No.21/2007 |
■HIV/エイズ |
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沈黙の壁に向かって
今日まで船員は、HIV に関しては、予防についても自らの権利についても助言を得ることがほとんどなかった。こうした状況は変えなくてはならないとロブ・バービスト博士は言う。
船員センターと訪船者は、船員が医療の助言を必要としている場合は、HIV/エイズについても他の問題についても、日常的に対応を行ってきている。船員は、性感染症、特にHIV/エイズが、雇用の喪失につながると恐れて、助言を求めるのを躊躇しがちであるので、それを克服しなければならない。
驚くには当たらないことであるが、ほとんどの船員は性関係について他人と話したがらないし、ましては相手が雇い主であればなおさらである。当局が国のイメージが落ちるのを嫌って、港でのHIV/エイズの危険性について船員に対して警告することを避けようとする地域もある。配布に適した資料がなく、そのため海上で働く人々にとって重要な健康やライフスタイルに関わる問題がないがしろにされてしまう。
組合、マンニング会社、海運会社、保険会社、その他の関係者は、船員に対し、HIV/エイズや他の健康リスクに関して積極的に情報を提供する務めがある。
伝統的に船員に対し抱かれてきたイメージは、港から港へと女と一緒に飲んだくれるという姿であるが、今日実際の姿はこれとはかけ離れている。多くの海上労働者は、めったに自由な時間をもてず、全く陸上に上がることなく契約を終える場合さえある。いずれにしても、寄港は、追加的な仕事を求められることを意味しており、地元の人々と接触する機会があったとしても少ない。
にもかかわらず、船員は、絶えず動き回る、移動性の高い労働者であり、それゆえ、長期にわたり家から離れ、日常的な社会規制から離れている一般的な移動労働者と同様のリスクを抱えていることに注意する必要がある。
船員のHIV/エイズの問題は、雇用前の健康診断から始まる。雇用を決定する際にHIV感染の有無を根拠にすることは、多くの国において認められていないか、違法である。海事業務に関する医療適性検査の目的は、純粋にその人の健康状況が、船舶、貨物、他の人々を危険に曝すようなことがないこと、また本人が海上業務において大きなリスクに遭遇することが無いことを確認することにある。
これが、船員を雇用する際の唯一の基準でなくてはならない。にもかかわらず、多くの船員が雇用前のまたは雇用中の定期健康診断の検査対象になる。
HIV陽性とわかるとその人は個人的に悩みトラウマにも陥る。しかしそればかりでなく、雇用を拒否されるか他の労働者からの嫌がらせを受けるなどして差別にもつながっていく。こうした事態は決して許してはならず、もしあれば船員組合に即刻通告し、使用者に苦情を申し立てるべきである。 |
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公正な検査
HIV陽性の船員が、その事実を知りその旨公にしている場合、論理的で公正な基準に基づく公正な検査を受ける権利がある。検査では、その人物に適性があるかないか、また一時的に適性を欠いているか、業務を遂行する能力に限界があるかなどを確認する。
広く使われている世界保健機構(WHO)によるHIV/エイズの段階的なカテゴリー化()は、健康基準の基礎として意味あるものである。例えば船員が一時的に健康上の理由で業務に適さないとの決定を可能にし、検査や治療の後で仕事に復帰できるかを明らかにすることができる。
感染後の無症候状態から深刻な合併症が生ずるエイズ発症への進行は、きわめて遅く(生活様式や治療により異なるが)、一つの健康診断と次の健康診断の間に一気に起こるということは、まずない。
エイズ発症後、感染症が頻発する、体重が相当程度減る、薬の副作用が強く出るなどの症状が出ると、通常なら船員は業務遂行が不可能になる。病気の影響や、次の検査までの間の治療について決めるのに手助けとなるガイドラインが必要である。
最終的に業務が不可能になる場合があることを臨床的に検討し、海上勤務のキャリアを捨て、代わりの陸上業務を探す必要がいつ出てくるか助言できるようにすべきだ。
船員福祉国際委員会(ICSW)は、ITF船員基金の資金を使った船員健康情報プロジェクト(SHIP)の一環として、船員向けにHIV/エイズや性感染症についてのチラシ、小冊子、DVD、ポスターからなる一連の情報パッケージを作成している()。そこには、個人で出来ることと、船舶管理者が手助けできることが述べられ、そして健康アドバイザーの役割が強調されている。 |
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ロブ・バービスト博士は、SHIP (Seafarers' Health Information Project-船員健康情報プロジェクト)計画のプロジェクト・コーディネーターであり、アントワープ港での経験と国際海事健康協会とのつながりから、船員の健康問題に取り組んだ豊富な経験を有している。連絡は、まで。 |
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海上での感染の広がり
世界のどの国よりも多く船員を輩出しているフィリピンの厚生省では、1984年1月から2003年12月までの間のHIV感染の広がりについて調査を行った。その結果、HIV陽性とみられる2,001人のうち12%が船員であり、10%がセックス・ワーカーであった。
症例の大部分(85%)は、セックスを媒介にして広がっている。2、001人のうち、32%がフィリピンで生まれて外国で働いている人たちであり、船員は外国で働くフィリピン生まれのHIV陽性者中38%に当たり、最も感染率が高くなっている。同様にベトナムでも、キェン・ジアング県の委員会では、2002年にHIV陽性者は1、239人いたが、そのうち10%が船員であったと報告している。 |
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危険な行動
全ての船員がたしかに「港ごとに女と遊ぶ」というステレオタイプに当てはまるわけでないとはいえ、隔離されていること、寄港する多くの港で性風俗産業が盛んなこと、限られた娯楽の機会、稼ぎの使い道が海上では他にない事実などから、気軽な性交渉は頻繁に見受けられる。
同じ理由から、生活様式の調査でも、船員は一般の国民に比べて様々な危険な行動、例えば深酒などに陥りやすく、容易に危険なセックスへと流れていきやすい。HIVに関連するリスクに気付いている船員はほとんどいない。それは、泥酔や心理的抑制の喪失をともなう。恍惚となると人々は普段より勇敢になってセックス・ワーカーのもとを訪れ、リスクへの警戒心を失い、コンドームの使用を忘れてしまう。
他のリスク要因としては、薬物の利用、謝った情報、もしくは単なる情報不足がある。
船員が健全な生活様式を送ろう、危険な行動を避けようとしても、選択の幅が限られていることや、他の娯楽が利用できないことなどから、実現することは難しい。
女性船員は定常的なセクシュアル・ハラスメントについて、時にはレイプについて報告してきている。クルーズ船における船員男女間の性交渉は、船上生活におけるありふれた光景となっており、しばしば長期航海においては、コンドームの使用が少なくなる。海運関係の使用者側の利益を守るために、乗組員が船上ドクターのもとへ行くことが制限されていたり、こっそり行くことが難しいことは、女性船員が性感染症(STI)やHIVの診断を受けたり、治療を受けたりすることを困難にする大きな要因となっている。 |
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ILOの 2005年の「グローバル化する世界のHIV/エイズと仕事」からの抜粋 |
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