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2011年4〜6月 第42号
■汚れた魚
 
汚れた魚
IUU漁船における人権侵害

漁業は、職場における最悪の労働者搾取の温床となっている。このことは、搾取と便宜置籍船による違法漁業とを関連付けた報告書で明らかにされている

海賊漁業は、最低基準の労働条件やさまざまな搾取について報告されることが多い。ITFが支援する環境司法団体(EJF)が、劣悪な労働条件で日々搾取され、酷使されているIUU(違法・無報告・無規制)漁業部門の漁船員に関する記録をまとめた。
EJFは、最新報告書の"All at Sea: theabuse of Human Rights aboard illegalfishing vessels"(途方に暮れて:違法漁船の人権侵害)で人権侵害を暴き、便宜置籍船の濫用を含め、国際的規制の不備によって、いかにこれらの漁船が事実上、何の罰も受けずに海賊漁業を行っているかを記載している。
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搾取と虐待

IUU漁船の労働者に対する悪質で違法な処遇には、経済的搾取、医療や食事・宿泊設備・安全管理の不備、言葉による虐待・身体的虐待、監禁、遺棄などがある。最悪の場合、監禁、強制、身分証明書の没収、賃金の未払いなど、国際労働機関(ILO)が定義する強制労働に相当するものもある。
IUU漁船に乗船する乗組員は、金属棒で殴打され、眠らされず、食糧や水も与えられずに監禁され、怪我を負った後も働かされ続けている。最悪の場合、殺人になる場合もある。旅券はしばしば没収され、差し押さえられ、遺棄事件も報告されている。公正かつ約束された賃金に違反することも珍しくなく、特に「仲介料」名目の搾取や契約期間満了時の賃金未払いも顕著だ。
雇われた乗組員は、支給されるべき月給の数倍もの「仲介料」を払わされることもあり、無給で数年間働かされていた、という事例も報告されている。これらの労働者の多くは発展途上国の出身で、その多くは文盲である。仕事のない地方で採用され、一旦、海賊漁船に乗り組んで海に出れば、何が待ち受けているのかを知る由もない。
EJFの調査は西アフリカ沖で操業する海賊漁船に焦点を当てているが、この問題は世界規模にまで拡大している。報告書には、ITFや人身売買に関する国連機関プロジェクト(UNIAP)によって提供されたものも含む事例が掲載され、東南アジア、太平洋、インド洋、南極海まで、様々な海域で操業する違法漁船で働く乗組員に対する搾取について説明されている。
ITF船員部会のロッセン・カラバトフは、違法な海賊漁船における人権侵害を暴いたEJFの取り組みを歓迎し、次のように述べた。「違法な『海賊』漁船で働く乗組員が被っている人権侵害を明らかにしたEJFの取り組みを歓迎したい。実質的な船主は隠れたまま、不道徳な船舶管理会社が規制をかいくぐり、漁船員を搾取することを容易にするIUU漁船と便宜置籍船登録との間には、切っても切れないつながりがある、とITFは一貫して見てきた。各国は自らの責任を真剣に受け止め、IUU漁業の撲滅に努めるべきだ」
国際社会が漁船における安全衛生および労働最低基準の整備を目的とする法律を批准していないため、海賊漁業はこういった人権侵害を継続することができる。
旗国による現行法の執行が不十分なため、船主は船舶を劣化するままにし、耐航性を損ない、安全設備の導入を怠っている。漁船の労働条件を確保する規制の枠組みを国際社会が採用・批准せず、十分に履行していないので、海賊漁船から労働者を守る法的枠組みが事実上、皆無となっている。
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便宜置籍船の役割

IUU漁船による便宜置籍(FOC)の使用も大きな問題とされている。自国の旗を掲揚させているFOC国は、通常、漁業法・労働法を執行するだけの能力も意思もないため、IUU漁船の漁業者は自分達の行動が発覚したり、罰せられたりするリスクを最小限にしながら、ますます行動をエスカレートさせている。
FOCを取得することはあっけないほど簡単で安上がりなので、海賊漁船は当局の目を逃れるため、1シーズンに何回も船籍や船名を変更することができる。FOC漁船は、ペーパーカンパニーや合弁事業、陰の船主の支援を受けて違法漁業を行っているため、乗組員を搾取している船舶の実質的な所有者を見つけて処罰することは困難を極め、IUU漁業を撲滅する取り組みの大きな障害となっている。
EJFの報告書は、乗組員の搾取を排除し、搾取を助長する国際規制の欠如に取り組むための国際行動を支援する手段として、FOC漁船(関連する漁業支援船も含む)の使用禁止を訴えるという、説得力のある主張を展開している。またEJFは、既存のILOおよび国際海事機関(IMO)条約が乗組員に対する処遇や訓練、船舶の安全に対応し、全ての海運国によってこれらの条約が批准、実施されるよう求めている。
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"All at Sea: the abuse of Human Rights aboard illegal fishingvessels"の全文は、www.ejfoundation.org/page682.htmlで閲覧できる。
この契約書に署名しているのは、これまで漁船に乗ったこともなければ、海を見たこともなかったと推測される、字の読めないネパール人だ。この契約書を見れば、乗組員が水産会社や配乗会社にいかに搾取されているかがわかる。契約期間は3年。月額賃金200ドルのうち150ドルはシンガポールの配乗会社が預かり、50ドルはキャプテンが(港で渡す分として)預かる。ネパールへの送金は6カ月に一度しか行われない。「送金コストは非常に高い」からだ。乗組員は1日18時間以上働くことになっており、残業手当は支給されない。入浴や洗濯には海水を使う。契約書の末尾には、乗組員は賃金を受け取るためにシンガポールに出向かなければならないことや、契約を満了できない場合は近隣の港に捨てられ、自費で帰国しなければならないことが記載されている。
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ILO漁業労働統合条約批准促進に向けて

2010年のITF世界大会で、組合は、ILO188号条約(2007年漁業労働条約)の批准に向け、政府を説得する取り組みを強化する必要性があることに合意した。
本条約は、主に大型漁船における労働条件に関する現行ILO漁業諸条約の大半を統合し、改正した内容となっており、沿岸国8カ国を含む10カ国の批准をもって発効することになっている。これまでに批准した国は、1国に留まっている。
一方、ITF欧州部門の欧州運輸労連(ETF)および欧州連合(EU)の遠洋漁業に関する社会対話委員会のパートナーである欧州連合漁業組合協会(EUROPECHE) が、EU法をILO188号条約に置き換えるための社会パートナー協約交渉を開始した。
この目的は、船内の労働条件を改善し、欧州における全ての漁業操業者を均等に処遇し、また、他のILO加盟国に早急に本条約を批准するよう促すことである。
漁業労働者保護のための基準を設定する漁業労働統合条約は2007年に採択され、漁業者に以下の事項の実施を確保するよう規定している。
航海中の漁船員の労働安全衛生および医療を改善し、傷病者が陸上で手当てを受けられるようにする。
漁船員の健康と安全のため、十分な休息が取れるようにする。
労働協約に保護条項を設ける。
他の労働者と同様の社会保障を受けられるようにする。
この条約の遵守と履行を担保するための施策として、漁船員の安全や健康に危険を及ぼす条件で働かせないようにするために、長い航海を伴う大型漁船は外国の港湾で査察を受けることも想定されている。
さらに、ILOは2010年2月に漁業条約実施のためのポートステート・ガイドラインを採択した。これは、ポートステート当局による条約の履行を支援するのが目的だ。
漁船員が人間らしい労働・生活条件を確保するために、ITFはこのガイドラインを支持し、効果的なポートステートコントロールの実施を強く求めている。
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