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2008年7〜9月 第32号
■中東
 
ヨルダン川西岸日誌

2008年2月、ITF調査団がイスラエルとパレスチナを訪問した。ヨルダン川西岸の交通問題について、両国の労組やイスラエル軍と話し合うためだ。訪問の結果、検問所で足止めされた両国の交通運輸労働者のためのヘルプライン(電話相談サービス)の設置が決まった。調査団長を務めたITFのデビッド・コックロフト書記長の滞在日誌を紹介する。

2008年2月3日

テルアビブ
イスラエル労働総同盟(HISTADRUT)のアビタル・シャピラ国際部長と短時間会談。イスラエル陸軍少将および検問所を管轄する運輸省の文民トップ、ナハン・ガバジュ氏と面会する旨、告げられる。イスラエル軍が抱える問題について、プレゼンテーションがなされるらしい。苦情処理制度は既に存在している、と彼らが考えていることは明らかだ。ヘルプライン・プロジェクトがパレスチナ人だけでなく、イスラエル人のためにもなることを示す必要がある。

ラマラ
パレスチナ自治政府(PNA)のマシュール・アブダカ運輸大臣と長時間会談。大臣がパレスチナ領土内の交通システムの悲惨な現状を説明。タクシーは検問のために乗客を降ろさなければならず、降ろされた乗客は道の反対側で別のタクシーを拾わなければならない。パレスチナ人の車両は、きれいに整備されたイスラエル人入植者の専用道路を迂回し、危険な未舗装道路を通行しなければならない。入植者専用道路と西岸地区は、壁で分離されている。パレスチナの飛び領土の多くには、ゲートが一つしかなく、通常は17時に閉鎖され、それ以降の出入りは許されない。
通常の検問所と「スピード検問所」の違いは、短距離移動の所要時間がイスラエル兵の気分次第で1分になったり、1時間になったりすることだ、と彼は言う。イスラエル兵は緑色のプレートの車両のみを全て止める(イスラエル人の車両は黄色のプレート)。
さらに、イスラエル人の入植者は軍に相談することなく、特定の道路や検問所の閉鎖を決めることができる。軍は常に入植者の味方だ。
ガザの状況もひどい。EUから3,500万ドルの援助を受け、空港が建設されたが、イスラエルによって、完全に破壊されてしまった。一部の特別なパレスチナ人はテルアビブ空港を利用できるが、ほとんどはヨルダンの首都、アンマンを経由しなければならない。ガザ住民は、ヨルダンに入国するにも特別許可が必要だ。
我々の訪問の理由を聞き、大臣は「占領自体が違法だ。よりまともな状況を作り出そうとしても意味がない。1つ星の検問所の代わりに、5つ星の検問所にすると言われてもお断りだ。検問所自体を撤去すべきだ」と言い放つ。
これに対し、「それはブッシュ大統領やブレア首相に言うべきことであって、我々がやろうとしているのは、一般のパレスチナ人、特に交通運輸労働者の生活を少しでも楽にすることだ」と説明した。
ITFはイスラエル人専用道路に賛成するのか、と大臣は聞き、次のように続けた。パレスチナ人は劣悪で危険な道路を押し付けられている。かつては2キロほどを10分程度で移動できたが、現在は、入植者用の地下道が建設中であるため、30〜40キロを数時間かけて移動しなければならない。おまけに、イスラエル兵は些細な理由で罰金を課す。最近も、ポケットから身分証明書を取り出そうとしてシートベルトを外している間に、車が前方に数フィート移動したことを理由に罰金を払わされた。
その後、パレスチナ議会の土地・入植者・分離壁委員会のワリード・アッサフ委員長に面会。アッサフ委員長は「分離壁の建設、グリーンライン(境界線)と分離壁の間のシーム・ゾーン、ヨルダン・バレーの軍事ゾーンは、“二国家構想”を経済的に不可能にしている。イスラエルは検問所を“ターミナル”に転換し、現在、530ある検問所を、分離壁の完成とともに34に減らす計画だ」と語った。
夕刻、パレスチナ立法評議会(PLC)社会問題委員会のカイス・アブドゥル・カリム(アブ・レイラ)議長と面会。「最近行われたオルメルト首相とアッバス議長の会談の成果は何もない。検問所では救急車の通行を優先させるという二国間合意は、救急車用の特別車線の建設が始まり、やっと実施されようとしている。イスラエルは東エルサレムの併合を望んでいる。二国家構想も“バンツースタン政策”の一環にすぎない。入植地はパレスチナを4つの地区に分断している。それぞれの地区を行き来できるのは、1箇所を通じてだけだ」
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2008年2月4日

ベツレヘム
パレスチナ労働組合総連盟(PGFTU)のシャハー・サード議長と面会。議長は次のように語った。ラマラからベツレヘムへの移動は、壁が建設される前は45分しかかからなかったのに、今は少なくとも5時間半かかる。職場へ向かう労働者は、検問所の渋滞が激しくなるラッシュアワーを避けるために、朝4時に家を出なければならない。パレスチナ人の約7割が、イスラエルへの行き来を禁じられている。過去にイスラエルの治安部隊と何らかの小競り合いをしたことが理由だ。ベツレヘムはご存知のとおり、主要な観光都市だった。しかし、2000年のインティファーダを境に、観光事業は8割も減った。現在は、イスラエルの事業者が主催する観光旅行だけが、スムーズに実施されている。
車両の通行も厳しく制限されている。黄色のナンバープレートを掲げたイスラエル人の車両のみ、イスラエルやエルサレムに入ることができる。パレスチナ人の車両がエリコやヘブロンに行くには、検問所を通過し、長い道を通って行かなければならない。イスラエル人がほとんどの直通道路を占用しているからだ。パレスチナ人の車両がナブラスから出るには、特別許可証が必要だ。直通道路の1つである第60号道路は、今やイスラエル人車両専用となっている。
ベツレヘムのサラ・アルテマリ市長と面会。「最近の食糧高騰が、壊滅的な影響を及ぼしている。燃料高騰、悪天候、交通規制が原因だ。状況が改善しなければ、第三次インティファーダの可能性も現実味を帯びてくる」と市長は言う。

ヘブロン
PGFTUの支部幹部と面会。「入植者とイスラエル人専用道路が大きな問題だ。検問所で何時間も待たされる運転手のために本を貸し出す、平和と自由の図書館を準備している。イスラエルの交通警察は、容疑をでっち上げ、罰金を課す。書類はヘブライ語で記載されているし、何の説明もない。警察の判断に不服を申し立てるのは、事実上不可能だ。イスラエルの法律が適用され、裁判もイスラエルで行われるが、入国許可書は発行されない」
この後、ヘブロン中心部にある通行人用の検問所に行く。この検問所は入植地へのアクセスを管理している。専用通路を持つイスラエル人入植者48人を守るために存在するこの検問所は、パレスチナ人2万5千人の生活道路を遮断している。写真を何枚か撮影していると、イスラエル兵がやって来て、パスポートを要求した。イスラエル兵はパスポートをチェックするため、その場を立ち去り、しばらくすると戻って来て、同行のパレスチナ人のID(身分証明書)を要求した。約30分後、その場を離れることを許された。
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2008年2月5日

ナブラス
ベツレヘムからナブラスへ向かう道路は閑散としていた。パレスチナ当局に賃上げを要求する公共部門のストライキが実施されていたため、通勤車両がほとんど通行していなかったからだ。途中の検問所では、ほとんど時間がかからなかったのに、ナブラスの検問所は他の検問所に比べて厳重だった。車両の通行は禁じられており、ほとんどの人が徒歩で通過する。我々も車を降り、徒歩で通過した。
ラッシュアワーの午後5時頃に戻ってくると、自宅に帰る大学生の長い行列が出来ていた。20人ほどの集団がID審査を受けていた。1時間程かかっているらしい。ナブラス市内には3千台のタクシーがあるのに、市外に出るのを許可されているのは200台だけだ。貨物車両には別の検問所がある。
ナブラスとジェニンの組合幹部と面会。そのうちの一人はタクシー運転手で、「壁と境界線の間」に住んでいる。彼は通行許可証を見せてくれたが、通行できるのは午前5時から午後7時までで、その時間内に戻って来られなければ、屋外で一夜を明かさなければならないという。
PGFTUのナセル・ユニス書記長と面会。PGFTUは1995年、イスラエル在住パレスチナ人の組合費返還についてHISTADRUTと合意に達しているが、この合意は現在も実施されていない。
ユニス書記長はITFのヘルプライン・プロジェクトに賛同し、パレスチナのタクシーが直接、イスラエルに行けるようにすべきだ、パレスチナのタクシーの方がずっと安い、と主張した。これに対して、私は、イスラエルの組合から社会ダンピング、あるいは外部の安価な業者との競争と見なされるだろう、イスラエルの組合は組合員の雇用を犠牲にするような政策には賛成しないだろう、と説明した。
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2008年2月6日

ナブラス
同行のパレスチナ人の一人がイスラエルの入国許可証を紛失し、2時間遅れでナブラスを出発。タクシーでハワラの検問所まで行き、検問所を徒歩で通過、別のタクシーに乗り換えてHISTADRUTの事務所へ向かった。イスラエル人専用道路の通行を許可されたため、5分で着くことができた。パレスチナ人用の狭い、曲がりくねった、未舗装道路を使えば、20分はかかっただろう。
レモンやオレンジがたくさん詰まった袋を抱えたパレスチナ人労働者が通過するイスラエルとの境界付近の検問所で、コンピューター、カメラ、電話の充電器等が入った鞄の中身を全て見せるように言われる。30分後、別の検問所でさらに15分費やした後、壁の通過を許され、警備員の質問を受ける。警備員は私の名刺とパスポートを見た後、「イスラエルへようこそ!」と言った。

テルアビブ
HISTADRUTとの会議開始予定時刻から、3時間遅れで到着。イスラエル軍から西岸地区の全検問所と道路封鎖政策の担当者が、翌日、来所することをアヴィ・エドリーが説明。苦情処理制度が現在も存在していることは明らかだが、機能しているかどうかは不明。会議に出席して、組合のヘルプライン構想を真剣に検討するよう、軍を説得するのに、長い時間と労力を必要としたという。軍に対する翌日の提案を固めるため、論点を書き出す。コールセンターのスタッフの人選や研修に焦点を当てる。パレスチナ当局の役割についても議論。パレスチナ当局もこのプロジェクトを認識しているが、これは組合のプロジェクトなので、当局には関与してほしくない旨、主張した。
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2008年2月7日

テルアビブ
軍代表のオファー・ミッタル氏および交通運輸行政官のナハン・ガバジュ氏と面会。イスラエル側と我々の双方がプレゼンテーションを行った。我々はナブラスの運転手を対象にした調査の結果を報告した。この調査では、ナブラスの運転手のほとんどが既存の苦情処理制度について聞いたことがなく、そのような制度の存在を知っていたとしても、怖くて利用できない、と答えている。これに対してイスラエル側は、ナブラスは特殊なケースで、テロのほとんどがナブラスで発生しているため、検問所も特に厳重である、と説明した。
ミッタル氏は、検問所で押収された武器や爆発物に関する統計を示した。押収量は前年より減少しているが、依然として多い。イスラエル軍は警備の質を落とすことなく、検問所の混雑を緩和させたい、と考えている。現在の苦情制度は、主に人権NGOに利用されている。各検問所には連絡官が配置され、ミッタル氏に直接連絡が入ることになっている。ナブラスの検問所にはインフラの問題があり、これが混雑の最大要因となっている。ハワラ検問所は、車線の拡張・増設や、水・トイレ等のインフラ改善に対する投資許可が下りたところだという。
ガバジュ氏には6人の部下がいて、イスラエル支配地域の交通運輸を担当している。パレスチナ交通運輸省とも、定期的に会合を持っている。罰金や切符も管轄している。ヘブロンでPGFTUから預かった違反切符や書類のコピーを手渡した。
我々のヘルプライン構想について説明する。ミッタル氏はこの構想を上司に伝えることに合意。長い協議の末、詳細を詰める必要はあるが、軍は概ね、ITFのこの構想に肯定的である、とミッタル氏が述べた。
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