2008年7〜9月 第32号 |
■グローバルな組織化へ |
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結果が求められるマースクとの対話
ITFとデンマークの巨大運輸企業、マースクとのグローバルな対話で、中核的労働権の問題が解決されようとしている。ピーター・ラスムセンが報告する。
ITFのマースク関係労組ネットワークは、2006年8月のITFダーバン大会で立ち上げられた。それ以来、デンマークの巨大運輸企業、APモラー・マースクに、言葉だけでなく行動を通じて、労働基本権を何度も尊重させてきた。
今日、マースクの七芒星のマークは、世界中で目にすることができる。船員、港湾労働者、運転手等、マースクに直接雇用されている労働者の数は、11万人に達する。マースク・ラインは世界最大のコンテナ・ライン会社であり、マースクは世界第2位の港湾ターミナル・オペレーターである。過去数年間で、この会社は世界貿易の中において、支配的な地位を占めるようになり、グローバル化の勝者の一人となった。
2005年以前は、中米や米国等の組合から、マースクによる組合権の侵害が報告されていた。マースクをめぐる世界の組合の経験は、すばらしいものから最悪なものまで、実に様々だった。
そこで、ITFは各国労組が、この多国籍企業との関係で何か問題を抱えたときに活用できるツールとして、労組ネットワークを誕生させた。
その目的は、世界に広がるマースクの事業の中に、組合の存在と力を植えつけることである。現在、世界中で50以上の組合がこのネットワークに参加している。
このネットワークの運営委員であるITFのスチュワート・ハワード書記次長は「これはグローバル経済に対する新たな試みだ。我々はグローバルな流通チェーンの中で組合の力を強化することを目指している。主要企業をいくつか特定した際、その中にマースクも含まれていた。そこで、マースクに関係する組合の強化に焦点をあてることを決定した」と語る。
「ネットワークを立ち上げるとすぐ、マースクに連絡し、対話を呼びかけた。マースクからの回答は前向きなものだったので、それ以来、会社幹部との会合が何度か実現している。我々は会社側の間違いを指摘し、許せない行為の事例を示し、改善を求めてきた。対話が開始されたことは一つの成果だが、結果が伴わなければならない」と続けた。 |
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影響
このネットワークによる圧力の影響が現れた例を紹介する。
2007年7月、イギリス海峡のマースクのフェリー会社、ノルフォークライン・フェリーが英国の交通運輸労組、RMTを認めることに合意した。組合の1年以上にわたる運動の成果だ。同じ頃、ヨルダンのアクバでも、マースクのAPMターミナルが、初めて組合を受け入れた。二つのケースの舞台裏には、ITFのマースク関係労組ネットワークの支援が存在する。
「このネットワークの圧力や対話の影響があることは間違いない」と、2007年7月にノルフォークライン・フェリーとの組合承認協定が締結された後、RMTのスティーブ・トッド全国書記は語った。
彼の見解に同調して、ハワードも「マースクの中で組合が抱えている問題の解決に、ITFとの対話が一役買った。労使紛争は現地国で解決されなければならないが、ITFのネットワークがマースク本社の経営陣に問題を提起することで、当該労組を支援することができる。個々の職場の組織化が実現しなければ、グローバルな対話など何の意味もない」と述べた。
ハワードは、ネットワークが通常の賃金交渉には介入せず、組織化にとって不必要な障害が存在したり、その他の主要な問題が存在したりする時に限って、介入するものであることを強調した。 |
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インドとデンマークにおける争議
2007年4月、インドのムンバイで、マースクが所有するGTIターミナルにおいて、下請業者の違反をめぐり、ITFのマースク関係労組ネットワークが介入した。この港の下請業者に雇用されていた運転手が、組合結成を理由に誘拐され、殴られ、解雇された。ネットワークはマースクに対し、このような行為は全く受け入れられないことを明確に示した。
「マースクは下請業者の責任を負わされることを嫌がっている。しかし、全ての主要な企業は、この責任と向き合わなければならない、というのが我々の考えだ。何ヵ月もの対話と圧力を経て、昨年10月、解雇された運転手は最終的に、職場復帰を果たすことができた。しかし、インドにおけるマースクの下請業者による組織労働者への攻撃は続いており、現在、この問題をマースクとの対話の中で取り上げている」とハワードは語っている。 |
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良好な関係
ITFとマースクの関係は概ね良好だ、とハワードは言う。しかし、ムンバイでは、下請業者の行為に対するマースクの責任に関して、基本的な見解の相違があった。
「下請業者による頑な反労組主義をグローバルな対話によって排除できるかどうかは、全く分からなかった。インド国内および国際レベルの運動を立ち上げる準備をしていたところ、グローバルな企業レベルで解決を模索する動きが出てきて、解雇された全ての運転手が2007年10月に職場復帰を果たすことができた」とハワードは付け加えている。
2008年1月に、マースクラインがデンマーク人船員200人を解雇し、安い外国人船員を雇うと発表した時も、このネットワークは経営トップに問題を提起した。マースクラインはデンマークの組合から厳しい非難を受けるとともに、団体協約違反で労働裁判所に訴える、との通告を受け、解雇通告を撤回した。
これまでのところ、マースクとの関係は良好だ、とハワードは言う。「マースクは国際労働組織との対話にコミットすることで、他のグローバルな運輸会社をリードしていると言える。これは労使双方の利益となることだ」 |
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建設的対話
マースクのクヌード・ポントビダン上級副社長は、ITFとの対話が建設的であることに同意し、「この組合ネットワークをベースにITFと対話を開始したことは、前向きな経験だ。問題が表面化する前に解決し、相互の誤解を避けるための非公式なルートとして機能している」と語った。
マースク側は、2008年9月に開催予定の次回ITF労組ネットワーク会議に出席し、世界6大陸の組合と顔を合わせることも厭わないとしている。
ITFのランドル・ハワード会長は、2007年4月にコペンハーゲンで開催されたITF労組ネットワーク会議でマースクの経営トップと会合した。「我々との対話を開始したマースクの前向きな姿勢を大いに歓迎する。障害は常に存在することは分かっている。成功の保障はない。しかし、ITFとマースクの間で築き上げられた信頼関係に感銘している」
ITFは現在、マースクとの経験を基に、他のグローバルな運輸会社の労組ネットワークづくりに着手している。 |
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より詳しい情報はへ。
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ピーター・ラスムセンはデンマークのITF加盟組織である3Fの国際機関誌の編集を担当するフリーランスのジャーナリスト。 |
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マースクについて
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APモラー・マースクは130ヵ国で11万人以上を雇用している。 |
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マースクラインは世界最大のコンテナ・ライン会社である。550隻以上のコンテナ船を運航しているが、その内の220隻以上を所有している。 |
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マースクのAPMターミナルは世界第2位の港湾オペレーターである。50以上のターミナルを運営している。 |
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その他の事業
・タンカー、オフショア、その他の海運活動
・トラック輸送、ロジスティクス、航空、鉄道
・オイルとガス
・小売り |
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出典: |
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マースクとGNT組合の課題
APモラー・マースク・グループの主要企業であるAPMターミナルは、四大グローバル・ネットワーク・ターミナル(GNT)の一つである。彼らの成長は著しく、世界中の港湾へ進出しているため、これらの巨大グローバル企業の台頭によって困難に直面している組合を支援すべく、ITFは新たな戦略を構築している。
APMターミナルは世界各港の50以上のターミナルでコンテナ荷役を行っている。2007年のコンテナ取扱量は3,140万TEU、収入は25億1千9百万ドルに達した。
今日のグローバル・サプライチェーンにおいて、港湾は戦略的な地位を占めている。ここ数年間に港湾が経験してきた変化は著しい。技術的な変化だけでなく、今日、世界のGNTオペレーターの躍進には目を見張るものがある。
四大GNTの残りの三つは、ハッチソン・ポート・ホールディングス(HPH)、PSAコーポレーション、DPワールドである。
HPHはハッチソンワンポアの子会社で、グループの港湾関連事業を担うために、1994年に設立された。香港に拠点を置き、チョンコンホールディングスが所有している。世界の45港に進出している。2008年1月、ポート・オブ・ブリスベン・コーポレーションと2つの新設コンテナバース(第11号バースと第12号バース)のリース契約を結んだ。2007年の同グループのコンテナ取扱量は6,630万TEUで、前年比12%増だった。
PSAグループは2007年、過去最多の5,885万TEUを記録した。前年比14.8%増だった。そのうち、シンガポールでの取扱量は2,710万TEUだった。シンガポール以外にも、パナマ、オランダ、ベルギー、ポルトガル、イタリア、トルコ、パキスタン、インド、ベトナム、タイ、韓国、中国に進出している。
42のターミナルを運営するDPワールドの昨年の取扱量は4,330万TEUで、前年比18%増だった。
これらGNTの台頭に対応するため、ITF港湾部会は便宜港湾(POC)キャンペーンを通じて、組織化を進めている。各港湾やGNTの情報を提供するPOCデータベースも立ち上げた。2008年9月には、四大GNTオペレーター内の労働組合を集め、組織化と団体交渉力の強化について話し合うことにしている。
ITFのフランク・レイ港湾部長は「世界中の港湾に進出するGNTは、業界の主要な要素となっている。グローバルなターミナル・オペレーターに対抗するためには、労働組合もグローバルに考え、計画し、行動しなければならない。そこで、世界中の約200の港湾労組が加盟する国際組織、ITFが団体交渉、結社の自由、適性基準、安全衛生等の問題について、GNTとの対話を主導していかなければならない。ターミナルのネットワークが存在するならば、労働組合のネットワークも存在する必要がある」 |
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TEUとは、海上輸送用コンテナの標準規格である20フィートコンテナに換算したコンテナの数量を意味する。 |
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出典:トランスポート・インテリジェンス、、ドルーリー・シッピング。 |
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