No.27/2013 |
■安全のために |
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騒音!
「船員の臨床検査から聴解力の低下が
有意に高いことが判明した」
ノーティラス・インターナショナル労組のキャンペーン・コミュニケーション部長、アンドリュー・リングトンが騒音の危険と防御法について考察する。
「すみません」「ごめんなさい。よく聞こえませんでした」「もう一度言っていただけますか?」
船の上で自分の言葉を聞き取ってもらうのに苦労していないだろうか?
船の上は生活したり、仕事をしたりするには騒音がひどいということは周知されている。エンジン、様々な器具、機械類の音を聞かされたり、荷役をさせられたりすることが船員の安全衛生問題になっている。
この問題の深刻さを示す例には事欠かない。欧州職業安全衛生庁によると、騒音に起因する聴力低下は欧州では最も一般的にみられる労働災害の事例だという。
また、船員が船上の様々な騒音の影響を受けているという研究結果も増えている。海上衛生国際シンポジウムに2009年に提出された報告書の中で、チェンナイ(インド)のバラージ・メディカルセンターのニーラドリ・ミシュラは船員の臨床検査から聴解力の低下が有意に高いことが判明したと述べた。
その後行われた研究から以下が判明した:
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約4割の船員が継続的に聴解力が低下していると答えた。 |
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半数以上が職場で自分の声を相手に聞き取ってもらうには怒鳴らなければならないと答えた。 |
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43%が特定の機械、特に補助エンジンの音を非常に不快に感じると答えた。 |
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半数以上が騒音の続く時間が長いと答えた。 |
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機関部船員の約8割が船員として働き始めてからオーディオグラム(聴力図)を使った検査を受けたことはないと答えた。 |
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8割以上が自分の乗船する船では聴力保護プログラムは実施されていないと答えた。 |
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74%が職場の騒音レベルは定期的に測定されていないと答えた。 |
研究者は音圧レベル測定器と個人測定器を使用して、3隻の船上の33か所で騒音レベルを調査した。
この調査から船の機関部のうち、最も不快かつ最大の騒音が発生するのは補助エンジンの周辺であり、騒音レベルが最も低いのはエンジン制御室であることが分かった。船全体で最も静かなのは3隻とも右舷の甲板だった。
シングルシフトで働く乗組員が携帯していた個人測定器から得られたデータでは、3隻すべてにおいて、機関部の平均騒音レベルは現在、国際海事機関(IMO)が基準上限としている90デシベルを上回っていた。
こうした調査を背景に、船員組合は船上で船員が暴露する騒音レベルに新たな規制を導入しようとするIMOの動きを支持している。
IMOの新規制提案はデンマークの提案をもとにしているが、過度な騒音への暴露によって誘発される危険に関する関心の高まりを反映している。複数の船級協会が、長時間過度の騒音や振動にさらされることが原因で発生する、疲労を誘引する影響や、長期的な健康被害を制限する方策に関する詳細なガイドラインを発行し、乗組員の居住適性と安全の水準を既に引き上げている。
IMOの作業グループは、船内騒音レベルに関するIMO規則案(強制要件と非強制部分から成る)など、新騒音規制の実施方法に関する詳細な提案を出している。
新規制は貨物船と旅客船の双方に適用されることになるが、船員が通常立ち入るすべての船上空間において、最大騒音レベルを制限することで、騒音が原因の聴力損失から船員を守るための船舶設計基準の基盤を提供することを目指している。
日常的な騒音と音圧の許容暴露レベルは、デンマークが適用してきた基準をベースに85デシベルとすることが提案されており、24時間の中で船員が80デシベル相当を超える騒音に継続的に暴露することが決してないようにすることを目指している。85デシベル以上の空間に立ち入る船員は、その空間内では聴覚保護具を装着することが求められる。
1,600総トン以上の新造船の各空間における最大許容騒音レベルは以下の通りになるだろう:
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機関室:110デシベル |
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機関制御室:75デシベル |
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修理スペースとその他の作業空間:85デシベル |
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船橋と海図室:65デシベル |
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船橋ウィングやウィンドウなどの聴音哨:70デシベル |
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無線室:60デシベル調理室、配膳室、食糧貯蔵室:75デシベル |
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調理室、配膳室、食糧貯蔵室:75デシベル |
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通常は未使用の空間:90デシベル |
1.600総トンから1万総トンの船舶の居住空間には以下の制限が設けられるだろう:
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居室と診療室:60デシベル |
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食堂、レクリエーション室、事務所:65デシベル |
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屋外のレクリエーション空間:75デシベル |
1万総トン以上の船舶の場合、制限はさらに厳しく、居室と診療室は55デシベル、食堂、レクリエーション室、事務所は60デシベルとなる。
例え、聴覚保護具を装着していても、船員が120デシベルを超える騒音に暴露することがあってはならない。また、保護具の装着が必要な空間での作業は連続4時間まで、あるいは24時間以内に8時間までに制限することも提案されている。
デンマークは、1,600総トン以上の既存船にも新規制を適用するべきだと提案している。しかし、高速船、浚渫船、パイプ敷設船、クレーンバージ、移動式海洋掘削装置、漁船などは適用外となる。
船主もまた近海航行船については明確に適用外とすることを提案している。旗国からの圧力で、騒音は船の運航上やむを得ないものであり、強制要件としての実施は難しいことを根拠に、過度な騒音への暴露制限案も強制力のないものになるかもしれない。
労働組合は新規制案を歓迎しているが、陸上の騒音規制は工場や職場の規模によって異ならないことを指摘し、船の大きさによって制限水準を変えることには強く反対してきた。
船員組合はまた、IMOの規制案では船員が疲れを取ることができる良質の睡眠をとれるかどうかについては全く考慮がなされていないため、居住空間、居室、診療室については最大許容騒音レベルを40デシベルとするのがより適切であると主張し、提案された規制をさらに強化するべきだとも述べている。 |
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騒音:あなたのリスクは?
騒音に起因する聴力損失は過度な騒音に長時間さらされる(通常、慢性的暴露と呼ばれる)か、あるいは極めて大きな騒音に極めて短時間(数マイクロ秒程度でも)暴露すること(急性暴露)で発症し得る。
最近の研究から職場で過度な騒音に暴露する労働者は、ナイトクラブや音楽イベント、最近増加している個人用音楽プレーヤーなどの余暇活動にすら苦痛を感じていることが分かっている。
騒音のレベルは通常、様々な音量とピッチが人間の耳にどう影響するかを反映する、以下のようなデシベルという単位で表わされる。
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20デシベル:夜間の静かな部屋 |
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40デシベル:静かな居間 |
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60デシベル:通常の会話 |
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80デシベル:叫び声 |
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110デシベル:近くで使われている空気ドリルの音 |
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130デシベル:100メートル離れた所で離陸する航空機の音 |
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140デシベル:ほとんどの人にとって苦痛と感じる騒音レベル。ただし、人によってはもっと低いデシベルで苦痛を感じる。 |
80デシベルを超える騒音に長時間暴露されると聴覚が損傷を受ける可能性がある。職場の騒音に関する以下の質問の答えが一つでも「はい」の場合、リスクが高いと言える:
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交通量の多い道路や掃除機、込んだレストランの音のような介入的な騒音が職場で過ごす時間の大半で聞こえていますか? |
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少なくとも一日のうち何度か、約2メートル離れた人と普通の会話をする際に声を張り上げなければなりませんか? |
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一日に30分以上、大きな音を立てる電動工具や機械を使っていますか? |
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電動ハンマーや空気工具などの工具類の音やカートリッジ取り外し工具や起爆剤などの爆弾系の音が周囲に存在しますか? |
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翌日には回復しているとしても、一日の終わりに耳が聞こえにくいと感じることがありますか? |
聴覚損失の症状と初期症状は以下の通り:
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会話が困難になる、またはできなくなる。 |
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家族からテレビの音が大き過ぎると言われる。 |
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電話を使うのが難しくなる。 |
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「た」「と」「す」など、似た音の判別が難しくなる。 |
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恒久的耳鳴り(耳の中で音が響く、ヒューヒュー、ブンブン、うなるような音がする) |
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症状
大抵の人は大きな騒音に暴露した場合、一過性閾値変動(TTS)という聴覚感度の低下や、耳の中で音が共鳴する、いわゆる耳鳴りなど、直後に影響を感じる。こうした症状は90デシベル以上の騒音に暴露した場合に発生するが、通常は数時間すると消える。
船上で過度な騒音に暴露することで聴覚が損傷を受けるだけでなく、ストレス増大や疲労などの肉体的、精神的問題も発生する。
専門家は短時間に鋭い大きな音を突然聞かされた場合に起きる聴覚損傷だけでなく、それほど大きくない騒音に長時間さらされた場合にも以下のような広範なストレス関連の症状が発生するため、その影響についても懸念している:
・頭痛、イライラ、不眠症
・高血圧、心臓病
・消化器系障害
・内分泌障害
騒音は睡眠パターンにも大きく影響する
時々眠りに就くのが困難になり、人を覚醒させ、深い眠りが浅い眠りへと変わる。眠りを妨げるにはそれ程大きな騒音が必要なわけではない。普通の会話よりもレベルの低い40〜50デシベル程度の騒音でも人は寝付けなくなることが分かっている。また、70デシベルの騒音の場合、殆どの被検者の睡眠パターンが変わった。
振動による影響もまた、短期間の頭痛、ストレス、疲労を招く一方、長期的な振動への暴露は深刻化する可能性のある広範な肉体的、精神的影響を及ぼし得る。 |
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リスクを軽減するために何ができるか?
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騒音を伴う作業や聴覚保護区域での作業時は、提供された聴覚保護具を装着する。 |
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保護具は正しく装着し(装着訓練も受けるべき)、保護具の手入れも行う。 |
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耳栓で耳がすっぽりと隠れるようにし、ぴったりと装着し、耳と耳栓の間に隙間がないようにする。 |
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耳栓をきちんと装着する練習をする。耳栓をはめる前に手を洗い、他の人との耳栓の共有は避ける。 |
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燻蒸剤について知っておくべき10カ条
1. 燻蒸剤とは?
コンテナ貨物や穀物や木材などのバルク貨物につく昆虫や害虫を駆除するために使われる非常に毒性の強い化学薬品のこと。一般的に使われているのがリン化水素(ホスフィン)だ。臭化メチルは温暖化ガスとして2005年以降、世界中でほぼ使用が禁止されている。
2. どのようなものなのか?
ホスフィンは固形でタブレット剤としての利用が一般的。水や水分を含んだ大気に触れると分解し、無臭のリン化水素を放出する。警告のために添加物を混ぜれば臭気が発生するが、臭気が消えてしまっても、ガスの危険度が高い場合もある。
3. ホスフィンが効果を発するまでの時間は?
効果的に害虫を殺傷するには、4日から14日、長い場合にはそれ以上かかることがある。特に気温が15度以下や空気が乾燥している場合には長くかかる。熱帯または亜熱帯気候では早く効果が表れる。ホスフィンは空気より重いので、通常はコンテナや貨物倉の上部から自然と底部に移動するが、ホスフィンの拡散を早めるために、コンテナ底部からプローブ(探針)や管を通してタブレット剤を入れる場合もある。
4. 危険
毒性が高いこと以外にも、リン化水素は自然発火し、爆発する可能性がある。その場合、火を消すには砂をかけるか、二酸化炭素または粉末消火器を使うべきだ。
5. ホスフィン暴露の症状
ホスフィンに暴露されると吐き気、嘔吐、頭痛、疲労感、気絶、胸の痛み、咳、呼吸困難など、食中毒に似た症状が起きる可能性がある。
6. どのような規制が適用されるのか?
航海中に行う燻蒸に関しては国際海事機関(IMO)が勧告を出している。
7. 安全性
燻蒸業者はIMOの勧告に正確に従うべきだ。船舶が燻蒸に適しているかも徹底的に調査する必要があり、船長は燻蒸が安全かつIMO勧告に従って行わるよう担保しなければならない。乗組員は燻蒸業者が提供するガス検知器の正確な使い方を知っておく必要がある。
8. 警告
燻蒸を実施したコンテナにはラベルを貼り、書類にもその旨記すべきだ。
9. 燻蒸されたコンテナ
陸揚げ後、安全な場所であったとしてもコンテナを開封する際にリスクがある。書類を全て調べ、コンテナを開封する際には安全措置を取るべきだ。燻蒸気と残留薬剤を排気するには少なくとも2時間はコンテナの換気を行う必要がある。
10. より詳細な情報
以下のサイトには有毒ガスと蒸気に関する情報が掲載されており、ハンドブック『驚くなかれ』がダウンロードできる:
www.tgav.info |
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HIV/エイズ
ITFは交通運輸労働者や地域住民のためのHIv-エイズ健康センターの設置を世界各地で進めている。ITF教育部門のクリスティン・セボワ・アスコットがその進捗状況を報告する。
メキシコ、インドネシア、スリランカ、ウクライナの船員組合や厚生機関は、HIVエイズの予防、検査、治療について、どのように意識啓発を行っているか?
国際船員福利センター(ベラクルス、メキシコ)
2012年2月、国際船員福利センターは国連合同エイズ計画(UNAIDS)と合同で、HIV-エイズキャンペーンを立ち上げた。ベラクルス港のメインゲート前にスタンドを設置し、港湾労働者や船員にコンドームの配布や情報提供を行ったり、海事教育機関の生徒を対象とするHIV会議を開催したりした。日々の訪船でも、意識啓発に努めている。
インドネシア船員組合(KPI)(バリ)
世界エイズデーにあわせてバリの船員センターで、HIV陽性の地域住民のためのバザー、予防等の啓蒙活動、検査、安全な献血など、様々な活動を実施した。
スリランカ全国船員組合(NUSS)
スリランカ全国船員組合(NUSS)は、船員、港湾労働者、海事教育機関、船舶代理店、港湾局と協力して、HIV感染リスクの高い人々への啓発活動を実施している。ILOやITFから技術的支援を受け、一連のワークショップを開催し、HIV感染者にも参加してもらった。HIV感染者への差別や偏見から、人々は情報やサービスの利用を拒むことがあり、いかに検査を受けてもらうかがカギとなる。NUSSは船社と協力して、感染者が差別を受けることがないようにしている。差別禁止を団体協約で約束している船社もある。
ウクライナ海運労組(MTWTUU)
MTWTUUはドイツ国際協力公社(GIZ)と協力し、組合員や海事労働者への感染防止に努めている。船員や港湾労働者などに教育機関でチラシやコンドームを配布したり、各地でキャンペーンを実施したりしている。例えば、ケルチのシティーセンターで、検査の実施やチラシやコンドームを配布する啓蒙運動を行った。イリチェフスク海事学校でも若年船員にチラシとコンドームを配布した。 |
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フラミニア号の火災事故
イングランド沖で炎上・爆発し、死傷者を出したコンテナ船、フラミニア号。乗船していたジョニー・ロッセンが当時の様子を振り返る。
2012年7月、ジョニー・ロッセンは、メディティレニアン・シッピングのコンテナ船、フラミニア号に乗船していた。本船は、3000個のコンテナを満載し、米国からベルギーに向かって大西洋を13ノットで航行していた。
まずは、何かが燃えている匂いに気付き、驚いていると、すぐに茶色い煙が積載コンテナの合間からうっすらと立ち上がっているのが見えた。
30分後、「ナンバー4に小規模の火災発生!全員船長室へ」という緊急放送が船内に流れた。
乗客二人のうちの一人であったロッセンと乗組員は船長室に向かい、指示を待った。その間に、一等航海士と5〜6人の乗組員がホースと消火器を引っ張ってきて、第7ホールドに向かって行った。すると、強烈な爆発音とともに、10万総トンの本船は激しく揺れた。同時に、コンテナ10数個が吹き飛ばされ、舷側から海中に落下した。
救命ボートが作動し、ロッセンらは助かったが、一等航海士は第三度の火傷を負った。乗組員一人が行方不明となり、3人が負傷した。負傷した3人のうち一人は2か月後に死亡した。
その時、突然、30万トン級のスーパータンカー、DSクラウン号が救助に現れ、本船から0.5マイルのところまで近付いて来た。DSクラウン号は救難信号を受信した時、フラミニア号からたった50マイルのところをファルマス(英国)に向かって航行していた。
フラミニア号の生存者は、DSクラウン号に救出された。「DSクラウン号の乗組員は、生存者のニーズに細かく対応してくれた。乗組員全員が我々を心配し、心から歓迎してくれた」とロッセンは言う。
現在、米国アリゾナ州のフェニックスに暮らすロッセンは事故当時を振り返り、人的な警戒の重要性を説く。「定評のある航行支援装置も全面的に信頼することはできない。警戒を怠り、自己満足に陥った船は、常に危険と隣り合わせだ。どんな技術も、ヒューマン・エラーを原因とする事故を防ぐことはできない」 |
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