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グローバルユニオン

2008年7〜9月 第32号
■中国
 
立ち上がる中国の労働者
グローバルユニオンはどう対応すべきか?


夏季オリンピックが中国の首都北京で行われることから、中国の人権状況と伸び続ける経済力にスポットライトが当たっている。ここで、セーラ・フィンケは、中国の労働組合権の状況を検討し、中国の公式労働組合と「建設的関わり」を持つというITF政策を擁護する立場で、この議論を考察する。

世界最大の経済大国を目指す中国は、この地球上のあらゆる労働者にとって無縁の存在ではない。テレビのスクリーンを通じ、店頭に並ぶ中国製品を通じ、私たちは日々、中国と接している。私たちが買う物の値段も中国の影響を受けている。
北京オリンピックに焦点を当てて抗議運動を展開したチベットのデモ隊や人権活動家を中国人民軍が抑圧したことから、中国が組織的に基本的権利を否定している事実が浮き彫りになった。
中国の労働者の目にも、労働権が保障されていない状況は、すぐに解決されそうな問題と映らない。中国には、独立労働組合が存在しない。憲法に明記されていたスト権は、1982年に憲法から削除されたものの、現状ははっきりしないままだ。スト権を憲法に再び明記することをめぐって、今でも多くの議論が行われている。しかし、中国経済の急成長と新しい世代の労働者の意識の高まりから、ここ数年、中国にも労働争議の波が押し寄せている。
米国を拠点とする非政府組織(NGO)のヒューマンライツ・ウォッチは、次のように報告している。「(共産党に)コントロールされている中華全国総工会(ACFTU)は、労働者の権利を十分に保護している、という姿勢を、中国政府は依然として崩していない。手段も限られ、現状を打破する現実的方法が他にないことから、益々多くの労働者が抗議デモを行ったり、裁判所に直接要求を持ち込んだりするようになっている」
また、ヒューマンライツ・ウォッチの報告では、「ストライキ行動によって救済を求める労働者が、しばしば、使用者から依頼を受けたと思われる平服の暴力団によって攻撃されている。「2007年7月、鋤、斧、鉄パイプを手にした200人の暴力団が、広東州の河原(ホーユエン)で、4ヵ月間未払いになっていた賃金の支払いを求めて抗議運動を行っていた労働者を攻撃した。労働者の一人が殴打され、死亡した」
この問題を取り上げたのは、NGOや人権擁護団体だけではない。昨年、グローバルユニオンに支援されている「プレイフェア2008キャンペーン」は、オリンピックのロゴ入りの帽子、かばん、文房具類を生産している中国の工場を非難した。これらの工場では、工員に成人の法定最低賃金の半額しか支払っておらず、児童を労働させ、工場の安全衛生環境は劣悪であった。同キャンペーンの北京オリンピックサイトでは、貧困にあえぐ地方からの出稼ぎ労働者に対し、法定最低賃金を支払っていなかった例や、死亡事故が隠蔽された例などが紹介されている。
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ITF世界大会の政策

ビルマ同様、中国をのけ者国家と見なし、抗議運動の妥当な標的と見なす者が多いのも不思議ではない。しかし、国際労働運動における中国への対応は、全く一貫性を欠いている。ITFは、体制から独立して労働運動を展開している活動家と接触することも可能性として排除していないが、公式な組合であるACFTUとの建設的関わりもまた、ITF加盟組合が2006年のダーバン大会で選択したモデルである。
特に、「ACFTUやその加盟労組と建設的に関わる」という政策は、賛否両論が大きく分かれるものである、とITFのデビッド・コックロフト書記長は述べる。国際産別組織(GUF)の対中国政策は、「建設的関与政策」から、「ACFTUとのいかなる関与も拒否し、独立の労働者グループのみと連絡を取る政策」まで、まちまちである。
それでは、ITF世界大会で「中国労組との対話路線」が採択されたのは、なぜだろうか?
第一に、自らのために立ち上がるようになった中国の労働者を中心に、ACFTU内外において変化が起きつつあるからだろう。控えめな公式統計でも、労働争議発生件数は、年間27.3パーセントの割合で増加している。
交運労働者も例外ではない。2007年5月、南部の都市、深の赤湾(チワン)コンテナターミナルで、400人のクレーンドライバーとトラックドライバーが残業手当をめぐり2日間のストを行った。労働者は、ターミナル本部前で座り込みの抗議を行い、会社側が争議解決に合意するまで仕事に戻らなかった。
その1ヵ月後、300人の港湾労働者が塩田(ヤンティアン)国際コンテナターミナルの近くでストを実施し、3%の賃金引上げを獲得した。また、昨夏には、甘粛省の慶陽(チンヤン)市営運輸会社の建物前で労働者が長期間、抗議運動をしていたため、保安要員がこれを解散させに入るという事件が起きた。労働者らは、市営企業が民営化の後、不動産開発業者に売却されたことに抗議していた。
今年の2月には、政府が1月にバス運賃を値下げした際に、支払うと約束していた助成金を受け取っていないとして、北京の大興(ダーシン)のミニバス所有者が業務停止に入った。4月上旬には、中国東方航空のパイロットがストを行い、大きな話題になった。このストの結果、18機の航空機が到着目的地に着陸することなく、出発地に戻ってきた。パイロットは、賃金レベルの低さと税金の高さに不満を強め、インターネットを通じて行動を練った。
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新雇用法

その他にも、中国の組合の変化を促している要素がある。雇用保障の拡大を明記しているとされる雇用契約に関する新法が、今年1月から施行された。これにより、労働組合が団体交渉を行うことも可能になった。10年以上勤めた労働者は、終身雇用契約を結ばなければならない。また会社は、解雇する場合には事前に組合に通知しなければならない。
これによりACFTUの力は強化されるだろうが、虐げられている労働者には何の恩恵ももたらされない、と指摘する者もいる。しかし、一方で、いわゆる「裸足の弁護士(訳注:独学で法律に関する知識を身につけた農民など)」の支援を受ける出稼ぎ労働者などは、この労働法上の変化から恩恵を受けているようだ。
今日の中国には、もはや「鉄飯碗(生活を一生保障してくれる仕事)」は存在しない。民営化と産業再編から大きな課題が生じている。使用者が外国人であったり、組合に敵対的であったりすることもある。
2006年、ウォルマートが交渉を拒否した際、ACFTUは中国全土に62箇所あったウォルマートストアの全店で労働組合を結成するために、草の根レベルの組織化戦術を展開すると宣言してキャンペーンを行い、一見、これは成功したかに見えた。しかし、昨年11月に英国の労働組合会議(TUC)が行った報告によれば、依然としてやるべきことは多いようだ。「旧態依然としたトップダウンの中央集権体制、中国共産党への忠誠心、中核的労働基準の欠如などにより、ACFTUがこの機会を利用して、別のやり方で問題に取り組むことを困難にしている」とTUCは結論づけている。
最後に、最も重要なことだが、ITF加盟組合は、中国の組合を無視すれば、共通点や連帯を築くチャンスを失う危険性があるということで一致している。
ITFの和田茂・アジア太平洋地域部長は、労働組合の新たな状況がITFを助けるかもしれないと述べている。「ITFは、労働条件の改善を求めて、あるいは生きるために闘っている中国の労働者に手を差し伸べたいと考えている。中国では、今、ACFTU傘下の組合と連絡を取ることが、我々に、こうした労働者と接触する機会を与えている」
中国の労働争議の多くは、民営化に反対している以前の国営企業の労働者によるものである。この分野では、交通運輸労働者が、知識と経験を提供できる。
急速に増え続ける出稼ぎ労働者が都市部に押し寄せ、中国は今、交通運輸危機にあえいでいる。昨冬には、輸送能力不足が原因となり、主要鉄道駅で暴動が発生した。貨物輸送でも、需要が輸送能力を上回っている。公式の統計では、この5年間に6,500キロの鉄道と、過去2年間だけで13,000キロの道路が新しく建設された。中国の幹線道路のほとんどが有料道路で、地方政府との契約の下に、民間会社がその資金を提供している。現在では、鉄道も民間資本や外資に開放されている。昨年9月には、一部、民間資本の投資による鉄道が、初めて浙江省のクチャンで開通した。
政府や専門家は、交通運輸の危機に乗じて民営化と市場原理の導入を、さらに急速に推し進めようとしている。最大の鉄道会社である、中国鉄道グループは、12月に上海と香港の株式市場に上場した。中国には現在、上場している鉄道企業が4社ある。ITF加盟鉄道労組は、これらの鉄道労働者とは共通の目標がある。
海運産業では、外国籍船に乗り組む中国人船員の待遇に、ITFが長い間、特別に注目してきた。そのため、ITFに加盟する世界中の海事組合が、ACFTUに加盟する中国海員建設工会(CSU)と二国間の緊密な関係を構築してきた。ITFも、中国を何度か訪れている。教育や便宜置籍船(FOC)キャンペーンの目的に重点を置き、CSUと協力できる分野を構築するための議論が行われてきた。
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一致点

連帯は、もちろん、両方向に働く。中国の労組と一致点を見出すことは、中国政府の中国以外の交通運輸産業に関する政策を探ることを意味するだろう。
中国の銀行は、途上国のインフラに多額の融資をしている。中国は、スーダンの鉄道輸送にも大型の投資を行っており、原油で潤うナイジェリアの鉄道にも10億米ドルを投資すると約束している。中国中信集団公司(CITIC)と中国鉄道建設総公司は、もう一つの石油大供給国であるアルジェリアで、建設が予定されている全長1,920キロの高速道路の約半分を建設する契約を結んでいる。中国輸出入銀行は、アンゴラの道路および鉄道のため、20億米ドル相当の融資を行っている。また、中国の建設会社は、モザンビークで現在進行中の道路建設計画の3分の1以上に関与している。
これらの投資は、基本的に中国の産業のための資源を搾り出すことを目的に行われている。これらの企業が人権や労働組合権に注意を払うことはほとんどない。中国政府が、人権や労働組合権は国内問題だ、とみなしているからだ。こうした投資の受け入れ国は、中国政府の「ヒモのつかない」政策を、南南協力の手本として、好意的に受け止めている。これらの国々のITF加盟組合が、中国との接触を通して得られる、いかなる情報や影響力も有益なものとなろう。
したがって、中国には、変わらなければならない労働組合が存在し、それが認識されている。また、自らの権利に目覚めた新しいタイプの活発な交運労働者、大規模な再編、グローバル資本の巨大な影響も見られる。中国や中国の組合と関わらないままでいるという選択肢は、もはや存在しないようだ。
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セーラ・フィンケはITFの情報政策担当部長。
 
 
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