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グローバルユニオン
No.21/2007
■ストライキ
 
正当な賃金を勝ち取るまでの30時間

乗組員全員の勇気と日本、メキシコ、米国の連携によって、シーマ号乗組員は、ITF協約と正当な賃金を獲得した。ITFインスペクターのステファン・ミュラー・ドムボアが報告する。

2006年の初め頃、私のところに日本の山下昭治ITFコーディネーターからパナマ船籍のシーマ(SHIMA)号の日本人船主に対する警告書のコピーが送られてきた。その年の9月には、メキシコのインスペクター・オノリオ・ガルバンから、もう一通のシーマ号に宛てた警告書の写しを受け取った。私の担当するロサンゼルス/ロングビーチ港に本船が入港した際、訪船したことがあったため、この船を知っていた。今度こそ船主に最終警告を送るべき時が来たと私は決意した。
本船の乗組員の生活条件には問題はなかったが、AB船員はUS$590(米ドル)、普通船員(OS)はUS$305(米ドル)であり、賃金水準は極めて低かった。
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乗組員との協議

乗組員との連絡により次回の入港日時を確認し、2006年12月16日の正午頃、私は本船を訪問した。乗組員との話し合いのなかで、彼らの賃金水準が低いこと、ITF協約が適用された場合には、賃金水準が改善されることを説明した。また、船主との労使紛争となった場合に発生し得る問題点などについても協議を重ねた。どのような事態になっても、最後まで彼らと共に戦うことを私は約束した。最悪のシナリオに直面する恐れもあった。それは会社側が現在の乗組員全員を解雇し、交替の乗組員を飛行機で呼び寄せる可能性であった。
この段階で、乗組員同志で十分話し合いをさせるために、私はコーヒーを飲みに行くと言って船を離れた。午後4時頃に再び訪船すると、彼らはITF協約の調印と適用を要求することを確認していた。私は山下コーディネーターにその旨を連絡した。週末にも連絡ができるように、山下コーディネーターから携帯電話の番号を聞いていた。また、米国西岸地域コーディネーターのジェフ・エンゲルスとの連絡もその都度行っていた。
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土曜日の17時―争議の開始

乗組員は私に、彼らの代表として船長と話をするよう求めた。私は船長と面会し、乗組員が正当な賃金を要求していること、可能ならば、ITF協約の適用を求めていることを説明した。また、船長が必要と考えるすべての関係者、即ち船主、用船主、オペレーター、管理会社などに、現在の状況を周知するよう求めた。
それから私は、港湾国検査(PSC)の責任者の自宅に連絡し、本船に労使紛争が発生していることを通知した。米国沿岸警備隊(コーストガード)はPSC査察官2名を本船に派遣した。PSC査察官は船長及び一部の乗組員と話し合ったのち、「安全航海に不適当」であるとの欠陥通告を行った。これが今回の紛争における決定的瞬間であった。異議を唱えた僅か数人の乗組員のために、本船は法定の安全乗組定員を満たすことができなくなったのであった。
船長は争議の指導者や関係者の氏名を知らせるよう要求したが、査察官は極めて公正に振る舞い、個人に関する情報は法律によって保護されていると回答した。このような状況によって、乗組員は保護されるとともに、極めて有利な立場を獲得した。乗組員たちは、利益を守るために、争議の関係者を匿名のままとすることを決定し、私はこの決定を支持した。
私は本船のバース(停泊位置)に次の船が到着する時間を確認するため、ターミナル管理者に電話した結果、次の船舶は、翌日18時にバースに到着する予定であることが判明した。このことは、ターミナル管理者が本船にバースを明けるために移動するようあと24時間以内に要求してくることを意味している。調理室(ギャレー)は乗組員の溜まり場となり、話し合いが何度も行われていた。船長の代理として、本船エージェントが来訪してきたので、私は今回の紛争について説明した。彼は全ての本船関係者に電話及びメールで状況を知らせることを約束して下船した。
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話し合いの長い夜

乗組員の要請により、私は船内に留まることとなり、船室を指定された。不安に駆られた乗組員たちは、逮捕されるのではないか、解雇されるのではないか、あるいはブラックリストに載せられるのではないかなどと、私に訊ねてきた。真夜中頃になって、船長が乗組員会議を召集しているとの通知があった。私はギャレーで乗組員とともに、船長が来るのを待っていた。船長は極めて困難な立場に置かれていた。船舶管理会社は、各乗組員と個別に話し合いを持ち、誰が首謀者なのかを確認するように、船長に指示していたのである。船長はさらに、今回の事件への関与を確認または否定する文書に乗組員にサインさせるよう命令を受けていた。
船長がミーティングに現れた際、私は「このような深夜の乗組員会議は、乗組員を脅迫し、混乱させることを狙ったもので、受け入れられない」と乗組員に代わって通告した。さらに「港湾当局責任者は、乗組員個人に関する情報は一切提供できないとの通告を、すでに船長に対して行っていることを指摘し、乗組員への脅迫行為を止めないならば、港湾当局者に通報せざるを得ない」と私は船長に言った。
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静かな日曜の朝

船長は、日本の船舶管理会社に話をするよう、私に求めた。船社の代表の一人に対し、私は次のように説明した。「乗組員のなかから個人を特定するのは違法である。彼らは恐怖心を抱いており、私に代表として話をするよう要求している。このような脅しを続けるのであれば、乗組員は正当な休息時間も与えられていないとの報告を港湾当局に明日行うしかない」と、私は船主代表に告げた。午前2時から次の日の昼頃までは何事も起らなかった。
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午後8時―日本での交渉妥結

カリフォルニア時間で午後8時頃、山下昭治コーディネーターから「船主との交渉が妥結したので、乗組員に知らせてほしい」との電話連絡があった。日本時間では昼過ぎとのことだった。私は船舶管理会社に電話して、船長に指示して船長の署名した免責証書を各乗組員に手渡すよう要求し、合意の概要、とりわけ重要な3項目について伝達した。3項目は次の通りである。(1)ITF協約に調印する。(2)ITF協約の賃金と現行賃金の差額を、乗船時にさかのぼって支給する。(3)日本の横浜港到着時にこれらのバックペイを支払う。船長の署名した免責証書がファックスで届き次第、乗組員を代表し、港湾当局に争議が解決したことを通報すると、私は船社代表に約束した。港湾当局者の到着を待ちながら、私は乗組員たちとの最後のミーティングをギャレーで開いた。この席で、乗組員たちはそれぞれの免責証書のオリジナルと写しを受け取った。免責証書には船長の署名とスタンプが押されていた。乗組員はこのほか、全日本海員組合/IBF協約に基づく賃金を支給するとの協定文書のコピーも受け取った。
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午後11時―解決、出港許可

午後10時20分頃、沿岸警備隊の査察官が再び訪船し、乗組員と一人ずつ面談して確認した後、午後11時ごろ、本船の出港を許可した。査察官に続いて私も下船した。シーマ号の実力行動に要した時間は約30時間であった。昨今においては、シーマ号と同じような少数乗組定員の船舶が多数運航されている。このような船舶において労使紛争が発生した場合には、その船は最低安全定員を満たしていないと見なされる恐れがある。今回のケースにおいては、港湾当局者の公正で偏見のない執務態度および乗組員のお互いを守るための決意と団結が、解決を導いたのであった。
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横浜港での支払い確認

2007年1月3日、シーマ号は横浜港に到着した。管理会社代表が訪船した。ITF側からは山下昭治ITFコーディネーター及び藤木茂ITFインスペクターが訪船し、バックペイ(未払い賃金)が関係乗組員に全額支払われたことを確認した。
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