No.26/2012 |
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ILO海事労働条約
間もなく発効の見込み
2011年9月にルクセンブルク、翌月にキリバス、そして12月にオーストラリアとオランダが、海事労働条約(MLC)2006を批准した。これにより2011年末時点で、総トン数にして世界の船舶の過半数を占めるILO加盟22カ国が、MLCの批准国となった。
世界の船員の公正な労働条件と最低基準の確立に向けて、MLCの発効に必要な残りの8カ国も間もなく批准すると見られており、ITFは2013年中の発効を期待している。
ITFインスペクターは、MLCによる苦情処理を実施し、船員に同条約下での権利について助言し、港湾当局を指導する重要な役割を担っていくことになる。
MLCの枠組みにおいて、外国船舶監督官は船員やその代表者の苦情を調査し、深刻な不備が頻発する船舶については拘留す
る責務を負う。
ITFは、ILOや海事労働アカデミーと協力して、2012年夏に開始される組合のための研修プログラム作成に取り組んでいる。
さらに船員のための様々な概況報告書も準備中である。 ⇒詳細はこちら
海事労働条約とは…
国際労働機関(ILO)の海事労働条約(MLC)2006は、世界の120万人の船員に、労働の最低基準と保護を提供している。
船員には、安全で安定した職場、公正な雇用条件、そして適切な生活環境や労働条件を持つ権利がある、とMLCは規定している。
MLCは、特に以下の権利を船員に付与している。
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乗船中のディーセントな労働条件や生活環境を保証する雇用契約を、船主ないし船主の代理人と船員の間で結ぶこと。 |
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雇用契約や適用される団体協約に基づき、毎月の給与が全額支払われること。 |
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労働時間は、24時間のうち最大でも14時間、7日間のうち最大でも72時間とする。 |
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傷病、難破、破産、売船の場合の本国送還。 |
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最低限以上の広さの部屋、十分な暖房設備、換気装置、衛生設備、照明、医療設備を含む、居住設備や休養設備に関する特定の要件。 |
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船内および港内における、医療の即応体制。 |
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「海事労働条約の批准を」ITFが呼びかけ
乗船する船舶がどの国の船籍であったとしても、船員の仕事は他の分野の労働と平等な認識をされるべきである。こうしたメッセージを、ITFは2011年8月にマニラで開かれた第1回目の国際船員家族会議で発した。
したがって重要なのは、各国政府が「船員の権利章典」として知られる海事労働条約(MLC)、ならびにILO第185号条約「船員の身分証明書条約」を批准することである、とITFは述べた。
同会議には、フィリピン労働雇用省のロザリンダ・バルドス長官が出席した。長官はITFに対して、フィリピンは現在、185号条約を批准する手続きの最中であり、MLCについても政労使の三者協議を開始したところで、間もなく批准されることを期待している、と述べた。
今回のマニラ会議には1,350人の代表が参加し、国際船員福祉委員会(ICSW)を通じてITF船員トラストが資金を援助した。 |
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船員配乗代理業者に注目
海事労働条約(MLC)の目的は、船員の生活環境や労働条件の水準を向上させることである。すべての主要な旗国は既に同条約を批准しており、MLCは間もなくの発効が期待されている。
MLCは、すべての民間船員配乗代理業者が規制の下で船員の雇用を保護促進するための効率的かつ適切なサービスを責任を持って提供しなければならない、と定めており、特に以下の事項を禁止している:
■職業紹介の経費を船員に請求すること。
■賃金から違法に控除すること。
■船員のブラックリストを作成すること。
船主は、MLCの定める最低基準を満たす船員配乗代理業者を使わなければならない。
ITFは、現在の雇用慣行に関する調査を実施している。もし、あなたが船員配乗代理業者と現在、問題を抱えているか、もしくは以前にトラブルがあった場合はITFまで連絡を。
メール:
ウェブサイト: |
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二度の苦難を乗り越え、アフリカの船員がついに帰国
ソマリア沖の海賊に8ヵ月間拘束され、その後スリランカで14ヵ月間も足止めされていたアフリカの船員一団が、ITFの協力を受けてようやく帰国することができた。
シンガポールを出港してから2年以上が経過し、ソマリア沖の海賊に拉致されるという苦難を乗り越えながらも、8人のアフリカ人船員は2011年7月、ついに母国へ向けてコロンボを発った。
漁船の太原227号が2009年9月にアラビア海に向けてシンガポールを出発した時、乗組員はその先に何が起こるか知る由もなかった。
2010年5月17日、海賊により船がハイジャックされ、船員は拉致され、2011年1月23日まで監禁された。
そして解放されてから10日後、中国、フィリピン、ベトナム、ビルマ、アフリカの健康な乗組員27人と太原227号はスリランカのコロンボに到着した。
アフリカの船員8人(ケニヤ人6人、モザンビーク人2人)を除き、船員は帰国するためにコロンボを発った。残ったアフリカ人は船に留まり、未払賃金と補償の支払いを待った。
しかし、台湾に本社を置く船主は破産を宣告し、その後、現地代理店は船に残った船員への食糧や物資の供給を打ち切った。
そのため船員たちは、スリランカ船員組合(NUSS)を通じてITFにコンタクトを取った。
現地のランジャン・ペレラITFインスペクターは、すぐさま物資供給の手配を開始し、一方ITFは、裁判所命令で差押えられていた漁船の売却による売上金が、乗組員への支払いに使われるよう尽力した。
最終的に、乗組員には、それぞれ7500ドルと帰国運賃が支払われた。 |
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フィリピン船員マニラ空港で賃金を強奪される
特集記事
2011年10月、マニラ空港を出ようとしたフィリピン人船員らが襲撃され、ITFが取り返した賃金が再び奪われた。
ジブラルタル籍のコンテナ船「フィリップ」の乗組員7人は、2台のバンに無理やり押し込まれて船員配乗代理業者ベガ・クルーイングの事務所に連れていかれ、そこで脅迫されて無理やり金銭を取り上げられた。別の乗組員1人だけは、空港で別の出口から出たため逃れることができた。
同月初旬、英国のトミー・モロイITFインスペクターが、意図的に雇用契約より少ない賃金を支払っていた同社の二重帳簿の実態を暴いたことから、乗組員は総額23万ドルの未払賃金を受け取った。
しかし、フィリップの船主であるドイツのベガ・フリードリヒ・ダウバー社とその子会社が10月4日にリバプールで支払いに合意したにも関わらず、船主側の代理人は船員から賃金を奪い返した。これがジブラルタル海事当局に報告され、当局が賃金を乗組員に変換するよう同社に命じた。そこで10月18日、リバプールにおいて、ジブラルタル船籍を代表する英国のポートステート・コントロール(PSC)立会いのもと、ITFにより賃金の返還が行われた。
モロイは「ある乗組員が昨日、私にこう話してくれた。彼は30年以上この業界で働いていて、全てを見てきたつもりだったが、まだショックを受ける余地があったことに驚き、今回の船員に対する措置に愕然としたそうだ」と、述べた。
また、モロイは「会社が自らの不正行為について否定したことはなかった。我々の提示した証拠に基づいて、奪った賃金を実際に2度も返還している。ベガ・クルーイングが単独で動いたのか、マニラで賃金を奪うように指示されたのかは分からない。前者であれば、ベガ社が適切な措置を取るよう期待する。そして、もし同社が対応を取らないのであれば、ジブラルタル海事当局や関連組織がドイツ船主に対して適切な行動を取るよう期待する」と、付け加えた。 |
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ITF、被害者と家族を援助する新計画を支援
海賊行為に苦しむ船員と家族を援助するための「海賊被害に対する人道支援(MPHR)計画」が立ち上げられた。この計画にはITF船員トラストとTK財団が出資しており、海運業界全体を代表している労組、船主、経営者、船員配乗代理業者、保険会社、福祉団体などの連合体が支援している。
過去8年間で、約4000人の船員が海賊の被害に遭った。しかし、これまで被害者とその家族に対して調整された支援はほとんどなかった。「今、それが変わろうとしている」とMPHRの支援団体関係者は言う。業界団体の尽力により、海賊行為の被害に遭った船員のための最初の対応者やカウンセラーによるネットワークが設立される。
ITFの聞き取り調査によると、人質となった船員への対応は企業により大きく異なるとのことだ。ある企業では、船員はホテルに宿泊し、医療を受け、新しい服や靴が与えられて帰国できる。
しかし一方では、解放後も船で過ごし、何ヵ月も着たままの服で帰国するケースもある。
これまでの調査結果によると、海賊から解放されてからすぐに適切な対応を受けた場合、人質だった船員の回復は格段に早まり、後遺症も発生しにくい。 ⇒詳細はこちら:
またはまでメールを。 |
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組合と船主
海賊問題で団結
ITFは、これまで海運産業のあらゆる側面から、"みんなの力"を合わせて海賊問題に取り組むキャンペーンに参加してきた。
「SOS‐セーブ・アワー・シーフェアラーズ(われらが船員を守ろう)」キャンペーンは、2011年3月にITFと船社を代表する複数の国際団体によって立ち上げられた。
SOSキャンペーンは、ウェブサイトや世界の主要な新聞の広告に掲載されており、多くの人々が各国政府に海賊行為の取り締りを要求していくよう訴えかけることを目的としている。
当キャンペーンは、政府が海賊問題の重大局面を認識するよう促している。例えば、ソマリアの海賊は現在、800人ほどの船員の人質を拘束しており、その残虐性は次第に増加している。
このキャンペーンでは、政府に対して次の要請をしている。船員の保護と支援拡大、海賊を拘束する権限を海軍に与え、海賊を起訴すること、国内法令に基づき海賊行為をすべて処罰すること、犯罪ネットワークの背後にいる黒幕と資金提供者を明らかにすること。
⇒詳細はこちら
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商船隊上位20カ国
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船腹量ランキング
(2011年1月1日) |
船舶数
(100総トン以上) |
総トン数
(単位:100万トン) |
2010年1月1日
の総トン数 |
平均
船齢 |
1 | パナマ* | 7,986 | 201.3 | 190.7 | 17 |
2 | リベリア* | 2,726 | 106.7 | 91.7 | 10 |
3 | マーシャル諸島* | 1,622 | 62.0 | 49.1 | 8 |
4 | 香港(中国) | 1,736 | 55.5 | 45.3 | 9 |
5 | バハマ* | 1,384 | 50.4 | 48.1 | 13 |
6 | シンガポール | 2,667 | 44.9 | 41.0 | 8 |
7 | ギリシャ | 1,433 | 40.8 | 38.9 | 21 |
8 | マルタ* | 1,724 | 38.7 | 35.0 | 12 |
9 | 中国 | 4,080 | 34.7 | 30.1 | 22 |
10 | キプロス* | 1,014 | 20.7 | 20.2 | 11 |
11 | イタリア | 1,649 | 17.0 | 15.5 | 22 |
12 | 日本 | 6,150 | 16.9 | 14.7 | 16 |
13 | 英国 | 1,638 | 16.5 | 17.0 | 19 |
14 | ドイツ | 931 | 15.3 | 15.2 | 22 |
15 | ノルウェー(NIS第二船籍) | 521 | 13.8 | 13.9 | 14 |
16 | 韓国 | 2,913 | 12.5 | 12.9 | 26 |
17 | 米国 | 6,371 | 11.9 | 12.0 | 27 |
18 | マン島*(英国) | 385 | 11.6 | 10.2 | 9 |
19 | デンマーク(DIS第二船籍) | 524 | 11.5 | 10.8 | 15 |
20 | アンティグアバーブーダ* | 1,293 | 10.7 | 10.0 | 10 |
出典:ロイズ船級協会船名録。*は便宜置籍登録を示す。 |
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船主上位20カ国
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船腹量別ランキング
船腹量:総トン数
(2011年1月1日) |
船舶数
(1000総トン以上) |
総トン数
(単位:100万総トン) |
平均船齢 |
1 | 日本 | 3,796 | 132.0 | 8 |
2 | ギリシャ | 3,213 | 118.1 | 13 |
3 | ドイツ | 3,827 | 85.4 | 8 |
4 | 中国 | 3,651 | 67.2 | 18 |
5 | 米国 | 1,972 | 43.0 | 16 |
6 | 英国 | 1,128 | 40.7 | 12 |
7 | ノルウェー | 1,986 | 33.8 | 13 |
8 | 韓国 | 1,189 | 30.0 | 15 |
9 | デンマーク | 980 | 26.4 | 11 |
10 | 香港(中国) | 713 | 23.4 | 10 |
11 | 台湾 | 662 | 20.9 | 13 |
12 | シンガポール | 1,021 | 20.0 | 12 |
13 | イタリア | 836 | 17.7 | 13 |
14 | ロシア | 1,892 | 14.3 | 25 |
15 | カナダ | 436 | 13.2 | 20 |
16 | トルコ | 1,214 | 12.4 | 17 |
17 | マレーシア | 526 | 10.9 | 13 |
18 | インド | 534 | 10.8 | 16 |
19 | フランス | 467 | 8.7 | 10 |
20 | ベルギー | 249 | 8.0 | 12 |
出典:ロイズ船級協会船名録 |
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便宜置籍船乗組員のための3年にわたる賃上げ
ITFとFOC船大手使用者が、3年間の賃金協定を締結した。それにより2012年、2013年、2014年のそれぞれ1月1日に船員の賃上げが行われることになる。
この新しいIBF協約は、ITFと使用者側が2011年7月にマイアミで交渉し、同年11月にロンドンで開かれたITF公正慣行委員会(FPC)で承認された。
その結果、2012年1月1日に2%、2013年1月1日に2.5%、最後に2014年1月1日に3%の昇給が適用される。
職員と部員への具体的な昇給の適用方法については、今後、各国の労使協議で決定される。
マイアミでは海賊問題も協議され、軍事的行動区域とハイリスク・エリアに関する修正文が合意された。
加えて、懲戒や苦情処理、いじめや嫌がらせに関する対応の手続き作成について企業を支援する基準、ならびに見習い船舶職員の研修やIBF協約船上での研修機会の提供を通じて将来の職員の供給を維持する責任をカバーする修正協約が締結された。
IBF交渉の終わりに、ITF船員部会のデビッド・ヘインデル議長は「ここ数年、IBFの労使双方に大きなプレッシャーがかけられている。世界金融市場の崩壊により、使用者は困難な状況の中でコストを最小限に抑えようとするようになり、また船員を代表する労働組合は、船員の利益と生活を守る一方で、こうした財政的な状況を理解せざるを得ない状況に追い込まれた」と述べた。
さらに議長は「最終的に合意に達した今回の協約は、労使双方が建設的に、またそれぞれの組織を代表しながらも協力し合えるということを示した。この協約は、IBF交渉プロセスの強み、そして難しい時代に難しい問題でも結論に達することができるというIBFの能力の証である」と、付け加えた。 |
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ニュージーランドの漁業規制に批判
ITFは、ニュージーランドでの漁業規制の見直しを求めている。同国内の労組も、オヤン75号の問題を受け、同様に改善を求めている。韓国漁船のオヤン75号は、低賃金や心身両面で虐待を受けたと訴えるインドネシア人船員により、リトルトンで放棄された。
本件の調査の結果、同船の韓国人職員には26件の容疑がかけられることとなった。報告によれば、オヤン75号はニュージーランドのサザン・ストーム・フィッシング社のチャーター漁船である。同社は、2010年に沈没して6人の乗組員が亡くなったオヤン70号もチャーターしていた。
2011年10月、外国企業のチャーター漁船を対象とした調査がニュージーランドで開始された。ニュージーランド海事労組(MUNZ)は、外国企業のチャーター漁船がしばしば搾取的な労働条件と安全基準違反の温床になっている、と指摘し、締めだしを急いでいる。
ITFのジョン・ウィットロー船員部長は「対策を講じる必要があるのはニュージーランド当局だけではない。他国もまた、ILO漁業労働条約(第188号)の批准と実施などを通じて、漁船の労働条件を改善すべきである」と語った。 |
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争議行為を起こす前にこれを読んでください!
ITFは、便宜置籍船に乗り組む船員が、正当な賃金と適正な団体協約の適用を受けられるよう、支援することを約束しています。
時には船員が、現地の裁判所に提訴しなければならないこともあります。場合によっては、船舶に対するボイコット行動も必要です。どのような手段が適切かは、国または場所によっても異なります。ある国では適切な行動が、他の国においては全く不適切なこともあります。
最初に取るべき行動は、先ず、現地のITF代表に連絡することです。このITFシーフェアラーズ・ブルテンのに記載されている住所と電話番号等を参照してください。何らかの行動を取る前に、現地の助言を必ず得てください。
一部の国においては、船舶の乗組員によるストライキが、違法行為となることもあります。そのような場合には、現地のITF加盟組合の代表が、状況を説明します。
多くの国において、労使紛争での勝利の鍵を握るのは、ストライキです。この場合にも、現地の助言に基づいて行動する必要があることは言うまでもありません。多くの国で、船員には、航行中を除き、入港中のストライキ権が法律上、認められています。
あらゆるストライキにおいて重要なことは、規律と安全を守り、団結を維持することです。多くの国で、ストライキ権は基本的人権の一部として、法律あるいは憲法により保障されています。
どのような行動を選択するにせよ、事前に現地のITF代表に連絡することを決して忘れないでください。お互いに協力することによって、我々は正義と基本的権利の闘いに勝利することができるのです。 |
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