No.26/2012 |
■船員労働力 |
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2012年の船員需要の見込みは?
オピニオン
世界の景気後退が船員需要にいかに影響したか、デイブ・オスラーが解説する。
船員の雇用情勢を気にかけている人間なら、新しい年に期待を持つことは、まずないだろう。2012年は、海運業界にとって史上最悪の年になる気配がする。
以前に同じように景気が後退した時期からこの業界にいる人間なら、このような厳しい時にあってこそ、ITFや加盟組合が貴重な役割を果たすことができることを思い出すだろう。
皮肉にも、バルチック国際海運協議会(BIMCO)や国際海運連盟(ISF)などの船主団体や、ドルーリィーやプレシャス・アソシエーツなどの民間コンサルタント会社が行った船員労働市場に関する主な調査では、雇用保障の観点でいうと、基本的には希望が持てる状況とされている。
部員の需給は大体バランスが取れているが、特にタンンカーやオフショア補給船など、一定のランクや船種に対応できる資格を持った職員は不足している。
例えば、BIMCOとISFの調査では、世界の商船隊の規模と構成、様々な国の商船隊が採用する配乗レベルや予備船員率に基づき、職員と部員の需要を、それぞれ63万7千人、74万7千人と見積もっている。 |
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2012年の予測
これに対し、2012年の世界のSTCW資格を保持する船員の供給は、職員62万4千人、部員74万7千人と見積もられており、需要予測とほぼ一致している。
船員供給は極東だけでなく、複数のOECD諸国でも増えており、2000年代の後半では新規参入船員の訓練数が横ばいか、増えると予測さ
れる。
しかし、この手の調査にありがちなことだが、全てが仮定に基づいている。調査モデルのほとんどが、2008−2009年のリーマンショック後の景気後退以降に見られた世界貿易の僅かな伸びが維持されるか、あるいは後退が限定的だという仮定に基づいている点を見落とすことはできない。
残念ながら、2011年末の状況を見ると、1年以上前に苦労してまとめた予測では、2012年の状況がどこまで悪化するか把握しきれないことが分かる。予測の「最悪のシナリオ」をも上回る最悪の事態が起きる可能性もある。
海運業界は、すでに船舶の供給過多、燃料費の高騰、困難な資金繰り、好況期に新造船建造のために抱えた多額の負債、底値まで下がった運賃などに悩まされてきた。
これらの状況を全て併せると、驚異的な状況が生まれる。海運業界全体の市況は、1980年代半ば以来、最悪だという報道もあるが、どのような業界も上述の問題を免れることはできない。 |
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企業倒産と売船
最近、ロイズリストで扱ったいくつかの例を見てみよう。本稿執筆当時、世界最大のあるタンカー運航会社が倒産したが、銀行と負債の再交渉を行わなければならないという大きな問題もあった。この会社の株価は価値がなくなった、とあるドライバルクの専門家が事実上認めた。
用船料を支払わない中国企業が複数あり、最も業績のよかったコンテナ船の大手会社も大幅な損失を出していた。ある国有コンテナ船社は、船舶を売却し、海運業から撤退した。
銀行は、もはや新たな船舶購入のために資金を提供してはくれず、既存の融資についても支払いの延期はしたがらなくなった。一部には、融資を引き上げ、船舶の差し押さえや競売処分などに出る銀行もあった。
このような状況は、ほとんどの主要国経済が、わずかとはいえ依然としてプラス成長を見せていたにも関わらず発生した。成長が続く保障はなく、景気が再び後退する可能性は、あまりにも現実的だった。 |
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雇用を守るための組合の運動
多くの国で労働運動は、組合員の雇用保障や生活水準の保護など、基本的な生活の糧を守るべく、既に重要な運動を展開している。
従来、ITF加盟組合は、そのような闘争の先頭に立ってきたし、そうする正当な理由があった。
仕事を失う事は、どのような労働者にとっても、それだけで災難だが、船員にとって、会社が倒産するということは、他の職種の労働者と比べ、ずっとドラマチックな結果をもたらす可能性がある。好況期でさえ、何の支援も得られず、帰国便を確保する資金もないまま、世界中の港で遺棄される船員が多い。残念ながら、今後、遺棄船員の数は著しく増えると予測せざるを得ない。
あらゆる種類の不測の事態が起こり得るという事実が、さらに不確実性を増す。例えば、1万8千TEUのコンテナ船や40万トンの鉱石運搬船など、最も新しい世代の船舶の大型化により、労働力需要は下がるだろう。
一方、規制面での変化、特に環境面の課題や海賊の脅威などに直面し、配乗船員数を増やすことが義務化される可能性もある。
また、2012年には批准が果たされる見込みの海事労働条約の影響も定かではない。
欧州委員会は、世界で最も重要な船員供給国、フィリピンの船員訓練の質に懸念を抱いている。新たに発給されたフィリピン人船員の資格を取り消すという選択肢すら、現在、検討されている。これは、以前、グルジア人船員に対して取られた措置だ。
しかし、欧州連合の船主はフィリピン人船員への依存度が高いため、必要であると考えても、船主が実際にそのような方策に踏み切ると考える人間は少ない。フィリピン政府はこれを受け、水準以下と思われた一部の船員養成所を閉鎖した。 |
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賃金微増の可能性あり
経済の先行きが不透明であることは、市場の賃金上昇も緩やかであろうことを意味するが、一部の企業は間違いなく賃金を引き下げようとするだろう。
2012年1月1日より、部員のITFベンチマークレートは、月額1,675米ドルから1,709米ドルへと2%引き上げられる。
しかし、それでは多くの国のインフレ率に見合わないし、実際にはその3分の1以下で働いている船員が非常に多いことも忘れてはならない。船員こそ、まさに組織化を必要としている。 |
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⇒デイブ・オスラーはロンドン在住の海運日報「ロイズリスト」の記者だが、本稿は個人として寄稿。 |
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