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No.21/2007 |
■労働供給 |
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世界的な船員需要への対応
フィリピン大学のマラガタス・スヴァマンテ氏は、フィリピンの海事訓練機関及び雇用斡旋機関は、今後も世界の海運産業の船員需要に対し、適正に応えていくことが可能だろうかと疑問を投げかけている。
マニラの船員配乗代理業者(マンニング・エージェント)が集まっている地区の中心にあるT.M.カラウ通りは、「リサール・パーク船員労働マーケット」として有名になっている。無給の若い海上実習生は「緊急雇い入れ」のチラシを持ち込み、エージェントの書類に署名する。これらは世界の船会社から寄せられた、乗組定員の欠員を緊急に補充するよう求めるファックスやEメールである。
正午頃には数千人に膨れ上がった船舶職員と部員の大群が右往左往しながら、提示された賃金や資格要件をチェックする。彼らは船舶職員に対する需要が、部員への需要よりも多いことを知る。リサール・パークにやってくる船員の多くは、自分の年齢、訓練、海上経験などが、要件を満たせるかどうかを気にしている。
海運産業のリーダーたちは、現代の船舶は特殊化が進み、ハイテク機器を満載しているため、最新の資格要件と技能を持った若い船舶職員を必要としていると主張している。海運企業の経営者たちの認識も、熟練した技能を有する甲板部職員や機関部職員に対する需要の拡大は今後も続くが、乗組定員が縮小されているため、部員の需要は大幅に縮小するであろうとしている。
バルティック国際海事評議会(BIMC)及び国際海運連盟(ISF)の労働力最新情報(2005年12月版)によれば、毎年約10,000人(約2%)の船舶職員が不足している。
このような船員不足を、巨大な失業船員を抱えている船員供給国によって解決すべきではないとするのは、理に適わないように思えるかもしれない。しかし、意欲を持った多くの船員の前途には、障害がたくさん存在する。
大多数のフィリピン人船員の出身地は、ビサヤ地方(セブ島を含む中部諸島地域)及びミンダナオ島などの貧しい地方である。彼らは大家族のもとで暮らしており、彼らの両親は、漁業、農業または自営業を営んでいる。船員を一生の仕事として選択するのは、貧しさから脱出する一つの方法とも考えられている。両親はその収入の全てを犠牲にして、息子の船員学校の4年間の授業料やその他の経費のために約5,000米ドルを負担しなければならない。兄弟姉妹や親族なども積極的に可能な限り財政支援する。船舶職員となるための教程を完全に終了するために必要な経費は、フィリピンの平均年間所得の約5倍の金額である。
フィリピン海外雇用庁(POEA)の報告によれば、フィリピン人船員の世界における雇用は、2004年の229,002人から2005年の247,751人へと8.18%すなわち、18,749人増加している。国際海運の成長にともない、優れた技能を持つフィリピン人船員を選択する傾向は継続すると思われる。フィリピンのアルトゥーロ・D・ブリオン労働雇用相は一例として、2010年までに建造される新造船600隻に必要な乗組員として、8000人のフィリピン人船舶職員および部員を必要としている日本海運産業からの船員需要の増加をあげている。また、日本海運企業がフィリピン人船員の仕事の効率を一層改善させるための訓練や技能の習得のために、巨額の投資を行っていることも、フィリピン政府は認識している。
海運企業および船員配乗会社は、国際海事雇用者委員会(IMEC)を通じて、海事教育訓練機関に対し、フィリピン人船員の訓練、とりわけ数学、科学技術、英語を含むコミュニケーション能力を強化するよう要請した。IMECは、海運企業約100社によって構成される組織で、合計5870隻(船籍国は40カ国以上)を運航しており、フィリピン人船員を雇用する最大の船主グループである。IMECはさらに、船員を志望する学生のための大学入学試験を一層厳しくするよう提案している。 |
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根強い需要
一段と厳格な教育・訓練システムによって技能や資格の水準を引き上げない限り、フィリピン人船員は、海運産業で現在維持している船員数第1位の地位を失うかもしれないと、海運企業は警告している。フィリピンは、世界最大の船員供給国であり、約230,000人が世界の海で現在就労している。
フィリピン高等教育理事会は、船舶職員教育課程の卒業者が減少傾向にあると報告している。1977年の卒業者数は、15,754人であったが、2000年には11,149人に減少している。2004年の卒業者は、3,667人に過ぎなかった。2000年以降の卒業者数は、毎年平均で16.5%の減少が続いている。この減少傾向は、特に船舶機関士について顕著(19%)である。
大学教育過程及び乗船実習を修了したのち、海事部門の卒業生は船舶職員の免状を取得するために、技能試験に合格しなければならない。1991年以後は、合格率が低下しており、全ての職種において平均50%を大きく割り込んでいる。船舶機関士試験の合格率は、47.2%、甲板部職員試験の合格率は、40.5%となっている。言い換えれば、供給される船舶職員の実数は、卒業者の半数に満たないのである。船舶職員資格を取得できなかった半数以上の卒業生は、船舶部員としての雇用機会をもとめて競争に加わることとなる。この結果として、部員の求職者数は年々増加している。
船舶職員教育機関への入学者数と卒業者数の間には大きなギャップが見られるが、これは大量の落伍者または中途退学者があることを示している。多くの学生は、学費の負担に耐えられずに退学して行く。その他にも、実習船または士官訓練船に乗船する機会が得られないケースなどもある。
STCW95(訓練/資格/当直基準条約)に基づくIMO(国際海事機関)の教育訓練基準に合致しなければならないとの要求も、訓練施設にとって重圧となっており、訓練施設の減少となって現れている。この結果として、1997年から2001年にかけての卒業者数も凡そ半減している。しかし、その後は、多くの船員訓練施設が、STCW95の規定を充足した教官と施設を備えることにより、公認船員訓練施設のリストに復帰している。IMOホームページの「船員教育機関要覧」は、フィリピンには世界最大である98校(世界の20.3%)の船員教育施設があることを示している。 |
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何をなすべきか?
フィリピン政府は政策目標を、「労働者の保護」を確保するとともに、「フィリピン人船員が適正な資格と技能を持ち、国際競争力を身につけていることを保証する」としている。しかし多くの船員は、(訓練施設において)高額な経費を要するとともに、免状やその他の書類を取得するためには、時間の浪費となる重複した手続きや、官僚的形式主義に耐えなければならないことに苦情や不満を述べている。海事関連機関の統合・一元化の提案は実現されることなく、権限や機能の重複のために海技免状に関する不正行為、ゆすり、たかり、贈収賄、不正の仲介などが生み出され、政策の実施面においても矛盾や不一致が生じている。
幾つかの政府機関が、船員の教育、訓練、資格証明、国際労働市場における雇い入れなどに関する法律規則の複雑な網の目を通じて関与している。多くの機関が、ある資格証明を発給する根拠として、別の証明書を要求するため、例えば、犯罪の前科がないことを証明するために、フィリピン国家捜査局またはフィリピン国家警察庁に行かなければならない。出生証明を取得するためには国家統計局、健康証明のためには保健省、パスポートを取得するためには外務省、船員雇用契約の認証はPOEA(海外雇用庁)、福祉基金の支払い証明は労働厚生庁がそれぞれ管轄している。このほかに、義務的社会保障制度、健康保険、住宅(抵当)ローン制度などへの加入資格を得るために、身元保証書類を準備しなければならない。
教育施設に関して、多くの学生が苦情を訴えるのは、換気装置のない満員状態の教室や近代的シミュレーターや最先端の航海用機器を使用した実践的学習の機会が極めて少ないことである。士官候補訓練船や実習船に乗船する機会も、極めて限られている。
各海事訓練機関には、訓練を受けようとする学生の教育水準及び健康状態に関する共通の基準がない。そのために、ある教育機関の海事教育過程への入学を拒否された学生が、他の教育機関では入学を許されるという可能性もある。一部のトップクラスの船員教育機関は、海運企業との密接な関係を持っているが、大部分の訓練施設は、卒業後の配乗予定とは無関係に、入学定員に基づき学生を受け入れている。 |
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基準以下の訓練
フィリピンの規制管理当局がとるべき措置のキーポイントは、基準に達しない海事教育や貧弱な学習設備の教育機関に対する公認を撤回することである。次に、海事訓練にともなう資格証明に関する汚職/不正を調査し、根絶するための警察及び司法当局による措置が必要である。
海運企業ならびに船員配乗会社の雇用方針もまた、例えば、雇い入れの際に年齢の制限を設定するなど、船舶職員の不足に拍車をかける要素となっている。ある船員配乗会社の役員は、「海運産業の慣行として、船員の年齢による選別が行われている。年齢制限は直接的に規定されてはいないが、良好な体調、健康状態の適合性は、重要な必要条件となっている」と述べている。それにも拘らず、船舶職員の不足のために、引退した職員が再び海上の職務に復帰するケースも増えている。
フィリピンの海運産業や船員訓練事業の指導者や当局者は、フィリピンが船員供給国として世界第一位の地位を保つだけでなく、世界の海上労働力市場におけるシェアの拡大を目指している。そうであるならば、彼らの最も重要な関心は、自国にとって貴重な人的資産を育成するための、船員教育/訓練制度を緊急に改善することでなければならない。 |
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