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グローバルユニオン
No.25/2011
■特集記事
 
海賊問題

百万人の叫び、「もう、たくさんだ」

海賊の悲劇を終わらせようとITFが展開しているキャンペーンは、93万筆以上を集めた署名運動により、勢いを増している。請願書は2010年の船員の日に国連に提出された。ロンドンを拠点とするジャーナリスト、ブレンダ・キルシュが海賊関係のITFキャンペーンについて報告する。

2010年5月20日、ITFが主要国際海運団体とともに、関係各国政府に海賊被害に取り組むための措置を求める世界請願行動を発足させたときの野心的な目標は、世界海事記念日の2010年9月23日までの4カ月間で、少なくとも約50万人の署名を集めることだった。しかし、実際には、このキャンペーンにおいて約100万人(930,406人)が、「もう、たくさんだ」の請願書に署名し、国際海事機関(IMO)に提出した。
このような大きな反響は、犯罪である海賊行為の発生が世界の海洋で増加しつつあることに、国際的な懸念が拡大していることを示している。今回の反響は、被害者である罪のない船員に寄せられた世界的な支援・同情の表現でもあった。被害者となった船員は、何カ月もの間、自由を奪われ、その結果、家族、友人、同僚の安全と自由も損害を受けている。
この請願が発している重大なメッセージを受けて、国連のバン・キムン(潘基文)事務総長は、「海賊問題から派生するすべての課題に取り組むために、国連はあらゆる努力を惜しまない」と約束した。
これに応えてITFのコックロフト書記長は、国連が実際の行動を起こすことを希望し、世界的な問題となりつつあるこのような問題に対しては、決意の裏付けがある具体的な対策でなければ、成果を挙げることは困難だ」と語った。
書記長の呼び掛けは、海賊行為が頻発する海域で武器による対抗措置がとられているにも関わらず、海賊行為が世界的に拡大しつつある状況のなかで行われた。
アデン湾の船舶通航の障害となっているソマリア海賊の攻撃行動は、この数年、活動範囲を外洋へと拡大し、強化されている。多国籍海軍船隊のアデン湾への展開に伴い、ソマリア海賊は活動海域をアフリカの角(ガルダフイ岬)の東方から南方のセイシェルおよびタンザニア沿岸沖のインド洋海域へ、そして北方の紅海へと拡大している。多国籍海軍は、アデン湾の安全航路は確保したものの、海賊活動の継続を抑止するには至っていない。
海賊は、機会さえあれば船舶を拿捕して莫大な身代金を獲得するのが目的であり、船舶の大小は無関係である。巨大なコンテナ船でも、マンモスタンカーでも、小型のトロール漁船でも、2人乗りのヨットでも、無政府状態のために貧窮する村落共同体にとっては、全ての船舶が富の源泉になり得ると考えられているのである。
けれども、より広範な海賊対策の実施と海軍艦艇の活動によって、ソマリア海賊の活動の成功率は低下している。
一方で、他の海域における犯罪の発生が増加傾向を示している。国際商工会議所の国際海事局(IMB)は、マレーシアのクアラルンプルに海賊報告センター(PRC)を置き、海賊による攻撃の報告を収集して定期的な監視データとしてまとめている。
IBMの報告によれば、2010年の最初の9カ月間に、世界で289件の海賊による攻撃があった。ソマリア海賊が関与しているのは約44パーセントで、この期間中に世界で発生した39隻の船舶ハイジャック事件のうち、35隻がソマリア海賊によって拿捕されている。世界で人質となった船員の総数は、773人であった。(2009年の同じ期間に世界で発生したハイジャック事件は、34隻であった。)
2010年の最初の9カ月間で、海賊に乗り込まれた船舶は128隻、射撃を受けた船舶は52隻であった。海賊が銃器を使用したのは137件、ナイフが使われたのは66件であった。殺された乗組員は1人で、27人が負傷した。また、77隻は海賊の攻撃を回避することができた。
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海賊対策

海賊事件の発生は増加しているが、海賊の乗船またはハイジャックの回避または防御に成功した商船のケースも増えている。アデン湾においては多国籍海軍艦艇の展開によって海賊行為が抑止され、攻撃をうけて緊急信号を発した船舶が海軍艦艇によって救出されたケースもある。
また、海軍艦艇の活動海域を拡大し、インド洋での輸送ルートの安全を確保するよう求める声もあがっている。けれど、このような活動が実行に移されたとしても、広大な海域で発生する被害を阻止できるかどうかは疑問である。
有効な海賊対策として採用が増えているのは、船内の保安区画または防御区画の設置である。海賊が船内に侵入してきたら、全乗組員が保安区画内に退避し、海賊との接触を遮断する。この戦術によって、乗組員の安全が確保できるのみならず、船と乗組員を支配しようとする海賊の意図を阻止することができる。幾つかのケースでは、船内に乗組員を発見できないため、海賊らは乗っ取りをあきらめ、船舶を離れて行ったとされている。
一部の船主は、海賊が頻発する海域に就航する船舶で民間の保安要員を乗船させているが、デンマークの海運大手マースクラインやEU船主協会は、各国政府および国際政府間組織による措置を求めている。ITFは、商船乗組員の武装に、断固として反対する。
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法的な対策の現状

現状の複雑な国際法の下では、海賊の訴追は極めて困難である。しかし、この袋小路に風穴をあける兆候も見え始めている。米国、オランダおよびセイシェルでは、海賊の訴追が可能となった。ケニアの法廷は、法律上の困難を克服して海賊を起訴し、2010年中にソマリア海賊15人が刑務所に送られ、その他の100人が留置されるなど、継続的に措置を講じている。イエメンの裁判所も、同様の措置を取っている。海賊の訴追を促進するため、インターポール(国際刑事警察機構)は、海運関係団体と2010年の中頃に会議を開き、海賊事件の捜査機構の統一および被害を受けた乗組員の陳述調書作成の負担軽減策などについて話し合った。
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経費

海賊行為によって発生する費用負担は、数百万ドルにのぼっている。これには、身代金だけでなく、船舶への損害、船員の厚生・保護、海賊対策および危険海域を避けるための航路変更などの負担も含まれる。
総合保険調査機構(GIRO)の報告書によれば、2010年10月における海賊行為1件当たりのコストは、900万米ドル(スエズ運河を経由する船舶の誘拐身代金の相場は1隻あたり約57,000米ドル)となっている。
イエメン政府は、地域的な被害として、アデン湾および紅海の海賊行為のために水産業が2009年度で1億5000万米ドルの被害を受けたと述べている。
けれども、被害の大半は、関係する乗組員とその家族が負担させられている。これを計算することは不可能だ。
2007年にソマリア海賊にハイジャックされたダニカ・ホワイト号のデンマーク人船員4人は、誘拐されたのち83日間、人質として過ごした。彼らの所属する労組3Fがキャンペーンを開始して、やっと彼らは解放された。その後も船員として働いているのは、僅か1人である。1人は死亡した。1人は精神に障害を受けてしまった。残る1人は職についていない。屈辱となったのは、受けた苦しみに加えて、彼らの補償請求をデンマークの裁判所が却下したことである。
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船員と家族への援助

海賊による武装強盗事件に巻き込まれた船員とその家族への援助は、船主、船員配乗業者、船員労組の課題となっており、関係団体は、海運産業全体として採るべき戦略を策定するために協議を行っている。
2010年7月、ITF船員トラストは、「海賊行為.人道的対策」と題されたプログラムのため、15万英ポンド(23万3千米ドル)の資金提供に同意した。このプログラムは、「海賊行為の即時阻止」の請願行動のような、ITF がIMOおよびその他の組織と共に取り組んでいる海賊と船員に関する活動の一環である。
主要海運国からトラウマ(精神的傷害)に関する専門家を集めたこのプログラムは、乗船前の訓練、攻撃の恐怖、失敗した攻撃の影響および抑留された船員の解放などついての最善慣行および最善手続きに関する研究調査を行っている。
ITFをはじめ、主要海事企業団体、福祉関係組織などが加わった運営委員会とともに、ITF船員トラストは海賊または武装強盗事件に遭遇した船員とその家族の扱い方に関する最善慣行のための提案を現在策定中である。
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海賊頻発危険海域

西アフリカ
この数年、ナイジェリアおよび近隣諸国における船舶および人員に対する攻撃が増加している。武装強盗事件は政治的動機が明確であることが多く、反政府のニジェールデルタ解放運動(MEND)と関係している。反政府分子は、デルタ地域の豊かな石油資源による収益をデルタ地域に再配分するよう要求している。
ソマリア海賊と異なり、西アフリカの反政府分子は、船員に対して暴力をふるうことが多い。
2009年に発生した多くの事件は、MENDによって発生した。しかし、2009年12月に指導者の1人が釈放されたとき、MENDは一時的な停戦を発表した。この一時停戦は2010年初めに終了し、再び事件が多発するようになった。IMBの報告によれば、2010年の最初の9カ月間に、ナイジェリアで11件の海賊事件が発生した。IMBは、「この地域は暴力行為の多発地域であり、実際の件数ははるかに多いと考えられる」と警告している。2010年9月には隣国のカメルーンで、2隻の船舶から船員が誘拐された。

ソマリア
ソマリア海賊の活動は、今も世界の海運産業と船員の重大な関心事である。彼らは自動小銃とロケット砲によって十分に武装しており、船舶の大小とは無関係に攻撃を仕掛けてくる。彼らは、えじきとなる船舶を洋上で捜索し、商船を乗っ取るために、しばしばGPS(衛星による位置確認装置)を装備した母船から小型モーターボートを発進させる。この母船は、以前に乗っ取られたものであることも多い。乗っ取られた船舶は、ソマリア沿岸に移動させられる。人質として捕らえられた船員は、場合によっては、この地で数カ月も過ごすことになる。
ソマリア海賊は、人質に危害を加えることは極めて少ない。殺されることは、ほとんどない。けれども、人質になった人々から明らかになったことは、人質生活がトラウマ的な経験であり、トラウマがその後、数年間も続くという点である。船員の家族や友人にも、その影響は及ぶ。
人質は、海運会社に巨額の身代金を支払わせるために必要となる行為である。数百万ドルが要求され、何百万ドルもが支払われた。けれども、身代金の交渉は秘密のうちに行われるため、ソマリア海賊の手に渡った身代金の総額は、まったく不明である。現時点において、ソマリア海賊は約20 隻を拿捕し、約400 人の船員を人質として抑留している。

南シナ海
ソマリア海賊が出没する以前は、南シナ海が海賊の多発海域であった。しかし、シンガポール、マレーシアおよびインドネシアの連携行動によって、海賊の活動は減少した。けれども、2008年に世界的な景気後退が始まり、海賊事件の増加が顕著になっている。
この海域の海賊は、圧倒的多数が銃器よりも刃物を使用した物品の強奪であるが、船員に危害が加えられるケースもある。
IMBによれば、2010年の最初の9カ月間に、南シナ海で30件の海賊行為が企てられ、その内の21件で海賊が船舶に乗り込んできた。この数は、2009年の同じ時期に報告された件数の3倍である。IMBは、これらの海賊事件は、少数のグループの犯行であると信じている。
この他、インドネシア周辺海域での海賊事件は26件で、2009年の9件より増加している、とIMBは報告している。

その他の危険海域
IMBが報告している他の危険海域は、バングラデシュのチッタゴン、ペルーのカヤオおよびベトナムの港湾である。これらの港湾では、停泊中の船舶にナイフやこん棒を持った盗賊が侵入し、船の備品や船員の所有物が盗まれる事件が発生している。
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請願の力

IMOのエフティミオス・ミトロポウロス事務総長は、93万人以上が署名した海賊行為を阻止するための措置を求める請願書を受け取った。請願書は、次のように述べている。「この文書に署名した我々は、海賊行為の危険にさらされている数千人の船員と数百隻にのぼる船舶を保護するために、次に述べる措置を含む、あらゆる可能な措置を直ちに講じるよう、各国政府に対し、緊急に要請する。
拡大する海賊問題を、国際協調と努力によって完全に解決するために、十分な財源と人員を提供する。
誘拐された船員の解放と家族のもとへの安全な帰還を確保するために、直ちに措置を講じる。
ソマリアとその国民が、平和で安定した将来を確保できるよう、国際社会において努力する。
海賊反対の請願書のIMOへの伝達情況のビデオは、次のサイトで。
http://www.youtube.com/watch?v=qJHSLFNt_HM
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ソマリア海賊に捕らわれて

筆者:アジアン・グローリー号船長ヴェリコ・ヴェリコフ

2010年1月1日、私が乗船していたアジアン・グローリー号が海賊の攻撃を受けたのは、英国/EU連合海軍が管理している西回り輸送航路に合流するための航行中だった。その時、私は船室にいた。零時を過ぎて間もなく、船内で自動小銃の発射音が聞こえ、3人の海賊がブリッジにいるのを発見した。彼らは、AK47自動小銃または拳銃で武装していた。私たちは、船舶を守り、危険を避けるために最善の予防措置を講じていたが、海賊は侵入に成功した。
私を含めて24人の乗組員は、海賊の捕虜となった。まもなく、彼らの母船がアジアン・グローリー号に横づけし、海賊15人が乗り込んできた。彼らは、本船をソマリアのゴールカドに向かわせるよう要求した。目的地までの距離は、約820海里であった。1月4日にゴールカドに到着すると、多数の海賊が乗船してきた。彼らは乗組員の船室内をくまなく調べ、個人の所有物をすべて盗み出した。
拿捕されていた期間中、大多数の乗組員は武装ガードの監視のもとで、ブリッジの前方に集まっていた。海賊の一部は、明らかに責任ある立場にあるようだった。とりわけ、1人は船内の衛星電話を使用して、ロンドンの本社役員と交渉していた。1人だけが、すべての交渉を担当していた。
海賊らは、我々を乱暴に扱った。彼らの行動は予測できず、身体および精神への脅迫を行っていた。彼らはしばしば薬物の影響下にあるように見えた。けれども、我々の食糧がなくなると、彼らは食料を供給した。
3月7日、不運なことに他の乗組員から隔離され、鎖でつながれて私の船室に監禁されてしまった。私の監禁は、4月16日まで続いた。他の乗組員と再会して分かったことは、海賊が乗組員に対し、私を処刑した、と通告していたことだった。
私たちは、ゾディアク・マリタイム社が安全と解放を確保してくれる、と完全かつ全面的に信頼していた。けれども、今回の経験は、乗組員全員にとって、時には生命の危険を感じる極めて深刻な災厄であった。すべての人は、海賊の人質となるような非人間的な恐怖を経験してはならない、と私は確信している。
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人質の日記

英国人2等航海士ジェームス・グラディーは、2008年11月から2009年1月10日まで、ソマリア海賊に拿捕されていたタンカー、シリウス・スター号(サウジアラビア船籍)に乗り組んでいた。彼は、今回の試練の期間中、秘密の日記をつけていた。以下は、その抜粋である。

1日目 08:55 複数の機関銃とロケット砲1基で武装したソマリア海賊が船内に侵入してきた。09:02 彼らは操舵室を占拠し、停船を命じた。そして、ボート2隻と海賊8人が本船に乗り移った。15:00 再び停船し、3隻目のボートを引き上げた。これで合計10人の武装海賊が乗船したと思われる。外部との連絡を阻むために、彼らは衛星電話を話し中にしていた。だれも救助に来るわけがない。船はソマリアに向かっている。全員が、次に何が起こるのか、と緊張している。10:00 船長のキャビンを手始めに、彼らは各船室の略奪を開始した。現金、携帯電話、時計、その他、彼らにとって価値のある物が、すべて盗まれた。彼らは盗むために、私の船室に2回侵入した。

2日目 ソマリア沿岸の「海賊浦」(私たちが付けた地名)に錨を入れた。海賊が初めて機関室に侵入し、コントロールルームから金目の物をすべて持ち去った。船の備品のノートパソコンを含む、すべての物品が盗まれた。

5日目 何人の海賊が船内にいるのか、我々には分からない。20.25人と思われるが、我々は部屋から出ることを許されないので、人数を推定するのは困難である。

7日目 AK47の暴発事故が発生し、海賊の1人が負傷した。海賊は、一等航海士に手当を頼み、銃弾を摘出するよう求めた。一等航海士は、「医者ではないから不可能だ」と彼らに告げた。一等航海士は、もし銃弾の摘出を試みれば、その海賊が失血のために死ぬ恐れがあると思ったのである。負傷した海賊は、陸上へ移送された。その後、我々は彼の姿を見ていない。

8日目 我々はソマリア沿岸を約15海里移動し、「海賊湾」が停泊地となった。彼らは、もっと陸地に近づくよう要求した。陸地に接近するには本船が大きすぎることを、彼らは理解していなかった。

10日目 乗組員のピーターと私は、衛星電話でITVニュースのインタービューを受けた。我々は、海賊は親切である、と答えた。彼らがそばで聞いていたため、選択の余地はなかった。あすの朝、我々の家族からの電話がある、と海賊たちは約束した。

13日目 ここ数日、1回または2回ヘリコプターが飛来し、上空を旋回している。今日も来た。昼食の前に、スペイン(推定)の軍艦が、約5海里の距離をおいて航行していった。海賊に対する何らかのメッセージかもしれない。

17日目 新たに、5人の海賊が乗船した。21:00 彼らは全乗組員に対し、事実上の人質として、ブリッジに集合するよう要求した。彼らは、攻撃を受けると考えたようだ。結局、全員が職員用休憩室で寝ることになった。ドアのところには、武装した海賊が見張っていた。寒くて、不愉快な一晩だった。襲撃船は、約15海里後方の灯台にいた。

18日目 人質にとっては、ひどい夜だった。職員用休憩室に閉じ込められ、何もできなかった。06:00 彼らは、船室からの略奪を開始した。09:00 再び彼らは、船室や倉庫を一つ一つ回った。私の船室が捜索を受けるのは、これで5回目だ。私は、人気があるのだろうか。

21日目 本日早朝、ヘリコプターが上空を通過して行った。海賊らにとって不要な物品を、我々に返還した。我々全員が、家族に電話をかけることができた。

22日目 ヘリコプターが、午後の早い時間に上空を通過して行った。ヘリコプターを見ると、我々は見捨てられていない、と思って安心する。

24日目 ソマリア沿岸のパトロール行動が、NATOからEUに引き継がれた。海賊を逮捕した場合、どう処置すべきか、彼らは分かっていない。我々には、よく分かっているのだが。

29日目 海賊たちが我々の食糧を食べているので、司厨部員は憤慨している。

32日目 01:15 海賊が、救命胴衣を海上に浮かべて、それを銃撃している。06:30 一隻の漁船が、船尾に接近してきた。海賊は、重機関銃で漁船を射撃している。08;05 3日ぶりに、ヘリコプターが通過して行った。

35日目 今日は、ヘリコプターがこなかった。早朝、乗組員のロッカー室が壊され、侵入された。もう2週間、誰も家族に電話をしていない。好ましくない。

38日目 朝早く、ヘリコプターが飛来し、上空を旋回した。海賊は、更衣室のロッカーから物を盗み出し、乗組員のキャビンなどにも押し入ろうとしている。

40日目 ヘリコプターは来なかった。今日、乗組員と海賊は釣りに出かけ、魚を釣ってきた。

42日目 ヘリコプターが来た。海賊のボスが今朝、乗船してきた。船主のヴェラ・インターナショナル・マリン社との交渉を促進するためと思われる。新たに4人のソマリア人が乗船した。乗組員全員が、家族に電話をすることができた。3週間ぶりだった。

50日目 海賊の幹部数人が本船に来て、「交渉は終結した。我々は金が到着するのを待っているところだ。3日程度かかると思われる」と言った。乗組員のマレクが会社に電話をして事実を確認したが、まだ7日から10日かかるかもしれない、と言った。

54日目 翌日、我々全員が、左舷マニフォールド(荷役用パイプ)の前方の甲板に出た。06:30頃、小型飛行機が飛来し、手すりに沿って3メートル間隔で立っている我々の人数を確認した後、約束の金額の50%を投下した。小型機は、6時間後に再び飛来し、残りの50%を投下した。マレクが金額を確認した。総計約300万ドルである。今日も、盗みが行われている。何もかもが盗まれている。

55日目 全員が05:00にはベッドを離れた。07:30 我々は、甲板の左舷の手すりに沿って立った。08:05 双発の飛行機が船尾から船首にむけて低空で飛行し、我々の人数を確認した。二度目は、やや高く飛来し、パラシュートを付けたカプセルを海上に投下した。支払い金額の50%である。海賊のボート2隻が拾い上げて、船上に持ち込まれた。我々全員、船内に戻った。飛行機は14:10に再び飛来し、残りの金額を投下した。全ての金額は、14:20までに届けられたにもかかわらず、16:00になっても海賊どもは盗みを続けている。もう、充分盗んだのではないのか?16:30海賊17人が下船して行った。

56日目 ほとんど全員が04:00までに起床していた。05:34 最後の海賊が下船した。05:34 スタンバイ。06:42 自由な航路めざしてフルスピード。アフリカを離れて東に向かう。BBC放送によれば、海賊筋の情報として、身代金を積んで疾走中の海賊のボートが転覆し、海賊5人が死亡したとのこと。我々にとっては、大変いいニュースだ。14:00 ヘリコプターが飛来したが、かなり距離がある。我々を見守ってくれているのか。深く感謝しよう。15:30 本船は、カルバ(アラブ首長国連邦)に向かうよう指示を受けた。
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海賊への対処 船員のための指標

ITFは、かねてから、船員自身が海賊に対峙するようなことは避け、船員の生命と安全を海賊から守るために、船主および政府がすべての責任を持つよう説得に努めてきた。

雇用主の保護責任
船舶は、例外的な状況でのみ、アデン湾およびソマリア沿岸を通航すべきである、とITFは確信している。現在、攻撃を受ける危険は極めて大きく、このような危険な航路に就航する船舶に乗船させることは、船主の保護義務違反である。
その船舶が一定の保護設備を備え、危険性が低いと認定された場合を除き、海軍艦艇の保護下においてのみ、この海域を通航すべきである。

危険海域協定
ITFのIBF団体協約は約4000隻に適用されているが、現行の戦争類似行動海域以外でも、危険海域を指定している。IBF指定の危険海域は、アデン湾全域からソマリア東方400海里に及んでいる。
ITFのIBF協約が適用されている船舶の乗組員は、危険海域に入る前に、経費は船主負担で帰国する権利を有している。ただし、当該船舶が、国際海軍艦艇による哨戒活動が実施されている国際勧告通航回廊(IRTC)のみを通航する場合を除く。
ITFのIBF団体協約適用船舶の乗組員は、危険海域を航行する場合、次の手当てを受け取る権利を有する。
●賃金の100%に相当するボーナス
●死亡または負傷の場合は、規定の2倍の補償金
ボーナスおよび補償金の加算は、IRTCの内外に関係なく、当該船舶が危険海域を航海する全期間を通じて適用される。
ITFのTCC団体協約、ITF標準団体協約および多くの国内労働協約にも、類似の規定が存在している。貴方の船に適用されている労働協約を確認するには、
www.itfseafarers.org に接続し、"Look upa ship" をクリックしてください。

より良い雇用条件と権利
ITFは、海賊の危険にさらされている船員に供与される保護と援助を改善するため、IBF交渉を通じて協定を締結した。
2011年中に発効する改善項目は、以下の通りである。
すべてのIBF関係船舶において、海賊の活動を抑止するための「最善管理手続き」(詳細については以下を参照のこと)の遵守と、船社による海賊に遭遇した船員を支援するための「不測事態対応計画」の船内配置を確保する。
船員が海賊の人質にとられた場合は、賃金の支給と家族への情報提供を確保する。
船員が海賊の行動について証言する必要がある場合は、船社が賃金と必要経費を負担する。


攻撃の予防
ITFは、海賊行為の危険にさらされている船員および船舶を保護するための「最善管理手続き:BMP」の策定に協力した。「BMP」は、船舶が攻撃またはハイジャックの対象となることを防止するために、船社および乗組員が遵守すべき手続きの概略を述べている。
船舶が「自発的報告海域:VRA」内に存在する全期間を通じてBMPを遵守するよう、海軍当局は勧告している。
VRAは、スエズ運河の東側からインド(東経78度)まで、南方はセイシェルおよびチャゴス(南緯10度)までの範囲である。
乗組員は、船舶が拿捕される危険を増大させる次の要素を警戒すべきである。
乾舷(フリーボード)が少ない(特に8メートル以下の場合)
低速である(特に18ノット以下の場合)
好天である(特に海象が3以下の場合)
乗組員と船舶の準備ができていない場合
船舶が海軍当局に報告していない場合最高速度が18ノット以下の船舶は、危険海域に入るべきではない。
各船舶について、危険評価を実施すべきである。また、船社は完全な「不測事態対応計画」を用意すべきである。乗組員の研修と実地訓練が実施されるべきである。また、緊急通信計画も準備されるべきである。いかなる状況においても、最優先事項は、乗組員の安全である。いかなる防御措置を講じる際にも、乗組員を危険にさらすべきではない。
VRAを通航する船舶は、海軍当局(UKMTO)に報告するとともに、その指示を遵守しなければならない。すくなくとも1日に1回は、船舶の位置を報告すべきである。報告を行った船舶には、海賊の攻撃を回避するための最新の助言が提供される。全ての船舶は、国際勧告通航回廊(IRTC)を使用しなければならない。
通常の監視員に加えて、臨時の監視員も配置すべきである。BMPは、当直体制および監視体制を強化するために乗組み定員の増加を検討するよう、船主に奨励している。
BMPのアドバイスには、船舶の安全を確保し、海賊の侵入を防止するための提案も含まれている。このほか、攻撃を受けた際の乗組員の集合場所と安全な避難場所についての提言も、アドバイスには含まれている。
武装保安要員または武器の使用は、推奨されていない。
最新のBMPアドバイスは、www.itfseafarers.org/deterring-piracy.cfmから入手できる。

海賊の攻撃に耐えるには
EU連合海軍(EU-NAVFOR)は、海賊の人質となった場合に安全に対処するための助言も提供している。海賊側の指示に協力的であれば、一般的に、人質に対して暴力が加えられることはない。けれども、人質としての期間が長期化した場合には、情況は深刻化する。
船員が解放され、必要な医療および精神的援助を受けた後に、人質となった経験を関係当局、労働組合、船社などに伝えることが重要である。
EU-NAVFORのパンフレットについては、アラビア語、中国語、英語、ヒンディ語、日本語、ロシア語およびタガログ語の各版があり、www.itfseafarers.org/surviving-piracy.cfmから入手できる。
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海賊行為について報告しよう

攻撃を受けた場合や海賊船と思われる船を見た場合には、国際海事局・海賊報告センター(IMB・PRC)に報告して下さい。連絡先:電話(24時間対応)海賊対策支援ライン+60 3 2031 0041またはEメールimbki@icc-ccs.org
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