No.26/2012 |
■コミュニケーション |
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船員のコミュニケーション手段
インターネット、携帯・衛星電話によって、船員と家族・友人・外界とのコミュニケーションが変化していることがITFの調査で分かった。
デジタル通信の急速な発展・普及にもかかわらず、船内のインターネット利用は依然として限界がある。そのため、財布に余裕のある船員は、家族との連絡手段として、衛星電話を主に利用している。
ITFの調査によると、Eメールは船内よりも、船員の自宅や港で多く利用されている。一時上陸中にインターネットを利用できると回答した船員は80%、自宅でインターネットを利用できると回答した船員は95%以上に上った。
この調査は、ITF船員トラストがロンドン・メトロポリタン大学の勤労生活研究所(WLRI)に委託したもので、エロル・カヴェチ教授監修の下、ベルギー、オランダ、トルコ、英国で実施された。
58カ国の船員1,000人以上が参加したこの調査の結果は、2011年に発表されている。その概要は、次のとおり。
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船員の約80%(部員の97%を含む)が、船内でインターネットを利用できない、利用できたとしても料金が高い、と回答している。 |
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船内のEメール利用は2007年から3倍に増えているが、依然として限定的だ。船員の52%、部員の68%が、船内でEメールを利用できない、と答えている。 |
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船内でのEメール利用が限られていることから、衛星電話に頼る船員が増えている。 |
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家族・友人との連絡手段で多いのは、船員センターの電話(85%)、携帯電話(82%)、SMS(74%)だ。 |
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ほぼ全員が、自宅でインターネットを利用している、と回答している。その目的は、連絡通信、ソーシャルネットワーク、ニュース、銀行取引、音楽・映画・ゲームのダウンロード等だ。 |
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船内におけるEメールやインターネットの利用率は、部員に比べて職員の方が著しく高い。 |
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船内でのEメール利用は、船舶の種類によっても異なる。例えば、ドライバルク船の船員の67%、一般貨物船の船員の65%はEメールを全く利用したことがない、と回答している。 |
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回答者の70%がソーシャルネットワークを利用している。最も利用されているのがフェイスブックだ。一方、中国人船員の78%はQQを利用している。 |
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船内でも自宅でも、職員は部員よりも頻繁にインターネット、携帯電話、ソーシャルネットワークを利用している。例えば、自宅で毎日インターネットを利用していると回答した職員は82%に上る一方、部員は39%にとどまっている。 |
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一時上陸中、部員は職員よりも、船員センターの電話や公衆電話を多く利用している。 |
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しかし、一時上陸中のEメールの利用に関しては、部員と職員で大差はない。 |
調査結果に関して、カヴェチ教授は、コミュニケーションの円滑化という観点からのインターネットの役割は非常に大きいと指摘し、次のように述べた。「ウェブ上の安価な情報交換、コミュニケーション、交流は、組合にサービス向上と組合員獲得の機会を与えている。組合は、組合員へのサービス向上、労使紛争の支援、国際労働運動の強化のために、ウェブを活用できる」
調査票は英語と中国語のみで作成されたが、聞き取り調査はギリシャ語、ヒンドゥー語、ロシア語、タガログ語、トルコ語等、さまざまな言語を母国語とする人物によって実施された。 |
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⇒調査結果と報告書は、ITFのホームページで閲覧できる。() |
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船内でのEメール利用状況
| 部員
(561人) | 職員
(368人) |
利用できない | 379(68%) | 102(28%) |
乗組員全員が個人のメールアカウントを持っている | 64(11%) | 88(24%) |
個人のメールアカウントはないが、利用できる | 28(5%) | 103(28%) |
送信はできるが、受信はできない | 63(11%) | 22(6%) |
送信できるメールの数は限られている | 27(5%) | 41(11%) |
利用できるが、添付ファイルは送信できない | 34(6%) | 14(4%) |
利用できるが、利用していない | 9(2%) | 3(1%) | |
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船内で外界とコミュニケーションをとる上での障害
(回答者数:1,007人)
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人数 | % |
設備を利用するのが難しい | 741 | 74 |
費用が高い | 685 | 68 |
時間がない | 426 | 42 |
その他 | 95 | 9 |
なし | 47 | 5 | |
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船内でのインターネットの利用状況
(回答者数:991人)
| 人数 | % |
インターネットを利用できない | 800 | 81 |
毎日 | 26 | 3 |
週に数回 | 25 | 3 |
月に数回 | 12 | 1 |
ほとんど利用しない | 9 | 1 |
利用しない | 119 | 12 |
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船内から家族への連絡手段
(回答者数:1,023人)
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人数 | % |
船員センターの電話 | 871 | 85 |
携帯電話 | 842 | 82 |
携帯のテキストメッセージ | 761 | 74 |
港の電話(公衆電話) | 637 | 61 |
陸上のEメール | 594 | 58 |
船内の衛星電話 | 566 | 55 |
船内のEメール | 457 | 45 |
書簡・ハガキ | 29 | 3 |
連絡は取らない | 2 |
- |
その他 | 14 | 1 | |
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船内から陸上の友人への連絡手段
(回答者数:1,023人)
| No. | % |
船員センターの電話 | 641 | 63 |
携帯電話 | 615 | 60 |
携帯のテキストメッセージ | 599 | 59 |
陸上のEメール | 477 | 47 |
港の電話(公衆電話) | 476 | 47 |
陸上のEメール | 321 | 31 |
船内の衛星電話 | 242 | 24 |
書簡・ハガキ | 97 | 10 |
連絡は取らない | 32 | 3 |
その他 | 8 | - |
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組合と連絡を取り合うには
船員と組合との連絡状況についても詳しく調査した。
調査の結果、分かったことは、船員は組合と連絡を取りたがっているということだ。保護や条件確保のために、組合との連絡は特に重要だが、特殊な働き方ゆえに、組合とは疎遠になりがちだ。
組合と連絡を取るには、事務所に電話をかけたり、事務所を訪問したりする方法がよく取られている。Eメールやインターネットはあまり用いられていない。しかし、組合から連絡を取る方法としてはEメールが最適だ、と多くの船員が考えている。
船員関係の雑誌や出版物(上陸中はウェブサイト)は非常によく読まれている。特に、ITFのシーフェアラーズ・ブルテンは、多くの船員に定期的に閲覧されている。
さらに、かなりの船員がITFの出版物やリーフレット、ポスターを通じて、ITF船員サイトの存在を知っている。しかし、実際に利用している人の数は限られている。主な利用目的は、船舶や船員に関するニュースを読んだり、船員の福利に関する一般的な情報を得たりすることだ。
回答者の半数以上は組合員だったが、その三分の一しか組合と定期的に連絡を取っていない。ITFの認知度は高く、シーフェアラーズ・ブルテンを読んでいる人の割合は7割に達した。
船員と最も連絡を取りやすいのは、自宅に居る時か上陸中だ。約4割が、組合からの連絡はEメールが最もよい、と回答している。自宅の電話(29%)、携帯電話(18%)が次に続く。(ただし、部員は電話を希望するものが若干、多かった。)
ITFのマリタイム・コーディネーターのスティーブ・コットンは、「これらの調査結果は、我々、そして船員組合が、勤務時間のほとんどを海上で過ごす労働者に、いかにして最善のサービスを提供できるかという課題を突き付けている。幸いにも、技術はあるので、問題は、いかにそれを活用可能にするかだ。組合関係者が、この調査結果に関心を抱いてくれることを確信している。海事産業全体に教訓を与えてくれる可能性をも秘めている」 |
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