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2004年1月 第14号
■アルゼンチン鉄道の行方
 
アルゼンチン鉄道の行方

国営企業の大胆な民営化が実施されてから15年。アルゼンチン鉄道の民営化は国民にとっても労働者にとっても失敗に終わっている。「友愛」(アルゼンチン鉄道労組)のジュリオ・アドルフォ・ソーサが、何十年にもわたる経済政策の失敗が、いかにして現在の惨劇を生み出したかについて語る。

1940年代のペロン政権はアルゼンチの鉄道システムを、1853年からモデルとしてきたイギリスおよびフランスの鉄道システムから脱却させる国有化事業を計画した。アルゼンチンの鉄道はもともと、ヨーロッパ市場に家畜を輸送する目的で内陸部から港湾に向けて敷設されたため、国内の巨大な生産エリアを統合・連結させるという、本来のニーズを満たしてはいなかった。
そこでペロン政権は工業化の一環として、拡大する国内市場と公共部門に対応するために、鉄道国有化計画を打ち出した。その意味で、それまで外国資本に握られていた主要公共事業(鉄道、エネルギー、電気等)の国有化は、民族自決を模索するアルゼンチンの前進を象徴する出来事だった。しかし、この国有化計画は残念ながら、1955年の軍事クーデターでペロン政権が転覆し、頓挫してしまった。そしてこの時から公共事業の崩壊プロセスが始まった。
何十年間も鉄道車両への投資不足が続いたため、優遇政策を受ける道路輸送との競争に勝つことができなくなった。
そこで政府は、国際通貨基金(IMF)とその鉄道特別委員会(ラーキン委員会)の指導を受け、鉄道「近代化」戦略を実施した。これはつまり、支線や駅を閉鎖し、事業規模を縮小させるというものだ。一方、何千本もの道路が鉄道と並行して建設され、鉄道は供給能力過剰の状態に陥った。
その結果、事業規模、貨物量、従業員数は軒並み減少していった。一方、おかしな話だが、これとは逆に管理職の数は増えていった。このようにして、道路輸送の需要超過の陰で鉄道の衰退は続き、国内貨物輸送における鉄道のシェアは7%にまで下がっていった。
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工業化の衰退と混乱

アルゼンチンは国際機関を通じて先進国から割り当てられた二次的役割を果たしながら経済成長を遂げるという戦略をあきらめた。その後、工業化は著しく後退していったが、規制や保護関税政策のおかげで失業率が急上昇することはなかった。しかし、生産性という国家経済の骨格は脆弱なままだった。そして1976年、再度、クーデターで軍事政権が誕生し、規制緩和政策がとられ始めた時、崩壊の最初の兆しが現れた。 
アジアを始めとする諸外国からの輸入増加は中小企業を直撃し、脆弱なアルゼンチン経済はさらに悪化していった。
石油危機とドル安で先進国はアルゼンチンのような途上国の通貨を買い、無秩序な市場におけるアルゼンチンの購買力は高まった。その結果、対外債務は大幅に増え、アルゼンチン等に対する先進国の支配力は強まっていった。
豊かな国は巨額の債権を盾に、アルゼンチンの独立的な経済政策を阻止できたため、アルゼンチンはIMFや世界銀行から再建計画を押し付けられるのを待つしかなかった。
1982年のフォークランド戦争で軍は力を失い、民主主義が芽生えたが、対外債務が後を引き、政府の政策はことごとく失敗に終わった。
1983年以降、政府はさまざまな民主的社会改革を試みたが、一連の改革を世界銀行の経済戦略に基づく単なる締め付け策に過ぎないと考えた公共部門の労働者は、改革の多くに激しく抵抗した。混乱が深まる中で、改革は果たされないまま、当局者が辞任に追い込まれていった。
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民間セクターの裏切り

1989年の半ばに新政府は公共企業体を民営化する大胆な法律を策定した。
この法律および関連規則は徐々に、右往左往しながら実施されたため、公共企業体の労働者が一致団結して大規模な反対運動を起こすことは難しかった。ばらばらと断片的に発生する紛争によって、数少ない労働者の団結の機会が奪われていった。
公共企業体が独占により効率よく機能していた時代はあっという間に過去のものとなり、国民はこの破壊的な政策の原因よりも結果に目をむけるようになった。30年に及ぶ投資不足の結果を目にし、公共サービスにもっとお金をかけてほしいと思うようになったが、民営化で利益を得ようとする参入事業者の真意は分かっていなかった。
民営化が実施されると、公営時代の団体協約は、より質の劣る緩やかなものに置き換えられていった。人員は削減され、物価上昇に対する実質賃下げが続いた。実際、1991年の初のコンセッション(営業譲渡)以来、賃金は上がっていない。一方、失業者は増加し、これに人口形態の変化も加わり、多くの年金基金の財政は悪化し、職を維持した者でさえも十分な社会保障が得られなくなった。
公営事業に参入した民間企業は、報告すべき規制当局も存在しない中で、しっかりした安全政策を策定せず、事故を起こしやすい未熟練の、訓練を受けていない労働力を使用している。最近の報告によると、これらの企業の89%が安全法規に従っていない。にもかかわらず、財政難を抱える政府はコンセッション契約が終了する前から契約を延期することもある。受注の条件だった投資を実行しなかった企業ともだ。
鉄道民営化は国家の影響力と社会問題に対する認識の低下という意味で、アルゼンチンという国の崩壊を象徴している。
国家そのものはいいとも悪いともいえない。問題は、その政策をどのように、誰のために実行するかだ。言うまでもなく、国の政策は大多数の国民へのサービスとして実施されるべきであり、わが国経済の犠牲の上に先進国に利益を生み出す一部の企業のためであってはならない。
アルゼンチン鉄道の民営化は、雇用削減、新会社の経営不振等、マイナス面が圧倒的に多い。今日、新政府は国民の懸念にようやく気付き始めたらしく、内陸部の旅客路線を再開しようとしている。もちろん、破壊されたインフラに大規模な投資が必要なことを考えれば、これは決して容易なことではない。しかし、少なくとも政府が国民の懸念に目を向け始めたとことは、再建へ一歩近づいたといえる。
何十年にもわたる投資不足や政策ミスで、アルゼンチンや他の多くの南米諸国の鉄道は破壊されてしまった。われわれは「友愛」(アルゼンチン鉄道労組)は、民営化と闘うすべての組合に連帯と支援を差し伸べたい。
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ジュリオ・アドルフォ・ソーサは鉄道労組「友愛」の内政部長。ITF鉄道労働者部会の副会長も務める。
どこで間違ったのか?

物価の急上昇、大規模な人員削減、事業閉鎖、政府の救済策、そして時には公営の復活・・・。世界銀行すらも鉄道の民営化のあり方を再考している−ブレンダン・マーチン

2003年2月、ワシントンDCの世界銀行本部で珍しい出来事が起こった。中南米・カリブ海地域の世銀スタッフ(理事レベルから下級エコノミストレベルまで)が「民営化を見直す」セミナーに参集したのだ。
しかし、喜ぶのはまだ早い。この出来事は確かに時代の流れを反映しているし、民営化の再考が真剣に行われてはいるが、中南米の鉄道民営化に誰よりも責任がある世銀が民営化は間違いだったと認めたわけではない。
しかしながら、世銀や多くの中南米諸国が今、交通運輸等の公営事業の民営化は計画どおりに進んでいないという現実に直面している。
この問題で最も注目されているのは水道事業の民営化だ。ある大手多国籍企業は中米の水道事業に参入し、失敗を繰り返した後、撤退を決めた。
最も有名な失敗例は、ボリビアのコチャバンバ市の水道民営化だ。民営化で急上昇した水道料金に対する市民の怒りが大規模な抗議行動に発展し、市民一人が死亡、多数が負傷し、政府も政治的に大きな痛手を被った。そのため、アメリカのベクテル社率いるコンソーシアムが獲得した40年コンセッション(営業契約)は実施されないまま、大統領は契約破棄を決めた。
ボリビア以外でも水道事業の民営化は問題を抱えている。長い間、世銀の水道民営化事業のモデルとされてきたブエノスアイレスでさえも、昨年、フランスのスエズ社が30年契約から撤退することを決めた。同国の財政危機により、水道料金の大幅値上げか赤字経営かの選択を迫られたためだ。
スエズ社が撤退を決めた時点で、ブエノスアイレスの水道料金は2割も上がっていた。民営化で2割も安くなるとされていたにもかかわらずだ。「水道や公衆衛生の民営化は、(時には一夜にして)料金の急上昇をもたらし、悲惨な結果に終わることがある」と国連の「2003年人間開発報告書」は指摘する。
民営化が鉄道や水道のインフラ投資を促し、利益をもたらすこともあるが、その利益は公平に分配されず、企業の懐に納まることが多い。鉄道民営化の典型的なパターンは、不採算旅客路線の閉鎖と小規模貨物輸送の縮小だ。投資が行われたとしても、輸出向け貨物のインターモーダル設備に集中する。
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期待は裏切られ

雇用への影響は膨大だ。アルゼンチンでは、90年代前半に実施された鉄道民営化の前後に90%の鉄道労働者が職を失った。ブラジルでは、98年までの5年間にわたる民営化の過程で、鉄道労働者の数は42,000人から11,000人に減少した(75%減)。
このように巨大な経費削減策にもかかわらず、ブラジルの鉄道民営化は期待された経済的利益をもたらすことができず、ITFが2年前に調査報告書の中で指摘した懸念が現実のものとなっている。
特に問題なのは、貨物輸送契約を請け負うコンソーシアムは貨物、特に鉄鋼に関心が高い企業に支配されていて、これらの企業が自分たちのニーズを何よりも優先させようとする点だ。そのため、ブラジルの新政権は不十分な規制体制の見直しに着手した。
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歴史は繰り返す

「コンセッショネア(営業権取得事業者)の活動を規制・調整し、利用者の利益という観点からの中立性を確保するために(保守系新聞「O Estado de Sao Paulo」)」新たな政府機関が設立された。また、他の新聞報道によると、実際の投資レベルは契約上のそれを遥かに下回っている。7つのコンセッションのうち6つまでもが赤字を計上、投資のための資本を集めるという民営化の理論はますます説得力がなくなっている。
このような状況の中、民営鉄道会社の救済圧力をかけられた政府は、地域経済発展のために割り当てられた予算を投資に回している。鉄道の投資には約14億ドルが必要だと言われているが、そのほとんどがブラジル国立経済社会開発銀行(BNDES)が負担することとなる。
断片的な公営化は既に始まっている。ブラジルの一般紙「Folha de Sao Paulo」によると、ブラジルフェロビアス社(民営化開始から5年でコンセッション数本を統合した持ち株会社)は最近、マトグロッソ州政府との契約を打ち切った。これが新しく設立された規制当局に承認されれば、主要貨物路線が公営に戻され、収益が不公平に分配される心配はなくなる。
元々、鉄道インフラの公有化は民営化の失敗を経て、公共の利益を回復する目的で行われた。現在、世銀と同様、中米各国政府が民営化を再考する中で、歴史は繰り返されようとしている。
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ジュリオ・アドルフォ・ソーサは鉄道労組「友愛」の内政部長。ITF鉄道労働者部会の副会長も務める。
 
 
INDEX
港湾労働者の勝利
欧州港湾指令却下
航空経済
2004年の航空産業の
展望と課題
シックエアクラフトをどう治療するか
目に見えない健康被害の認識を高める労組の闘い
アルゼンチン鉄道の行方
中南米の鉄道民営化事情
遺棄されて:救いの手を差し伸べてくれるのは誰?
船員が遺棄されたらその責任は誰が取るのか
利益を求めた威嚇行為
FOC船に乗組むラトビア人船員の苦難
赤信号がともされた自由化プロセス
WTOカンクーン閣僚会合でつまずいたロジスティクス会社
知っておこう
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