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No.18/2004 |
■ITF船員トラスト |
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海上に復帰した労働者神父
Eメールや電話は、船員センターや海上での人間のふれ合いや思いやりの代用には、決してなり得ない。こう述べるのは、船舶電機士として22年間過ごした経験を持つフランスのイエズス会の神父である。
1968年から労働者神父を続けているローランド・ドリオル神父は、現在、フィリピンのセブ島でささやかな船員教会を運営している。宿舎となっている3個のコンテナは、まもなく新しい三階建てのビルとなる予定であるが、ドリオル神父は、船員神父としての活動の一番重要な部分が海上で過ごす時間であることに変わりはない、と語っている。
「船員とともに充実した時間を過ごすことが極めて重要です。時間こそ、何よりも大事なのです。私の言う時間とは、手紙を書くため、色々な体験談を聞く、それらを私たちが12年間発行しているニュースレターに印刷するためなどに費やされる時間を意味しています。これらの実話は、将来船員となる若者の価値観の形成に有益な資料となってゆきます」。
漁師を父に持つドリオル神父は、労働者神父という構想の価値について確信を持っている。フランスのカトリック教会が1968年に、教会と信者の結びつきを強化するために、労働者神父運動を再発足させたときに、ドリオル神父は一神父として参加した。神父は、当初はフランス国籍船で働き、その後に便宜置籍船(FOC)に移った。生活費を得るために乗組員の一人となって働き、他の乗組員と共に社会の浮き沈みを経験することによって、神父として船員の必要とするものが理解できると、堅く信じている。
「船員が何を必要としているかを知る最善の方法は、一家の稼ぎ手として船乗りになり、家族との日常的通信や、困難に際しての連絡に努めるなどの体験をしながら、彼らの時間と孤独を共有することです。乗組員チームの一員になることによって、船員たちとのつながりが深まり、必要に際しては悩みの聞き手となり、助言をすることができるのです」
ドリオル神父に言わせれば、乗船神父制度にはこのような「目的の共有」という感覚が欠落している。「私たちは、自分のためにも働かねばなりません。同時に、教会に対する責任も負っています。乗組員の一員となることによって、私たちの使命を、長い年月や航海に耐えて持続してゆくことが可能となります。しかし、乗船神父が短期間しか船内に止まれないとすれば、乗組員との交わりをどのようにして深めればよいのか、私には解りません。船員たちが最初に乗船してから、どのように新しい環境に適応してゆくかを、数週間にわたって観察することが、極めて重要です。乗組員チームの一部になるということは、共に働くということでもあります。乗船神父が何らかの船内業務、例えば司厨部門など、に従事できるならば、さらに前進できると思います」
ドリオル神父は、12年間にわたってセブの教会を運営しているにもかかわらず、船員と教会の緊密な関係は海上でのみ形成されるものであると確信している。「私はセブ島からマニラによく出かけますが、その船内こそ本当に船員と「会う」ことがきる場所だと最近つくづく感じます。船員センターは、家族を支えるために働いている職場に戻る前に、船員が立ち寄る通過地点に過ぎません」と神父は言う。海上で船員と共に過ごす時間を増やすために、神父はフィリピンの国内航路船に復帰したいと希望している。
船員福祉サービスを、本当に船員の役に立つものにするためには、時間をかけることが不可欠だ。「陸上の船員センターにおいても、充実した時間は本質的に重要です。これがなければ、船員センターはビジネスになってしまいます。船員を相手にする人は、融通が利かなければなりません。福音書の巡礼の精神のように、遠回りを嫌ってはなりません。この『遠回りを厭わない精神』がなくては、船員センターは運営できないのです」。
福祉活動による心のふれあいをITや科学技術で置き換えることはできないと、ドリオル神父は主張する。「人と人の心のふれあいをなくすことはできません。私はいつも船員に驚かされています。時間の制限があるという強迫観念の重荷を負って、『電話をかける、何かを飲む、何かを買う』などの用事を手早くすませるために、船員センターに現れる船員を見るたびに心が痛みます」。
「船員は常に心と身体の準備を整えておかなければなりません。現代のハイテクは何の助けにもなりません。船員センターでの、ささやかな親切や心づかいの交流が、船員の心と記憶に残って、彼らと共に世界を巡るのです」。 |
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「船員が何を必要としているかを知る最善の方法は、彼らの時間と孤独を分かち合うことです」 |
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●ITF船員トラストが提唱し、資金を提供したある調査により、92%の船員が「乗船神父」によるサービスを歓迎していることが明らかとなった。 |
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