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No.27/2013 |
■ILO海上労働条約 |
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ILO海上労働条約
ILO海上労働条約は、船員の権利章典と言うべき画期的な条約である。この条約の履行に向けて、組合がどのように準備を進めているか、また、条約が船員の雇用契約、配乗、賃金に及ぼす影響や、クルーズ船乗組員に与える影響について説明する。
船員に包括的な権利・保護を保障する重要なILO条約が2013年8月に発効する。昨年、発効要件の30か国による批准が達成されたからだ。
「2006年の海上の労働に関する条約(海上労働条約)」は、IMOの3つの条約−「海上における人命の安全のための国際条約(SOLAS条約)」、「船舶による汚染の防止のための国際条約(MARPOL条約)」、「船員の訓練・資格証明・当直基準条約(STCW条約)」に続く、第4の柱となる。
ITF船員部会のデーブ・ヘインデル議長は、ILO海上労働条約の意義を次のように語った。「海上労働条約−船員の権利章典−は、変化を起こすための真の媒体だ。国籍や船籍にかかわらず、全ての船員に真の変化をもたらす可能性を秘めている」
さらに、「条約の発効はITFやILO政労使の10年以上に及ぶ協力の賜物だ」と述べた。
国際海運連盟(ISF)のアーサー・バウリング労務委員会議長も条約の発効を歓迎し、「我々皆で合意した労働基準は、政府、船主、船員から支持されるはずだ。船主と船員の双方が必要とする健全な雇用基準のグローバルな枠組みができた」と語った。 |
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海上労働条約 -船員の権利章典- は、
変化を起こすための真の媒体だ
条約の実施に備える現場の声
ILO海上労働条約(MLC)の発効を控え、準備に勤しむ各国のインスペクターの声を聞いた。
ロシア船員組合(SUR)第一副委員長
イゴール・カバルチャク
SURは実質的にロシア国内の全ての港にインスペクターのネットワークを持っているので、船舶のMLCへの適合を検証する「認定団体」にSUR自身がなることを模索している。条約発効に向け、必要な決定が全て行われ、2013年8月にMLC履行の結果を初めて目にすることができるだろう。つまり、ロシアに寄港する全ての船舶は査察を受けることになり、乗組員は陸上の苦情処理手続きを利用できるようになる。MLCへの適合を判断するための船舶査察が船員の労働条件改善の原動力となる新たな状況が生まれるだろう。また、これにより、黒海沿岸諸国の批准が加速することを期待する。いずれにしても、この地域に多数存在する基準以下船が大幅に減少することを確信している。
バンクーバー(カナダ)のインスペクター
ピーター・ラヘイ
ITFのインスペクターはこれまで、MLCの研修・指導をしっかり受けてきた。準備万端だ。MLCを活用することを楽しみにしている。ITFのインスペクターとポート・ステート・コントロール(PSC)のインスペクターが相互に理解、協力、尊重を深める方法を政府と共に検討してきたので、よい仕事ができると思う。
セブ(フィリピン)のインスペクター
ホセリト・ペダリア
MLC関連のあらゆる問題について、労働雇用省(DOLE)長官の右腕である海外雇用庁(POEA)長官と既に連絡を取っている。実施に備えて、必要な調整を全て終わらせることができるよう、できる限りのことをしたい。特に、PSCにはいくらかの変更が必要だ。
ビゴ(スペイン)のインスペクター
ルツ・バズ
ITFインスペクターが様々な機関と共にMLCの問題に取り組んでいる。あらゆる機会を活用して、弁護士、船主、配乗代理店、P&Iクラブ等の業界関係者との協議も進めている。
その他
オーストラリア:海事当局との合同研修が開始され、順調に進んでいる。全国に港湾委員会が設置された。
コロンビア:海事当局と共にカルタヘナで開催した会議に海事産業の関係者120人が参加した。組合は批准促進を訴えている。
スウェーデン:ITFインスペクターとPSC当局は、既に緊密な関係を築いており、合同研修も実施している。ITFに関する研修の要請がPSCからITFコーディネーターに寄せられている。 |
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ILO海上労働条約が意味すること
雇用契約
ILO海上労働条約(MLC)は、雇用条件を明記した公正な雇用契約書を船員に交付することを船舶所有者に義務づけている。内容をよく理解し、署名入りの原本を所持しておくことが大切だ。契約書の写しは常に船内に保管されていなければならない。契約書は、船員および船舶所有者または船舶所有者の履行責任を果たせる人物によって署名されなければならない。
雇用契約(団体協約でも可)に記載されなければならない事項は次のとおり。
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船員の氏名、生年月日・年齢、出生地 |
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船舶所有者の氏名、住所 |
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雇用契約締結場所および年月日 |
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職務 |
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賃金とその計算方法 |
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有給休暇の日数 |
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契約終了の要件(通知期間を含む)と契約満了日(有期雇用の場合) |
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目的地(仕向け港)−契約が特定の航海目的の場合 |
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船主の供与する医療給付および社会保障給付 |
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本国送還に伴う権利 |
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適用される団体協約への言及 |
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国内法に規定されるその他の詳細 |
配乗代理業者
MLCは、船員が効率的で規律正しい船員募集・配乗制度を利用できるべきであるとし、配乗代理業者にMLCの要件を遵守させるのは船主の責任であるとしている。
船員配乗代理業者は職業紹介の費用を直接的にも間接的にも船員に請求することはできない。船員のブラックリストを作成することも禁じられている。信頼できる配乗代理業者は:
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船員配乗に関する最新の登録状況を記録している |
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配乗した船舶および船社の最新連絡先を記録している |
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雇用契約上の権利・義務を船員に通知し、船員が署名する前に契約内容を検討する十分な時間を与える。 |
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雇用契約書の写しを与える |
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雇用契約が国内法や団体協約に抵触しないことを確認している |
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船員が職務に必要な資格を所持しているかを確認している |
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船員が外国の港で遺棄されることがないよう、請負先の船主や船社の財務状況を確認している |
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有効な苦情処理手続を確保している |
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義務を履行できなかった場合に船員に補償金を支払うための保険をかけている |
賃金
MLCは、国際労働機関(ILO)の最低賃金(AB船員)に言及しているものの、船員が受け取るべき賃金の額については規定していない。いつ、どのように、支払いを受けるべきかを規定している。
船員は、雇用契約または団体協約に従い、一か月以内の間隔で定期的に賃金の全額の支払いを受ける権利を有する。
雇用主は、支払われるべき賃金および支払われた金額の1カ月ごとの明細(賃金および追加的な給付ならびに用いられた為替換算率を含む)を与えなければならない。
基本給または基本賃金とは、通常の労働時間(1日8時間、1週間あたり48時間以内)に対する支払いをいう。
2013年1月から適用されている月額568ドルのILO最低賃金(AB船員)は、2013年12月31日より月額585ドルに値上げされる(詳しくは、www.itfseafarers.orgへ)。
時間外労働に対する補償の額は、1時間あたりの基本給または基本賃金の1.25倍以上とすべきであり、時間外労働の記録は船長が保管し、船員が1カ月以内の間隔で署名すべきである。船員は、週の休日や公の休日に行われた労働に対する補償として、時間外手当や代休を与えられる権利を有する。
雇用主は、船員が妥当な手数料かつ、船員にとって不利とならない為替換算率で、家族に送金できるように確保しなければならない。
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クルーズ船乗組員にとってMLCが意味するもの
ITFクルーズ船タスクフォースのヨハン・オイエン議長が、クルーズ船乗組員にとってのMLCの意義を説明する。
ITFは、MLCが海事産業の全労働者に影響を及ぼすと確信しているが、とりわけクルーズ船の労働者に与える影響は大きい。
MLCは初めて船員の定義を明確化した。第2条は、船員を「能力のいかんを問わず、この条約が適用される船舶において雇用され、もしくは従事し、又は、労働する者」と定めている。
外航クルーズ船で働く全ての労働者が船員として定義されたことは画期的だ。これまでは、運航要員は例外として、クルーズ船の乗組員が船員に該当するかどうかがあいまいだったため、海事条約の適用も不明確なままだった。
MLCがクルーズ船乗組員にもたらす恩恵は大きい。例えば、MLCは、船員が船員身分証明書、パスポート、国内法に基づく健康証明書以外の経費を不当に請求されるのを防ぐために、旗国が配乗代理業者や募集・職業紹介機関に対して有効に管轄権を行使する義務を課している。
また、船員がMLC違反を旗国や寄港国の職員に報告するための利用しやすい手続きの確保も定めている。さらに、虐待や差別を受けている可能性のある船員を支援するための船員団体の役割も強化された。
その他、雇用期間中の医療ケア、保険加入、事故防止、安全対策の実施などのコンセプトは全てMLCに盛り込まれている。
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