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2006年10〜12月 第25号
■去る者は日々に疎し
 
去る者は日々に疎し

ケイティ・ヒギンボトムはほとんど知られていない漁業における労働者の被っているひどい虐待の状況を報告する

漁業は、職場での虐待の最悪の事例の幾つかを生み出してきた。海運には、SOLAS 条約(海上人命安全条約)やSTCW条約(船員の訓練・資格・当直基準に関する国際条約)があり、二つとも世界の海運の99%以上を代表する(船腹を有する)国々により批准されているが、漁業についての同じような条約は批准にほど遠い状況となっている。
漁業はまた、便宜置籍に関する問題の影響も被っている。特に問題となっているのが、違法・無報告・無規制漁業(IUU漁業)であり、多くの無節操な船主が便宜置籍制度が提供する無名性を享受している。海洋資源評価グループ(MRAG)の計算では、全海洋でIUU漁業により毎年42億米ドルから95億米ドルの国家歳入減が、言い換えれば、世界の漁獲がもたらす価値の20%の損失がもたらされている。
枯渇した魚類資源および持続可能な漁業を確保しようとする努力に対する悪影響に加え、IUU漁船内の労働条件は、危険なほど大きく基準を下回っていることがわかっている。劣悪な労働条件に加え、しばしば農村地域から集められ、航海経験も限られている乗組員は、犯罪的な雇用者による頻繁な虐待や無慈悲な応接の犠牲者となる。
政府の率いる「公海タスクフォース」は、世界の遠洋漁業と世界の商船業を比較して、漁業は「相対的に規制がなされておらず、これら船舶を誰が所有し管理しているのかについて透明性が欠けている。漁船は範疇としては全体が、商船に適用されるIMO(国際海事機関)の多くの条約から除外される。海洋の安定、安全、人権の尊重にますます関心が高まりつつある世界にあって、この状況は異例であり、問題が多い」としている。
オーストラリア農業漁業林業省、ITFおよびWWFインターナショナルから委託された報告書−「遠洋漁業の変わりゆく姿」−では、便宜置籍がIUU漁業の隠れ蓑になっていることが明るみに出された。報告書は、大型漁船の多くが便宜置籍され、法律から逃れるか新しい漁場への利用権を得るために容易に「フラッグホッピング」(次から次へと船籍を変えていくこと)していく様子を記録している。
漁業のFOC制度は、国際漁場で漁業の保存と持続可能な管理に対し脅威をもたらしているが、それとは別に公海における漁業への公平なアクセスの問題に向けた国際的な努力を根本から台無しにすると共に人権侵害が秘密のベールの下で継続する結果となっている。
2000年10月にはサントメプリンシペ船籍のはえ縄船アムール号がケルゲルン沖の南氷洋に沈んだ。本船は、航行能力を欠いており、乗組員のほとんどは適切な雇用契約ももたず保険にも入れられていなかった。人命救助用の器具は機能せず、乗組員40人中14人が船の危険な場所に位置する船室から逃げ出すことができずに溺死した。本船は、ウルグアイ、モンテビデオ港をシルス号の名前とベリーズ船籍で出航した。海上にいる間に船名と船籍を変更、沈没したときには、違法にメロを漁獲していた。
2005年6月には、ウクライナ船籍のSimiez号がモンテビデオで疑わしい状況の下で火事を出した。11人の乗組員―中国人9人、インドネシア人1人、ウクライナ人船長―が炎に包まれ死亡した。モンテビデオ港湾当局は、乗組員はおそらく船室に鍵をかけられ閉じ込められていたと思われると報告している。
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共通の出来事―虐待

IUU船内の状況についてきちんと報告するのは困難であるが、報告書「遠洋漁業の変わりゆく姿」は人権と労働者の権利の侵害は共通した出来事であるとしている。報告書はチリの水産労働者を代表する組合SINTONERSから得たコメントを次の通り紹介している。
「IUU漁船にはしばしば雇用契約がなく、あるとしても契約書は架空の会社の名前で署名されているので、万が一労働権や人権の侵害、乗組員の拿捕、船の沈没といった事態になっても会社を探しようがない」
「IUU漁船内で“非効率的”とかトラブル屋とみなされるとその乗組員は、時に外国の港に放置されるので、帰国するには自分自身で大使館や地元船員組合、教会、援助機関に支援を求めていくしかない」
「IUU船上では身体に対するまたは心理的な虐待がよく発生する」
「場合によっては、IUU漁船で働くアジア人乗組員は強制労働につかされ、居住区に鍵をかけられて隔離されるか、鎖で繋がれている。」
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強奪

インドネシアのテュアル港はおよそ1,000人のビルマ人漁船員にとってもう二年にもわたって母国のようなものとなっている。タイ船籍の船から下船しても、これら漁船員はほとんどが旅券を持っていなかった。旅券は船主かタイの漁業会社が保管している。その結果、船員たちは地元の入国管理担当官や警備官からのゆすりの対象となる。
個別労働契約がないため適切な賃金が支払われず、よく非人道的な取り扱いの対象とされる。ビルマ人のほとんどはもともと漁民ではなく農民であり、ビルマからタイヘ逃げてきた難民である。彼らの現在の状況は、インドネシア船員組合(KPI)ガモニターしているものの、難民認定を受けていないことが障害となっている。
外国の漁業会社で働くインドネシア人も不十分な雇用契約のため法的な保護が十分得られないことが知られている。KPIが調査した別の場合は28人の漁船員がバリの代理店PTバルナ・シワで採用されミクロネシアのはえ縄漁業会社が経営するIanthe号で働くこととなった。しかし3年間の雇用期間中、全く賃金が支払われなかった。彼らは団体労働協約にも個別協約にも入っていなかった。
船員は無節操な雇用者と不十分な法的措置によって不当に苦しんでいると思われるが、最もひどい虐待の事例は漁業部門で見られる。漁業は大型工船から家族経営の小船まで幅広い操業形態を含む産業のため組織化が難しく、規制も難しい。2005年6月のILO国際労働機関総会は、漁業部門の労働に関してその条件を規制し改善することをめざした条約をわずかの票差で採択しそこなった。ILO総会は2007年5月〜6月に再度召集されるが、より良い結果が望まれるし、締約国においてはその規定の迅速な批准と実施が望まれる。
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これは、ITFロンドンの船員部会の上級調査員であるケイティ・ヒギンボトムの報告書「去る者は日々に疎し。船員、漁船員と人権」の抜粋である
事例研究
中国人漁船員、負傷

2005年9月26日、6人の漁船員が米領サモアにおいて船から逃げ出した。彼らは船長に見つかることを恐れて数日間山に隠れていた。会社の代理店から支援を得ようとしたが、何ら助言も得ることができなかった。警察からも追い出され、結局パゴパゴの船員会館に保護され、そこからITFにその苦境について情報がもたらされた。
Tunago 61号船上において乗組員が受けた身体へのひどい虐待が証言された。彼らは毎日船長と機関長である彼の弟の気まぐれにより散発的なしかし周到な打擲を受けた。銃を携行し、また船上から海へ投げ出して消すことなどわけないと豪語する船長から殺すぞとの脅しを彼らは受けていた。
乗組員の一人は鉄製の棍棒で殴られ頭に重傷を負い、おびただしい血を流している状態のまま食べ物も水も与えられずに船のへさきに閉じ込められていた。彼の罪は休暇を得て船を離れたいと願い出たことであった。
別の漁船員は仲間とおしゃべりをしていたと思われ、髪をつかまれ、繰り返し顔にパンチを食らうこととなった。まず機関長からこの攻撃を受け、それから2メートル長の厚い木の棍棒で太ももや腹、背中を叩かれた。
釣り針を海中に投げ込む前にその全てに餌をしっかりとつけることができなかったため、若い漁船員は、船長から何度も何度も顔を殴られ、そのうえ彼がデッキに倒れると頭を蹴りつけられたという。乗組員に対する懲らしめは更に続き一連の打擲が続き、結局ほとんど48時間休むことなく働かされることとなったという。

情報:パゴパゴ船員会館理事
クリストファー・エヴァンス博士
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漁船員の容赦のない搾取

2005年9月14日水曜日、10人のインドネシア人乗組員がニュージーランド、ネルソン港の港湾会社の安全柵によじのぼり、韓国籍の漁船で船齢が30年を超えたスカイ75号船上の虐待と非人道的取り扱いからの保護を求めた。
乗組員は絶え間ない言葉のまた身体への暴力と過度の長時間労働を訴えた。腐った肉と野菜とか消費期限を越えたひどい食事が与えられていた。 船室の横で毛布もなく寝ることを強要され、洗濯は甲板で立ったまま、シャワーは波の上でやれといわれたという。医薬品などの備えや防護服はなく、乗組員が挙げた一例では、仲間の一人がある機械により腕の骨を折ったが、治療もなく働き続けるよう強要されたという。
彼らの不適切で不快な労働・居住環境に加え、乗組員は2005年7月に乗船して以来、全く賃金を受け取っていなかった。各自ジャカルタのマンニング会社で職を確保するために、600米ドル以上支払っていた。船主は、彼らの月当たり200米ドルというささやかな賃金をジャカルタの代理店に支払い、これら代理店から漁船員の家族へ送金がされることを約束していた。しかし実際には支払いはなされなかった。
スカイ75号の驚くべき労働条件にもかかわらず8人の漁船員は船に留まることを選択した。“仕事斡旋料”をマンニング代理店に支払うため借金をしており、その返済に必要な資金を作らずに帰国することを彼らは恐れていたのである。

情報:ニュージランドITFコーディネーター
キャシー・ヘラン
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サルス号の恐怖の帝国

ベリーズ船籍のサルス号が2001年10月17日にデンマークのロネに到着し、本船はその後ロシア市場に売り出されるニシンの冷凍加工に使われることとなった。翌年の2月になって、乗組員から全員が船に乗って以来賃金を受け取っておらず、中には2年になるものもいることが訴えられ、ITFが関与することとなった。乗組員への賃金支払いに代えて、カリニングラードに拠点を置く船舶経営会社の専務取締役はロネに出向き暴力の脅しを示唆し、また乗組員はITFとは関係しないと宣言するよう要求された。
これは決して根拠のない脅しでなかった。7月31日、この取締役はITFインスペクターを殴りギャングウェイから突き落とそうとしたとして警察につかまった。翌日乗組員は警察に通報し、彼らが協力しなければ、新たに二人の「乗組員」が乗り込んで「彼らの肺腑を抉り、自分の血の海で泳がせるぞ」と脅されていると訴えた。
実際二人の人間が有能船員として到着した。ITF職員との話し合いから帰ると一人の乗組員はこの新入りから小突き回され、その間会社専務とボディガードが彼を船から逃すまいとした。彼は甲板上で二人の男から蹴られたり、殴られたりし、その後人目につかない船橋へ連れて行かれた。警察官が駆けつけたときに乗組員は、粘着テープで口の周りと頭を巻かれ、腕は後ろ手に巻かれ、両足はそろえてぐるぐる巻きにして貼り付けられた形で、船室の中に閉じ込められていた。彼を自由にし、ようやく呼吸ができるようになるのに5分もかかった。

情報:ITFデンマーク インスペクター
キャルタン・グドモンドソン
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漁業者のより良い生活をめざして

報告書「去る者は日々に疎し」は国連の海洋法に関する二つの会合に提出されかなり注目されることとなった。国際自由労連ICFTU代表が行った演説のまとめは「国連海洋法条約に関する締約国会議報告書」に添付されており、漁業部門における人権問題を提起しようとする努力が高い認知を受けつつあることを示している。
報告書が引き続き支持され、2007年ILO漁業条約の採択へと向かう状況に対し、船主/会社と船籍の真正な関係確立へ向け進められているキャンペーンに対し、ITFの影響が強まっていくことが望まれる。
一方、ITFの一連の戦略的優先性について漁業関係の加盟組合は、8月ダーバンのITF大会で合意した。その中には次の事項が含まれる。

団体協約の雛形の完成、非居住漁船員対策の作成等、全ての漁船員の労働・居住条件向上に向けた各国加盟組合の支援
   
ILO漁業条約の2007年における採択に向けての準備
   
便宜置籍制度の終結と船主/会社と船籍の真正な関係確立を目指した政治的キャンペーンの継続
   
インスペクターと港湾労働者に対する漁船の検査に関する訓練の開発
   
ITFとその加盟組合の漁業に対する影響拡大と国連食糧農業機関(FAO)、ILO、IMO、経済協力開発機構(OECD),国連持続開発委員会(UNCSD)などの国際機関との関係維持
   
環境的生態的要素に十分配慮した持続的漁業に関する政策の策定。漁業に関係する環境機関との連携の維持・拡大
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