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グローバルユニオン

2008年7〜9月 第32号
■海賊
 
危険度が増す世界の海

ケイティ・ヒギンボトム
海賊による襲撃事件が増加している。2007年に国際海事局(IMB)の海賊情報センターに報告された海賊行為の発生件数は、2006年に比べ10%上昇した。
さらに、今や海賊の武装化が進み、乗組員を襲撃して傷つけることに何のためらいもないようである。この数年で頻出地域も変化してきた。以前は、東南アジアとインド亜大陸周辺海域が頻出地域だったが、これら地域での襲撃頻度は、2003年の257件から2007年には100件へと減少している。その理由としては、近隣諸国の協力体制による同海域の共同パトロールの実施と船舶の防護措置強化が考えられる。
マラッカ海峡の海賊行為が減少している一方、現在、ソマリア海域が無秩序状態に陥っている。また、ナイジェリアの武装集団が船員を犠牲にして、その存在感を示しつつある。
国際海事局(IMB)は、海賊がこれまでより沖に出て船舶を襲撃する能力を拡大させ、武装強化と更なる組織化により効果的な法の執行をものともしなくなっているからだ、としている。
海賊の増加は、この問題に対処する能力が一部の国で崩壊したことを露呈している。加えて、見張りを確保するには不十分なマンニングレベルで、船員が自らを防御する能力を持たないまま、船舶を危険な海域に送っている船主も多い。昨年、ソマリアでは11件のハイジャックが発生し、154人が人質に取られた。ナイジェリアでは、襲撃や襲撃未遂で35隻の船舶が乗り込まれた。
国際海事機関(IMO)は、2007年11月、「ソマリア沖における海賊及び武装強盗に関する決議」を採択した。その中で、IMOは、インド洋に展開中の艦艇や軍用機が、海賊を追跡するためにソマリア領海内に立ち入ることを許可するようソマリア暫定連邦政府に求め、近隣各国の政府に対しては、海賊や武装強盗と闘うための地域協定を締結するよう要求している。
ITFは、ソマリア沖における海賊行為に関して確固たる立場を取ると同時に、ナイジェリア沖を戦争区域に指定するよう求め、船主団体と協力して各国の政府にロビイングするよう加盟組合に促している。また、ITFは、海賊に関する報告を集中させるというIMBの取り組みを支持している。IMBは、襲撃を受けた船員や船主の経験から学ぶために、船主があらゆる海賊事件を、旗国、海事救援調整センター、IMB海賊情報センターに報告することを望んでいる。
ITFは、船員の生命と福利を海賊問題における中心課題とするよう、IMO内でキャンペーンを継続している。貿易が世界の危険海域で続けられ、海運産業が海上貿易によって利益を得ている一方で、船員はリスクの矢面に立たされている。船員が仕事をする上で適切な保護を提供されていないことが、海運界のイメージをどのように悪化させているのか、この業界は考える必要がある。
一方、船員にも、リスクを最小限に抑えるために果たすべき役割があることは明白だ。例えば、船員は、基準以下(サブスタンダード)の船舶で働くことを拒否したり、安全面・保安面での実績が良好でない会社で働くことを拒否することができる(船員のための船舶略歴検索用の新たなITFウェブサイトに関する記事を参照のこと)。旗国には、自国の旗を掲げる船舶に乗り組む全ての船員の海上における安全を確保する責任がある。現時点では、船員に対して配慮するという義務を、旗国は果たしていない。
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海賊についてのより詳細な情報は、以下のウェブサイトを参照のこと:IMB海賊通報センター(http://www.icc-ccs.org/prc/overview.php)、海賊および武装強盗に関するIMO月刊報告(http://www.imo.org/Legal/mainframe.asp?topic_id=334)。
ケイティ・ヒギンボトムは、ITF船員・水産・内陸水運部門の上級アシスタント。
3ヵ月間人質に取られて

デンマーク第2船籍の一般貨物船、「ダニカ・ホワイト号」は、アラブ首長国連邦のシャルジャーから掘削用のドリルパイプとドリルセメントをケニアのモンバサまで輸送中の2007年6月1日に、ソマリア沖で海賊に襲われた。危険な海域を航海するにも関わらず、同船には乗組員がわずか5名しか乗り組んでおらず、見張り役もいなかったため、海賊の接近に気づかず、手遅れとなった。同船はハイジャックされ、乗組員は3ヵ月間、人質に取られた。海賊は身代金として150万米ドルを要求した。
この事件の2週間前、同船の船主の安全管理証明書が指し止められ、管理責任が別会社に移行していた。しかし、この別会社の安全管理が適切であるかどうかの確認は全く行われていなかった。
2007年3月、ビューロー・ベリタス(フランス船級協会)は、ダニカ・ホワイト号の安全管理証明書を更新し、向こう5年間有効とした。その際、ISM(国際船舶安全管理)コード関連で2つ、ISPS(船舶と港湾施設の国際保安)コード関連で3つの違反を確認したが、これらの違反は、即座に改善されたかに思われた。ところが、デンマークの海事行政にとっては不名誉なことだが、同船は最近、耐航性がないと判断され、アントワープでPSC検査官により拘留された。
デンマーク交通運輸労組(3F)のヘンリック・バーロウによれば、海賊事件発生にあたり、船員に責任を負おうとする者は誰一人いなかった。船主は資金不足で、この船が基本的な安全・保安対策を欠いていたことを気に止める様子もなかった。
旗国は、テロリストと交渉するとは見なされたくない、と断言した。結局、可能な限り最善の条件で船舶を海賊から解放するという役割は、保険業界に任されることになった。しかし、保険業界の最優先事項は、この船が完全ながらくたと見なされないようにすることであり、保険会社もまた、船員は自分たちの責任ではないと直ちに表明した。
バーロウは、旗国が船員を見捨てている、と指摘している。「全ての国の海事当局が、海賊事件の緊急事態を協議するための委員会を立ち上げるべきだ。船員はまた、困難な状況の中で、彼らの解放のために努力している人々がいることを認識する必要がある。身代金そのものではなく、海賊事件への対処に伴う諸コストをカバーするための保険条項が必要だ」
「その航海の潜在的な危険性について、船員が全ての情報を入手できるようにすべきであり、身の安全が脅かされる危険を感じた場合には、契約を終了することができる権利を与えられるべきだ」と、バーロウは付け加えた。
幸い、デンマークの3Fが事態解決に向け圧力をかけた結果、ダニカ・ホワイト号の乗組員5名は2007年8月22日に解放された。5人は身体的には無傷であったが、囚われの身となったことによる心理的ストレスは相当なもので、少なくとも1人は、囚われていた間に自殺を考えた、と話している。
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