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2006年1〜3月 第22号
■ITF協約の恩恵
 
自動車船の労働条件に関する国際調査を行った結果、船員の権利擁護者にとって、有益かつ当然とも言えるデータが集められた。エロル・カベチが報告する。

ここ2年間に部員627人を対象に実施した国際調査によって、あることがはっきりした。船員はFOC船に乗っている時よりも、自国籍船に乗っている時の方が、幸せかつ健康で、大切にされていると感じている。また、FOC船の中でもITF協約船に乗っている時の方が断然、満足感が高い。さらにこの調査で労働組合が既に感じていたこと−自動車船は一般貨物船に比べてITF協約船の比率が高い−も確認された。
この調査は国連経済社会理事会(UNESC)とカーディフ大学(英国)の国際船員リサーチセンター(SIRC)が、インタビュー、グループ調査、船内観察等、さまざまな手法を用いて、21カ月間かけて共同実施したものだ。
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ITF協約締結の動機

世界の外航商船隊のうち、6割がFOC船、4割が自国籍船と見られており、FOC船の3割がITF協約でカバーされている。自動車船は高額貨物を輸送し、スケジュールも過密なため、船主はITF協約という「保険」をかけたがるというのが労働組合の見方だ。また、自動車船は日本船主の割合が著しく高いが、日本船主はFOC船員の賃金・労働条件の労使交渉の場である国際交渉協議会(IBF)にも参加している。
UNESCとSIRCの調査によると、自動車船におけるFOC船と自国籍船の比率は全体の比率(6対4)と一致するが、ITF協約を締結する自動車船の割合は一般貨物船の場合と比較して高い。FOCの自動車船全体のうち、62%がユニフォーム協約(いわゆる「トータルクルーコスト(TCC)協約」)、9%がIBF協約を締結しており、28%が未協約船だ。スタンダード協約(ITFが船主に罰則的な意味で適用させる協約)を締結している自動車船はない。
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船員の認識パターン

自国籍船や複数のITF協約の存在は船員の生活にどのような違いをもたらしているのだろうか?われわれの調査の結果、大きな違いがもたらされていることが分かった。特に印象的なのは、ある認識パターンが船内生活や労働条件のあらゆる側面に浸透していることだ。
まず、自国籍船の部員はFOC船の部員に比べて、会社や代理店(自国籍船の場合は通常、会社専属の代理店)との関係を肯定的にとらえている。また、ITF協約を締結するFOC船と未協約船を比較した場合にも同じことが言える。
会社に対する誇りや忠誠心について聞いてみると、回答にやや慎重な船員も見られるものの、ここでもやはり、同じような認識パターンが存在する。そしてこの認識パターンは、年金や医療保険等の福利厚生に関する回答についても見て取れる。
ITF協約は100%包括的なものとは言えない。船員の雇用は乗船ごとの契約という性格が強いため、TCC協約に年金は含まれていない。シンガポール以外のアジア人船員の大多数が年金の使用者負担を享受していない。インド洋や東欧諸国出身船員もそうだ。上陸中の医療手当も協約に含まれていない。フィリピン(世界最大の船員供給国)の船員は上陸中、最大6ヵ月まで医療手当てを受けられ、医療保険への加入が義務付けられているが、インド洋、東欧、アジア諸国出身船員の大多数(95,100人、調査対象者の72%)はこのような恩恵を受けていない。
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大切にされていると感じられる必要性

訓練・技術開発、労働時間、休息に関しても、同様の認識パターンが見られる。自国籍船の乗組員はITF協約船の乗組員よりも、ITF協約船の乗組員は未協約船の乗組員よりも、これらの問題に関して前向きの回答をしている。この傾向は部員の職員に対する評価(部員に情報をしっかり伝えているか、部員に対する処遇は公正か等で判断)にも現れている。
仕事上のさまざまな側面に関しても同じことが言える。協議に入れてもらえているか、自分の仕事に対して影響力を行使できているか、仕事はきついか、仕事上のストレス・雇用保障についてどう思うかなどに加え、賃金や肉体的労働条件に対する満足度や身体的苦痛の程度に関する質問でも、同様の傾向が見られる。
全体的に見て、ITF協約を締結していないFOC船の乗組員が最も恵まれてないことは明らかだ。彼らは技術の習得を奨励されることもなく、自分たちの雇用が不安定だと感じ、配乗、賃金、安全衛生等の問題で相談されることもない。また、自分の仕事に何ら影響力を行使できないと感じている。会社に対して誇りや忠誠心を感じられないのも当然のことかもしれない。
自動車船の部員の大半が1日6時間の連続休憩を取れていないが、ITF協約を締結していないFOC船の部員は特にその傾向が強い。未協約船の乗組員は仕事がきつく、時間に追われていると感じており、休憩中も仕事のことを心配している。2006年に発効した新IBF協約には、船内の無料Eメールの導入が盛り込まれたが、未協約船の乗組員はこのような恩恵に与ることは少ないだろう。
自動車船を希望する船員に言えることははっきりしている。「自国籍船に乗りなさい。それがだめなら、ITF協約を締結しているFOC船に乗りなさい」
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エロル・カベチ博士はカーディフ大学(英国)の国際船員リサーチセンター(SIRC)上級研究員。エロル・カベチ博士、テオ・ニコルス、パルグレーブ・マクミランの共著「もう一方の自動車労働者」が2006年初旬に発行予定。
自国籍船、ITF協約を締結するFOC船、ITF協約を締結していないFOC船の部員の違い

  自国
籍船
ITF
協約船
未協
約船
  % % %
 
労働組合に対する船社の姿勢をどう思うか
よい 27 17 7
普通 57 45 21
悪い 16 38 72
 
良好な関係を築いているのは
会社 82 67 48
配乗代理店 84 55 42
職員部員間 70 71 54
 
会社に対する忠誠心と誇り
会社に忠誠心を感じる 86 78 72
会社を誇りに思う 74 56 41
 
福利厚生があるか
年金の使用者負担 68 28 20
上陸中の医療保険 74 56 41
 
訓練と技術
ここ1年間、会社が訓練機会を提供してくれた 67 40 10
技術開発を奨励されている 84 51 40
 
労働時間
毎日、連続6時間の休憩がとれる 27 8 2
週72時間以上働いている 43 84 80
 
職員についてどう思うか
情報をくれる 85 59 42
意見を言わせてくれる 79 41 24
提案に答えてくれる 77 42 27
乗組員の問題に対応してくれる 81 53 42
部員を公正に処遇してくれる 80 53 47
 
協議事項
配乗問題 38 13 9
労働慣行の変更 38 20 9
賃金問題 34 15 7
安全衛生 68 63 42
 
自分の仕事に対して影響力を行使できるか
仕事の範囲 56 36 20
仕事のペース 57 21 13
仕事のやり方 61 25 15
 
業務量、仕事関係のストレス、雇用保障
仕事がきつい 62 79 85
時間が足りなくて仕事が仕上げられない 34 57 62
休憩中も仕事のことを心配している 34 68 80
雇用は安定していると思う 70 37 29
 
賃金・肉体的な労働条件の満足度
賃金 82 73 40
肉体的な労働条件 78 44 30
 
身体的苦痛
仕事をする上で身体的な苦痛がある 9 23 24

出典:国際船員リサーチセンター(カーディフ大学)
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INDEX
ITF協約の恩恵
自動車船の労働条件に関する国際調査の結果を報告
トラックを運転する女性たち
女性のための運転技術向上プログラム
非難される救助
海難救助で船員は犠牲を強いられている
世界銀行の思惑
交通運輸改革に直面する労働組合への助言
人間らしい働き方を目指して
歴史的なゲートグルメ争議
HIV/エイズ問題の主要課題化
エイズとの闘いに組合はどれだけ成功しているのか
誰でも使える都市交通?
欧州公共サービス自由化の影響
ケニア鉄道の新たなるスタート
大量人員整理は必至
世界貿易はいつ約束を果たせるのか?
「WTOは香港閣僚会議で開発を最優先させるべき」とガイ・ライダー
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