2004年7月 第16号 |
■暗い展望 |
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暗い展望
今日、フランスのトラック運転手はガレー船の奴隷さながらに働く自らの姿に気づいているとクリストフ・シクレは言う。
おきまりのメッシュのチョッキに身を包み、トラックを運転する陽気なドライバーのイメージは、今日のフランスでは変わりつつある。熾烈な競争、「ジャストインタイム配送」需要の高まり、厳しいスケジュール管理、悪辣な下請け業者など、あらゆる要因からドライバーも陽気にばかりはしていられなくなった。
パリ郊外の工業地帯の中心部にある、ある巨大な貨物集積センターでは、大中小のあらゆるサイズのトラックの積み付けや積み下ろしを行っている。場内はあわただしい。荒廃した住宅地と空港の滑走路の間に位置しているため、同時にトラック60台の処理を行うことができる。ここでドライバーは常に時計の針にしか関心を示さない経営者の厳しい監視のもとに作業を進める。
無駄にできる時間など1秒たりともない。お客様は神様であり、トラックドライバーは指定された時間を何が何でも厳守しなくてはならない。さもなければ後で高いツケを払わされることになる。5トンから40トンまであらゆる積載量のトラックがあり、殆どが冷凍品やチルド製品を輸送している。
この工業地帯の右手には、貨物集積センターのゲートのところまでびっしりと予備のトラックが並んでいる。プラスチック板の後ろには、いわゆる「積み付け係」がいて、できるだけ素早く貨物の積み付け・積み下ろしを行おうとしている。食品がぎっしり詰まったパレットやら巻物(台車の上のワイヤで網をはった巨大なバスケットのこと)など、ここで飛び交う会話は、きれいごとではない。半数以上が約摂氏3度で梱包されているため、夏でも手袋を通して寒さが肌を突いてくる。しかし、何よりもスピード重視なので、手袋をはめずに作業しなければならないことも多い。
プラットフォームの左手には、休憩中のトラックが待機しており、フロントガラスにカーテンが下ろされている。運転手が寝台で仮眠を取っているのだ。一晩中走り続け、いちご20トンを輸送して戻ってきた運転手が次の仕事を待つ合間に少しでも休もうと努めている。しかし、これは言葉でいうほど簡単なことではない。積み付けの際の音、発着するトラックの音、目と鼻の先にある空港で航空機が離陸する音など、あらゆる騒音があるため、運転手はほぼ全員、耳栓を付けて仮眠している。
このような状況でなぜ眠るのだろうか?フォース・ウブリエール(FO:労働者の力)の職場代表、ジョエル・メテローは、こう説明する。「ドライバーたちは安全地帯にいると感じている。確かに騒がしいが、強盗やトレーラーに潜り込んだりアクセルの下に隠れたりする無賃乗車、タンクの中味を吸い取ったり、スペア・タイヤを盗もうとする泥棒を気にしなくていい。」
絶えず騒々しいが、安全であることに加えて、ドライバーはいつでも食堂や4台ある清潔なシャワーを利用することができる。必要最小限のものしかないが、ドライバーにはこれだけあれば十分だ。 |
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厳しい現実
貨物集積センター内の休憩所のすぐ裏手に組合の事務所がある。この事務所は3つの組合が共同利用しており、窮屈だが、組合員が必要な時に出入りするには十分なスペースだ。ここは、組合員にとって思ったことを口にできる唯一の場所だが、同時に現実を目の前にして「陽気なドライバー」という伝統的イメージが崩れ去る場所でもある。
トラックドライバーの年齢層が高くなってきていることには、誰もが同意するだろう。例えばこの集積センターのドライバーの平均年齢は40歳から45歳だ。若者が入ってきても長続きしない。長時間労働や、ジャストインタイム・システムから来るストレス、厳しい監視の目、過密スケジュールに耐えきれなくなって2、3年のうちに辞めてしまう。また、初期の段階では、研修が常に大きな問題の種となる。
以前は、トラックドライバーになる前の兵役期間に多くの若者が大型輸送車(HGV)免許を取得していた。しかし、今日ではこうした慣行がなくなり、若者の大部分が資格取得のための資金を自分で準備しなくてはならない。大型輸送車免許取得には少なくとも3,500ユーロかかるが、その資金すら持たない若者も多い。社内研修制度もなく、従業員130人、トラック150台を所有するこの企業ですら、過去6年間で社内研修を受けられたのは僅か2人だけだった。
道路輸送会社の経営者らは、より柔軟に対応でき、既にしっかりと訓練を受けた若者を好む。しかし、そんなことを望むのはもはや現実離れしているため、雇用法になど目もくれない悪辣な下請け業者への業務委託が増えていく。この企業では、以前は繁忙期にのみ行っていた下請け業者への業務委託が、現在では事業の半分を占めている。
ジョエルは言う。「事業者らは、欧州連合(EU)が拡大し、ポーランド、ハンガリー、チェコ出身の若いドライバーがやって来るのを心待ちにしている。これらの国では、輸送業者がスロヴァキア、セルビア、アルバニア、ルーマニア、ブルガリア、ウクライナなど、東欧の中でもより貧しい国から従順なドライバーを雇い入れている。これらの国籍のトラックドライバーは、世界中の港で船主から放り出されてきたフィリピン人船員やパキスタン人船員のような扱いを受ける可能性がある。
組合事務所で話しているうちに、以前ローヌ川下流の渓谷の退避場で、ルクセンブルクの輸送会社に放り出されたルーマニア人運転手数名の話になった。彼らは、燃料や通行料金を支払えないどころか、食糧を買う金も底をついてしまっていた。
使用者による搾取に直面し、フランスのトラックドラーバーは欧州全域をカバーする法律の実施を求めて立ち上がっている。ジョエル・メテローはこの点では歯切れが悪かった。「EUに文句があるわけじゃない。ただ欧州のドライバーに適用される雇用法をできるだけ早急に東欧諸国の言語に翻訳して欲しいだけだ。そうすれば、東欧諸国のドライバーも、最低限の労働規則を認識するようになるだろう。国内であれ、海外であれ、奴隷の監督者さながらの現場監督と対決する際に、より有利な位置に立つことができる。」
端的にいって、若いトラックドライバーの将来はバラ色ではない。しかし、年配のドライバーにとっても状況は変わらない。別のドライバーのウィリアムはこう断言する。「ジャストインタイム・システムは命取りになる。仲間の一人のことが常に頭から離れない。彼は、夏でも冬でもワイシャツ姿で貨物の積み付けを行い、紐を使って貨物を固定していた。元気で疲れを知らない男だったが、退職から僅か半年後に急死した。」
冷凍品輸送に従事する労働者についてのある統計を見て、背筋が冷たくなった。冷凍輸送品を取り扱う労働者は、大抵が疲労困憊してしまい、55歳から57歳で早期退職をするケースが多いが、大部分の元ドライバーが老後を楽しむ間もなく死んでいくという。ドライバー用に業務関連で支給される薬があるわけでもない。薬をもらう権利があるのは、摂氏零度以下の冷凍品を取り扱う労働者だけで、摂氏3度では対象にならない。ジャストインタイム・システムもそうだが、寒さも命取りになる。」
組合の事務所で「ドライバーは積み付け作業員とは違うじゃないか」などと言おうものなら、全員に笑われるだろう。背が低く痩せた経験豊富なあるドライバーが言った。「簡単なことさ。スーパーマーケットに貨物を届けに行く。すると、荷主から貨物をトラックから下ろすように言われる。断れば、ブラックリストに載せられ、すぐに使用者に報告されるだろう。そうなると、最悪のトラックをあてがわれ、最悪のルートに追いやられることになる。最も即辞めさせられなければの話だがね。」
ドライバーたちは抵抗すること自体に疲れてしまい、貨物の積み下ろしを引き受けるようになっていった。嫌だという素振りをちょっとでも見せようものなら大変なことになる。ドライバーは運んできた生鮮食品もろとも集積センターに送り返されることになるだろう。 |
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システムの抜け道をくぐって
家庭の食卓に並んだ羊のもも肉や鶏肉、ヨーグルトを見て、それらの食品がどうやって食卓まで届いたのか考える人はいないだろう。最近のビジネス界の流行語、「コンソリデーション」と「デイコンソリデーション」が全てを語っている。
第一に、グループに属する一人のドライバーが地元の生産者へ商品を取りに行き、積み付けを行うと、地元の小さなトラック集積所へ向かう。集積所で積み付けを終了すると、トラック一杯に積まれた貨物とともに、今度はパリ郊外の南北にある巨大な集積所の一つに向かう。このドライバーの仕事はここまでだ。そうしたトラックは午後9時ごろから集積所に到着し始め、真夜中まで相次ぐ。ドライバーはトラックを止め、積み下ろしを監督し、空になったパレットを自分でトラックに積み直す。
理論的に言えば、こうした作業にかかる時間は30分ほどだが、集積所には大抵は渋滞する車の列がある。だから手持ち無沙汰のまま自分の番を待っていなくてはならない。このような待ち時間は有給の労働時間と見なされる。しかし、下請け業者のもとで働くドライバーは、待ち時間を無給の休憩時間と見なすように使用者から強制されている。そのため、運転時間が細切れに計算されることになり、結果として一日ごとあるいは一週間ごとの運転時間が以前より長くなる。輸送業者はこのような違法労働慣行を奨励しており、このような慣行に従った運転手には現物支給のボーナスを与え、性能の良いトラックを割り当てる。
仕事が終わると、ドライバーはシャワーを浴びて、車の中で仮眠を取る。昼下がりの午後、ちょっとしたものを食べてまた仕事を開始する。空のままで各地方へ向かうか、あるいは貨物を再度積載して顧客のもとへ向かう。いずれにしても、集積場を午後4時までには出なければならない。
パリやパリ郊外を通ってスーパーや肉屋、惣菜屋、卸売業者、パン屋などに商品を届けるためには、早朝に出発しなくてはならない。 |
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自分のことで精一杯
遅れを取りたくないのなら、いつもの通勤渋滞が始まる前に出発しなくてはならない。つまり、顧客のもとに午前5時から6時に着くためには、集積場を午前4時には出発しなくてはならないのだ。そんな時間には、パーキングメーターもまだ目を覚ましていない。
連続の運転時間に加え、労働条件も悪化の一途を辿っている。事業者は統計屋を雇い入れて、トラックの流れを逐一監視している。道端のカフェで同僚とコーヒーを飲んでいる時間はもはや許されない。特に、運送業者の経営陣は、寸分たがわず時間に正確な配送をしたかを考慮に入れて請求書を作成しているからだ。運転手が時間に遅れたら、懲戒処分を受け、最終的に自主退社するまで最も見返りの少ない仕事をあてがわれることになる。
運送会社は、生産性追求レースの言い訳として熾烈な競争の議論を持ち出すが、ウィリアムが指摘する通り、「2002年から2003年にかけて道路輸送は15パーセントも成長した。そう考えれば労働者を搾取したいというのでなければ、事業主は文句を言う理由は無いはずだ。」
しかし、最も悲しむべきことは、路上の船員とも言えるトラックドライバーの間の連帯意識が破壊されてしまったことだろう。
「以前は、国際路面輸送部門の仲間は助け合っていた。真の意味での連帯がそこには存在していた。今日ではみんな自分のことしか考えていない。仲間のトラックが故障しても、同じ会社のドライバーでない限り、止まって一緒に修理をしている余裕もない」とジョエルは言う。また別の同僚が「連帯行動を取る余裕はもうない。いつも監視されているから」と付け加えた。 |
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クリストフ・シクレはフランスで活躍するフリーランスのジャーナリスト。本記事は、フォース・ウブリエールの機関紙「FO」に掲載されたもの。 |
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労働時間に関する不当判決に労組が抗議
フランスでは、2002年初めに施行された法律により、トラックドライバーの労働時間が短距離の場合は週39時間、長距離の場合は週43時間にそれぞれ固定された。労働時間は、日や週を跨いで分割することも可能で、運転、貨物の積み下ろし、休憩、待機状態など、異なる種類の作業を組み合わせても構わない。
連続で運転を許されるのは最長4.5時間までで、その後は45分間の休憩を取る。あるいは、15分ごとの休憩を3回に分けて取ることもできる。同法律に従うと、一週間の1日目、3日目、4日目、6日目には一日9時間働き、2日目と5日目には10時間労働、7日目はまる一日休暇を取れる計算になる。
2002年4月、職場に出てきた時間のうち、週8時間までは残業時間と有給休憩の時間から差っ引かれるという「時間等価」の概念を導入するために、新たな条項が付け加えられた。つまり、これが意味するところは、使用者は、時間制限規制に縛られないということだ。
極めて複雑なシステムだが、運転手の説明を聞くと分かりやすい。「39時間にしろ、43時間にしろ、給料は変わらないってことさ。44時間以上働かなけりゃ残業代は出ない。」つまり、「時間等価」により、有給の休憩時間、すなわち給料を受けながら自宅で過ごせる時間が削減されたということだ。
前運輸大臣は、規則命令を発し、労働者の就労時間を1〜8時間の中
で、自由に設定することを使用者に許可した。つまり、交運労働者は週の労働時間制限を最長35時間にすると定めた新しいフランスの法律の粋外に置かれてしまったのだ。これに対し、2002年4月に3つのナショナルセンターが合同でストライキを行い、2003年末にはCGT-FO(フランス労働総同盟「労働者の力」)がフランス最高行政裁判所でこの問題を闘ったが、申し立ては却下された。
この問題に関しては、今度は、フォース・ウブリエール(労働者の力)が最高行政裁判所で闘いを挑んでいる。 |
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