ITFは、以上のような問題に取り組んでいるが、成功するためには、加盟組合と世界中の船員の支持が必要だ。船員は自分たちの組合がどのように運営され、自分たちのために何をしてくれるのかについて、意識を向上させる必要がある。もちろん組合も、組合員の意見を積極的に取り入れ、より多くの船員に参加を呼びかけることで、このプロセスに貢献できる。
今、何か不満があるなら、グループでその問題を組合に訴え、組合を促して問題解決のプロセスに参加させてもらい、そこから下に記した3原則につながる改革を起こすというのも一つのやり方だろう。 |
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労働組合の三原則
独立性
もし、政府や使用者が労働組合に影響力を行使することができれば、その労働組合は組合員の労働条件や生活条件の向上という基本的な使命を果たすことができなくなる。
政府は、おとなしくて従順という自国船員の評判を労働組合に汚されたくないと思っている。船主やオペレーターに迷惑をかけることなく、自国経済に外貨をもたらしてくれる船員を国際労働市場に売り込みたいと願っているからだ。使用者側も労働組合が船員に権利意識を植え付けることを望んでいない。船員が賃上げや団体協約を要求し始めれば、企業の利潤減少につながるからだ。
かつて、インドネシアの船員組合(KPI)の規約には、組合顧問を政府高官とすることが規定されていた。組合自体が営利目的で運営され、組合費も政府高官らの「組合幹部という副業」のために使われていた。そこで、これらの腐敗を払拭するために、ITFが支援に乗り出し、KPIの組織体制や運営方法を変革することに成功した。しかしこの成功も、KPI幹部の政府高官らが既に組合費を財政難に陥っていた運輸省海運局の資金に回してしまった後だった。
使用者側の介入の最も顕著な例は「御用組合」だ。海運産業の場合、船主またはマンニング会社が使用者側に有利な労働条件で船員を雇用し、船内での労使紛争を避けるために作った組合を意味する。使用者側が信念を持った、強力な労働組合との交渉を望まないときに作られる。
例えば、ウクライナでは、御用組合がマンニング会社と覚書を交わし、基準以下の労働条件を船員に適用させ、その見返りとして、マンニング会社が船員から違法に徴収された斡旋料の一部を受け取っている。
ILO諸条約は加盟国政府に対し、労働組合が組合員のために自由に活動できる法的枠組みを整備するように義務付けている。しかし、残念ながら、これらの条約は世界的に履行されているわけではない。
民主性
第二の原則は労働組合の民主的な体制と運営だ。船員組合は船員が船員のために運営するものでなければならない。組合員は、開かれた、公正な選挙で投票する権利を有し、選挙結果は組合員の過半数の意思を反映するものでなければならない。 組合の政策立案者や役員がきちんと責任を果たすことも重要だ。組合員が彼らを選んだのは、彼らが自分たちの要求をかなえてくれると思ったからだ。国際船員組合開発プロジェクト(ISUDP)は、立派で民主的に見える規則を持ってはいるものの、その規則が民主的に実施されていない組合をいくつか見てきた。例えば、ある船員組合では、現在の執行部が組合選挙で負けそうになり、自分たちに投票しないと仕事を回さないぞと組合員を脅迫したことがある。
透明性
第三の原則、透明性の確保には「説明責任」も含まれる。組合の規則には、組合の組合員に対する義務が明確に示される必要があるが、規則の履行具合についても、組合員の監視下に置かれるべきだ。その最も分かりやすい例が組合の財政だ。
組合員は組合の収入と支出に関して情報提供を受けるべきだ。あるいは、少なくともこれらの情報へのアクセスが確保されなければならない。組合員には会議で財政状況に関する質問をしたり、それに対する納得のいく回答を得たり、是正措置に関する説明を受けたりする権利がある。
より広範な「説明責任」の問題については、組合員は幹部から行動計画の実施状況について説明を受けたり、自分たちの雇用に影響を与える問題について意見を述べたりする機会を与えられる必要がある。簡単な例で言えば、組合員は使用者側との賃金交渉の進捗状況について定期的に報告を受けなければならない。 |
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「船員組合は船員が船員のために運営するものでなければならない。組合員は、開かれた、公正な選挙で投票する権利を有し、選挙結果は組合員の過半数の意思を反映するものでなければならない」 |
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