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2004年1月 第14号
■赤信号がともされた自由化プロセス
 
赤信号がともされた自由化プロセス

「いつも多国籍企業の思いどおりになるとは限らない」スチューワト・ハワードがWTOカンクーン閣僚会合の失敗で行く手を阻まれたロジスティクス会社について報告する。

昨年9月にカンクーン(メキシコ)で開催されたWTO閣僚会合は、自由化の推進を約束する政府とその恩恵を期待する企業にとって大きな打撃となった。
特に、新しい自由化政策を熱望し、多額の資金をロビー活動に費やしてきた運輸・ロジスティクス会社への影響は大きい。ロジスティクス会社自身も、世界各地の工場から流通センターに貨物をできるだけ早く安く輸送したいグローバル企業から圧力を受けている。これらのグローバル企業にとってロジスティクスは頼みの綱だ。
80年代〜90年代に各国で運輸規制の自由化が進行し、数十億ドル規模のロジスティクス産業が出現したが、本当の意味でのシームレスな(継ぎ目のない)国際貨物輸送システムを実現するには、まだ多くの障害が残されている。そのため、ロジスティクス会社の利益を代表するロビー団体が、米政府機関、EU機関、国際組織など、あらゆる所で業界の意見を陳情している。一方、労働組合は運輸や郵便等の基幹事業に伴う社会的責任を訴え、企業側の猛烈なロビー活動に対抗している。
企業はWTOで国際輸送やロジスティクスの自由化が一気に加速するという希望を抱いていた。WTOの目的そのものは企業のニーズに合致してはいるものの、これまでのところ企業の利益につながるものは何一つ達成できていない。(トランスポートインターナショナル2.03号に関連記事)
この状況に最も焦りを抱いているのが宅配業者だ。彼らはグローバル企業の巨大かつ複雑なジャストインタイムの輸送システムの中で多くの契約を締結しているため、ロビー活動も真剣だ。ポラリス研究所によると、フェデラル・エクスプレス(FedEx)とUPSはアメリカの高額政治献金団体のトップリストに入る。特にFedExは2000年の米大統領選挙戦で250万ドルの政治献金をし、単独企業の政治献金としては第2位にとなった。
ロジスティクス業界のロビー団体はカンクーン閣僚会合に向けて、WTOの主な問題点をいくつか指摘した。第一に、UPS、FedEx、DHL等の航空機材はサービス貿易一般協定(GATS)の交渉対象となっていないこと。これらは国際民間航空機関(ICAO)の範疇で、貨物輸送ルートは二国間政府協定の複雑な規制の枠内で扱われている。これに対してロジスティクス会社は航空貨物分野をICAOから除外し、GATSに組み入れるように強く要求しているが、これまでのところ、あまり成功していない。2003年3月のICAO総会でもこの要求は加盟国から拒否された。航空輸送に関する政府間協定は安全・保安問題と共にICAOで扱うことを要求してきた労働組合にとっては歓迎すべき動きだ。
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企業のいらだち

宅配業者に関するWTOの交渉は主に郵便・国際宅配グーループで行われているが、国内郵便事業の自由化に積極的な政府はむしろ少数派で、自由化の進展は非常に遅い。各国政府は国内郵便事業者が取り扱う貨物については郵便事業の一環として規則や関税を適用しているが、宅配業者が扱う商業貨物には別の規則を適用している。
ロジスティクス会社はWTOに対するイライラを募らせ、「WTOは、自由化を加速させ、郵便事業と民間宅配事業との違いを事実上なくすという目標を達成できていない」と批判する。欧州宅配事業者協会(EEA)はカンクーン閣僚会合で「(WTOの)動きの鈍さは、宅配業者のグローバルなロジスティクス・サービスに依存している企業のためにもよくない」と発言した。
2002年5月にFedExの上級法律顧問、デビッド・W・スペンスは、こういった問題に対処するためのロビーイング戦略を打ち出し、2つの要求をWTOに突きつけた。第一に、WTOの中に宅配専門の交渉グループを新設すること、第二に、国際貨物の移動に対する障害の除去を中心に、貿易の円滑化を促進させることである。後者に関しては、ロジスティクス会社が直面している差別的貿易障壁をリスト化するよう、ロジスティクス会社に要請文書が配られた。
2003年3月に米政府が提出した要求書の中には当然、宅配事業のための交渉グループの新設が盛り込まれていた。その結果、米通商代表部はロジスティクスに関するWTO特別作業部会の設立を勝ち取った。一方、欧州委員会に対する業界のロビー活動はそれほどうまくいかなかったらしく、同委員会は新たな交渉グループの設立を要求事項に含めなかった。しかし、米国もEUも貿易円滑化をWTOの議題に盛り込むことには強い支持を表明している。
貿易円滑化は、物議を醸している「シンガポール問題」の1つで、米国などの大国はこの問題をWTOの議題に取り入れたいと考えている。(シンガポール問題の残り3つは、投資、競争、政府調達。)
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反対勢力

シンガポール問題には多くの国、特に途上国から公然と反対の声が上がっている。貿易円滑化は先進国の有利に働く一方で、同じ先進国が農業問題等で譲歩を拒んでいるというのが彼らの主張だ。カンクーン会議の数日前、米財界は米政府に対して、シンガポール問題をばらばらにし、最も意見の分かれている投資・競争問題をあきらめ、残りの2つ(政府調達と貿易円滑化)を救うよう、要請した。
当初は米国とEUがいつもどおり、全部ではないにしても、ほとんどの議題で勝利を収めることが予想されていたが、実際は、予想外に組織化された反対勢力に行く手を阻まれた。その結果、合意は何ら達せられず、閣僚会合は失敗に終わった。
ロジスティクス会社にしてみれば、自由化を加速させるためのメカニズムとしてWTOが失敗したという意味は大きい。GATSだけがWTOの仕事ではないにしても、GATSの荒削りな内容とそのスケジュールに今、疑問が投げかけられている。
貿易円滑化問題は現在のところ、他のシンガポール問題と同様に、暗礁に乗り上げたままだ。しかし、だからといって業界が国際運輸の自由化をあきらめた訳ではない。これからは、米国やEUを中心とする二国間協定や地域交渉(大西洋横断共通航空領域(TCCAA)など)に焦点が移っていくことが予想できる。EU港湾自由化指令も他地域での同様の改革を推進するために利用されることだろう。
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スチュワート・ハワードはITFの書記次長
社会勢力の台頭でシフトする力関係

米国やEUはWTO閣僚会合で自分たちの意見を押し通せると思っていた。しかし、ブラジル、インド、南アフリカ、中国をはじめとする途上国は、巧妙な連携で先進国のイジメに抵抗した。
この抵抗を強力に後押ししたのがNGOや労働組合等の市民運動だ。市民からのサポート体制に慣れていない途上国の政府代表らは、自分たちが無報酬の研究者やアナリスト等の強力な味方に囲まれていることに突如として気付かされた。ITFからはアルゼンチンのアリシア・カストロ副会長が、政府間会合と平行して開催された会議の場で、貿易円滑化問題に関する発表を行い、貿易円滑化問題が運輸自由化の裏ルートとして使われる可能性を警告した。
今日、WTOの将来像が盛んに議論されている。途上国の組織だった協力が対抗勢力として機能したことは一歩前進と評価できるが、多国間交渉から二国間あるいは地域協定にシフトすることは実質的には一歩後退だ。二国間で個別に貿易交渉を行えば、貿易協定の対象となる国は明らかに減るが、それは同時に、大国の要求が通りやすくなることを意味するからだ。労働組合や市民団体は、WTOの体制見直しが避けられないならば、それが自分たちの要求を提示する機会につながるかどうかを見極める必要がある。
より害の少ない、責任ある世界貿易機関を構築し、企業利益と同様に人間開発や社会的権利をも視野に入れた新しい世界貿易体制が求められている。
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