2010年01〜03月 第38号 |
■労働者の権利を尊重する |
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労働者の権利を尊重する
多国籍ロジスティックス企業のドイツポストDHL社は約50万人の労働者を抱える。それなのに、なぜ労働者の権利を尊重しないのか?
1.キャンペーン
ドイツポストDHL社の従業員は耐えかねている。数千人規模の雇用削減、将来への不安、グローバルな経済危機の影響への経営側による対応の不確実性に直面しているからだ。これは、ITFとその国際的パートナーであるUNI(ユニオン・ネットワーク・インターナショナル)が、労働者への敬意を求めるキャンペーンを開始した一因ともなった。
ITFのグローバル組織化コーディネーターであるインゴ・マロスキーは、「DHL社は、国際宅配便を扱うグローバル企業である。しかし残念ながら、同社の社会的責任や労組の権利に対する基準は、我々が受け入れられる水準に達していない」と言う。
UNI郵便ロジスティクス部長、ニール・アンダーソンは、「労働者の権利の改善と労働者の適正な国際的参加を求めるキャンペーンを、DHL社に対して実施している」と付け加えている。
キャンペーンが求めていることは、
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会社の戦略、目標、活動について、DHL社の従業員と協議し、それらの情報にアクセスできるようにすること、 |
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完全な労組の権利や業務上の最善の慣行の基準を含め、全労働者に公正な処遇を確保すること、 |
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グローバル企業のためのグローバルな協定を締結することである。 |
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2.任務に関する声明
UNIとITFは、ドイツポストDHL社が、国際的雇用主としての社会的責任を認めることを確保するために、キャンペーンを実施している。
ドイツポストDHL社の世界中の労働者および労組と協力し、UNIとITFは、会社が労働者の権利を認識し、尊重する一貫した社会政策を世界的に実施することを求めている。 |
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3.DHL社について
DHL社は、ドイツポスト社の子会社である。ドイツポスト社は、1990年代にドイツの郵便事業が民営化された会社である。DHLは国際郵便サービス・物流のブランドで、UPS、FedEx、TNTとともにグローバル・デリバリーの“ビッグ・フォー”の1つである。
親会社のドイツポスト社は、最近のフォーチュン誌で、グローバル企業500社中の54位につけた巨大雇用主である。
DHLの国際ネットワークは、世界の220カ国と地域を結び、30万人を雇用している。
多くの企業と同様、DHL社も母国では良好な労使関係を維持しているが、地域よってばらつきがあり、労組に対して否定的なところもある。
ニール・アンダーソンは、「DHL社の従業員の大半は、労組や労働協約、または真の労働者の権利を有していない。DHL社の本社はドイツで、労働評議会や欧州労使協議会(EWC)もあり、欧州における労働者との協議の歴史が長い。世界各国でもこのやり方を踏襲すべきなのに、そうなっていない」と指摘した。 |
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4.グローバルプレーヤー
キャンペーンは、ITFとUNI、中でも郵便ロジスティクス部門が中心となって調整されている。
これは、何千人もの労働者に働きかけるという点で、グローバルレベルでの画期的なキャンペーンと言える。アンダーソンは、将来のグローバル労組間の活動の「青写真」になる、と述べた。
それだけでなく、このキャンペーンは、ドイツポスDHL社の運営のやり方を変更する機会ともなる。
「我々が一致協力すれば、DHL社の全ての労働者が公正な労働条件と、会社の将来について協議する権利を具備した質の高い仕事を持つことができる。これは会社の全ての労働者にとって望ましいあり方だ。権利を持つ労働者もいれば、持たない労働者もいるという状態は、いずれ全体にとって悪くなる。労働者の全てが権利を有したとき、全員の労働条件改善のために協力し合えるのだ」と述べた。 |
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労働者の話:インド
ラクシュマナン・バスカランは、1995年にDHL社のチェンナイ支社で、宅配人として働き始めた。
1999年、バスカランは社内で労組を結成した。経営側ともめるようになったのは、この頃からだという。会社は、インドの組合幹部のリストを集め、その後、不穏な状況の下で解雇者がでるようになった。2003年3月/4月に、バンガロールの書記長が解雇され、2003年5月にボンベイで、5人の労組活動家が停職処分になった。2003年10月には、バスカラン自身も突然、会社から解雇された。
DHL社は窃盗と違法な金儲けをしたことを解雇理由としているが、バスカランは強く否定している。
会社が警察に届け、事件は地元メディアに取り上げられたため、バスカランと家族に耐えがたい苦痛をもたらした。警察は、2005年6月、「証拠がなく、事実誤認」として申し立ての捜査を終了した。
ラクシュマナンは現在、ロジスティックのオルガナイザーとしてITFで勤務しているが、未だにDHL社による解雇のされ方が尾を引いている。
バスカランは、「DHL社の経営陣のために、全てのキャリアを失ってしまった。この問題のために、だれからも仕事を頼まれなくなった。社会での評判も悪くなり、プライベートな生活もなくなってしまった」と嘆いた。
「DHL社の他の従業員が自分と同じ目に遭わないためにも、自分の権利のために引き続き闘っている。誰もが雇用の安定を保障されるべきだし、職場での評価を貶められることがあってはならない」と述べた。 |
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労働者の話:バミューダ島
シャリッセ・カンが2009年1月に白血病と診断されたとき、使用者としてのDHL社は同情してくれるものと彼女は思った。
不幸なことに、その年のうちにカンは解雇された。カンの所属する労組は、これは病気が直接的理由なので、休職扱いにするべきであると考えている。
カンは治療を受けるため、定期的に事務所を離れた。しかし、病気にもかかわらず、彼女はできる限り出勤した。
カンは、「この2カ月間、同僚の仕事の面倒を見ていないと、会社から口頭で注意を受けた。事務所に呼ばれ、私のメールがうまくいっていないし、電話会議を避けていると言われた」と語った。
会社は、カンを6ヵ月の審査期間にした。カンによると、もし退職すれば2010年1月までの健康保険を会社が負担するという条件を、会社はカンに提示した。
カンは当惑している。「電話会議に出席できなかったのは、病気で会社を休んでいたからだ。会社は私の解雇理由を、病気のためとはしていない。病気ではなくて、私の仕事が水準以下だから解雇するというのなら、どうして私に条件を提示するのか」と疑問を呈した。
さらに「病気を抱えながらもできるだけ出勤して、精いっぱい努力した」と述べた。
カンは結局、9月4日付で解雇された。それ以降、賃金は支給されていない。バミューダ島の生活費は高く、カンの置かれている状況は厳しい。バミューダ産業労働組合(BIU)は、支部で労働者の証明書を受領した2007年以来、DHL社で労働協約のためのキャンペーンを実施している。部門オルガナイザーのルイス・ソマーは、「会社は、カンを職務を遂行しなかったため解雇したと言っているが、白血病のような病気を経験した人なら、大変な日もあることは誰もがわかることだ」と述べた。
ソマーは、カンのケースは氷山の一角であり、労組に団体交渉をさせないために、会社は引き延ばし作戦に出ていると見る。「協約の95パーセントは妥結した。最後に残った問題が賃金だ。会社は労働局に行って、我々の労働証明を取り消そうとしている」と述べた。
10月22日現在、BIUはDHLバミューダの弁護士から、カンの復職についての回答が来るのを待っている。
カンの家族は、今回の問題を地元メディアに訴え、弁護士を雇うことを検討している。BIUは、カンと他の労働者のために闘い続ける意向だ。 |
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