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グローバルユニオン

2004年7月 第16号
■期待される公正な処遇
 
期待される公正な処遇

各国政府が遂にITFのロビー活動を受け入れ、いわゆる「入国を拒否された人物」の権利および、彼らを輸送せざるを得ない立場にある航空労働者の権利を保護するため、新規則を作ることに合意した。シェーン・エンライト民間航空部長が報告する。

セミーラ・アダム(20歳)は、亡命先のベルギーからトーゴへ強制送還される航空機の中で、警官から、枕を口に押し付けられたことが原因で死亡した。アダムは、既に4人も妻のいる65歳の凶暴な夫との強制的な結婚から逃れようとしていた。
同じサベナ航空便に搭乗していた乗客の話では、アダムは最初もがき苦しんでいたが、そのうちに昏睡状態に陥り、すぐに病院に運ばれたが、脳出血のため、数時間後に死亡したという。
アダムの苦悶の全容は、警察のカメラに捉えられていた。ビデオカメラに映ったアダムの顔には、ぴったりと枕が押し付けられ、肘は背中で縛られ、足首には足かせがはめられていた。5人の警官のうち、3人が彼女が筋肉一つ動かせないように絶えずアダムを監視していた。7〜8分後にアダムの呼吸は停止したが、警官らはジョークを言い合っていた。なぜこのような力ずくの拘束をしたのかと尋ねられ、警官は「他の乗客の迷惑にならないよう、やむを得なかった」と答えている。
実際、他の乗客はショックを受けている。1998年に発生したアダムの悲劇は一般市民の大抗議運動を生み、その結果、関係した警官数名が有罪判決を受けた。しかし、これは決して珍しい事件ではない。空港や航空機は、入国管理法実施の最前線に立たされつつある。毎年何千人もの人間が旅客便やチャーター便を利用して強制送還されている。時には、亡命を拒絶された者が目隠しされていることもある。身体を縛られ、手錠をはめられているのはよくあることだ。ITFが入手した信頼のおける報告によると、亡命者が搭乗しているチャーター便で、乗務員が警官から薬物を混ぜた飲み物を乗客に配るよう指示されたことが何度かあったという。
こうした事例は人権侵害ではないのかという懸念と同時に、強制送還に民間の航空機を使うのが果たして適切なのかという重要な問題を提起している。送還される本人はもちろん辛いだろうが、他の乗客や、そのような状況下の対応について通常訓練を受けていない客室乗務員にとっても不愉快なものである。時には、航空機の安全や保安が脅かされるケースもある。また、強制送還される人間の処遇や尊厳が重要視されることは滅多にないように思われる。
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不公平な処遇

航空会社の経営陣は、強制送還に自社の航空機を使用することについて意見を求められても口を固く閉ざしているが、選択の余地があるなら、強制送還を断りたいという企業は多い。残念ながら、現在の国内法の規定により、多くの航空会社がこうした場合の協力を強制されている。航空輸送責任法と呼ばれるこの法律があるため、きちんとした書類や適切な入国ビザを持たない人物、あるいは現地到着時に入国を拒否された人物を搭乗させた場合、航空会社は人物1人につき、非常に重い罰金を支払わされる。さらに、追加の罰金を徴収すると脅され、航空会社は已むなくその人物を出国元に連れ戻さなくてはならない。
公用航空機、民生用航空機、入国管理法が最初に相互に作用する地点は乗客が出国する空港である。チェックイン・カウンターのスタッフは、航空輸送責任法の規定に従い、全乗客の身分証明書を入国管理の観点から精査するよう求められている。搭乗させる前に何度も同じ乗客の身元を確認しなければならないこともある。こうした対策は、身分証明書を偽造し、断固とした決意で搭乗してくる犯罪者やテロリストを阻止する上ではさして効果はないが、航空輸送責任法の存在は、亡命権の行使を明らかに困難にしている。
純粋に迫害や人権侵害を逃れてきた人々は出国に必要な書類を用意できない場合が多い。抑圧的な政府から身を隠しているため、こっそりと出国しなくてはならないこともある。事態があまりにも緊急すぎるため、正式な出国手続きを踏んでいる時間がない場合もあるだろう。時には、武装紛争のために国の機能自体が崩壊し、正式な出国書類を入手することが不可能な場合もある。そのような場合、亡命者は、亡命する権利を有してはいるものの、航空機を利用して亡命できる可能性は極めて限られていると感じるだろう。
航空会社も同様の懸念を抱えている。毎年、航空輸送責任法の名のもとに、何百万ドルもの罰金を支払わされているからだ。ブリティッシュ・エアウェイズの政府・産業担当部長のジェームズ・フォスターは、2000年に次のようなコメントを残している。「航空輸送責任法は個人の亡命する権利を侵害しかねない。ある国へ個人が飛行することを阻止するということは、航空機が個人の亡命する機会を奪っていることに他ならない。」
問題の深刻さを認識するため、フォスターは、これまでにあまり行われてこなかったある洞察を行った。「1987年以来、出国時に一見適切と思われる書類を所持して、ブリティッシュ・エアウェイズに搭乗したが、英国入国時に書類が適切でないと判断されたため、英国で難民申請を行った乗客の数は400人を下らない。彼らには、英国以外の国で難民申請するという選択肢もあっただろうが、一方で、仮に、この同じ乗客の書類の不備が出国時に判明したなら、航空会社は航空輸送責任法に従い、彼らの搭乗を拒否せざるを得なかっただろう。つまり、これは亡命申請権の侵害にあたる。」
一方、出入国管理システムを監視することを求められている空港の地上スタッフや乗務員も同じような懸念を抱えている。地上スタッフも乗務員も、迫害を逃れ、亡命を希望する乗客にどう対応すべきかといった訓練は殆ど全く受けていない。そのため、しばしば航空産業は、進退窮まる状況にある人々の前にさらに大きな障壁として立ちはだかることになる。
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倫理的姿勢

ITFは、亡命者が送還先で拷問や死刑など、深刻な人権侵害に直面する危険がある場合、強制送還に断固反対する。1997年、ITFはアムネスティー・インターナショナルとともに、航空輸送責任法に反対するキャンペーンを開始した。各国の航空労組は、国内レベルおよび国際レベルでも、亡命者や国外追放者の処遇の改善に懸命に努力し、できるかぎり民間航空を政府の入国管理機能から切り離すことを目指して活動してきた。
しかし、ICAOのグローバル規則は、このような取り組みを支持していない。ICAO規約の付録9には、各国政府が航空輸送をどのように合理化するべきなのか(円滑化という言葉がよく使われる)が明記されており、これには、入国を拒否された人物や国外追放者などについての規定も含まれているが、残念ながら、難民法やILO基準など、各国政府が調印しているその他の国際法や国際条約に十分に配慮したものになっていない。例えば、国外追放者の最低待遇基準や空港のチェックインカウンターのスタッフに対する訓練の必要性などには何の言及もされていない。
2004年、ICAOが10年ぶりに大会を開催すると発表した際、ITFは積極的にこれに反応した。ITFは、難民保護団体と協議の上、画期的な報告書を作成し、ICAO総会に提出した。総会ではこの報告書に基づき活発な議論が行われた。ITFは、カイロで行われたICAO総会の他の参加団体とともに、率先して政府側の代表者から上質の議論を引き出す努力をした。その結果、いかなる手続き・規則も従業者を含む利害関係者全ての協議のもとに定められなくてはならないという史上初の原則が設立された。(上段枠内の記事を参照)
やっと訪れた常識的な動きは、セミーラ・アダムを含む一部の人にとっては手遅れだったが、他団体と協力して活動を進める加盟組合の努力により、亡命者や国外追放者にやさしい民間航空に転身できる希望がもてる状況になった。そうなれば、不合理な入国管理業務を押し付けられてきた航空労働者の不満も解消され、より良い環境づくりにつながるだろう。
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シェーン・エンライトはITF民間航空部会の部長を務める。
2004年4月に開催されたICAOの円滑化部門会議で87カ国の政府が採択した勧告:

ICAO(国際民間航空機関)とその全加盟国は、円滑化のための手段と、難民、亡命者、国外追放者が生命や自由の危険がある地域に送還されることがないように、各国が有している彼らを保護する義務のさらなる統合化を進めるよう勧告された。また、各国は、国家レベルおよび国際レベルで、事業者や従業員、UNHCR(国連難民高等弁務官)、ILOなどの全利害関係者と協力し、拘留や待遇の基準および取り押さえや管理の適用に関する規則・手続きを作成するよう勧告された。
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INDEX
最低労働基準の設定
欧州鉄道ネットワーク全域をカバーする労働協約の誕生
急成長する航空貨物輸送
急成長する産業分野で労組が直面する課題
期待される公正な処遇
航空労働者にも歓迎される「入国を許可された人々」の新たな保護法とは?
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