2004年7月 第16号 |
■便宜港湾(POC) |
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隠れる場所などどこにもない
港湾産業の質の低下を阻止する唯一の方法は長期的かつグローバルなキャンペーンの展開だ
ケース・マーギス
多くの港湾で、ターミナル・オペレーターが船主、荷主、政治家から市場原理主義的イデオロギーの圧力を受ける中で、技術力のある組織労働者が経験不足で訓練を受けていない日雇いの未組織労働者に取って代わられている。
労働条件の改悪、労働時間や作業内容の完全柔軟化、未組織労働者の使用、労働組合が禁止あるいは大幅に規制されている国からの安価な労働者の導入など、多くの労働コスト削減策がとられている。
欧州では、労働組合が港湾自由化反対闘争を3年にわたって、繰り広げた結果、EU港湾市場自由化指令は欧州議会で否決された。しかし、今度は、欧州委員会(EC)が加盟国に直接、自由化政策を実施するよう圧力をかけてくることが予想される。世界貿易機関(WHO)の政策・構造を利用して港湾自由化を進めることも選択肢として残されている。
海運・港湾の自由化・規制緩和政策は、欧州だけでなく世界各地の業界の勢力関係を変えた。荷主、船社がどんどん強くなる一方、港湾当局、ターミナル・オペレーター、労働者は弱い立場に追い込まれている。 |
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新たな勢力基盤
コンテナ港のターミナル・オペレーターたちは、自分たちに突きつけられた挑戦を理解し、グローバル・ネットワーク・ターミナルを形成、ターミナル・オペレーターの側に勢力を集中させることで、この挑戦に対抗している。港湾当局も同様の方向性を追求し始めている。既に、港湾同士の合併が実際に行われている。スウェーデンのイェーテボリ港とマルメー港がそのよい例だ。両港は合併により単独の法人組織となった。むろん港湾当局も1つだ。地中海地域の港湾も協力強化の必要性を示唆している。
このように業界内で勢力集中が進む中で、労働者や労働組合も自らの勢力を拡大できなければ敗退してしまうだろう。労働コスト削減の圧力が高まり、労働者の権利や労働条件が悪化していく、そんなプロセスが既に始まっていることを示す例はたくさんある。
例えば、マレーシアのタンジュン・ペラパス港は、労働条件が「高すぎる」現地の労働者を入れ替えるために、インドネシアやフィリピン(もうすぐ中国も加わるだろう)から未組織労働者を雇い、安い料金を提供、シンガポール港と競合している。実際、荷主のマースク・シーランドとエバグリーンは業務の一部をシンガポール港からタンジュン・プリオク港に移した。その結果、PSAターミナル(シンガポール港の二大ターミナル・オペレーターの1つ)は、社員の解雇を含む、労働コストの削減を余儀なくされた。
もう1つの例は、米国東南部やガルフ諸港のターミナルに圧力をかけているノルナダ・シッピング・ラインだ。荷役料金を抑えるため、同社が組織ターミナルから北米東岸港湾労働組合(ILA)の勢力の及ばない未組織ターミナルに業務を移した結果、組織労働者は余剰となり、安価で未組織の労働者が雇われた。 |
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競争が問題を悪化させている
いわゆる「便宜港湾(POC)」では、船社や荷主の要求どおりに貨物の取り扱いが行われている。しかし、船社や荷主が「五ツ星待遇」を受ける一方、労働者は劣悪な労働条件を押し付けられている。
低賃金、24時間体制、長時間労働、安全衛生対策の不備だけではない。船社はいつでも自由に労働者を解雇できる。一方、労働者は会社の命令に従うしかない、会社に対して何らの影響力も行使できず、労働組合権もない。
競争的な環境の中では、ある1つの便宜港湾(POC)の行動が他港の追随を招き、結果的に便宜港湾が増えていくという傾向がある。追随しなければ他港に船社も雇用も奪われてしまうからだ。
労働コスト削減の一つの形態、「船員による荷役」の問題をケースバイケースで解決するのが難しくみえる理由がここにある。船社は通常、ITFや加盟組合に抗議されると、「もう船員に荷役はさせない」と約束するが、実際には船員に荷役を命令し続けるのである。
他社もやっていることを知っているから、自信をもって国際基準違反を繰り返す。近年、直接行動に訴えても船員による荷役を阻止できない港湾やターミナルの数が増えている。 |
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新たな戦略が必要
従来どおりの安全基準、労働条件、伝統的労働力を維持させようとしても、便宜港湾(POC)が近くに競合港として存在する限り、市場の競争原理でくじかれてしまう。近隣の競合港が格安の料金でサービスを提供できれば、高い労働水準を誇る港は市場からの撤退を余儀なくされる。実際、地域レベルでは既にこのような事態が発生している。港湾産業はグローバル産業だ。グローバルなレベルでも同じ原則が当てはまるのは言うまでもない。
何もしないで事態を見守ること、あるいは、組合潰しや船員の荷役にケースバイケースで反対していことは、もはやわれわれの選択肢とはいえない。だからこそ、われわれは昨年、「組合潰し反対キャンペーン」と「船員による荷役反対キャンペーン」を合体させ、1つの強力なキャンペーンを展開することを決定したのだ。
今、自由化の中で発生した全ての問題に戦略的に対応することが求められている。つまり、長期的なキャンペーンを新たに構築し、われわれ独自の最低労働基準を設定し、世界中の全ての港湾に守らせることが必要だ。もし、これに失敗すれば、現在、享受している人間らしい仕事、適正な労働条件、安全で衛生的な職場、強力な労働組合など存在しないサブスタンダード(基準以下)の港湾だけが生き残ることとなる。
この新しいキャンペーンがITF加盟組合に受け入れられれば、われわれの認める社会基準を守らない港湾は「便宜港湾(POC)」のレッテルを貼られることになる。この「便宜港湾(POC)」という言葉はもちろん、50年の歴史を誇るITFの便宜置籍船(FOC)キャンペーンになぞらえたものだ。FOCキャンペーンとは、船主が国内の労働・安全基準を回避するために外国に船籍を登録する便宜置籍制度の廃絶を目指す運動だ。
FOC船に最低基準を受け入れさせ、拒否した場合はブラックリストに掲載したり、港湾で荷役をボイコットしたりするFOCキャンペーンは、これまで大きな成功を収めてきた。ITFの「FOCキャンペーン」の強力なブランドネームは、港湾労働者のみならず、港湾・海運産業にも広く知られているであろうから、われわれのキャンペーンにとってもプラスに働くだろう。
港湾やターミナルに基準受け入れを説得する際には、当該港湾のITF加盟組合に十分、相談、協議する。組合が存在しない、あるいは組合が当局や使用者から認知されていない場合は、便宜港湾(POC)を利用する船舶に対して行動をおこす。
また、便宜港湾(POC)利用船舶に対する行動は、FOCキャンペーンと同様に、行動がとられる国の法律の範囲内で、かつ、行動を起こす組合の判断で実施する。 |
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本誌執筆時点で、ITF書記局はPOCキャンペーンの立ち上げを7月の港湾部会総会(シンガポール)で提案するために準備を進めている。 |
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POCとは?
(今後の運動提案)
ITFのFOCキャンペーンには、船舶と旗国の間に「真正な関係」が存在しないという明確な定義があるが、それに比べてPOCの認定は複雑だ。以下のように、考慮すべき要素がたくさんあるからだ。 |
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ILOの中核的労働基準(結社の自由を含む)や、港湾産業関連の ILO条約(137号や152号)を批准・適用していない。 |
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労働者を代表し、団体交渉を行うための真正な労働組合を認知していない。 |
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当該港で船員や未登録・未組織の日雇い労働者が荷役をしている。 |
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港湾改革案に関して労働組合と十分、協議を行っていない。 |
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この中には、他の要素に比べて重要度が高いものや、港湾全体にではなく、特定のターミナルのみにあてはまるものもある。よって、POCにグレード(等級)を設けたり、「便宜ターミナル」の認定を行ったりする必要があるかもしれない。また、当該港湾の世界的、地域的戦略も考慮する必要があるだろう。 |
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POCに指定されると…
なぜ、港湾会社、政府、船社は「便宜港湾(POC)」に指定されると困るのか?POCに指定されると・・・ |
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その港湾の仕向け・被仕向け貨物の輸送に影響を与える行動を他港の港湾労組がとる。 |
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その港湾を利用しないよう、船員組合が船主に働きかける。 |
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同様の目的を達成するための行動をITF、加盟組合、インスペクターがとる。 |
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