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2006年1〜3月 第22号
■非難される救助
 
海難救助という誇り高く、きわめて重要な伝統を維持するため、船員は大きな犠牲を強いられている。

2005年9月、シチリア島の南岸沖で11人の死体が発見された。この11人はリビアからイタリアへ向けて出航した移民希望者だったと言われている。
非常に悲劇的ではあるが、珍しい事件ではない。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の調べでは、これまでリビアからイタリアへ渡る途中に溺れ死んだ難民希望者の数は2千人を超える。
しかし、彼らもまた、毎年、違法入国を目指して海を渡り、海難事故に遭遇する何千人もの犠牲者のほんの一部に過ぎない。
北アフリカと南欧の間に細長く位置する地中海には、そうした移民希望者や、最初スペイン、イタリア、ギリシアなどに渡り、そこからさらに欧州の別の国への亡命を希望する亡命希望者が多く行き交う。
しかし、国際テロへの警戒から、特に西欧諸国で保安体制が厳格化している現在、移民希望者の渡航はますます困難になってきている。こうした移民希望者の大半が最終的に密航業者の手中に落ち、密航斡旋のために金銭を支払わされた後、危険な状態にある船上に遺棄される。そこには熟練した船員もおらず、十分な燃料もなく、通信や航海用の適切な機器もないため、目的地に行くこともできない。その他、何千人という死に物狂いの人々が商船のコンテンナの中に隠れて密航しようとして自らの命を危険にさらしていると言われている。
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拒否された安全地帯

各国政府は、移民や亡命者の受け入れにはますます消極的になってきている。警察や沿岸警察による移民希望者の拿捕や、海難事故が増える中、「人道の危機」が生じているとUNHCRは言う。そして、この「危機」に直接対応しなければならない船長もまた、大きな犠牲を強いられている。
この問題が一般市民の関心を呼んだのは2001年のことだ。オーストラリア政府が、ノルウェー籍船「タンパ号」に救助された430人のアフガニスタン難民を一時的に上陸させることすら拒否したため、世界中から非難を浴びた。この事件の後、国連の海事関係局である国際海事機関(IMO)は、商船による海難救助を促進するため、海上における捜索および救助に関する国際条約(SAR条約)や海上人命安全条約(SOLAS条約)などの海事関係法の見直しを開始すると発表した。
2006年7月に発効が予定されている改正法により、締約国は、船長と協力して海難事故の生存者が安全な場所に上陸できるように努力する義務を負うことになる。しかし、何カ国がこれに調印するのか、また、救助のどの段階で安全な場所を特定すべきなのかなど、不明な点も多い。
2005年9月にアテネで開催された拿捕と救助に関する専門家会議では、IMO、UNHCR、ITFを含むその他のパートナー組織から集まった代表者がこうした問題について話し合った。
会議の参加者は、法制面でいかなる変化があっても、密航者や海難の犠牲者を救助し、上陸させた船長や船主を処罰しないことと、生存者を当該船舶の予定寄港地で迅速に下船させることを保障する実践的なシステムを導入すべきという点で合意した。また、沿岸国が船長や乗組員を救済された人々に対する責任から速やかに開放すべきだという点も合意された。
しかし、陸上で適用される明確な政策の策定や、ガイドラインをうまく機能させるための活動調整などの面で具体的な進展がなかったことにITFは落胆した。
「IMOは海難事故の被救助者の上陸のためのガイドラインを設立した。これが拘束力をもつものであれば、なお良かった。しかし、UNHCRの努力にも関わらず、難民や亡命希望者を正当に処遇することと、彼らを安全な場所に速やかに上陸させることを担保する上で必要な二国間(あるいは多国間)協定を沿岸国と欧州連合(EU)が前進させられなかったことは残念だ」と同専門家会議に参加したITFのジョン・ベインブリッジは語った。
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救済のリスク

海で人を救助すれば、商船の船員もまた、危険かつ精神的外傷を引き起こしかねない責任を急に背負うことになる。救助を円滑化するため、大型船を小さなボートに横付けする場合、通常、乗組員はライフボートに乗り組み荒波の中に出て行かなければならない。屋根つきのモダンなライフボートを積んでいるヘリの高い船が救助を行う場合、救援のプロセスはさらに困難で危険なものになる。
船員は全く知らない人間のために、こうした個人的リスクを負わなければならない。しかし、船員は、これまでこうしたリスクを、救助活動を行った結果、航行や納品が遅れたために生じる収入面での損失のリスクとともに、船員という職種にまつわるリスクとして受け入れてきた。迅速な輸送と荷役時間の短縮化がますます重視される今日、困った人を助けるという船員の人間的な直感が、深刻な経済的圧力にさらされている。
船長の身柄が港から港へとたらいまわしにされ、欧州各国の制限的な移民法の裁きを受ける中、既に自明のこうしたリスクがさらに高まっている。自らの生命をも危険にさらし、大きな危険性をはらんだ救助活動を行った船長が人身売買の罪に問われることすら起こりかねない。このような状況では、救助の精神が今後守られていくかも定かではない。
2001年のタンパ号の失態に続き発生した様々な事件の後、各国が難民や移民希望者の安全な上陸を確保できなかった、あるいは正当な亡命手続きを許可できなかった例は跡を絶たない。
2004年10月、ドイツ所有のコンテナ船、リディア・オルデンドルフ号のコンテナ内部に隠れていた2人の密航者が発見され、同船はマルタ沖で一週間拘束された。その後、次の予定寄港地、ヴァレッタ港で、貨物の積み下ろしのため係留を許可されたが、そこでも亡命希望者には上陸が許可されなかった。
この事件により、船主は貨物の納品の遅れから生じた損失を被る一方で、船内の状況は亡命希望者にとっても、また乗組員にとっても緊迫していった。その後、最終的に同船はイタリアで係留を許可された。
同じく2004年、ドイツ籍のキャップ・アナムール号(同名の援助団体が所有する)の船長が、いかだに乗って地中海を漂っていた37人のスーダン難民の救助を命じたことを理由に、一時イタリアで投獄された。
米国の新たな保安計画では、「生死に関わる」状況と判断される場合を除き、商船がいかなる移民を乗船させることも禁じられている。それどころか、移民を目撃した商船は、米沿岸警察に連絡し、移民の拿捕に協力することを奨励されている。毎年、ドミニカ、キューバ、ハイチからの何千人という移民が米沿岸警察に拿捕され、本国へ送還されている。
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責任を取る

2005年6月、デンマークのコンテナ船クレメンタイン・マースク号の乗組員は、航路を変更して主にソマリア人からなる27人の亡命希望者を救助し、UNHCRから賞賛された。救助された時、37人は地中海を1週間にわたり漂っていた。
UNHCRのスポークスマンは、「常に効率化やコスト削減を要求される時代だが、それでも今後も、船長が海上で危険な目に遭っている人々(難民であれ、いかなる窮状にある人たちであれ)を助ける手間を取ることが極めて重要だ」と述べる。
UNHCRはまた、クレメンタイン・マースク号の次の寄港地だった英国のフィーリックストウ当局が船に乗り込み、難民希望者と難民申請手続きの第1次面談をし、彼らの上陸を許可した際の迅速な行動についても賞賛した。残念ながら、このような前向きな対応は珍しい。このソマリアからの亡命希望者は幸運だった。しかし、彼らの話では、地中海に漂流していた間に複数の大型船が横を通過して行ったということだ。これらの船は彼らを完全に無視するか、あるいは、救援をよこすと約束をして姿を消した。もちろん、救援など来なかった。
人間らしい文明社会を目指すため、あらゆる人間が、経済的な問題や政治上の便宜よりも人間の生命に価値を置く環境を築いていく責任を負っている。人道的な行動を取ることにまつわる艱難辛苦が船長の頭をわずかであってもよぎるようなことがあってはならない。
こうした問題の存在が知られるようになって数年が経つが、海運産業がSAR条約やSOLAS条約を通じて幾分前進してきている今ですら、各国政府が依然として責任逃れ主義に固執していることは非常に残念だ。各国政府は、よく調整のとれた機能的な亡命希望者や移民の受け入れシステムを構築できずにいるため、責任を果たすこともできない。船員は、難民を助けても断罪され、助けなくても非難されるという非常に辛い立場に立たせられている。
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公正なシステムの構築を目指し

各国政府が二国間または多国間でやるべきこと:

海上で救助された人々の上陸を迅速に許可するための協定づくり
   
捜索・救助コーディネーターに合意に基づく手続きと適切な通信・サポート・ネットワークへのアクセスを提供する。
   
人権に関する国際的な義務と矛盾しない方法で、地域の負担分担問題に対応する。
   
捜索・救助の原則の整合性を確保するため、SOLASの捜索・救助面の改正の採択を実施する。
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INDEX
ITF協約の恩恵
自動車船の労働条件に関する国際調査の結果を報告
トラックを運転する女性たち
女性のための運転技術向上プログラム
非難される救助
海難救助で船員は犠牲を強いられている
世界銀行の思惑
交通運輸改革に直面する労働組合への助言
人間らしい働き方を目指して
歴史的なゲートグルメ争議
HIV/エイズ問題の主要課題化
エイズとの闘いに組合はどれだけ成功しているのか
誰でも使える都市交通?
欧州公共サービス自由化の影響
ケニア鉄道の新たなるスタート
大量人員整理は必至
世界貿易はいつ約束を果たせるのか?
「WTOは香港閣僚会議で開発を最優先させるべき」とガイ・ライダー
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