No.27/2013 |
■団結の力 |
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FOC(便宜置籍船)キャンペーン
- 大いなる功績
船員と港湾労働者の連帯から生まれたITFのFOC(便宜置籍船)キャンペーンの進化をアナ・ルウェリンが振り返る。
自らを隠すため、船主は絶えず船籍を変えてきたが、本当の意味で船舶を外国籍に登録することの恩恵を船主が追求し始めたのは1920年代になってからだ。ユナイテッド・アメリカライン社がまず初めに自国籍を手放した。パナマに船を登録することで、米国の禁酒法を回避し、船上でアルコールとギャンブルを享受できるようにするためだった。
間もなく他の船社も自社の船舶を外国登録するようになり、1933年までには、この慣行が船員にもたらす影響の深刻さをITFが懸念するに至った。フラッグアウトする(船を外国登録する)ことで、「船員の雇用や労働条件に影響が及び、他の船社に対しては不公正な競争をしかけることになった」。
第二次世界大戦が終わる頃には、便宜置籍(FOC)船の数が急増していた。低税率かあるいはまったく税金を払わなくてよく、安全規制も緩く、安価な外国人船員を雇うことも可能で、労働組合も回避できるため、船をFOC登録することで競争上優位に立てることが分かったためだ。
合同キャンペーンの誕生
1948年、ITFに加盟する海事労組は断固たる行動に出て、FOC船のボイコットを行うと発表した。船員・港湾労組からなる委員会を設置し、1949年にボイコットを実施した。
1950年代にはFOC船の数は増加し続け、より多くの国が外国船主に船籍の登録を開放するようになった。1958年にはパナマ、リベリア、ホンジュラス、コスタリカに登録された船舶を対象とする国際的な二次ボイコット、いわゆる「パン・リブ・ホン・コ」ボイコットが行われた。4日間にわたるボイコットでは、200〜300隻の船が、主に米国の港湾労組によって止められた。
団結による力
FOCキャンペーンは1970年代初頭に本領を発揮するに至った。1971年、ITFに加盟するいくつかの強力な港湾労組がキャンペーンへの協力を約束した。その年の後半に、FOC船に乗り組む船員の許容できる最低基準に基づく「ITFスタンダード協約」が導入され、初のITFインスペクターが任命された。その後2年のうちにITF加盟労組は420の協約を締結し、船員の未払い賃金3億米ドル以上を回収した。
時代の変化
1970年代、80年代には、FOCの登録数が増加し、より多くの船がフラッグアウト(FOC化)し、特にアジア、後にベルリンの壁が崩壊してからは東欧からの賃金の安い船員を雇う船主が増えた。同時に、船主が一丸となって労働権を攻撃し、ボイコット行動を取った多くの港湾労組が訴えられた。
ITFのキャンペーンも状況に適応せざるを得なくなった。自主的にITFと協約を締結する意思のある船主用にITFトータルクルーコスト(TCC)協約が考案された。ITFインスペクター制度も徐々に拡大し、ITFがFOC船にアクセスしやすくなり、船員の保護がより確実になった。
船員の福利のための資金が必要となったため、1981年、ITFは船員への福利サービスを目的とする船員トラストを立ち上げ、英国の慈善団体として登録した。
1980年代後半には、ITFのキャンペーンや組合が船員の保護のために行っている活動について紹介するため、FOC船に乗り組む乗組員と直接コミュニケーションを図る方法として、シーフェアラーズ・ブルテンの発行を開始した。
船員の間でFOCキャンペーンの知名度がさらに上がり、最低基準を守るため、また船主に未払い賃金を支払わせ、その他の使用者の義務を履行させるために圧力をかけようと、自ら抗議行動を取る船員が増えた。
世界中に広がる運動
FOCキャンペーン立ち上げから50周年を迎えた1998年、ITFは中甲板つきの貨物船を購入し、FOC船に乗り組む船員の窮状に対する意識向上を図るための展示船に改装し、「グローバルマリナー号」と名付けた。同船にはあらゆる国籍の組織船員が乗り組み、51か国86港を訪れ、一年半かけて世界中を周遊した。75万人が展示を訪れた。この展示を通じ、FOC船で働く船員の生活の実態を初めて理解した者も多かった。
反撃する港湾労働者
同じ年、加盟組合の中でも最も強力な組合の一つ、オーストラリア海事労組(MUA)に対し、右翼政党に後押しされた港湾運営会社、パトリック社が前代未聞の計画的な攻撃をしかけた。この争議はITFに加盟する海事組合にとって転換点となった。MUAほど強力な組合がこれほどあからさまな攻撃を受けるのであれば、全ての加盟組合が攻撃に脆弱ということになるだろう。MUAはそれまでも絶えず、他の加盟組合に国際連帯を迅速に示してきたが、この時は連帯を受ける必要があった。MUA組合員に対する攻撃をかわすことができたのは、まさに国際連帯のおかげだった。
2003年、世界中の港湾労組は依然として攻撃の対象となり、グローバル・ターミナル・オペレーターが港湾産業を独占する状況の中、ITFは港湾労働者の最低条件確保を目指す便宜港湾(POC)キャンペーンの立ち上げを決断した。
パートナーシップの新時代
ITFが海運業界で労使関係の新たな時代に踏み出したのは2003年のことだった。国際団体交渉協議会(IBF)が設置され、ITF加盟組合と国際海事使用者委員会(IMEC)に加盟する使用者が結集した。初めて船主とITFが交渉の末、自社の船舶に乗り組む船員の賃金や条件を決定したのだ。真にグローバルなレベルで労使が交渉した初めての事例であり、そのことは今日でも変わっていない。IBF設置はFOCキャンペーン史上、極めて画期的な出来事だった。
権利章典
FOCキャンペーンのもう一つの転換点は2013年だ。ILO(国際労働機関)の海上労働条約(MLC)が今年8月に発効する。この飛躍的進歩は、既存のILO条約をまとめ上げ、船員のための「権利章典」として一本化する作業を10年以上続けてきた結果、もたらされた。MLCにおいて船員の保護がより強化されるよう、政府や海運業界に圧力をかける上で、ITFは重要な役割を果たした。(MLCに関する詳細はILO海上労働条約を参照のこと)
ともに前進する
ITFは様々な産業の労働者を結集し、交通運輸サプライチェーン全体を通じ、大きな力と影響力を生み出している。グローバル・デリバリー分野でITF組織化プロジェクトが始動しており、様々な交通運輸モードに広がっている。また、ITFは交通運輸産業を超え、他の国際産別とも協力している。オフショア・プロジェクトでは石油ガス産業の労働組合と、また水産プロジェクトでは食品生産関係労組と協力している。交通運輸労働者やFOCキャンペーンの将来がどうあろうとも、一つはっきりとしていることは、これまでと同様、団結と連帯が成功のかぎになるということだ。 |
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シーフェアラーズ・ブルテン
シーフェアラーズ・ブルテンはアラビア語、中国語、英語、ドイツ語、インドネシア語、日本語、ロシア語、スペイン語、トルコ語の9か国語で発行されており、購読者は25万に達している。
主にインスペクター、教会、船員関係の福祉団体などが船内で配布するか、個人の購読者の場合は直接郵送している。以下のウェブサイト内から、PDFファイルでダウンロードできる他、郵送での送付を要求することも可能:
www.itfglobal.org/infocentre/pubs.cfm/detail/28686 |
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ITFはFOCキャンペーンについて解説する新しい短編映画を作成した。この映画はYouTubeで「よりよい海の生活のために」を検索すれば閲覧可能。 |
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FOCキャンペーンの新しいパンフレット(ダウンロード可)も作成した。 |
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加盟港湾・船員労組の共同活動を目指し、新たなウェブサイトも立ち上げた。 |
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多いなる功績
1948年 |
FOCキャンペーン開始 |
1958年 |
パン・リブ・ホン・コ・ボイコット |
1971年 |
インスペクター制度設置。ITFスタンダード協約 |
1980年 |
TCC協約創設 |
1981年 |
ITF船員トラスト設立 |
1998年 |
グローバルマリナー号。パトリック争議 |
2003年 |
POCキャンペーン立ち上げ |
2004年 |
初のIBF協約 |
2012年 |
MLC採択 |
2013年 |
MLC発効 |
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恥辱の黒海
トルコ海事従業員連帯組合、dad-der(ダッドダー)労組のウラル・サギリチ議長が、黒海の労働組合がサブスタンダード(基準以下)船に対し毅然とした態度で臨むことを決意したいきさつを語る。
黒海の海運産業の競争は熾烈だ。船齢30歳以上の老朽船が数千隻あるため、運賃は下がり、雇用条件を最低、最安へと押し下げる大きな下方圧力がかかっている。
偽りの船会社、偽りの保険会社も多く、でたらめな書類が出回っている。ポートステートコントロール(PSC)査察官も、それほど膨大な量の仕事をさばく能力を単純に持ち合わせていない。深刻な問題に巻き込まれるのを恐れ、PSC査察官は自分たちで入港予定船一覧をねつ造するため、一覧表にはその港を訪れる最良の船ばかりが羅列され、最悪の船が含まれることは滅多にない。
万が一の際には船主が簡単に雲隠れすることができ、また、他の所有船には影響を及ぼさずに済むため、全ての船が異なる外国企業に登録されている。船舶が座礁する、沈没する、高価な環境事故に関わるといった万が一の際には、特にその方が都合がいい。船自体にはほとんど価値がない。ほとんどの船は耐用証明書が切れると遺棄されるリスクが非常に高い。
船員はそのような使い古しのエンジンに愛情と細心の注意を払うことに慣れている。賃金の遅配や質の悪い食事にも慣れている。たいていの場合は社会保障がなく、船にはP&Iクラブの保険が適用されていない。P&Iは支払いが可能な保険料でおんぼろ船に保険をかけてはくれないからだ。
もう一つ、河川運航船の問題がある。冬季には黒海に向けて運航している途中で川が凍結してしまう。危険だし、河川運航船は開水域を運航することは許可されていないが、船員らはなんとか船を運航しており、このことが運賃レートのさらなる低下を招いている。
低運賃とサブスタンダード産業の悪循環を断ち切らねばならない。そのようなサブスタンダード船に国際規則を適用することが解決策になる。
ITFは、黒海地域の全ての行政に対し、きちんとすべきことをし、自らの責任を真剣に受け止めるよう、呼びかけている。政府は適切な保障なく船舶に運航を許可してはならない。各港のPSC査察官は国際基準に沿った徹底的な査察を行うべきだ。 |
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ITF西アフリカ・ネットワーク
西アフリカの海事組合からFOCキャンペーン活性化の要請があり、ITFは、西アフリカに寄港する船員を支援するための担当者ネットワークの設立を決めた。
西アフリカのいくつかの組合から連絡窓口となる担当者を選出してもらい、それらの担当者に研修を実施した後、ダカール(セネガル)、アビジャン、サンペドロ(コートジボワール)、ロメ(トーゴ)、コトヌー(ベニン)にITF連絡窓口を設置した。最近、2012年11月にダカールで新たに研修を実施し、ギニア・コナクリとギニア・ビサウにも窓口を設置した。
担当者は、これまでに300回以上の訪船を実施してきた。特定の問題を抱えている船員を支援するためだけでなく、船内に問題がないかをチェックするためだ。
遺棄された船員、契約上の問題を抱えている船員、賃金の支払いに疑問を感じている船員らを支援し、着実に成果を上げてきた。
ITFのプロジェクト・リーダー、ケイティ・ヒギンボトムは、「西アフリカはITFの死角と見なされがちだった。しかし、今は違う。ネットワークを拡げることで、より効果的な活動が可能となる。船員は、世界のどこにいようと、忘れ去られることはない」と語った。
西アフリカの連絡窓口の詳細はITFの連絡先へ。http://www.itfseafarers.org/find_inspector.cfmやhttp://www.itfseafarers.org/seafarer-apps.cfmでも閲覧できる。
SNTMM労組のシーザー・ルイス・ケイタ
「ダカール港を担当している。ダカール港にやって来る船員の問題のほとんどが未払い賃金か遺棄に関するものだ。特に、便宜置籍船(FOC)に問題が多い。遺棄のケースでは、船主は乗組員に全く関心がないかのようだ。誰かが何とかしてくれるだろうと、平気で船員を置き去りにして、逃避する。遺棄された船員は、やる気を失っている場合が多いので、彼らを励まし、話し相手になれるよう心掛けている」
SAGMS船員組合のサージー・エレディノフ
ダカール港を担当している。ダカールの問題は、ムンバイやセントぺテルスブルクと同じだ。困っている船員への支援体制が整っていないことだ。特に、情報提供体制に問題がある。船員は法律の問題等に関して、どこに助けを求めたらよいのか分からないことが多い。ITFの連絡窓口にぜひ相談してほしい。 |
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