2006年10〜12月 第25号 |
■TI特集 便宜港湾キャンペーン |
|
|
便宜港湾キャンペーン
ITFは2006年8月のダーバンにおける第41回ITF大会に出席した港湾労働者労組の投票を受けて、長期的・世界的な便宜港湾(POC)反対キャンペーンを正式に開始した。キャンペーンは二年間にわたって検討が進められてきたもので、その間、港湾労働者部会の正式な会合や4回の地域キャンペーンセミナーの過程で、さまざまな考えが打ち出されてきている。
キャンペーンでは、世界中の港湾において適正な基準が適用されるように、まず世界最大のグローバル・ネットワーク・ターミナル経営企業(GNTs)に焦点が当てられ、それを通して世界中の港湾のための基準作りを始めていくとしている。
ITF港湾部会部長のフランク・レイは「これは対話と協力を実行することであり、産業横断的に良好な労働条件を確保するものである。各国組合が地域において交渉をする際に依拠できる基本的な基準を設定する国際枠組み協定を我々ITFはGNTsとの間に作っていく意向である」と説明する。
この労使関係についての戦略に密接に関連して政治的戦略があり、これにより支援とコミュニケーションのネットワークが作り上げられていき、例えば熟練港湾労働者を臨時の労働者に置き換えていく非正規雇用化などの危機的状況、事件、傾向に立ち向かっていくことになる。
ITF加盟の港湾労組が、最も効果的にキャンペーンを支援しかつ受益できるようにするためにも、キャンペーンの趣旨と計画の熟知がきわめて重要である。 |
|
|
キャンペーンの目的
キャンペーンの名前は、意図的にITFの長年にわたる便宜置籍船に対する闘争にちなんだものとなっている。便宜置籍は長年、商業的な収益の見返りに基準を全般的に引き下げることにかかわってきた。キャンペーンの目的は、世界中の港湾やターミナルにおいて適正な基準の適用を確保するというものである。「便宜港湾」とか「便宜ターミナル」という言葉はそれぞれ基準に到達していない港湾とターミナルを指す。
POCキャンペーンは、次の重要な主題に焦点を当てているが、これらは加盟組合が絶えず直面する最も重要な問題であるとされてきたものである。
■ |
グローバル・ネットワーク・ターミナル経営者(GNTs)との対決 |
■ |
競争 |
■ |
民営化 |
■ |
非正規雇用化 |
■ |
労働組合権の欠如または政府や使用者によるこれら権利尊重の欠如 |
これらの問題は港湾労働者が適正な労働条件を実現するための主要な障害となっているが、明らかに相互に関連している。しかし、加盟組合の経験は地域によって異なっており、そのことから、各々の問題に対しては特定の戦略が策定され、その上でPOCキャンペーンの旗の下に統一した運動を進めていく。
これらの問題、特に民営化、非正規雇用化、労働組合権の欠如については多くの国で組合運動の分裂の大きな原因となってきた。現在我々は、会社側が支配する組合(御用組合)の設立など、弱体化した組合の乱立に直面している。POCキャンペーンは、運動を危うくするこれら諸問題に取り組むことで、港湾労働組合の運動を強化していくことを目指している。
FOCキャンペーンで長年に亘り港湾労組と海員労組が協力し合ってきたことに鑑み、POCキャンペーン促進にあたっても海員組合の支援が求められることとなろう。
ITFの港湾部会は政治的なまたは個別企業を対象とするキャンペーン活動は国際的レベルで連携調整していく。しかし、異なる地域に存在する異なった経験や優先事項に対処するためには地域レベルでの実行もまた重要である。 |
|
|
大企業を標的に
キャンペーンでは、4大企業がその支配的立場ゆえに最大数の加盟組合に対して影響を与えうることから、これら大企業に的を絞っていく。これら企業は、また業界のスタンダード・セッターでもある。しかし同時に、地域にとって重要と思われる企業にも注意が払われる。2社がPOCキャンペーンのセミナーにおいて特定された。西アフリカのボロール社と米州のSSAマリーン社である。
異なった会社に対しては対話への姿勢如何で異なった戦略が使われる。良好な労使関係のあるところでは、全世界にあるその会社の全事業における受け入れ可能な基準作りを交渉する可能性を探るためにその良好な関係が利用される。究極的にITFは会社と国際枠組み協定を締結しようとしている。対話に入るのを快く思わない企業であれば、重点的かつグローバルに連携した個別企業キャンペーンが必要となろう。
たとえば最近のP&O社のドバイ・ポート・ワールド社による買収は、労働者の条件について会社との協議に窓を開くものである。同社はいまのところ協議に積極的な姿勢を示している。買収につづき、ドバイ・ポート・ワールド社はいくつかの欧州のITF加盟組合やETFに働きかけてきている。2006年8月には、第1回の会合が持たれた。 |
|
|
それぞれのキャンペーンをいつ開始するか
GNTキャンペーンの開始は、本社がある国の組合や会社がビジネスを行っている他の港湾を代表するITF加盟組合との協議を経て港湾部会委員会が決定する。
スピードが決定的に重要であることから、GNTの連絡ネットワークが情報伝達とキャンペーン戦略の相談のために利用される。このネットワークの連絡窓口をまだ指名してない加盟組合は早急に行うことが重要である。 |
|
|
キャンペーンの優先事項
我々の優先事項は一般的に次の通りである。
1) |
団体協約(CBA)がある場合には、これらを尊重させること、また進行中の団体交渉に真剣に取り組ませること |
2) |
団体協約がないか組合が承認されていない、または反組合方針が採用されている場合には、結社の自由及び組合の承認と団体交渉権の尊重を求め、港で活動している加盟組合のどこかとまず対話するよう会社側に呼びかけること |
3) |
国際枠組み条約の締結について、会社のグローバルな経営責任者と話し合うこと、このことはまた、加盟組合がまだないターミナルにおける組織化を容易にする |
|
|
|
主要地域
貿易経路上の戦略的な位置という面から見て、また地域の発展がグローバルな組合強化に与える影響の強さから見て、緊急の行動が必要とされる主要地域が何ヵ所か特定されている。
これら小地域とは、北東アジア、バルト海地域、インド亜大陸、米国西海岸である。港湾部会は、戦略をつくり活動を引っ張るプロジェクト・グループを設立するため、ITF地域事務所と連携しつつ、可及的速やかにこれら地域の組合と協議を持つ予定である。
主要な海運貿易ルートと運輸回廊における労組の力を最大限に利用するため、これら小地域とつながる主要航路上にある中心港を組織する組合からも参加が呼びかけられる。
未組織港は賃金や労働条件を引き下げる圧力になることから、組織化もまたこれら小地域における重要な戦略の一つである。
ITFは香港において、同国内の組合と協力しながら組織化の機会を特定する作業にとりかかっている。もっと一般的にいえば、コミュニケーション、協力、連帯は全ての地域の競合しあう港で組織化されている組合と組合との間で強化されていく必要がある。 |
|
|
民営化
加盟組合は民営化に関して次の三点に懸念を抱いている。
1) |
港湾リストラとその労働者側への影響―特に人員節減、賃金・労働条件への影響 |
2) |
組合のある港湾と競合相手となる未組織労働者の使用 |
3) |
組合の排除または弱体化 |
世界銀行民営化計画に対抗するITFの実践的指針は、組合が可及的速やかにキャンペーンと対応策を準備していく際に助けとなる。組合が一連の過程から除外されたときに協議を求めていく際や、改革が進行中の港湾で介入を求めていく際に、指針で特定された諸機会が利用できる。
民営化への対応は国別に行われる必要があるが、地域による支援も多くの組合を助けることができるだろう。民営化に対抗して成功裏にキャンペーンを行ってきた経験というのは幅広く利用されるべき貴重な資源である。
新たな市場の提供を意味することからグローバル・ネットワーク・ターミナルは民営化の積極的な推進者となっている。地域のいくつかでは、民営化の過程は組合排除を容易にする手段の一つとみなされている。企業別組合や、港の全労働者ではなく特定の種類の港湾労働者のみを組織化している組合は特に危機的状況にある。国によっては、その企業がなくなった場合、企業別組合は法律によって存在できなくなる場合もある。
このような脆弱性を減らすため組合によっては、例えば代表する対象を単なる個々の企業内の労働者という状況から全ての港湾労働者に拡大していくなど、制度改革が必要である。幅広い労働者を代表していることは、港の民営化策の一環として組合員労働者が非組合員労働者に置き換えられていくリスクを減らすのにも役立つ。
組合の多数乱立、組合間の競争、弱い組合組織というのも対応しなければならない問題点として特定されてきた。組合の結束と協力、非組合員の組織化は重要な手法であり、特に一つの労働者のグループを使って他のグループの利益を損なうというような事態を避けるために重要である。 |
|
|
非正規雇用化
多くの組合が非正規雇用化を重要問題と見なしているが、非正規雇用化というのは広い意味を持つ言葉である。加盟組合の間において非正規雇用化が何を意味するのかより明確な理解を共有しておくことが必要である。更に自由化や規制緩和を求める論調に対抗していくため、非正規雇用化が安全、雇用安定、社会的水準、生産性に対して与える悪影響について、しっかりした証拠をもつことが必要である。
民営化同様、地域機関や国際機関と連携する戦略も必要である。 |
|
|
労働組合権
労働組合権の欠如やその実行が不十分であることは、依然、多くの国の組合にとって大きな課題である。加盟組合のかかえる懸念事項としては次がある。
■ |
団体交渉権に対する尊重の欠如と協約の不実行 |
■ |
正当な組合承認の欠如と御用組合のでっち上げ |
■ |
適正な労働条件の拒否 |
ITFは国際産別書記局(GUFs)、国際自由労連(ICFTU)と協力して、労働者の利益のため国際的労働基準の批准と実施を促進する国際的キャンペーンの強化に取り組んでいく予定である。
ILO結社の自由委員会や国連人権委員会へ訴える手続きも、適切な状況下で利用されることとなろう。
加盟組合による国内キャンペーンを支援していく地域および国際的なレベルの連携も改善していく必要がある。ITFはその訓練教育計画の中に、戦略的キャンペーン技術の訓練を取り入れていくことでこれを支援していく。
問題への対応を進めるため、幅広い同盟関係を他の労働組合機関や可能であれば人権団体との間であらゆるレベルで樹立できるようその可能性を模索することとなろう。 労働組合権に向けてのキャンペーンは、ILO137号条約の批准と実施の促進を求めることにもなる。
|
|
|
より良い基準への一歩とは
■ |
港湾やターミナルが組合に組織化されている場合、組合の力を維持していくこと |
|
|
■ |
内陸部やドライポートをも含む港湾において非組合員労働者の組合への組織化 |
|
|
■ |
国レベル、地域レベル、国際レベルでの組合民主主義、結束、連帯の強化 |
|
|
■ |
教育訓練を通じた組合の能力増強 |
|
|
■ |
組合員の意識改革 |
|
|
■ |
業界内の重要な動きとその港湾に対する影響の追跡 |
|
|
■ |
他の交通運輸組合との協力、特に船員組合との協力は決定的に重要 |
|
|
|
国際枠組み協定
ITFがGNTsとの間で結ぶ全ての国際枠組み協定(IFA)は、少なくともILOの基本8条約に定める中核的労働基準を含むものである。
■ |
結社の自由に関する第87号条約 |
|
|
■ |
団結権及び団体交渉権についての第98号条約(この中には、使用者側が組織化活動を阻むことを防ぐ中立条項が含まれねばならない) |
|
|
■ |
強制労働に関する第29号及び第105号条約 |
|
|
■ |
差別待遇に関する第111号及び第100号条約 |
|
|
■ |
児童労働に関する第138号及び第182号条約 |
国際枠組み協定(IFA)にはまた、例えば機会均等条項及び労働時間、適正な賃金とは何か、職業上の健康・安全・安定及び職業的基準に関するその他一般条項が含まれる。その上、協定の一項目はそっくり実施の手段に充てられねばならず、監視と違反を網羅するほか、毎年の実施ぶりの見直しと報告手続きを組み込んでいく。
IFAは、そもそも組織化の障害を取り除くという意味合いで関係組合に真の利益をもたらすために作られるのでなければ価値は全く無い。
IFAは会社側と関連加盟組合を代表するITFとの間で締結される。そこでは会社の活動のすべてに適用される幅広い最低適正基準のみを定める。各職場における会社固有の基準協約を交渉し締結していくのは、各組合の仕事となる。 |
|
|
|