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グローバルユニオン

No.21/2007
■海上における人権保護
 
去るものは日々に疎し

船員は、最も搾取され、酷使されている労働者グループである。ところが彼らの実態が、大手マスコミや世論に取り上げられることは滅多にないとITFの新報告書「去るものは日々に疎し」は報告する。

筆者:マーティン・ホイットフィールド

海運産業は、世界で最初のグローバル産業であった。近代的ロジスティックスや流通チェーン管理が創出される遥か以前から、船員たちはグローバル化の明確な影響に気付いていた。
船員以外の人々にとっては、港への散策は国際的な雰囲気を楽しみ、入港船舶の船首に記された船名にエキゾチックなイメージをふくらませる機会でもある。船舶乗組員の国籍もさまざまで、それぞれが豊かな文化を持った国々である。
しかし、船員の大部分がよく知っている通り、誇りを持って世界の海洋を航海し、訪問先の各地の港で歓迎されるロマンチックな船員生活のイメージは作り話にすぎない。
海運は巨大な産業である。世界の貿易物資の90%以上(重量)が海上輸送に依存している。流通チェーン管理は単なる経済理論ではない。具体的に言えば、コンテナが中国の工場を出発した瞬間から、そのコンテナが欧州または米国に到着して開かれる日までの経路を追跡することを意味している。石炭、鉄鉱石、鉄鋼、自動車、紙、セメント、石油及びガスなどが消費者のために海上を縦横に輸送されている。
当然のことながら、これらの船舶乗組員の就労方式や労働条件は、たまたま発生した大きな海難事件あるいは広範な海洋汚染事故などが社会の関心の的となる場合を除いて、人々の目に触れることは極めて少ない。このような場合でも、マスコミの注目を集めるのは、油にまみれた海鳥のドラマチックな救助活動である。
けれども、このような光景の背後に存在している現実は、凄まじいまでの搾取や虐待と違法・腐敗行為と呼べるものである。海上労働者の人命は、多国籍資本主義の末端に置かれており、最小限の規制と名目だけの道徳原理のもとに放任されているのが、自由市場である。
国連の海事関係会議に向けてITFが作成し、提出したある背景説明資料は、船員が恒常的に直面している問題の概要を提示している。
その一つは、ITFが関知している約20件の船舶乗組員の遺棄事件である。これらの船員は、祖国から遠く離れた他国の港湾に置き去りにされている。世界にはITFインスペクターが配置されていない港湾が多数あることは言うまでもない。これらの船員の乗組む船舶で、多額の費用を要する大規模な修理が必要になる故障が発生したためや、船舶の抱える負債がその船舶をスクラップとして売却した価値を上回るなどの理由などから、船主が倒産した事例もある。海運が好景気にあると言われている現在でさえも、このような船員遺棄事件が発生しているのである。海運が不況ともなれば、遺棄はずっと増えると思われる。
カリブ海の島国セントキッツ・ネービスに船籍を登録した船齢35年の錆だらけの老朽船アル・マラナ号は、ソマリアとアラブ首長国連邦を結ぶ航路を運航していたが、2006年にエンジン故障のため航路を外れ、18日間にわたって漂流したのちセーシェルの港湾当局によって救助された。この船舶は有効な証明書は全く持っていなかったうえに、多数のネズミとゴキブリが住み着いていた。インド、ビルマ、ソマリア、イラク、ウクライナ、スーダン及びエチオピアの多国籍乗組員は、7ヶ月前から賃金は未払いとなり、しかも食料の供給も絶たれていた。

この事件は、困難な立場に置かれた船員に共通する問題を際立たせている。すなわち、陸上労働者に比べて、船員の法律上の立場は極めて複雑なものとなる。第二次大戦後、船舶を船主の国籍ではない第三国に登録する方式が一般的な慣行となった。1930年代、米国の船主は、禁酒法を回避するため「便宜置籍制度」を利用したが、今ではこの方式が世界に普及し、世界船腹量の過半数がこの方式を利用している。
「便宜置籍船制度」の一つの問題点は、船主が船籍国内に財産を所有していない場合には、船主の不正行為を発見しても、船籍国政府には船主を追跡調査する手段がないことである。米ドルなどの信用力の高い通貨を稼ぐ手段として自国への船籍登録を促すような国々の法律制度は、旗国の法制度に全面的に依存せざるを得ない立場にある船員の権利を保護する上で全く役に立たない。
この種の船籍国は、国際規則や労働規則を回避し、最低の登録料や低い税率を探し求める船主にとっては、極めて「便宜的」かつ「魅力的」な存在である。
船員が未払い賃金や粗悪な食料あるいは非人間的な居住設備に苦しみ、祖国から遠く離れた港において船主から遺棄されたとすれば、船員は一体誰を頼ればよいのだろうか?船籍国は多くの場合、船員に救助の手をさしのべる意志もなく、責任を取る能力もない。船員の出身国の政府が介入する場合もあるが、それは近くに大使館があり、乗組員を支援するための人手と資金が存在する場合に限られる。要するに、選択肢は限られており、最善の道は、ITFインスペクターのような労働組合代表か船員ミッション(キリスト教系NGO)関係者またはその他の厚生組織関係者へ連絡することである。
このような船員特有の弱い立場は1920年代から認識されており、国際労働機関(ILO)は船員のために特別の会議を開催し、特別の条約/規則等を策定してきている。これらの条約/規則等は、居住設備、供食、医療、労働時間及び上陸などを扱っている。船員は、一回の勤務につき数ヶ月間を、小グループの仲間とともに海上で過ごし、船内は職場であるとともに居住する場所でもあるために、人一倍大きなストレスのもとにあることも理解されている。
国際規則では、この他、海上の人命安全、屈辱的処遇の禁止、労働組合への加入権などが規定されている。しかし、国際条約は国内法に組み入れられ、順守・徹底されなければならない。便宜置籍船制度は、規制を逃れることを目的に設立されている事実を考慮するならば、船員の搾取や虐待に関与した船主は、完全な避難所を持っているといえる。
極端なケースでは、このような便宜置籍制度が犯罪の隠蔽に利用されている。水産業においては、世界の総漁獲量の20%に達していると推定されている違法漁業が深刻な問題となっている。この違法漁業の中心的役割を担っているのが便宜置籍(FOC)制度である。違法操業に関与している人々は、自らの船舶の痕跡を消すために、FOC制度を徹底的に利用し、航海中に船籍国を何度も変更することがある。このような企業経営者が乗組員の福祉に関する規則を無視したとしても、驚くにはあたらない。基準以下の漁船には、大抵、未経験の船員が乗組んでおり、肉体的な虐待の被害者となることが多い。

ITFの報告書は、6人の中国人漁船乗組員が米国領サモアで漁船から脱走した経緯を述べているが、これらの中国人乗組員は、意図的な殴打、休憩時間なしの長時間労働及び食物や飲み水を与えない懲罰などを受けていたとのことである。
デンマークのレン港では、ベリーズ船籍の冷凍漁船のロシア人乗組員が、船主が船内に送り込んだ2人の暴漢から暴行を受けたが、その原因は、ロシア人船員たちが2年間も賃金が支給されないことに苦情を申し立てたことであった。
暴力や搾取の脅威や圧力がない場合でも、長期間の海上生活のなかで厳しい日常業務をこなさなくてはならない船員の職場では、過酷な集中力が要求される。コンテナクレーンの能力が向上し、以前は数日間を要した船舶の荷役作業が現在では数時間にまで短縮され、船舶の入港と出港の間隔はますます短くなってきている。
2001年9月11日以来、強化された保安措置によって、とりわけ米国で上陸が許可されることが少なくなっている。最大の船員供給国であるフィリピンの船員に関する調査によれば、過去12ヶ月間に上陸が不許可となった経験を持つ船員は、70%に達している。この影響で彼らは、家族に電話連絡をする機会を失うとともに、乗組員仲間以外の人々と会うこともできなくなっている。
船員の働く環境を改革し、改善するために幾つかの試みが行われたが、船員の福祉についての懸念よりも、経済性を優先させる考え方によって妨害されるため、このような試みは実を結んでいない。見過ごしてはならない事実は、大多数の船員の出身国は、国力の弱い貧しい国々であり、大多数の船舶を所有または支配しているのは、強い影響力を備えた先進工業国に所在する船主であるという点である。
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筆者のマーティン・ホイットフィールドは、運輸産業及び労働問題が専門のジャーナリストである。
中国人漁船員、負傷

2005年9月26日、6人の漁船員が米領サモアにおいて船から逃げ出した。彼らは船長に見つかることを恐れて数日間山に隠れていた。会社の代理店から支援を得ようとしたが、何ら助言も得ることができなかった。警察からも追い出され、結局パゴパゴの船員会館に保護され、そこからITFにその苦境について情報がもたらされた。
ツナーゴ61号船上において乗組員が受けた身体へのひどい虐待が証言された。彼らは毎日船長と機関長である彼の弟の気まぐれにより散発的なしかし周到な打擲を受けた。銃を携行し、また船上から海へ投げ出して消すことなどわけないと豪語する船長から殺すぞとの脅しを彼らは受けていた。
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ハイジャックか?それとも遺棄か?

タンカー「アラビアン・ビクトリー号」のインド人およびウクライナ人乗組員が食糧、水、燃料を与えられないまま、40度の暑さの中、45日間もドバイに遺棄されたままであった。
船長は繰り返し、物資の補給を求めたが、聞き入れられなかった。また、現地の港湾局や警察からの支援も求めたが、無駄だった。唯一、食糧と水を供給し、救いの手を差し伸べたのがドバイのミッション・ツー・シーフェアラーズだった。
最終的に、船長は48時間のうちに救助がなされないのであれば、インドまで航行を続け、最初に行き着いたインドの港湾で援助を求める旨船主に警告し、48時間の期限が過ぎた後、ミッションから供給された物資と燃料を利用して、航行を開始した。
しかし、ムンバイ港に到着しても同船の入港は認められなかった。乗組員が船をハイジャックしたと船主側が触れ込んでいたからだ。ケララ高等裁判所において、ITFはアラビアン・ビクトリー号が後にコチ港に停泊することができ、そこでインドの湾岸警察の査察を受けたこと、乗組員は飲み水も食糧もなく、ひどい健康状態であったことが判明したことなどを述べた。
船員は海上で劣悪な状況に置かれただけでなく、賃金も未払い(総額25万米ドル)だった。乗組員は未払い賃金獲得のため、アラビアン・ビクトリー号を1千万米ドルで抵当に入れたクウェート銀行を相手に闘い、船舶が売却された場合はまず船員が第一に賃金を回収する権利があると主張した。結局、船舶の売却益から船員が賃金を回収するまでに一年かかった。
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容赦のない搾取

2005年9月14日水曜日、10人のインドネシア人乗組員がニュージーランド、ネルソン港の港湾会社の安全柵によじのぼり、韓国籍の漁船で船齢が30年を超えたスカイ75号船上の虐待と非人道的取り扱いからの保護を求めた。
乗組員は絶え間ない言葉による、また肉体的な暴力と過度の長時間労働を訴えた。腐った肉や野菜、消費期限を越えたひどい食事が与えられていた。船室の横で毛布もなく寝ることを強要され、洗濯は甲板で立ったまま、シャワーは波の上で浴びろといわれたという。医薬品などの備えや防護服はなく、乗組員が挙げた一例では、仲間の一人がある機械により腕の骨を折ったが、治療もなく働き続けるよう強要されたという。
彼らの不適切で不快な労働・居住環境に加え、乗組員は2005年7月に乗船して以来、全く賃金を受け取っていなかった。各自ジャカルタのマンニング会社で職を確保するために、600米ドル以上支払っていた。
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賃金はもらえず、投獄され

キャップブレトン1号の乗組員は、船舶がフランスの企業からナイジェリアの企業に買収された際、乗船を続けるという誤った判断をしてしまった。
船の売却後、最初の1年間は賃金が支払われず、2003年7月、同船はナイジェリア水域で必要な認証や証明書を保持していなかったために拘留された。
乗組員は、問題が解決されるまで船に残るよう船主から説得されたが、その後、飲み水、食糧、燃料が絶え、遺棄された。船員たちがそれでも船に残ったのは、コートジボワ−ル、ベニン、トーゴ、ブルキナファソなどの各国に送還される前に、未払い賃金を確保したかったからだ。乗組員は地元のマスコミに自らの窮状を訴えるのに成功し、英国のイギリス放送協会(BBC)も彼らについて取り上げた。
しかし、半年後、乗組員は逮捕され、事態は悪化した。破壊されたパイプラインから非合法に採取された石油を輸送したかどで投獄された。
家から遠く離れた監獄に囚われ、金もなく、乗組員らは治療費や裁判所までの交通費さえ、援助に頼らざるを得なくなった。法廷闘争のため、乗組員は1年9ヶ月もの間獄中で過ごす羽目になり、この間、ITFが支援を続けた。彼らは最終的に、2005年11月に未払い賃金の一部と自宅までの旅費を獲得し、解放されたが、投獄に関して慰謝料も謝罪も受けていない。
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サルス号の恐怖の帝国

ベリーズ船籍のサルス号が2001年10月17日にデンマークのロネに到着し、本船はその後ロシア市場に売り出されるニシンの冷凍加工に使われることとなった。翌年の2月になって、乗組員から全員が船に乗って以来賃金を受け取っておらず、中には2年になる者もいることが訴えられ、ITFが関与することとなった。
乗組員への賃金支払いに代えて、カリニングラードに拠点を置く船舶経営会社の専務取締役はロネに出向き暴力の脅しを示唆し、また乗組員はITFとは関係しないと宣言するよう要求された。これは決して根拠のない脅しでなかった。7月31日、この取締役はITFインスペクターを殴りギャングウェイから突き落とそうとしたとして警察につかまった。翌日乗組員は警察に通報し、彼らが協力しなければ、新たに二人の「乗組員」が乗り込んで「彼らの肺腑を抉り、自分の血の海で泳がせるぞ」と脅されていると訴えた。
ITF職員との話し合いから帰ると一人の乗組員はこの新入りから小突き回され、その間会社専務とボディガードが彼を船から逃すまいとした。彼は甲板上で二人の男から蹴られたり、殴られたりし、その後人目につかない船橋へ連れて行かれた。警察官が駆けつけたときに乗組員は、粘着テープで口の周りと頭を巻かれ、腕は後ろ手に巻かれ、両足はそろえてぐるぐる巻きにして貼り付けられた形で、船室の中に閉じ込められていた。
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2006年にITFが発行した報告書「去るものは日々に疎し」では、下に紹介されているような船員の人権侵害の最新例が詳細に報告されている。報告書の全文(英語のみ)は www.itfglobal.org/infocentre/pubs.cfm/detail/2259 からダウンロードできる。
眉唾物のビジネス

海上における最悪の人権侵害は水産業に見られるとケイティー・ヒギンボトムは述べる。

漁業は、職場での虐待の最悪の事例の幾つかを生み出してきた。海運には、SOLAS 条約(海上人命安全条約)やSTCW条約(船員の訓練・資格・当直基準に関する国際条約)があり、二つとも世界の海運の99%以上を代表する(船腹を有する)国々により批准されているが、漁業についての同じような条約は批准すらほど遠い状況となっている。
漁業はまた、便宜置籍に関する問題の影響も被っている。特に問題となっているのが、違法・無報告・無規制漁業(IUU漁業)であり、多くの無節操な船主が便宜置籍制度が提供する無名性を享受している。海洋資源評価グループ(MRAG)の計算では、全海洋でIUU漁業により毎年42億米ドルから95億米ドルの国家歳入減が、言い換えれば、世界の漁獲がもたらす価値の20%の損失がもたらされている。
枯渇した魚類資源および持続可能な漁業を確保しようとする努力に対する悪影響に加え、IUU漁船内の労働条件は、危険なほど大きく基準を下回っていることがわかっている。劣悪な労働条件に加え、しばしば農村地域から集められ、航海経験も限られている乗組員は、犯罪的な雇用者による頻繁な虐待や無慈悲な対応の犠牲者となる。
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無規制の漁業

政府の率いる「公海タスクフォース」は、世界の遠洋漁業と世界の商船業を比較して、漁業は「相対的に規制がなされておらず、これら船舶を誰が所有し、管理しているのかについて透明性が欠けている。漁船は範疇としては全体が、商船に適用されるIMO(国際海事機関)の多くの条約から除外される。海洋の安定、安全、人権の尊重にますます関心が高まりつつある世界にあって、この状況は異例であり、問題が多い」としている。
オーストラリア農業漁業林業省、ITFおよびWWFインターナショナルから委託された報告書―「遠洋漁業の変わりゆく姿」―では、便宜置籍がIUU漁業の隠れ蓑になっていることが明るみに出された。報告書は、大型漁船の多くが便宜置籍され、法律から逃れるか新しい漁場への利用権を得るために容易に「フラッグホッピング」(次から次へと船籍を変えていくこと)していく様子を記録している。
漁業のFOC制度は、国際漁場で漁業の保存と持続可能な管理に対し脅威をもたらしているが、それとは別に公海における漁業への公平なアクセスの問題に向けた国際的な努力を根本から台無しにすると共に人権侵害が秘密のベールの下で継続する結果となっている。
2000年10月にはサントメプリンシペ船籍のはえ縄船アムール号がケルゲルン沖の南氷洋に沈んだ。本船は、航行能力を欠いており、乗組員のほとんどは適切な雇用契約ももたず保険にも加入していなかった。人命救助用の器具は機能せず、乗組員40人中14人が船の危険な場所に位置する船室から逃げ出すことができずに溺死した。本船は、ウルグアイ、モンテビデオ港をシルス号の名前とベリーズ船籍で出港した。海上にいる間に船名と船籍を変更し、沈没したときには、違法にメロを漁獲していた。
2005年6月には、ウクライナ船籍のシミーズ号がモンテビデオで疑わしい状況の下で火事を出した。11人の乗組員―中国人9人、インドネシア人1人、ウクライナ人船長―が炎に包まれ死亡した。モンテビデオ港湾当局は、乗組員はおそらく船室に鍵をかけられ閉じ込められていたと思われると報告している。
IUU船内の状況についてきちんと報告するのは困難であるが、報告書「遠洋漁業の変わりゆく姿」は人権と労働者の権利の侵害は併発しているとしている。報告書はチリの水産労働者を代表する組合SINTONERSから得たコメントを次の通り紹介している。
「IUU漁船にはしばしば雇用契約がなく、あるとしても契約書は架空の会社の名前で署名されているので、万が一労働権や人権の侵害、乗組員の拿捕、船の沈没といった事態になっても会社を探しようがない」
「IUU漁船内で“非効率的”とかトラブル屋とみなされるとその乗組員は、時に外国の港に遺棄されるので、帰国するには自分自身で大使館や地元船員組合、教会、援助機関に支援を求めていくしかない」
「IUU船上では身体に対するまたは心理的な虐待がよく発生する」
「場合によっては、IUU漁船で働くアジア人乗組員は強制労働につかされ、居住区に鍵をかけられて隔離されるか、鎖で繋がれている」
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強奪

インドネシアのテュアル港はおよそ1,000人のビルマ人漁船員にとってもう二年にもわたって母国のようなものとなっている。タイ船籍の船から下船しても、これら漁船員はほとんどが旅券を持っていなかった。旅券は船主かタイの漁業会社が保管している。その結果、船員たちは地元の入国管理担当官や警備官からのゆすりの対象となる。
個別労働契約がないため適切な賃金が支払われず、よく非人道的な取り扱いの対象とされる。ビルマ人のほとんどはもともと漁民ではなく農民であり、ビルマからタイヘ逃げてきた難民である。彼らの現在の状況は、インドネシア船員組合(KPI)が見守っているものの、難民認定を受けていないことが障害となっている。
外国の漁業会社で働くインドネシア人も不十分な雇用契約のため法的な保護が十分得られないことが知られている。KPIが調査した別の場合では、28人の漁船員がバリの代理店PTバルナ・シワで採用され、ミクロネシアのはえ縄漁業会社が経営するランテ号で働くこととなった。しかし3年間の雇用期間中、全く賃金が支払われなかった。彼らは団体労働協約にも個別協約にも入っていなかった。
船員は無節操な雇用者と不十分な法的措置によって不当に苦しんでいると思われるが、最もひどい虐待の事例は漁業部門で見られる。漁業は大型工船から家族経営の小船まで幅広い操業形態を含む産業のため組織化が難しく、規制も難しい。
2005年6月の国際労働機関(ILO)総会は、漁業部門の労働に関してその条件を規制し改善することをめざした条約をわずかの票差で採択しそこなった。ILO総会は2007年5月〜6月に再度召集されるが、より良い結果が望まれるし、締約国においてはその規定の迅速な批准と実施が望まれる。
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次の段階

2006年8月のITFダーバン世界大会では、ITFに加盟する水産組合が戦略的優先事項に合意した。これには以下が含まれる:
全ての漁船員の労働条件、生活条件を強化するために各国で闘っている組合を支援する。
便宜置籍(FOC)システムの廃止を求め、船主・船社と旗国の「真正な関係」を求める政治的キャンペーンを継続して行う。
環境、生態系に配慮する持続可能な水産業に関する政策を策得地する。水産業関係の環境保護団体との協力関係を維持・拡大する。
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ケイティー・ヒギンボトムはロンドンを拠点とするITF水産部会の上級研究員。報告書「去るものは日々に疎し」の著者。
 
 
INDEX
ニュース
世界で見られる動向とFOCキャンペーン
海上における人権保護
船員や漁船員が最も搾取されているのはなぜか
隠れる場所などどこにもない
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ITFインスペクター
インスペクターの連絡先リスト
情報
EQUASISについて
海運産業概観
世界の商船隊
日記
ポーランド人船員の苦難
契約にサインする前にこれを読もう
船員に勧めるITFのアドバイス
HIV/エイズ
沈黙の壁に向かって
労働供給
フィリピンは世界の船員需要増に応えることができるのか
港湾労働者
グアテマラの港湾労働者の殺害
ストライキ
公正な賃金を獲得するまでの30時間
健康のために
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