No.27/2013 |
■組合の力 |
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組合に期待できること
ITF加盟組合が組合員に提供しているサービスを検証した
組合に入ることで数の力を手に入れることができる。組合員が多ければ多いほど、労働者のためによりよい条件を勝ち取れる可能性も高まる。しかし、組合員はその他にどのような恩恵を組合から期待すべきなのだろうか。例えば以下のようなサービスが挙げられる:
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組合員証:実際の証明書か電子データによる証明書 |
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組合のニュースレター:組合や他の組合員の動向について知らせてくれる新聞や雑誌。 |
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連絡先の情報:必要な時に支援を要請することができるように、組合役員の名前と電話番号が分かるようになっている。 |
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使用者とトラブルが発生した場合や、雇用条件について問題が起きた場合の支援を受けられ、自分の主張を代弁してもらえる。中には法的な助言をする組合もある。 |
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職場での発言権:労働条件や労働権に影響を及ぼす決定や組合の運営の仕方について発言する権利がある。 |
また、組合員やその家族に以下のようなサービスを提供する組合もある:
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福利や社会的ニーズ:特に国に社会保障制度や福祉制度が存在しない国で、組合員のニーズを満たす。 |
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訓練と教育:組合員に教育の機会を提供する組合は多い。 |
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組合員とその家族向けの医療・歯科治療。 |
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NUSI
全インド船員組合(NUSI)はこれまで数十年にわたり、インド人船員に奉仕してきた。アナ・ルウェリンがNUSI のアブドゥルガニ・セラン書記長兼財務部長に組合が実施する様々な取り組みと、NUSI が組合員と家族に提供するサービスについて尋ねた。
NUSIの主要施設には、乗船前と乗船後に受けられる滞在型の訓練コースや、船員が船に乗る前に完了することが条件となっているSTCW研修を行っているゴアのマリタイム・アカデミーがある。同アカデミーは一度に400名の訓練生の受け入れが可能であり、1996年の開設以来、4万2千人以上の船員の訓練を行ってきた。
訓練と開発はNUSIが組合員に提供しようと努めてきたサービスの重要な部分を占めており、2010年には、職員になるための研修を希望する部員を対象に無利息の融資制度を開始することを決めた。既に1,100 人以上の船員が融資を受けている。
NUSIはまた毎月、若い船員を対象とする研修ワークショップも開催している。セラン書記長は、「船員に組合の活動と組合員とその家族にどのようなサービスを提供しているかについて見識をもってもらうことが重要だ。また、船員が自らの権利を認識する必要もある」と述べ、「青年ワークショップのコミュニケーションは一方通行ではない。NUSIの役員も参加して経験や意見を共有するが、組合もこれを通じて船員の意見を吸い上げる機会を得る」と補足した。
医療サービス
NUSIは組合員にかかった医療費の払い戻しを行っている。過去3年間だけでも、3千人以上の船員と家族に300万米ドルを超える治療費を払い戻した。
さらに、組合はゴアに病院を開設し、心臓病、神経系疾患、整形外科の専門治療の他、人工関節置換手術を行っている。その他にも内科、産婦人科の専門治療、癌治療も行っている。集中治療室の収容可能人数の43人を含め、190人の患者の受け入れが可能だ。これまで6万人以上の船員の治療を行ってきた。
ムンバイ近郊のプーナに向かう丘の上にはNUSIのロナヴァラ・リゾートが建っている。引退した船員のための老人ホーム、休暇施設、組合の研修所の複合施設となっている。
家族の価値
この14年間、NUSIは寡婦も経済的に援助してきた。寡婦の援助制度が立ち上がって以来、3千人の寡婦が援助を受けてきた。
「NUSIは、次の世代の育成にも意欲的だ。2011年には、船員の子供たちを対象とする奨学金制度も開始した」とセラン書記長は語る。インドはアジアでも目立って女性の識字率が低い。このため、NUSIでは女の子には男の子の1.5倍の奨学金を出すことにしたとセラン書記長。これまでに約10万米ドルの奨学金が170人の船員の子供たちに提供されてきた。 |
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SUR
ロシア船員組合(SUR)の組合員が組合費の対価として得ているサービスについて語る。
サイプリオット社で働くアレクセイ・ゴルディエフ(一等航海士)
カデットの頃は時々組合について聞くことはあっても、組合について考えたことはなかった。2008年に経済危機が始まると、ストやデモ、その他の抗議行動が行われ出した。そして、そのような行動の指揮を取り、調整しているのは労働組合であり、組合があるからこそ、給料がきちんと支払われているということを知った。実際に乗船してみて始めて、海事産業で最低労働基準や最低賃金を設定することが重要であり、そうした水準を設定しているのもまた組合なのだということを最終的に認識するに至った。
マキシム・デレヴェンコ(アドミラル・マカロフ・マリタイムアカデミーの訓練生)
自分自身はまだ組合に支援を求めたことはないが、上の学年の生徒たちは組合が役立つことを沢山やっているとしきりに話している。組合は労働者の団体で、組合に入れば、力を合わせて問題を解決できたり、労働条件の改善が楽になると聞いている。
いざという時の支援
2012年8月28日、トーゴ海岸近くのギニア湾で海賊がギリシア籍のエナジー・センチュリオン号を襲撃した。その際、乗組員の一人、訓練生のヴァチェスラブ・プルドニコフ(20歳)が足を負傷し、治療が必要になった。ロメの病院で手術を受ける必要があり、数ヵ月後に追加の手術を受けた。プルドニコフは、「ノヴォロシースクに着いたらSURが経済的な援助をしてくれた。組合のおかげで傷病休暇を取ることもできた。SURの役員がこの場合、何をすべきか、どこへ行くべきか、また自分にどのような権利があるのかを助言してくれた。正直、一銭も貰えないだろうと思っていたので、組合があって本当に助かった」と述べた。
スポーツの喜び
モスクヴァ・レカ号の二等航海士、ユーリ・ドミトリエフはノヴォロシースクにあるSURのスポーツセンターをこの数年間利用している。「下船するとすぐここにきて、スポーツプログラムに登録することにしている。前よりずっと健康になった。運動することで禁煙にも成功した」ドミトリエフの妻もこの6年間スポーツセンターを定期的に利用している。
支援に感謝
タチアナ・イヴァシェンコの夫はウラン号の機関員だった。2008年にウラン号が定期的に訪れていた中国に向けて出港した時、彼は至って元気だった。しかし、航海中に急激に体重が減り出した。タチアナも乗組員として同じ船に乗り組んでいたので、24時間夫につきっきりで看病した。しかし、数日後、船が秦皇島(チンホワンタオ)から南通(ナントン)に向かう間に、健康だった夫が50歳ちょっとの若さで急逝した。
中国で作成された死亡証明書には、夫は特定できない病気のため死亡したと書かれてあった。数日後、夫の遺体と書類は故郷ハバロフスク州のヴァニーノに移送され、埋葬された。その後、タチアナは保険会社に保険の請求を行った。
保険会社は時間稼ぎをしようとして、初めは夫が慢性病で亡くなったのではないかと言い、その後、死亡証明書の誤訳を指摘してきた。挙句の果てに、タチアナが本国送還費を支払うことは不可能だったことは明白であるにも関わらず、この件をモスクワの裁判所に提訴しようとした。
しかし、SURの援助を受けることができ、モスクワの裁判では組合の弁護士が弁護を引き受けた結果、会社にタチアナの寡婦権を認めさせることができた。
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AMOSUP
フィリピン船舶職員・部員組合(AMOSUP)が実施している制度の一つに、「ミディアムコスト・シェルター試験プログラムがある。1991年に設立された本制度は、安全で平和な地区に手の届く価格のマイホームをもつ機会を船員に提供することを目指している。
AMOSUPはすでに500戸以上の家と病院、学校、教会、スポーツ・レクリエーション施設から成る、自己完結型の船員村を建設した。AMOSUPの組合員は船員村の住宅の購入を申し込むことができる。住宅には、寝室2つ付きの長屋スタイルの家から、寝室が4つある一戸建てまで様々な種類がある。新しい船員村を建設し、さらに大家族用の広い家を建てる計画も進行中だ。
その他にもAMOSUPは以下のサービスを提供している:
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組合員と家族向けの医療・歯科治療サービス:マニラ、セブ、イロイロ、ダバオにあるAMOSUPの病院では無料で治療が受けられる。 |
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訓練と教育:バターンにあるAMOSUPの最新設備の研修所で部員と職員の双方が援助を受けながら訓練を受けられる。また、アジア・太平洋海事大学(MAAP)でもさらなる教育を受けることが可能。キャリア開発支援も行っている。 |
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乗船前、また下船後、家に帰るまでに一時的に滞在が必要な船員のためにAMOSUP船員の家の宿泊施設が利用できる。 |
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船内の売店:AMOSUPが運営する売店で組合員を対象に食料雑貨、家電製品を販売したり、無利子の信用貸しを行ったりしている。 |
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経済的支援:福利・共済制度を通じた死亡給付や老齢手当。長期間にわたり使用者が拠出する年金制度。寡婦と寡夫を対象とした年金制度。 |
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雇用問題に関する法的支援の提供。 |
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エジプト独立船員労組
エジプト独立船員労組は2011年6月に新たに結成された。組合活動家は1月25日の革命の直後に生まれた独立労組や独立労組連合に触発され、真にエジプトの船員を代表する組合を結成しようと決意した。
ITFインスペクターのタラート・エルサイフィの支援を受け、エジプト独立船員労組は即座に暫定委員会を立ち上げ、難しい状況の中、船員の組織化を開始した。インフラが基本的に欠如しているという問題に加え、新組合の指導部の経験が浅いという問題もあり、既存の労組連合から絶えず干渉されることになった。
2011年初め、ITFのビラール・マラカウィー・アラブ地域部長が何度かエジプトを訪れ、新設の組合を支援した。その他にも、エジプトプロジェクトの責任者、サマール・ユシフ博士など、ITFの代表者が派遣され、ITFがどのように新しい組合を継続的に支援できるかを検討した結果、組合員を対象に、組合の基本的組織と能力構築のための集中セミナーを行うことが決まった。
それから1年経った。極めて困難な状況にも関わらず、エジプト独立船員労組は、国が財政支援を行っている既存の労組連合の影響力を抑えることに成功しており、エジプトの船員を真に代表する独立した組合として信頼を集めている。この間、同労組は2,000人を超える組合員を新たに組織し、スエズとアレキサンドリアにある組合本部から執行部が活動している。
「組合はまだ発展段階にあるが、正しい方向には進んでいる。やるべきことはまだまだ多いが、国の現状を見ると、今後も多くの課題を抱えることになるだろう。しかし、希望はある」と組合のスポークスマン、マナル・バクシッシュは語った。
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Dad-Der
トルコでは1997年に政府から軍勢力が排除されたことをきっかけに、組合を支援する船員や学者らが海技学校で組織化を開始し、若い世代の活動家を結集しようと努めた。組織化を推進した中核メンバーはトルコにいる5万人の船員を結集し、実行力ある組合を結成する計画を立て始めた。ITFの支援を受け、2001年からこれらの活動家が労働者のための訓練プログラムを開始し、船員の苦情に対応し、実際に会って議論をしようと2004年には連絡センターを開設した。2006年までにはDad-Der労組の中核メンバーが船員のための組合運動を刷新するに至った。
2007年以降、Dad-Derは、ストライキを行いながら会社ごとに団体交渉を行ってきた。トルコの商船でストを実施することは違法なので、活動家らは自らの抗議行動を「雇用契約の合法的破棄」と表現した。厳しい交渉の末、2008年1月までには65隻が団体協約を締結した。2012年9月までには、Dad-Derの協約締結船が235隻まで増加した。
オズカン・フィラット
オズカン・フィラットと言います。33歳の二等航海士です。東アナトリアのマラティの出身です。この6年間船員として働き、主にばら積み貨物船に乗り組んできました。
2008年に賃金の遅配と雇用契約違反で深刻な問題が発生し、Dad-Derに加入しました。組合に入ることで力を持てるようになります。FOC船の所有者はITFとITFに加盟する船員組合のことを真剣に受け止めているからです。
2009年3月、私は45万総トンの新造船に乗り組んでいました。バランスポンプを修理している際に重傷を負い、左手の手首から先が切断されてしまいました。同じ作業をしていたエンジニアも同じケガをしました。その時、船はカナリア諸島から250マイルのところにあり、最終的にヘリコプターが船に到着するまでに4時間半かかりました。人生で最も大変な時でした。病院に着くまでにさらに4時間かかり、手術には18時間かかりました。
後になってDad-Derがこの事故について最初から認識していて、使用者と連絡を取っていたことを知りました。トルコで治療にさらに一年を要し、7回の手術を受けましたが全て成功しました。その間、船主は給料の3分の一を支払い続けました。
治療が終了すると、今後、賠償請求を行わないことを条件に事務職をオファーされました。Dad-Derから受けた助言は極めて有益で、組合のおかげで船主の一連の提案に騙されずに済みました。
一年に及ぶ裁判を通じ、Dad-Derは法的助言を提供してくれ、最終的に船主側の弁護士も多額の資金を投入して長い間闘っても、この裁判では勝ち目がないことを悟ったのです。Dad-Derと相談した結果、相手側の提案を受け入れることに決めました。
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トルコの労働組合権
トルコでは歴史的に労働組合権が余り尊重されてこなかった。
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最終的には2010年に憲法が改正され、公共部門では団体交渉が行えるようになった。 |
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労働組合はトルコ国民が結成しなければならない。 |
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トルコはILO条約第29条、87条、98条、100条、105条、111条、138条、182条を批准している。 |
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スト権は非常に限定的で、約3か月待たなければストの指令ができない。合法的に行われているストも国家安全保障や公衆衛生の維持を理由に政府が60日間差し止めることができる。非合法ストに参加した場合の罰則は極めて重い。 |
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あらゆる会合、集会は当局の許可を取って行わなくてはならず、会議や集会に警察が参加して議事進行を記録することが許されている。 |
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組合活動に関する法律は複雑で、違反がないか監視が行われている。 |
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組合加入を理由とする解雇が頻繁に起きている。組合加入者への警察の暴力や拘留、放火やいじめ、組合指導者をテロ扱いするなどの嫌がらせ、強制配転、組合のデモに参加したことを理由とした起訴などは日常茶飯事となっている。 |
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2012年の報告では、組合活動家2名が負傷、143名が逮捕され、25名が投獄された。197名が組合加入を理由に解雇された。 |
(出典:国際労働組合総連合(ITUC)‐survey.ituc-csi.org) |
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