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2006年1〜3月 第22号
■世界銀行の思惑
 
世銀主導の改革に影響力を行使しようとする労働組合は世銀の専門用語、プロセス、各国政府との関係について理解する必要があるとブレンダン・マーチンは言う。

2006年7月18日、世界銀行理事会で数百万ドル規模のあるプロジェクトが承認される見通しだ。このプロジェクトは世界最大のインド鉄道(IR)に大変化をもたらすだけでなく、他の鉄道の改革を予兆するものとなるかもしれないものだ。
ITFはこのプロジェクトが世銀理事会に諮られる1年以上も前に全インド鉄道員連盟(AIRF)に警告を発することができた。フリドリッヒ・エーベルト財団(FES)が資金提供する新調査教育事業のおかげだ。
この新調査教育事業の詳細については後で述べるとして、まずは世銀のプロジェクトについて見てみよう。というのも、世銀のこの種のプロジェクトを注視し、加盟組織の効果的な対応を支援することこそ、新調査教育事業の目的だからだ。
この10年間、世銀はインド鉄道を放っておいたが、インド側の「改革」拒否に苛立ちをつのらせた世銀は、ついに拒否しがたいオファーを突き付けた。
そのオファーとは「鉄道輸送能力・安全強化プロジェクト」に2億ドルを融資するというものだ。プロジェクトの目的は誰もが歓迎したくなるものだ。ここに世銀の関連資料を引用しよう。
このプロジェクトの目的はIRの既存の線路インフラの能力および安全性を強化することであり、以下により達成される。
(a) 運行間隔の短縮と高容量車両の導入
(b) 信号故障やヒューマンエラー(人的要因)のリスク削減
(c) 商業志向の強化と商業ネットワークに基づいた交通需要への対応
(c)が「輸送能力と安全の強化」以上を物語っていると仮定し、残りの資料を注意深く読むと、このプロジェクトが「輸送能力と安全強化」を装った民営化計画であることが判明する。
「過去のプロジェクトの教訓」と題された部分には、世銀がこれまでIRに総額25億ドル以上の融資を22回も行ってきたが、望ましい結果が得られなかったことが報告されている。
「融資によって運行・技術能力は向上したが、商業的アプローチや財務状況の大幅改善は達成できなかった。インド鉄道経営陣が改革の必要性を見出さなかったため、90年代、世銀はほとんどIRには関与しなかった」と記述されている。
しかし今、世銀は、インド政府が世銀の支持する改革を受け入れ、改革実現のためにアジア開発銀行(ADB)とも協力する用意があると確信している。
さらにこの資料は他の運輸セクターにおける変化が現在の新しい状況を生み出したと指摘し、このプロジェクトによって、世銀がいかにIRの未来に影響を与えられるかを説明している。
交通量が増え続ける中で、IRが道路輸送や自由化された国内航空輸送との競争に勝ち、ばら積み・低額貨物の輸送・ロジスティクスコストをできるだけ安く提供するためには、輸送能力の増大、サービスおよび安全基準の向上、営利事業の増加が求められている。
インド政府はインド鉄道の財務状況を懸念している。財務省も計画委員会も、貨物・旅客運賃バランスの見直しや中核的商業ネットワークへの投資増大など、必要とされる改革要素を理解している。政府はIRに対する補助金を既に削減するとともに、IRに対してADBや世銀に融資を求めるよう指導している。
ADBは改革実施のために10億ドルの融資を約束、現在、3億1千3百万ドルを実施中だ。世銀はこのプロジェクトを通じて、インド政府、IR、ADBと改革を定義・実施するための対話を行うことができる。
一方、ADBは誤解のないよう、IRに対する融資条件を詳しく説明している。対インド援助計画の中で、「インド政府とIRとの政策対話」は「IRの再編と商業化に焦点をあてた」とし、さらに次のように述べている。
プロジェクトの一環として、現在、さらに詳しい政策論議を行っている。特に組織改革(民営化または官民パートナーシップを通じた非中核業務の分離を含む)、料金体系の合理化、技術改良と近代化について検討している。
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手遅れになる前に

ここで言う「料金体系の合理化」は、世銀の言う「貨物・旅客運賃バランスの見直し」と同様、貨物運賃の引き下げと旅客運賃の引き上げを意味している。ADB、世銀とも、前者が高すぎ、後者が安すぎると考えているからだ。
恐らく彼らの考えは正しいのかもしれない。しかしだからと言って、鉄道労働者と組合の意見を無視することは全く別の問題だ。ITFの新調査教育事業の目的は、インドの鉄道労組や他のITF加盟組織が手遅れになる前に自分たちの意見を主張し、組合員のために最善の結果を勝ち取るのを手助けすることにある。
新調査教育事業には「新自由主義的な交通運輸改革に対する労組の政策と代替案の構築」という魅力的な名称がついており、次の問題を検討している。
国際金融・貿易機関が交通運輸改革、特に民営化や自由化を推し進める時の目的、手法、役割は何か?
彼らの政策が交通運輸労働者、雇用、より一般的な社会正義に与える影響は?
ITFと交通運輸労組はどのような代替策を構築できるか?またどのような組織と連携することができるか?
雇用やサービスを守るために労働組合はどうやって改革や民営化のプロセスに介入したらよいか?
この事業は3カ年で、昨年、ITF本部で立ち上げられた。今年、来年と続けていくが、私はパートタイムなので、何ができるのかを現実的に考えていかなければならない。
1年目は、世銀が交通運輸セクターで何をやってきたのかをできるだけ明確に把握し、そのプロジェクトサイクルを理解することに焦点をあてた。
これにより、重要なことがいろいろと分かってきた。例えば、あまりにも多くの世銀のプロジェクトが失敗に終わったため、世銀は今、民営化・商業化の新たな手法を模索し始めていることなどだ。
世銀は全ての交通運輸部門と電気・水道等の公益事業を一括りにし、「インフラ」担当副総裁の管轄としているが、最近、このインフラ担当副総裁に任命されたキャシー・シエラ氏は、90年代の世銀事業のほとんどが独断的だったことを認めている。
2004年、世銀は新インフラ行動計画(IAP)を採択している。また、2005年にはそのフォローアップとして交通運輸部門対象の運用ガイドラインを策定、職員にIAPの実施方法を説明している。
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関与の機会

この運用ガイドラインによると、労働組合は民営化が実施される前に、いくつかの重要な基準について世銀や政府に説明を求めることができる。例えば、貧しい人の交通アクセスや利用しやすい料金体系を維持・向上させること、環境保護等の対策をとること、適切な「制度環境」を確保すること、「お金に見合った価値」に基づく改善を持続可能なものとすることなどについてである。
また、国内状況を考慮することの重要性も認識されている。同時に、世銀が全交通運輸部門におけるさまざまな形態の民営化に引き続きコミットしていることも示されている。
例えば海運の場合、インフラは公共部門の責任としながらも、特定の機能を外注する余地を残している。大規模港湾には「地主モデル」がふさわしいとし、所有形態は引き続き公有としながらも、荷役等の機能は民営化すべきだと主張している。さらに、公共部門に雇用された荷役事業については、民営化の準備策として港湾オペレーションを商業化することを条件に、支持するとしている。
同様のガイドラインが鉄道、路面、航空部門にも存在する。ガイドラインの概要はITFのホームページ(www.itfglobal.org)で閲覧できる。ITFホームページには交通運輸部門のさまざまな民営化形態や、世銀の基本情報、特にプロジェクトサイクルに関する情報も掲載されている。
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早い段階で影響を

世銀から融資を受ける国の政策に影響力を行使したければ、世銀のプロジェクトサイクルを理解することが特に重要だ。組合は世銀のプロジェクトが既に理事会で承認された後で、その存在を知ることが多い。それではもう遅すぎる。
特定のプロジェクトについて書かれた世銀の文書を分析し(できれば草案段階で意見を反映させ)、早いうちに警告を発するのが望ましい。約3年ごとに改定される「各国支援戦略(CAS)」と呼ばれる文書にはどの部門が新規プロジェクトの対象となりそうか、どのような政策が適用されそうかなどが示されている。
その後、CASに基づいて具体的なプロジェクトが立案され、IRの所で述べたような「プロジェクト情報資料(PID)」の形で、文書として初めて、世銀から警告が出される。
われわれは世銀などの国際機関が交通運輸再編のためにしていることの情報を皆さんに提供していきたいと思っている。しかし同時に、皆さんがわれわれに情報提供することも同じくらい重要だ。これらの活動は結局のところ、教育活動だ。その目的は情報交換を促進し、われわれの分析能力を強化することで、組合員の権利、雇用、生活をいかに守るかを共に学ぶことにある。
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ITFの新調査教育事業に関して詳しく知りたい場合、情報提供したい場合は、
martin_brendan@itf.org.uk
港湾民営化で世銀が好んで用いる「地主モデル」は欧州(ロッテルダムなど)で開発された。港湾インフラは政府所有のままにし、経営・運営は長期のコンセッションに出す。9月の世銀理事会で承認される見通しのアレクサンドリア港およびエル・デハイラ港(エジプト)の民営化もこの手法で実施される。港湾拡張と人材訓練のために1億3千5百万ドルの融資付きだ。不吉なことに、同港の民営化プロジェクト文書は次のように指摘している。「一般的に見られる人員過剰の問題は、労務管理や賃金制度に柔軟性が欠けているために、さらに悪化している」
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インサイドストーリー

労働組合との対話の必要性は、今や世銀も基本的に認めている。しかし、なぜ労組との協議は必ずしもうまくいかないか。世銀の欧州・中央アジア地域部門に出向していたジェーン・バレットが分析する。

「ステークホルダー(当事者)による所有」という言葉が世銀内部でよく使われている。しかし、世銀に出向してみて思ったのは、この言葉は各国政府が正式決定を下す過程においてのみあてはまるということだ。
労働組合の関与の中身については、「改革の形態」を組合と協議する必要性を主張する世銀の文書がある。世銀のアフリカ地域民間開発上級専門家、ルーシー・フェイも最近、「再編の全段階におけるコミュニケーション」の必要性を指摘している。
世銀の港湾改革教材も港湾再編プロジェクトにおける組織労働者の早期関与を次のように主張している。
港湾改革の過程で労働者を早い段階から効果的に関与させることで、政府は多くのものを得る。労働者の貢献は、労働者が担っている以下のような重要な役割から生み出される。
港湾にとって最も価値の高い資産−訓練された人材
経験という実務知識の源
問題解決者
顧客に提供するモノ・サービスに付加価値を与えるアイデアの源
労働問題とインフラ改革に関する世銀の教材にも似たようなことが指摘されている。
協議は人員削減問題においてすら、その過程と結果を向上させる。
双方向の協議は・・・
人員削減の立案・実施に際し、当事者の経験・知識を活用する機会を与えてくれる
より現状に即した形で労働戦略を構築するための情報を提供してくれる
コミュニケーション戦略の立案、交渉の準備、労使協力的なプロジェクトの開発に関してアイデアをくれる
当事者を関与させることで、当事者の将来に影響を与える決定に正当性を与えることができる
協議は全当事者と行うべきだが、労働組合との協議は特に意味がある。というのは、組合がPPI手法(インフラへの民間参加“Private Participation in Infrastructure”)に反対するのは、PPIについて十分相談を受けていない、あるいは問題が発生してから初めて相談を受けることが多いと感じているからだ。

関与への障害

しかしこれらの一般的声明は、世銀職員に明確なガイドラインを与えるという役割を必ずしも果たしていない。明確なガイドラインが欠如しているために、世銀の職員やコンサルタントは「関与(協議、交渉、あるいは協力)の程度は各国政府の専権事項」と言い訳する。つまり、政府は世銀の顧客であるため、関与の程度に関する政府の決定は尊重すべきだと主張するのだ。
もちろんこの主張は理屈の上では正しいのかもしれない。しかし、世銀職員やコンサルタントが顧問的な役割を果たす中で、巨大な影響力を持っていることもまた事実だ。私が感じたのは、改革形態に関する早期協議を阻んでいるのは、むしろ世銀やコンサルタントの思考回路だ。
彼らは労働者や組合を資源とはみなしていない。意思決定の障害とみなしている。労組が協議に入れてもらえるのはせいぜい、改革・再編の影響、特に人員削減の最終実施に関してだろう。人員削減プロセスのどの部分を協議対象とするのかについても全く一貫性がない。
私が思うに、早期関与の欠如の問題は、世銀のプロジェクトチームの構成やチームメンバーの任務構成によってさらに悪化している。プロジェクトチームは複数の分野の専門家で構成される。鉄道改革プロジェクトの場合、財務の専門家、鉄道技術の専門家、人材開発・環境専門家等で構成される。労働組合との接触は通常、改革の影響への対応という任務を負わされている人材開発専門家か社会科学者にまかせられる。
その結果、労働組合は、その豊富な経験・知識をプロジェクトの主導者と分かち合う機会を奪われてしまう。労働者の意見が技術的な議論に反映されないため、プロジェクトの設計や実施がうまくいかなくなるのだ。
具体的な例をあげよう。ルーマニアの鉄道改革で世銀のコンサルタントを15年間務めている人物はこれまで1度も労働組合と会ったことがないし、労働者と直接会ったこともない。このような事態はプロジェクトの持続性を直接脅かすものと考える。世銀が資金提供した情報技術もうまく活用されていない。さまざまなハードウェアが設置されたにもかかわらずだ。「ヒューマン・エレメント」に答えがあるのは明らかなのに、障害に関して経営側(特に中間管理職)以外と協議しようという姿勢は、本稿執筆時点において、全く見られなかった。
インフラ改革の持続性や効率性を最大化するには協議自体を最大化する必要があるという証拠は十分にある。労働問題とインフラ改革に関する世銀の教材の中で引用されているガーナ港湾の他、南アフリカ鉄道や米国インディアナポリス市の例がそれを物語っている。もちろん、これらの協議プロセスが全ての政治状況において可能なわけではないが、だからといって、世銀とITF・ICFTUは「関与のための最善慣行」のガイドラインづくりを怠ってはならない。
一方、労働組合も批判と無縁というわけではない。改革の形態に関して協議を要求する際、相手の言うがままになったり、あいまいな態度しか示せなかったり、協議の要求そのものが遅すぎたりすることが多々ある。実際の協議の場で独立的なビジョンを示せないこともある。また、交通量、運転経費、投資条件等のデータ分析にも慣れていない。このため、世銀に改革・再編案を提示された時、世銀の理論についていけないことがある。

フォローアップの必要性

早い段階で協議が実施されたとしても、通常はプレゼンテーションの形で情報提供されるだけで、問題をお互いに解決しようというアプローチが取られることはない。プレゼンテーションに対する質問が出ても、単に質問に留意するだけで、質問への結論を導き出すために相談されることも少ない。合意事項や非合意事項が書面で記録に残されることもない。
改革に関して正式な労使交渉が行われる場合も、担当の世銀職員が交渉の詳細な報告書を要求することはない。これでは労使交渉を含むプロジェクトの記録そのものが不完全になるだけでなく、世銀のプロジェクトチーム・リーダーによる、労組関与のフォローアップやモニタリング(監視)も不適切なままに終わってしまう。
情報の透明性の問題もある。例えば、世銀職員やコンサルタントの報告書を労働組合が常に閲覧できるわけではない。また、労組との連絡・通信に関するルール・慣習は存在せず、世銀本部レベルにおいても、国レベルにおいても、世銀に対する労組の問い合わせが無視されることも珍しくない。
意思決定が政府、経営、世銀のどこで行われているのか分かりにくいことも問題だ。世銀や政府の高官らは「お互いが都合よく責任を押し付けあっている」と笑い飛ばしているが、笑いごとではすまされない。労働組合は担当者や担当の部署を見つけ出すのに苦労し、いらいらを募らせているのだから。
労働組合が複数存在する場合、競合組合は通常、協力したがらない。その結果、労組の立場が弱くなるばかりか、世銀にとっても協議プロセスが難しくなる。
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ジェーン・バレット:南アフリカ交通運輸合同労組(SATAWU)の政策調査担当役員。世銀の交流プログラムの一環として、ITFを代表して世銀に出向していた。
真の協議に向けて

世銀は当事者との協議や、会議の合意事項の記録づくりを政策に掲げるべきだ
主な労使交渉は記録を残し、モニタリングやフォローアップを行うべきだ
組合との情報交換を促進すべきだ
世銀は利害関係者の全ての問い合わせに回答すべきだ
できれば4者間協議(世銀、政府、使用者、労組)の形で、労組にプロジェクトの責任範囲や意思決定について説明すべきだ
組合が複数存在する場合、組合間で協力し、共通の見解を構築すべきだ
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INDEX
ITF協約の恩恵
自動車船の労働条件に関する国際調査の結果を報告
トラックを運転する女性たち
女性のための運転技術向上プログラム
非難される救助
海難救助で船員は犠牲を強いられている
世界銀行の思惑
交通運輸改革に直面する労働組合への助言
人間らしい働き方を目指して
歴史的なゲートグルメ争議
HIV/エイズ問題の主要課題化
エイズとの闘いに組合はどれだけ成功しているのか
誰でも使える都市交通?
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