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2005年4〜6月 第19号
■ロシア人船員
 
ロシア人船員の未来に明るい兆し?

ロシア人船員の未来についてロアルド・アラヤクリンスキーが語る

数年前、私はロシア最北のドゥジンカ(Dudinka)港で、隣り合わせに接岸された2隻の船を眺めていた。1隻はキプロス籍、もう1隻はロシア籍だった。私はムルマンスク・シッピングの所有するこの2つの船にロシア人船員が乗り組んでいることを知っていた。
まず、キプロス籍船を訪船し、乗組員の賃金がITFベンチマーク(AB船員で月額1,300ドル)を満たしていることを確認した。次にロシア籍船を訪ねると、キプロス籍船とは状況が異なることが分かった。私はロシア船員組合(SUR)に加入するAB船員の乗組員に話を聞くことができた。この船員は4つの職業、つまりAB船員、機械工、旋盤工、ガス溶接工を、自らの知識を最大限に駆使しながらこなしていた。
「いくらもらっているのか?」と私が訪ねると、「母港のムルマンスクにいるときは500ルーブル(183ドル)、乗船中は1万ルーブル(333ドル)だ」との答えが返ってきた。
さらに、極東地域では食料や衣服が高いため、この給料で家族を養っていくのは難しいという。彼には妻と学齢期の子供が2人いて、妻も働いているが給料は彼よりもずっと低いという。
「なぜキプロス籍船に乗らないのか?それほどの資格をもっていれば喜んで雇ってもらえるはずだ」と私は尋ねた。
すると、彼は肩をすくめて、こう答えた。「船長や一等機関士に嫌われたらどうするんだ。船長が賄賂と引き換えに私を首にして別の人を雇ったらどうするんだ?実際、このようなことはたくさん行われている。失業して路頭に迷うのはごめんだ」
その後、年配の航海士に同じ質問をしてみた。「外国籍船では働きたくないね。年金もないし」と彼は答えた。
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公正を目指して

私は船を後にし、2機のクレーンの横を通り過ぎた。ドゥジンカからそう遠くない所で採掘された貴金属がこれらのクレーンで船積みされていた。そこで私はふと考えた。世界有数の鉱物資源国であるロシアの船の賃金がなぜこれほど安いのかと。旧ソ連諸国出身船員の貧しい暮らしぶりは海外のマスコミにもよく報道されているが、彼らが遠く離れた港で遺棄され、キリスト教慈善団体や現地住民の善意にすがって生き延びることを余儀なくされることも多い。
ドゥジンカ港を訪問してから2年が経過した。われわれは未だにソ連時代の過去と「資本主義の開かれた未来」の狭間に立たされている。
資本主義は確かにロシアでも繁栄している。しかし、それは文明的な資本主義ではなく、粗野で搾取的な資本主義だ。このプロセスの中で心無い船主たちが船員や漁船員を騙し続けている。
しかしプラスの動きも見られる。例えば、ロシア籍船に乗り組むムルマンスクの船員は最近、月額500ドルへの賃上げを獲得した。また、SURは現在、組合員の賃金をILO合同海事委員会(JMC)の勧告レベルまで引き上げる運動を展開している。
ゆっくりだが着実に船員の賃金は上がっている。ロシアだけではない。他の旧ソ連諸国でもそうだ。ITFが資金提供する船員福利事業(「旧ソ連諸国の港湾施設 大幅に改善」に関連記事)のおかげで、停泊中の生活条件も改善した。
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産業再生

外国で購入した船舶に対する一括税・関税が26.2%から24.2%へと若干ながら下がったため、ロシアの船社は購入船舶数を増やし始めた。つい最近もタンカー4隻がグルジアに発注された。一方、ウクライナではドナウ・黒海運河が新たに開通し、2004年8月27日から9月8日の間にウクライナ、ロシア、グルジア、トルコ、アゼルバイジャン、韓国の船舶、計136隻がここを通過している。
アゼルバイジャンの国営船社、Kasparはボルガ川沿いの有名なソルモボ造船所(ロシア)に“河川航行(sea-river)”クラスの船舶を発注している。アゼルバイジャンは旧ソ連諸国の中で唯一、FOCに船籍離脱していない国だ。
ロシアは何年も前からFOC船を自国籍船に戻す方法を探ってきたが、その方法として選ばれたのがロシア国際船舶法の制定だ。国際船舶の導入でロシア人船員の境遇は変わるのだろうか?この問いに対するロシア人船員の答えはノーだ。この法律の提案者が“第二船籍”の競争力の主要因は乗組員のコスト削減にあると公言しているのだから無理もない。
船員には彼らを悪徳船主から守ってくれる強力な労働組合が必要だ。確かに、労働組合に対する彼らの消極的姿勢(「組合加入の障壁を乗り越えて」に関連記事)など、克服すべき問題はいくつかある。しかし、最近の船員組合の統一−ニュー・ロシアとSURの統一−が示しているように、ロシア海運労働界には統合・再編の兆しがいくつか見られる。願わくは、これにより、強力で大規模な船員組合の基盤ができればと思う。
2年前、ドゥジンカの船員に別れを告げ、エニセイ川の土手の上から眼下に広がる海域を見下ろした時、シベリア北極圏の広大な土地や大陸棚のことを考えた。科学者の計算によると、世界の原油・ガス埋蔵量の少なくとも30%がここに眠っているという。
「いつの日か、世界中から何百隻もの船が鉱物資源を求めてここにやって来ることになるだろう」と私は思った。
この来るべき将来の繁栄がロシア人船員にも分け与えられることを望んでやまない。
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ロアルド・アラヤクリンスキーは国際水運労連(ICWTWU)副委員長、ロシア海運文化センター協会(ASMAR)会長、ロシア船員福利協議会(RCSW)書記を務めている。
旧ソ連諸国の港湾施設 大幅に改善

5ヵ年計画の旧ソ連諸国船員福利事業が2005年に最終年度に入った。この事業は99年にノボロシースクで開かれた国際船員福祉委員会(ICSW)地域セミナーで承認され、2000年に立ち上げられたものだ。旧ソ連地域を中心に活動する国際水運労連(ICWTWU)が運営し、ITF船員トラストが資金提供している。
この事業の一環として、バク(アゼルバイジャン)、ポチ(グルジア)、ヴェンツピルス、リエパヤ(以上ラトビア)、ムルマンスク、ノボロシースク、ナホトカ、トゥアプセ(以上ロシア)、マリウポリ、ヘルソン、ベルジャンスク、ベルゴロド−ドニエストロフスキー、オデッサ、イリチェフスク、イズマイル(以上ウクライナ)で船員福祉施設が建設または改築された。
これに伴い、この地域の全船員施設に車両、コンピュータ、電話、スポーツ設備が備わった。
施設の職員は現在、英語、IT、経営の研修を受けている。
最近、グルジアがILO第163号条約(海上及び港における船員の福祉に関する条約)に批准したほか、船員福祉のための三者構成委員会がグルジア、ロシア、リトアニアで設立された。
ヤルタ(ウクライナ)、ストックホルム(スウェーデン)、オデッサ(ウクライナ)、リバプール(英国)、トゥアプセ(ロシア)、ベニス(イタリア)の船員福祉施設間で相互訪問も行われている。
この事業の進捗状況はICSWの関連会議で詳しく議論されている。(ICSWの委員のほとんどはITF加盟船員労組の幹部。)
2002年にはオデッサとモスクワで、2003年にはトビリシ(グルジア)、ヴェンツピルスとリガ(ラトビア)で、2004年にはバクとタリン(エストニア)でこの種の会議が開催された。
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組合加入の障壁を乗り越えて

ロシア船員・漁船員の組合に対する意識が高まりつつあるとピーター・オスチャンスキーは語る。

ロシアでは船員も漁船員も組合を実利的なものとしてとらえている。本当に困ったときにだけ組合のことを思い出すのだ。例えば数年前、大型工作船「ライバク・チュコキ号」で賃金未払いが1年間も続いたとき、乗組員はウラジオストクのITF事務所に駆け込み、ITFの支援を受けるために組合に加入した。
しかし、組合が支援に乗り出し、組合に入らなかった船長を除いて、乗組員全員に未払賃金約50万ドルが支払われた後、新たに乗組員となった彼らは航海中に姿をくらましてしまった。再び賃金未払いの問題に直面すれば、組合に姿を現すのかもしれないが・・・。
レキン号やハイドゥク号の乗組員も同じだ。2年間も賃金未払いが続いていた両船の乗組員は組合に助けを求め、未払い賃金の獲得に成功したが、目的を達成した途端に組合のことは忘れてしまった。他にも多くの船員が組合に支援を求めてきたが、得るべきものを得ると、すぐに組合を去ってしまう。

組合を避ける理由
それではなぜ、船員や漁船員は組合を避けたがるのか?
2つの理由がある。第一に、中小の船社(FOCの利用が圧倒的に多い)は組合員を雇用したがらない。組合加入を禁じる不文律が存在するのだ。ロシアでは失業率が高く、船員は組合をとるか、仕事をとるかの選択を迫られることになる。
組合員であることを隠し続けることは難しい。ロシア人船員の給料は高くないが(月額300〜400ドル)、ラッシング(貨物の固縛)やホールド(船倉)の清掃、車両の揚げ積みを行ったり、日本から自動車部品を買い付けたりすることで月に800ドルも稼ぐことができる。
第二の理由は心理的なものだ。ソ連時代、問題が発生した時は組合に苦情を申し立てれば、組合が船員にとってよい形で全てを解決してくれた。もちろんこれは組合というよりは、当時、誰もが恐れていた党委員会によるところが大きいのだが。当時は党が全てだった。このような状況の下、船員・漁船員の間に社会に依存する風潮が広まっていったのだ。
しかし今日、組合に苦情を申し立てるだけでは済まない。ストに出たり、使用者を相手に訴訟を起こしたり、自分自身で行動することが求められる。しかも、行動の結果が常に自分たちのためになるとは限らない。たとえ自分たちに有利な判決が出たとしても、判決が必ず履行される保証はない。つまり、未払賃金回収のために何年間も費やしても、何も得られないまま終わることもあり得る。ロシア人船員はこういうことに慣れていない。彼らはまだ独立した強い組合を創設する段階にないため、一時的な組合加入が最も適した形であると感じているのだ。
しかし最近では、多くの船員(うれしいことに職員や船長も多い)が船に乗る前にウラジオストックのITF事務所を訪ね、どうしたらITFに加入できるのかと聞いてくる。彼らの多くがアドリアチックタンカーやミレニアムが倒産した時にITFに助けてもらったことを覚えているのだ。今や彼らは雇用契約、そして何よりも団体協約が重要であることを知っている。ゆっくりと、しかし着実にロシア船員・漁船員の組合に対する意識は高まりつつある。
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ピーター・オシチャンスキーは在ウラジオストクのITFインスペクター。
 
 
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