2010年01〜03月 第38号 |
■漁船員が決起 |
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マダガスカル海事労組(Sygmma)、労働条件改善求め決起
マダカスカル島の漁船員は、欧州企業から適正賃金が支払われていない。そこで、ある労組が、ITFとETFの支援を受け、立ち上がった。マリアン・パウエル
モザンビーク沖に浮かぶマダカスカル島は、欧州委員会の本部があるブリュッセルからは約5,000マイル(約8,000km)の距離にある。しかし、EUレベルで下される決定は、同島の漁船員の生業や生活に悲惨な影響をもたらしている。この状況はもう耐えがたい、と意を決した労働組合がある。
マダガスカル海事労働組合(Sygmma)は、漁船員・船員合わせ、約1500人の組合員を擁する。国際運輸労連(ITF)および欧州運輸労連(ETF)とともに、欧州の漁船で働く労働者のために賃金改善を要求している。 |
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漁業権の見返りに資金
欧州の漁船の大半は、アフリカ・カリブ・太平洋地域(ACP)で操業している。欧州委員会は、各国別に漁業パートナーシップ協定を交渉する。同協定は、欧州が漁業権を取得する見返りに、相手国政府に資金を提供するというものである。
このスキームは、双方に最善の結果をもたらすはずだった。欧州の漁船は、持続的な水産資源管理のためのガイドラインの下で操業することができ、現地の漁船員に不利益にならないようにする。アフリカ諸国は、提供された資金を使って責任ある漁業部門を振興し、水産業界全体の水準を向上させることができる。
しかし、現地の漁船員は、現に不利益をこうむっている。欧州企業が、仕事に見合う適正賃金の支払いを拒否しているからだ。 |
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漁船員の保護
2001年以来、欧州企業とACP諸国の間の漁業パートナーシップ協定に、社会条項の導入が義務化されるようになった。社会条項は現地労働者に対する最低賃金や労働条件を理論的に規定するものだが、現実にはその正確な解釈を巡って論争が闘わされてきた。
Sygmmaは2004年、マダガスカル共和国と欧州経済共同体の間の漁業パートナーシップ協定の改訂内容に、社会条項を含めることを歓迎した。特に評価したのは、漁船員の賃金がILOの国際基準を下回ってはならない、と規定された点についてである。しかし漁船員の賃金が以前と同額に据え置かれたままであることは、やがて明らかになった。
船主はこの最低賃金を漁船員の賃金支払いのためのガイドランとして使ってきた。しかし欧州運輸労連(ETF)は、最低賃金は基準となる労働時間(48時間)のみに適用されるものである、と主張する。
一般に漁業部門の仕事は長時間にわたる時間外労働を伴い、週労働時間は合計約104時間に上る。かかる最低賃金に、時間外労働や割増賃金、有給休暇などの要素は加味されていない。
ILOのデータに基づくETFの計算によると、本来漁船員に支払われるべき月給は931.45ドルという結果が出た。しかし現実に彼らが手にする月給は530ドルにすぎず、400ドル以上も不足しており、実質賃金は時間給ベースでわずか5ドルである。
海洋漁業労組の労使交渉委員会の副委員長であるフレミング・スミットは、EUに宛てた書簡で、「欧州の漁船員に対して普通に支給されている時間外手当が、マダガスカルの漁船員には支給されていないという事実は、差別と均等待遇の原則に対する侵害につながる」と指摘した。
その結果、低賃金で過酷な状況下で働かなければならないという漁船員の現状となっている。 |
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変革を求めるキャンペーン
ルシエン・ラザフィンドラブは、Sygmmaの書記長である。2005年以来、組合員のために賃金改善キャンペーンを主導した。欧州の所有船で働くマダカスカル漁船員の80パーセントが、Sygmmaの組合員であるにも関わらず、各社は同労組と交渉することを拒否している。労働協約(CBNA)がないまま、同労組は紛争を欧州の場に持ち込むことを余儀なくされた。
ETF(欧州運輸労連)は、賃金改善を2004年(この年に新協約が締結された)に遡及して発効させるため、Sygmmaと協力して、欧州レベルのキャンペーンを実施した。
ETFのフィリップ・アルフォンソ港湾政治部長は、問題がマダガスカルだけに留まらないとして、「他のACP(アフリカ・カリブ・太平洋地域)諸国ではどのような状況なのか、判断が難しい。労組が強く、他の組織との連携も良ければ、これほどひどい状況にはならなかっただろう。労組が存在せず、漁船員も自らの権利について認識していなければ、搾取される可能性は高まる」と語った。ITFおよびETFにとって、欧州の漁船は、操業する各国の地域社会を尊重しなければならないものである。
漁業協定に社会条項が盛り込まれたことは、各国の漁船員の権利とその仕事の真価を認知させるという点で大きなステップとなったが、十分効果があるとは言えないことがわかった。
だからこそETFとITFは、労働者の権利の尊重を第三国で漁業権取得する際の必須条件とすべく、社会条項の法的価値の定義の明確化と強化を望んでいる。
賃金改善のための闘いは依然として継続している。Sygmmaは、地域の全ての漁船員のために、労働条件改善に向け、熱心に取り組んでいる。
ラザフィンドラブ書記長は、「船主にお金をもたらす『資源』としてしか労働者を扱わない状況に対抗するため、アフリカ地域レベルでの力の結集に取り組んでいる」と語った。 |
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要約
欧州の所有船で働くマダカスカルの漁船員の賃金は低い。船主はILOの国際基準に見合った賃金を支払っていると主張しているが、時間外手当などが加味されていないので、月額400ドルの不足額が発生している。現地労働者に恩恵をもたらすはずの「社会条項」にもかかわらず、欧州所有の漁船で働く漁船員は依然として低賃金で働いている。また事故やけがにあったときに受ける補償も低い。そこで、ETFの支援を受け、マダカスカルの労組が決起した。 |
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漁船員一人の命の値段は?
船員のマーク・ヒューズ(36歳)は、2006年に漁船「プラヤデバキオ」号でけがをしたとき、どの程度のけがなのかわからなかった。「プラヤデバキオ」号がセイシェル海域にいたとき、右大腿骨を骨折したのだ。
事故から2週間後、ヒューズは本国に送還されて入院し、一週間後に帰宅した。事故から5ヶ月後の2006年11月、再検査を受けると右足が壊疽状態で、手遅れになったヒューズは、1ヶ月後に亡くなった。
ヒューズの家族は、補償金としてわずか400ユーロを受け取った。漁船員の労働環境はしばしば困難かつ危険である。船主が保険に未加入か、加入をしていても少額しか保証されない場合は、さらに状況は悪化し、補償金も少なくなる。
Sygmmaは、国内レベルで、よりセーフガードを充実させるためのキャンペーンを計画している。船員がけがをしたり死亡した場合、家族は公正な水準の補償を支払われるべきである。 |
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