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グローバルユニオン

2004年1月 第14号
■航空経済
 
2004年の航空経済

航空業界の労働者は、2004年が前年よりは良い年になるよう願っている。問題の多い航空産業に再び安定をもたらす上で、労組が直面すると思われる主要な問題をシェーン・エンライト民間航空部長が考察する。

2002年、国際航空会社は、総じて第二次世界大戦以来の大赤字に見舞われた。2003年の状況も決して良くはなかった。多くの航空会社が破綻寸前の状況にあり、一部大手が業界から姿を消した。苦境に喘いでいるのは航空会社ばかりではない。航空管制機関も問題を抱える一方、ケータリングやその他サービス部門も大幅な人員削減と労働条件の改悪を行なっている。
米国で起きた9月11日の同時多発テロ、アジアやカナダで発生した重症呼吸器症候群(SARS)、イラク戦争の全てが航空輸送産業に未曾有の危機的状況をもたらした。こうした外部的な衝撃により、危機に陥っただけでなく、以前から内在していた問題が深刻化することにもなった。つまり、業界の市況産業的な性質ゆえに、変動する航空需要を管理することができずにいるという問題である。
歴史経済学者は、グローバル経済が成長期と低迷期をほぼ10年ごとに繰り返し、本質的に市況的であることを長らく認識してきた。例えば、80年代後半と90年代後半は、グローバル経済の高度成長期であり、それに90年代初頭と今世紀の初めに見られた大低迷期が続いた。航空輸送産業は、こうした景気の浮き沈みに他の産業よりも敏感に反応してきた。低迷期には真っ先に削減される産業の一つであり、経済の先行き不透明感は、直ちに個人旅行や余暇に影響を及ぼす。その結果、国内経済およびグローバル経済の盛衰は、空の旅の需要にいち早くかつ如実に反映されることになる。
航空会社と航空輸送会社にとって問題は、一種、生鮮食品的な航空機の性質である。離陸する時点で空席が出ている場合、空席の販売の可能性は永遠に失われてしまう。自動車や高級品のように後に市場が回復することを見込んで継続的に生産することはできない。将来需要が高まった時のために、航空機のチケットを取っておくことはできないのだ。したがって、景気が低迷すると、航空輸送会社をはじめ、グランドハンドリングやケータリングといった航空サービス会社も、需要の低迷に併せて早急にサービスの供給を削減し、コストを削減しようとする。カーディフ大学のピーター・タンブル教授とその同僚による報告書「危機との対決」(トランスポート・インターナショナル2003年第1号で紹介)によると、航空労働者はこうした景気の循環を乗り切るため、ショックを吸収する第一の緩衝材にされていることが分かる。サービスの供給を減らすとは、つまり便数を減らすということであり、すなわち、雇用の削減を意味する。使用者はコスト面ばかり重視するため、労働条件も犠牲になる。航空労働者は、その分の手当ももらえず、これまでで最大の生産性向上を達成し、賃金や雇用条件面では最大の譲歩を強いられている。
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現実に立ち向かう労働者たち

航空労働者と航空労組は、赤字経営の企業を相手に雇用を守るために必要なことは全て行い、倒産を防ぐために努力してきた。労働者は、総額数十億ドルもの賃金切り下げにも応じてきたし、手当も受けず生産性を向上させ、企業を存続させるために労働条件面でも譲歩してきた。欧州のエアリンガスやSAS(スカンジナビア航空)、南米のヴァリグ航空、アルゼンチン航空、北米のユナイテッド航空、アメリカン航空、エア・カナダ、その他多くのアジアやアフリカの航空会社が今日も運航を続けていられるのは、ひとえに自ら犠牲を払い、企業を当面の危機から救うため、建設的な方法を模索してきた労働者のおかげである。
しかし、一部地域では労働者の必死の努力も空しかった。エアアフリク、サベナ航空、アンセット航空の倒産に見られたように、人員削減に加え、地域社会を結ぶ交通手段が消滅することにより、周辺諸国の基本的な経済インフラが困窮し、運航を続ける競合他社の寡占を許すことになるなど、深刻な問題を招いている。
グランドハンドリング、整備、サービス、航空管制部門の労組も同様の難題に直面している。危機が到来すると、航空会社はまずコスト削減のために機内のケータリングサービスを大幅に削減し始めた。その結果、大手航空ケータリング企業のLSGスカイシェフとゲートグルメは、数千人もの人員を削減し、厨房も閉鎖せざるを得なくなった。航空ケータリング部門の従業員の半数が削減された国もある。
雇用が維持されたとしても、ケータリング会社は、機内食の生産ではなく、下請け会社に作らせた機内食を航空機に供給・輸送するロジスティックス的な役割を担うことが多くなった。グランドハンドリングや空港サービスも、生産性の変化や組織再編の影響を受けている。昨年の7月と8月にロンドンのヒースロー空港で行なわれた山猫ストは、企業が労働者や労組との協議なしに変化を強要すればどんな結果を招くかを如実に示している。
しかし、航空管制の場合は特別だ。航空機やグランドサービスとは異なり、需要が下がったからといって航空管制サービス(ATS)を削減することは不可能だからだ。空全体の安全を考えるなら、一部のレーダーの電源を切ったり、あるいは空の一区域を締め切ることは不可能だ。便数が削減された場合でも、ATSの維持コストは変化しないため、結果としてサービスを維持するためにその分を航空運賃に上乗せすることになる。
伝統的に、ATS供給者は国家の経済および安全インフラの一部と見なされてきた。道路や鉄道の信号機と同様、ATSインフラもまた、公的資金を投入し、維持・改良されてきた。
カナダのNAVCANや英国のNATSのように民営化された管制機関は、運賃収入だけでは銀行への融資返済や株価の上昇から利益を得ようとする株主の期待に答えられるだけの収益を上げることができず、財政的に大きな問題を抱えてきた。英国のNATSの場合は、倒産を防ぐために、公的資金の注入が必要になった。
幸い、民間航空業界の業況も底入れした感があり、今年は、2000年と同レベルの乗客が空の旅に戻ってくると見込まれている。さらに、航空輸送市場は2年以内にプラス成長に戻せると見込んでいる。行く先は平坦ではないが、航空労組は、引き続き雇用と労働条件に焦点をあて、同時に長期的な視野に立った考えも失わないようにしなければならない。
航空産業の今後の業況と動向に関する議論を続ける中、3つの状況が起こりつつある。第一に、組合は、景気の循環と企業の商慣行に関して重要な問題を提起するようになった。第二に、組合が航空輸送部門で起こりつつある大きな構造変化を観察し、それに影響を及ぼしている。最後に、組合は航空業界を将来、経済的に規制していくことを目指すことに多大なエネルギーを注いでいる。幾つかの難題を抱えているにも関わらず、これら3つの全ての分野において、比較的楽観できる状況にあるのには理由がある。
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企業戦略

航空会社および関連会社の事業戦略が集中的に監視されるようになってきた。航空労組は、経営側が費用方程式の収益側にもっと注目すべきだと主張している。特に、航空産業が慢性的に限界利益を追求する性格である点に着目すべきだろう。同様に、景気循環をもっと注意深く観察する必要もある。
前回の好況期には、航空会社は市場シェアを拡大するために処理能力(キャパシティー)を拡大する努力を続けた。しかし、景気が後退すると、企業は大幅な人員削減を行った。一部の人員に関してはその数ヵ月後に再雇用するようなことも行なわれた。航空運輸は高度な資本集約型産業だ。航空機やインフラは非常に高価であり、高度なスキルを有する人材に依存するところが大きいが、様々な職種において高スキルの人材は不足しがちだ。航空産業は、明らかに短期的な商業利益や株主利益、一部の企業家の利益最優先主義ではなく、長期的かつ持続可能なビジネスモデルに基づいたものであるべきだ。
それに加え、賃金や労働協約戦略に関しても議論が起きている。90年代はじめの不況期には、一時的な譲歩が行なわれたが、一部のケースではその後も譲歩が続いた。90年代後半に航空会社とそれを支えるインフラ会社が収益を上げ始めると、労組は自らの労働の対価と過去に犠牲を払った分を取り戻すために闘わなくてはならなくなった。その結果、紛争と争議の波が押し寄せることになった。航空労組が現在の不況下で経営側の戦略に慎重な態度を取っているのも無理はない。パートナーシップという概念は、全ての利害関係者が利益だけでなく、痛みも分かち合うことによってこそ、初めて成り立つのだ。
しかし、同時に、産業が今後、時代の変化に対応していくため、或いは、生き残っていくためには、そこに働く労働者の力が不可欠であることはいよいよ明白になってきている。多くの航空会社、サービス会社、ATSサービス会社が今日存続しているのは、これまでの様々な変化のプロセスを乗り切る中で、労組が経営側のパートナーとして役割を果たしてきたからだ。労組は、今、労組が関心をもつ事柄に対する認識を高め、意思決定にもっと関わっていくことを要求していく大きな機会に恵まれている。ITFを通じて国際協力することで、こうした要求は、航空アライアンスや多国籍グランドハンドリング会社などでも高まってくるだろう。
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構造変化

90年代には、航空会社が外注化したケータリングや旅客ハンドリングなどを下請けとして引き受ける多国籍企業が出現した。21世紀の最初の数年間で、航空会社の構造自体がさらに変化していくだろう。低コスト航空会社の出現と依然として競争力の高い地域航空により、フラッグキャリアが自らのネットワークモデルを再考せざるを得なくなってきている。一部のネットワーク航空会社は、本社より劣った労働条件を採用し、低コストの子会社を設立しようと計画している。
航空各社が競争力を高めようとネットワークの統合を益々進める中で、航空アライアンスの影響力も増していくだろう。フィーダー線は廃止されるかフランチャイズされていくことになる。しかし、既に欧州では見られているように、国による航空会社所有に関する規則が変化していけば、航空会社どうしの買収が可能になるため、アライアンスという形態も一時的なものに過ぎなくなる。こうした航空会社間の経営統合の目的が余剰キャパシティーの削減にあるのであれば、航空会社はまず従業員とよく協議する必要がある。
航空会社やグランドハンドリング組織と同様に、航空管制サービスにも営利化へ向けた圧力がかけられている。管制のサポート的機能は外注され、特に米国では、一部の政治家が管制サービス(ATS)を民営化しようという圧力をかけている。労組は、例えサービスが民営化されたとしても、管制サービスのもつ公共性は確実に残していけるよう、慎重な対応をとる必要がある。
以上のような変化は、伝統的な交渉と代表権といった構造と衝突するものである。企業組合がその影響力の範囲を広げ、外注先の労働者も組合に取り込み、使用者が変わっても引き続き組織できるように努力している場合も一部見られている。
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適切な規制

航空産業が需要の変動をうまく管理できずにいる今、好況期でも限界収益に頼らざるを得ない産業体質もあり、公共性を満たしつつ、かつ商業的目標も達成できる健全で力強い航空産業を築くためには、果たして市場原理だけで十分なのか、労組は疑問に感じ始めている。飛行権の自由化をこれ以上進めていけば、成長はできるだろうが、適切な規制がないため、不況期の影響がより甚大になるということに識者や政府も気づき始めている。
幸い、国際民間航空機関(ICAO)の2003年3月の航空輸送会議では、規制緩和と自由化をさらに推進するという考えを政府が否定した。「各国が、それぞれのペースでそれぞれの状況に見合った変化をとげるべき」との考えに立ったからだ。しかし、実際そのためには、ネオリベラリストたちの関心をICAOやWTOなどの世界レベルの討論から、APECやEUといった地域レベルへ移していく必要がある。さらには、労組が地域レベルでもっと参加を拡大することも必要だ。例えば、欧州や北米の労組は、大西洋にまたがるオープンスカイ設立のための対話を開始した。南米の労組は、メルコスール諸国のための革新的な共通航空圏の構築に努力している。
労組は、所有者と規制の変化、飛行権の自由化と引き続き闘っていく。規則が緩和される分野があるとすれば、その分野では、運輸大臣ではなく、むしろ競争当局が鍵を握る存在になってくるだろう。労組は、もっと積極的に競争に関する協議会に参加し、二国間或いは多国間航空協定を締結するための交渉チームにも参画することで、こうした変化に対応している。
中には労組の介入が非常に特殊な場合もある。今日運航する航空機と、航空機の数を考慮すると、明らかに、ICAOで合意された航空管制サービスの課金原則を見直す必要があるだろう。特に、ATS労組は、管制サービスの対価として航空会社に請求されるコスト構造は、あらゆる景気の循環に見合うものでなくてはならない点を主張している。好況期に余剰分を払い戻しても、そのために低需要期にサービスやインフラの維持に適切な資金が不足するのであれば、何の意味も無い。そこで、労組は準備金の設立を提唱している。そうすれば、運賃収入が減っているが、コストは変わらないか、あるいは上昇しているような時期にも、準備金を営業コストあるいは投資コストに当てることができるだろう。
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共通の資産

こうした問題に対する労組の対応の根底には、航空輸送を商業的な環境のもとに置く一方、公益性もある程度維持することが必要だという認識がある。航空輸送は、複数の地域社会を結びつけるものである。単に商業的な側面からだけでは捉えられない経済的、社会的側面を持っている。航空は、各国の基本インフラの一部であり、国家主権を主張する重要な手段でもある。こうした状況を考慮し、労組は引き続き、産業内の主要機能とサービスの民営化に反対していく。同様に、労働者も重要な利害関係者だという視点から、より効率的な産業を築き、航空産業のあらゆる分野が商業的に成功するように、労組も努力していく。
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シェーン・エンライトはロンドンのITF本部で活躍する民間航空部長
 
 
INDEX
港湾労働者の勝利
欧州港湾指令却下
航空経済
2004年の航空産業の
展望と課題
シックエアクラフトをどう治療するか
目に見えない健康被害の認識を高める労組の闘い
アルゼンチン鉄道の行方
中南米の鉄道民営化事情
遺棄されて:救いの手を差し伸べてくれるのは誰?
船員が遺棄されたらその責任は誰が取るのか
利益を求めた威嚇行為
FOC船に乗組むラトビア人船員の苦難
赤信号がともされた自由化プロセス
WTOカンクーン閣僚会合でつまずいたロジスティクス会社
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