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2004年7月 第16号 |
■急成長する航空貨物輸送 |
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急成長する航空貨物産業
急速な成長を見せる航空貨物産業が航空産業全体の構造に一石を投じている。同時に航空貨物産業は労働者が最も力を発揮できる新領域になる可能性を秘めているとスチュワート・ハワード書記次長は言う。
民間航空産業の中心はこれまで常に旅客輸送であったし、今後もそれは変わらないだろう。従来、航空貨物は航空機の胴体の遊んでいる空間を利用することで、プラスアルファの収益をもたらすものと考えられてきた。しかし、国際貨物輸送産業とロジスティックス産業で生じている急速な構造変化が、民間航空産業にも既にその影響を与えはじめている。
グローバル展開するメーカーは、世界各地から部品が製造過程で必要な時に必要な
場所に届くように輸送するジャストインタイムシステムへの依存度を益々高めている。ロジスティックス企業は、高価値で輸送のタイミングが難しい製品の輸送に航空便を必要とすることが多くなってきた。
航空輸送される製品は、金額、量の両面で増加している。米国では、1995年から1999年の間に航空貨物輸送量が年率平均12パーセント増加した。景気の低迷により、国際貿易は大きな打撃を受け、同時多発テロはさらにそれを深刻化させたが、それにもかかわらず、ボーイング社は向こう20年間に年平均6.4パーセントの成長を予測している。世界の交通運輸産業の中でも航空貨物産業が最も成長著しい産業となっている所以である。
航空貨物の価値が全貨物に占める割合は、1993年には12パーセントだったが、1997年には15.6パーセントに上昇した1999年には、米国で出荷された貨物の総重量に航空貨物が占める割合は0.5パーセントに過ぎなかったが、金額で見るとその割合は31.3パーセントであった。2001年、金額で見た貨物の取扱量が最も多かったマルチモーダル拠点は、もはや港湾ではなくなった。JFK空港がロサンジェルス港を初めて追い抜いた。
大手旅客航空会社が依然として航空貨物産業を支配しているが、以前よりもずっと貨物輸送業務を重要視してきている。航空貨物業務を担当する子会社を設立したり、巨大なグローバル旅客ネットワークをより有効に利用しようと努力し、スカイチームやスターアライアンスの貨物版WOWなどのグローバル・アライアンスを通してさらなる拡大を図っている。
いわゆる「インテグレーター(UPS、DHL、TNT、Fedexなど、複数の交通モードを統合(インテグレート)してドア・ツー・ドアの配送サービスを提供する配送専門会社のこと)」ですら、航空会社のこうしたネットワークに対抗することはできない。実際、一部の大手航空会社はインテグレーターと協力関係を結んでいる。ルフトハンザ貨物とDHLは、2004年2月に合弁の航空貨物業務を立ち上げた。DHLもキャセイパシフィック航空と同様の契約を結んでいる。シンガポール航空もTNT航空と協力している。これら合弁事業では、宅配便インテグレーターが航空会社のネットワークを利用し、逆に航空便はより多くの貨物を積めるようになる。
航空貨物輸送の中心は、依然として旅客便に積まれる貨物であるが、一方で、緩やかにではあるが着実に貨物専用機が伸びてきている。一部の大手航空会社も貨物専用輸送を行い始めている。一方、Fedex、UPS、DHLなどのインテグレーターは比較的短期間に貨物専用大手航空会社へと急成長していった。Fedexは640機、UPSは622機、DHLとエアボーンは452機の貨物機をそれぞれ所有している。1997年には、貨物機による輸送は、航空貨物輸送全体の36パーセントを占めるまでなった。この割合は2019年までに44パーセントに高まると予測されている。エアバス社は、こうした動きに乗じ、新しいスーパー貨物機A380Fを2008年に稼動させる計画を立てている。 |
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空港貨物拠点
空港は地域のハブ空港になろうとしのぎを削っている。そのためには、倉庫やロジスティックス施設を拡張し、他の貨物輸送モードとの接続を準備しなくてはならない。アムステルダムのスキポール空港はヨーロッパの空、道路、鉄道の主な接続拠点になることを、モントリオール空港は「海運および航空貨物ロジスティックスのロジスティックス・センター」になることをそれぞれ目指している。
香港国際空港局は、最近DHLインターナショナルとフランチャイズ契約を締結し、1億米ドルの投資を行い、急送便専用ターミナルの発展と建設に乗り出した。韓国のインチョン空港は、「多国籍企業の配送ロジスティックスおよび貨物輸送の拠点」となるための開発を続けている。世界中のあらゆる空港で貨物やロジスティックス施設への大規模投資が行われている。
近年見られる航空貨物輸送量の増加と、強力なグローバル製造業者による貨物輸送の利用拡大の結果、ロジスティックスに特化したロジスティックス専門空港が出現している。ベルギーのリエージュ空港、オステンド空港、フランスのリヨン空港、シャトルー空港、米国カリフォルニア州のオンタリオ空港、テネシー州のナシュヴィル空港などがその代表例だ。これまで大手航空会社から殆ど無視されてきた空港だが、それゆえに、混雑知らずという魅力を持っている。
以前の軍事基地をロジスティックス専門空港に改造するという動きも見られる。軍事基地の多くが、夜間の発着に関する規制が少なく、混雑の問題とも無縁な地域に位置している。空港は今、貨物輸送オペレーターに対し、ロジスティックス拠点を建設してくれるよう積極的に働きかけている。TNTエクスプレス・ワールドワイドが1998年にリュージュに欧州の拠点を設けると、1997年に3万5千トンだった貨物輸送量が、2000年には28万トンに激増した。
ロジスティックス会社は、空港に空港貨物の取扱量を増やすだけでなく、倉庫業務、加工・組み立て施設、他の貨物輸送モードへ接続を提供することを要求している。
合衆国の南カリフォルニア・ロジスティックス航空は、ロジスティックスを専門に扱う新世代の空港の一例だ。同空港には、5,000エーカーの面積を持つマルチモーダルのビジネス・コンプレックスがあり、製造および事務部門と国際貨物専用空港、鉄道サービス、トラックハブが統合されている。
同空港は、コンテナ船会社のパナルピナとセイア・グループの貨物専門子会社セイア・ロジスティックス社の合弁会社として設立されたスイス・グローバル貨物社の主要ハブ空港になっている。スイス・グローバル貨物は、中国から運んできた大量の電気製品や衣類を、北米や欧州のグローバル・メーカーへ向けて再発送している。他の企業もこのビジネスモデルに従っている。例えば、6月には北京航空ロジスティックスゾーンが設置されている。 |
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ロビー活動の圧力
航空貨物の重要性が増すにつれ、航空機全体に占める貨物便の割合が変化しただけでなく、空港の新開発にも変化が生じてきており、国際規制にも新たな圧力がかかるようになった。
航空貨物の中でも成長が最も著しいのが急送サービスだ。現在、国際急送貨物は航空貨物全体の6パーセントを占めるに過ぎないが、2017年にはこの割合が40パーセントまで上昇すると予測されている。インテグレーターはマルチ・モーダル急送便ネットワークを運営し、世界のあらゆる地域において同時進行で国際貨物輸送の自由化を促進しようと奮闘している。しかも、この動きを顧客企業であるグローバル製造業者が後押ししている。非常に洗練され、資金力もあるロビイストを集めることにも成功した。ポラリス・インスティテュートによると、FedexやUPSは、米国の政治献金企業リストのトップに位置する。急送サービス会社やロジスティックス会社は、欧州の港湾自由化や鉄道自由化の中心的存在でもあった。
急送航空貨物便の中でも特にインテグレーターは、旅客輸送のニーズによって作られている航空規制制度を足かせと感じ、不満を募らせている。インテグレーターは、大多数の政府の主張とは裏腹に、航空局や老舗の航空会社に対し、航空貨物業務は戦略上の特別な役割を担っているわけでも、公益サービスとしての役割を果たしているわけでもなく、他の商業サービスと同様に扱われるべきだと主張している。
インテグレーターは、OECDを通じて一致団結してキャンペーンを展開し、ICAOに圧力をかけ、旅客輸送とは別個の貨物輸送のための規制基準を設けようと奔走している。特に焦点となっているのが、所有に関する規則で、この規則こそが、航空貨物会社が航空版便宜置籍(FOC)を導入する道を阻んでいる。2003年3月のICAO総会では、挫折を味わっただが、その野望をあきらめることはなさそうだ。
同様に、これらのインテグレーターは、各国政府が航空輸送の自由化実現にWTOを有効に使えていないとの不満をつのらせている。現在のところ、あらゆる航空輸送サービスに特別例外措置が適用されている。これは、GATSが航空協定の問題は、ICAOが監督している二国間協定システムに委ねるべきだとの認識を持っているからだ。欧州急送便協会は、「これは本来のGATSの目的に反しており、急送サービス企業が提供するグローバル・ロジスティックス・サービスに大きく依存している欧州企業に資するものでもない」と述べている。
昨年、カンクンで行われたWTO閣僚理事会の準備期間に、Fedexの首席弁護士が、航空急送便企業を率いてロビー活動を行い、急送サービス独自のGATS交渉グループを認めるよう要求した。そうすれば、各国政府がGATSの適用範囲から苛立たしくも除外してしまった航空サービス交渉に代わる選択肢が生まれ、航空サービスの除外措置を廃止できよう。2003年3月に米国政府が提出したGATS交渉に関する提案には、増える一方の要求を反映し、航空急送サービスのための交渉グループ設立案も含まれていた。しかし、カンクン会議が決裂したため、全てのWTO活動が実質的に妨げられ、いかなる新たな取り組みであれ、実質的な議論が遅れることになってしまった。 |
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組合の可能性
民間航空分野の組合組織は、これまで旅客航空を中心に行ってきた。航空貨物関係のITF加盟組合が存在しても、旅客機による貨物輸送サービスが活動の中心であった。
しかし、今後は組合も航空貨物産業の構成、グローバル・ロジスティックスとの連携に急速な変化が生じていることを認識する必要がある。急送便会社間の緊密な協力関係により、航空経済の国際的枠組みを作り変えようとしており、これは、航空産業のより広い分野での国際規制に強いマイナスの影響を与えよう。新たに空港に建設された巨大倉庫施設やロジスティックス施設は、空港でロジスティックス業務に携わる新しいタイプの労働者をもたらした。大部分が従来の航空労組によって組織されてこなかった労働者グループだ。
それにも関わらず、航空貨物ロジスティックス・センターは、労組の戦略的な強みとなる可能性を提示している。グローバル・サプライチェーンの脆弱性、特に高価値で計画どおりの配送を必要とする貨物を航空機で輸送する場合は、チェーンが少しでも妨げられることによって、甚大な経済被害が生じる。
これは、2002年に発生した米国西海岸の港湾争議で労働者達が示してくれた教訓でもあった。この争議では、米国と中国の両国で何百という組み立てラインが休止せざるを得ない状況に追い込まれた。もっと最近の例では、フォードの生産ラインを事実上の休止に追い込んだカナダ国営鉄道のカナダ自動車労組(CAW)の争議がある。これまで航空労組の活動の中心は旅客輸送だったが、今後は、成長著しく、戦略的にも重要な航空貨物分野へも活動を広げていく必要がある。 |
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スチュワート・ハワードはITFの書記次長。 |
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