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2011年4〜6月 第42号 |
■メキシコ |
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メキシコ
世界に広がる連帯の波
メキシコの労働者の窮状を見かねたITFなどの国際産別組織は、メキシコ政府に国際的な圧力をかけるために、前例のない行動週間を本年2月に組織した。ジム・ジャンプがその背景を説明する。
昨年はメキシコ人にとって、お祝いの年となるはずだった。独立戦争の開始から200年、抑圧的な独裁政権を打倒し、現行憲法を誕生させたメキシコ革命の開始から100年が経過した記念すべき年だったからだ。
しかし、現実は大きく異なっていた。メキシコは、1930年代以来最悪の経済不況から未だに抜け出せないばかりか、その痛みは、フェリペ・カルデロン右派政権の新自由主義政策のせいで、一層激しくなっている。国民の心は、戦闘化した「麻薬戦争」の流血事態によって、大きな傷を負わされている。この「麻薬戦争」による死者は、2006年にカルデロン大統領が就任して以来、3万1千人に達した。これら二つの痛手に輪をかけるように、政府と使用者は一体となって、雇用や労働組合権に対する攻撃をしかけている。
反労組の不正・不当行為は、枚挙に暇がない。国際労働組合総連合(ITUC)は、メキシコの労使関係に対する2010年度評価において、いわゆる「保護契約」が特に労働者の権利を侵害していると指摘している。「保護契約」とは、使用者が労働者抜きで、時には組合員が存在しない幽霊組合を使って締結する偽の団体協約のことだ。これらの協約は労働省所管の連邦調停仲裁委員会(FCAB)に登録されるが、FCABは汚職の蔓延で知られている。「保護契約」が頻繁に見られる産業部門の一つに格安航空部門がある。
暴力の矛先は組合にも向けられている。ここ2年間に殺害された十数人の組合活動家の中に、ベラクルス商業港湾労組のジョージ・ルイス・アンドラーデ・モラレス部長がいる。モラレスは、記者会見で連邦政府による人権侵害や労働者の権利侵害を非難した後、2009年7月に殺害された。 |
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弾圧を受ける「ロスミネロス」
2006年に発生した、グルポ・メヒコ社のパスタ・デ・コンチョス炭鉱爆発事故に関しても、組合は憤りを隠さない。この事故で65人の鉱山労働者が犠牲となったが、誰一人として法の裁きを受けていないばかりか、遺体のほとんどが未だに土に埋められたままだ。鉱山労組のSNTMRMが、カナネア鉱山(反労組の採鉱大手、グルポ・メヒコ社所有)で実施したストも、2009年6月、催涙ガスや棍棒などを用いた400人規模の連邦警察部隊によって、鎮圧させられている。
しかし、「ロスミネロス( 鉱山労働者たち)」として知られるSNTMRMは屈しない。最近も、米国およびカナダの鉱山労働者を組織する全米鉄鋼労組(USW)との合併計画を発表したばかりだ。SNTMRMのナポレオン・ゴメス・ウルチア書記長は、組合資金横領というでっち上げの罪を着せられ、国外亡命を余儀なくさせられているが、現在も亡命先のバンクーバー(カナダ)で、米国やカナダの組合の支持を受けながら、SNTMRMのかじ取りを行っている。
しかし、ウルチア書記長の同僚の一人、フアン・リナレス・モントゥファルは、同じ容疑で2008年12月に逮捕され、メキシコシティーのレクルソリオ・ノルテ刑務所に投獄された。「組合を裏切れば、明日にでもこの刑務所から出ることができる。しかし、そのようなことは絶対にしない」と、リナレスは訪問者に語っている。 |
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生き残りと組織再編
カルデロン政権の組織労働者に対する敵意の矛先は、メキシコ電力労組(SME)にも向けられている。石油・電力産業の民営化に反対する労働組合の抑え込みに躍起なカデロン政権は、SMEを大きな障害とみなしている。2009年10月に国営電力会社のLFCが連邦警察に占拠、閉鎖され、職員4万4千人が解雇されたのもその表れだ。しかし、驚くべきことに、SMEは生き残り、今や組織再編を経て、1万6千人を組織するに至っている。
SME以外にも、国営石油会社Pemexを組織するUNTyPP、タイヤ労組のSNTGTM、電話労組のSTRMが、特に暴力、威嚇、弾圧に直面している。
ITFのアントニオ・フリッツ米州地域事務所長は、カルデロン政権が中南米の他の国にとって危険な前例を作っていると指摘する。「ここ数年、中南米は、民主主義と社会正義という点で、大きく前進した。しかし、メキシコ政府の姿勢は、独裁と民主的な労組への弾圧が繰り返された古き悪しき時代へと逆行するものだ」
朗報は、メキシコの労働者と組合が、オルグをあきらめずに闘い続けていることだ。2011年の国際行動週間が示しているように、彼らは国際連帯や連絡調整機能を強化しながら活動を継続している。彼らの決意は、近年、メキシコ労働組合運動全体に生まれた独立の精神に支えられている。1997年の全国労働組合(UNT)の創設も、その精神の賜物だ。UNTは、当時の与党、国民行動党(NAP)と関係を持たない民主・独立の労働組合が結束して、誕生させた新しいナショナルセンターだ。ITFに加盟する11組合のほとんどがUNTに加盟している。 |
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ジム・ジャンプはロンドン在住の労働問題専門のフリージャーナリスト |
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国際行動週間
メキシコ政府による結社の自由の侵害に抗議する国際行動週間が、2月14〜19日に実施された。この行動週間は、ITFに加え、国際化学エネルギー鉱山一般労連(ICEM)、国際金属労連(IMF)、サービス産業を組織するユニオン・ネットワーク・インターナショナル(UNI)が主催したものだ。
世界中のメキシコ大使館や外交使節団に抗議文が送られた(組合活動家の代表団が直接手渡したケースもある)ほか、抗議デモ、報道機関向けのイベントや、メキシコに進出する多国籍企業への接触等が行われた。オーストラリア、ブラジル、カナダ、フランス、インド、オランダ、ニュージーランド、パナマ、ロシア、南アフリカ、スイス、トルコ、英国、米国等で行動が計画されたほか、メキシコ国内では、ブラジル、フランス、インド、韓国、スペインの各大使館で、組合代表団の訪問が受け入れられた。
ITFのデビッド・コックロフト書記長は、「結社の自由に対する制度的な侵害を根絶させるべきだ。民主的な労働組合や、より良い賃金・労働条件、適切な安全対策を求める労働者側の合法的な要求を力で封じ込めるのは止めよ」と要求する、と述べた。 |
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