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| 2004年1月 第14号 |
| ■遺棄されて：救いの手を差し伸べてくれるのは誰？ |
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遺棄されて責任は誰にある？
船員は最も経済的に不安定な労働者だ。毎年何百人もの船員が金銭、食糧、水もないまま座礁船に置き去りにされている。
アジア、アフリカ、東欧諸国で何千人という労働者が、定期的に家族に賃金を仕送りできるという約束に惑わされ船員になる。大部分は、船を便宜置籍国か比較的規制のゆるいナショナル船として登録し、問題を起こしがちな悪徳業者に雇われることになる。
月給の支払いが遅れたり、船の運航に必要な投資を使用者が渋る場合は、警戒した方がいい。最初の2ヵ月、3ヵ月は次の港で支払いをするという空約束に終わるかもしれない。
それからが悪夢の始まりだ。家から数千マイルも離れた海上で船が問題に直面する。あるいは、安全面の問題で港湾局から拘留されるかもしれない。船主は行方をくらまし、倒産するかもしれない。何千万ドルという未払い賃金がある。家に帰る航空券を買う資金もない。船内の水、食糧、燃料なども枯渇する。明らかに船主は船員が生きるために必要な最低限の物資も供給するつもりがないと悟る。つまり、遺棄されたのだ。
雇用契約書もない場合が多いので、船員は、船を下りてしまったらこの船で働いていたという証拠は何も残らなくなると直感的に感じる。船に残ったまま、未払い賃金を受け取れるまで待っているしかない。しかし、一生待つことになるかもしれない。組合に加入しているなら、組合は船員に帰宅するようにアドバイスするだろう。また、組合が船員を代表して最寄りの大使館に船員の福利厚生と本国送還を求めてロビー活動を開始する可能性もある。あるいは、労組が資金を募り、自ら船員を送還する場合もある。
国際条約によると、船員遺棄の場合、その責任は旗国にあり、旗国が乗組員の送還を手配し、費用も負担しなくてはならない。
しかし、実際、大抵の場合、船員と船員を擁護する船員組合やその他の団体も当局などによる正式援助を受けることはできない。何百人という船員が何ヵ月も食糧や燃料を恵んでもらって凌ぐしかない。もっとひどい場合は、生き残れるのか、家族を養うどころか、二度と家族に会えないのではないかと途方に暮れることになる。
毎年、ITFが関わった遺棄事件のうち、船主や旗国が（あるいは場合によっては大使館さえも）基本的な義務を果たすことは稀である。 |
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未払い賃金の支払い
ITF、船員組合（存在するなら）、同情的な港湾労組、ミッション・トゥー・シーフェアラーズなどが、基本的な食糧を供給し、未払い賃金の回収と本国送還のために闘う。
しかし、大抵の場合は、遺棄された船舶自体がくず鉄以下の価値しか持たないと判明する。そうした場合、何千ドルにも上る乗組員の未払い賃金を一体誰が負担するのだろうか。乗組員の要求額のほんの一部でも、回収するには何年もかかる。総額数百万ドルの未払い賃金を船員が受け取れる日は決して来ない。
海運規制に責任を負う国連機関の国際海事機関（IMO）は、船舶の遺棄の問題に取り組もうと努力してきた。航海に適さないと判断され、保険の適用外に置かれた船でさえ、航海の許可が下りてしまうこの海運産業に、最近、弱い立場にある労働者に経済的な安全策を保証するための制度が創設された。しかし、海運産業の主要な利害関係者が参加しなければ、そのような制度も上手くいくはずがない。
責任を負う組合は、継続的にロビー活動をし、その国の政府にILO条約と船員の福祉に関する勧告に調印し、実施するように要請している。一方、組合員に対しては、問題を抱えている、あるいは従業員と問題を起こしていると思われる船会社には関わらないように忠告している。労組は、しばしば、様々な国の政府が、自国の国民が遠く離れた港で放置されていても明らかに無関心であるという事実にマスコミの矛先を向けることに成功してきた。労組はまた、政府の政策策定にも影響を及ぼすことができる。例えばルーマニアでは、労組が船員の配乗を担当するマンニング会社を一部規制することに成功した。
船員の遺棄に関する懸念が高まったため、IMOとILOは合同作業部会を設立した。2001年11月には、両組織が「船員の遺棄に対する賠償請求に関するガイドライン」を採択した。その目的は、基準以下船の運航を阻止し、船員の社会的保護を強化することだ。また、合同作業部会は、IMOとILOの各機関内に各国の政府やITFなどのNGOなどが協議役またはオブザーバーとして参加する遺棄事件に関する報告機構を設立した。最近では、ITFは、2003年9月に船員遺棄の事例を一件報告した。こうして、ガイドラインに基づき、責任逃れをしている船主と旗国が露呈することになる。
このような報告システムにより、船員の遺棄の問題に対する認識を高めるだけでなく、ITFや他の機関がIMOに加盟している旗国に、個々の遺棄船員を援助するように圧力をかけることが可能になった。 |
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ケース1
船舶名：タラ号（貨物船）
旗国：トンガ（FOC船）
船齢：30年
船主：未確認。消息筋はディミトリオス・コッコスとマフムード・リファットが船主であると見ている。
乗組員：18人中、6人がインド人、8人がパキスタン人、4人がルーマニア人
遺棄発生時期：2002年11月。アルジェリアのアルジェ。
生存方法：物乞いと地元の交通運輸労組のFNTTからの施し
援助要請：在アルジェリア・パキスタン大使館、同インド大使館、トンガ政府などに要請。
対応：要請は全て却下あるいは、無視された。
本国送還：ITFとFNTTにより、2003年5月に送還。
未払い賃金：回収されず
事件経過：タラ号は、2002年10月にチュニス港を出航し、アルジェリアのオラン港へ向かった。出航後間もなく、エンジンに問題が発生し、11月に入り、船はアルジェ港に曳航され、現在に至っている。船主と推定されているディミトリオス・コッコスとマフムード・リファットは、当初は船に閉じ込められた船員のための資金を送金していた。1月にはルーマニア人船員4人を送還し、残り14人に対しても送還の手続きをすると約束した。
しかし、14人の送還は実現せず、船員のための送金も滞るようになった。乗組員らは、港で物乞いをしたり、地元港湾労組からの施しによりしのがざるを得なかった。在アルジェリア・インド大使館および同パキスタン大使館は、外国籍船であるという理由から援助を拒否した。トンガ政府は、ITFが繰り返し送付した援助請願のFAXに答えることすらしなかった。
ITFと他の組織は、トンガ政府が船籍登録の中止を宣言した後、その対応を怠ってきたことを再三、非難してきた。トンガは、一部テロリストとつながりのある船会社を含め、悪質極まりない企業から船籍登録先として好まれてきた。タラ号の場合は、この船の経歴（以前の乗組員によると、船主は同じだが違う船籍をもったFOC船だった）をざっと見るだけでも、この船のひどい保守状態、拘留暦、無契約で雇用された船員や労組からの未払い賃金賠償請求などが一目で分かる。ルーマニアの組合は、コッコスとリファットが関わっている船には近づかないように組合員に忠告している。
タラ号の船員の送還は、2003年5月にITFと地元のFNTT労組が共同で行なった。同船の価値は無に等しく、港湾局が請求している海難援助コストの支払いが優先されるため、船員の未払い賃金の申し立ては行っていない。
乗組員への賠償の見込み：なし
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ケース2
船舶名：アスファルト1号、アスファルト・キャリア号、アルバラカ号
旗国：パナマ（FOC船）
船齢：それぞれ、21年、23年、26年
船主：アラビアンタンカー社
乗組員：全32人（エチオピア人、インド人、ロシア人、ウクライナ人）
遺棄発生時期：2002年7月。アラブ首長国連邦のシャルジャ港とアジュマン港。
生存方法：ミッション・トゥー・シーフェアラーズのドバイセンターが食糧と燃料を援助した。
援助要請：船籍登録国であるパナマに対して援助を要請。
対応：無視された。
本国送還：ミッション・トゥー・シーフェアラーズ・ドバイセンターにより、2003年5月に送還。
未払い賃金：総額は30万米ドル。中には遺棄される前の20ヵ月分の給与を受け取っていない者もいた。
事件経過：報告によると、2002年7月、船主の資金が底をつき、食糧供給が中断された後、3隻の姉妹船のうち、アスファルト1号はシャルジャ港に、他2隻はアジュマン港のいわゆる「避難港」に避難した。
乗組員の生存は、地元のミッション・トゥー・シーフェアラーズ・センターにかかっていた。乗組員の大半が同船会社の船に長年乗船しており、中には9年働いていた者もいた。そのため、船員らは次の港で賃金を支払うという船主の言葉を信じていた。
遺棄された当初、乗組員らは賃金の回収に熱心だったが、2003年4月頃までには、船内の劣悪な生活状況に意気消沈していった。この段階では、既に家族への仕送りが18ヵ月も滞ったままになっている船員もおり、一刻も早く帰宅し、後はドバイの弁護士に任せて結果を待ちたいと思うようになっていた。
ミッション・トゥー・シーフェアラーズにより2003年5月に送還が実現した。本誌トランスポート・インターナショナルが印刷に出された際、ドバイとアジュマンに放置された3船舶に対して訴訟が起こされた。様々な証人が召還され、たびたび継続審議されてきた。船主は、破産申請をしたため、船員の賃金を受け取る権利を否定している。また、各船員に賃金の支払いを命じた判決を不服とし、上訴した。
乗組員への賠償の見込み：弁護士は、わずかばかりでも、船舶の売却代金から船員への賃金支払いができるのではないかと期待している。 |
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ケース3
船舶名：アルヤシン1号（貨物船）
旗国：シリア
船齢：47年
船主：サレイマン社
乗組員：16人（パキスタン人）
遺棄発生時期：2002年4月。イエメンのアデン。
生存方法：パキスタン船員組合からの援助。
賃金：遺棄されるまでの7ヶ月間未払い。
援助要請：イエメンとロンドンのパキスタン大使館、およびイエメン外相に援助を要請。
対応：要請を受けたとの返信があり、送還が実現した。
本国送還：2003年5月にアデンのパキスタン大使館経由で11名が送還された。5名は、イエメンに残留し、未払い賃金回収の訴訟を起こしている。
事件経過：2003年4月、ITFは、アルヤシン1号がイエメンのアデンで座礁したとの報告を受けた。乗組員の賃金は7ヵ月間払われておらず、船は荒海に停泊し危険な状態にあった。安全器具（ライフジャケット、いかだ、消火器など）や通信器具は一切なく、船員は船底と船倉に穴が空いていると言っていた。
船主には連絡が取れず、7ヵ月間、賃金は未払いだった。ITFとパキスタン船員組合（PSU）の要請で、ロンドンのパキスタン大使館が2003年7月に11名の送還を手配した。5名の乗組員は残留し、未払い賃金回収の訴訟を起こしている。PSUは、アデンにいる同船の船主をパキスタンの連邦調査当局が逮捕するよう要請している。しかし、船主は破綻しており、1957年に建造された同船の価値はゼロに等しかった。
乗組員への賠償の見込み：当該の配乗代理店は政府の海運局を通して営業を行なっているため、最終的にはパキスタン政府が責任を取るかもしれないという期待が高まっている。 |
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